情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

匿名発表~米国事情(毎日新聞)

2006-01-31 07:27:17 | 匿名発表問題(警察→メディア)
不定期で毎日新聞に火曜日に掲載されている海外の匿名発表・実名発表報告は,メディア関係者だけでなく,市民も必見。今回は,米国。【徹底した情報公開法を持つ米国では事件・事故の報道に関して、加害者と同様、一部の例外を除いて被害者も実名にするのが大原則となっている。しかし、日本と同じように、被害者のプライバシーやメディアスクラム(集団的過熱取材)による報道被害が問題となり、警察当局が被害者の氏名を匿名で発表するケースも増え始め、メディアと警察の対立は日常の風景となりつつある】(毎日新聞特集)という。

米国は,基本的に表現の自由を重視する国であり,【犯罪被害者についての米国の情報提供システムは連邦政府、各州政府で異なり、複雑だ。大原則は、米憲法修正第1条の中の「連邦議会は、言論もしくは出版の自由の権利を制限する法律を制定してはならない」という記述だ。このため機密指定の情報を除き「公的情報は公開される」という前提のもとで公的記録の情報公開を定め、被害者情報に関しても性犯罪被害者や児童虐待被害者などを例外として、原則公表している場合が多】く,【ジャーナリスト支援団体「報道の自由のための記者委員会」のまとめによると、米国では少なくとも15州で独自の情報公開法を制定している。他の州もほとんどが通常の法律の中で情報公開に関する項目を設けるなどして、警察情報の公開の原則を確認している。】という。

しかし,【警察側の恣意(しい)的な基準や被害者の意向で実名が公表されないこともあり、メディアが情報公開を求めて訴訟を起こすケースも多い。】という。日本では,警察情報を開示する法的根拠は明らかではなく,訴訟を起こすこと自体困難だ。

毎日は具体例を紹介している。

【97年4月24日深夜、ロサンゼルス郊外。車内で銃の暴発事件があり、当時24歳の女性が背中に銃弾を受けた。銃を暴発させたのは後部座席にいた非番の警察官。もう一人の非番警察官が車を運転していた。
 女性は事件発生直後、警察を相手に実名と捜査情報の公表の差し止めを求める訴訟を起こした。「プライバシーの重要性は国民の知る権利に勝る。名前の特定が公共の利益を果たすことはない」という理由だった。
 裁判所が女性の訴えを認めたため、今度は地元のプレス・エンタープライズ紙が警察に対して公式に被害者氏名の開示を要求。警察がこれに応じなかったため、カリフォルニア州内の公的機関に公文書の開示を義務付けた州公文書法を根拠に訴訟を起こした。】

話は簡単ではなかった。
【ところが、訴訟が進行中の同年6月3日、女性が名乗り出た。詳しい理由は不明だ。弁護士は「状況が変わった」とだけ説明する。後遺症でひざから下が動かず、車椅子生活を余儀なくされていた。実名公表後、父親が取材に応じ、事件の詳細な経緯が初めて明らかになった。
 同紙によると、女性は運転した警察官と前からの知り合いで、たまたまレストランで顔を合わせた。銃を暴発させた警察官はその警察官と一緒で、泥酔していた。女性は車で送ってもらうことになり、助手席に乗ったが、後部座席に座った警察官が銃の入ったバッグに手を入れ、財布をつかもうとして銃の引き金を引いてしまったという。女性側は「偶然で引き金を引くなどあり得ない」と主張した。
 実名公表の10日後、検察は「銃の引き金を故意に引いたという立証ができない」との理由で警察官を不起訴にした。父親は「検事は警察官を守ろうとしたとしか思えない」とコメントした。
 実名が公表されなければ、事件の詳細は闇に葬り去られる恐れもあった。プライバシーと真実のせめぎ合いを象徴する事件だった。】

一般論としては,ニューヨーク・タイムズ紙のウィリアム・ボーダーズ主任編集長は,【「ニューヨークの場合、(性犯罪を除き)警察は常に被害者の名を公表する。警察が情報を公開しない時は警察官が事実を隠したい時だ。米国には情報公開法がある。警察が被害者名を開示しない場合、我々は要求する。『警察は名前を出す義務があるんだ』と。それでも出さなければ訴訟を起こす。米国の報道の自由は深く社会に根付いている」】と語り,【日本が昨年末、被害者の実名・匿名発表の判断を警察に委ねるという閣議決定をしたことについて「日本の決定は驚きだし、恐ろしい。警察にそんな判断を委ねること自体、危険なことだ」と付け加えた。】というのがメーンストリームだろう。

しかし,報道の自由を謳歌(おうか)する米メディアを取り巻く事情も、地域によって違った顔を見せており,【アラバマ州の「アラバマ犯罪司法情報センター委員会」は今月19日、すべての警察記録の被害者名、住所、電話番号、さらに事件・事故の発生場所などの情報を非開示とすることを決めた。】という。

【警察署長が被害者名や一定の事件情報をメディアに提供する裁量権を持つが、地元メディアは被害者情報が得られなくなるとして猛反発している。
 同委員会が警察情報の提供のあり方を検討していた。非開示の理由は(1)二次犯罪から被害者を守る(2)加害者や友人からの嫌がらせを防ぐ(3)メディアの取材攻勢から被害者を守る--などだ。
 委員会で最大の問題となったのがメディアスクラムだった。委員会に所属する犯罪被害者救済団体メンバーが、被害者が事件直後のメディア取材でプライバシーを侵害された状況を報告し、「娘を殺害された数時間後にメディアが押しかけ、身内で悲しむこともできなかった」と訴えた。】

この制度は6月4日に実施されるというが,果たして,本当に実施されるのか,それとも,メディア側が巻き返すのか?

ぜひ,毎日にはフォローしてほしい。




立川ビラ控訴審判決全文を読んで…この裁判官は傲慢だぁ

2006-01-30 05:35:07 | 適正手続(裁判員・可視化など)
立川ビラ控訴審判決の全文を読んだ。肝心な実質的違法性の判断については,次のようにまったく実質的な検討をしていない。「表現の自由が尊重されるべきことはそのとおりであるにしても、そのために直ちに他人の権利を侵害してよいことにはならないことはもとよりである。本件のビラの投函行為は、自衛官に対しイラク派遣命令を拒否するよう促す、いわゆる自衛官工作の意味を持つものであることは、ビラの文面からも明らかであるが、ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、これを投函するために、管理権者の意思に反して邸宅、建造物等に立ち入ってよいということにはならないのである。つまり,検察官の所論が主張するように,何人も,他人が管理する場所に無断で侵入して勝手に事故の政治的意見等を発表する権利はないというべきである。したがって,本件各立ち入り行為について刑法130条を適用してこれを処罰しても憲法21条に違反するということにもならないと解される」。これで全てである。


結局,「表現の自由が尊重されるべきことはそのとおりであるにしても、そのために直ちに他人の権利を侵害してよいことにはならないことはもとよりである。」ということに尽きる。

はぁ,あんたは,生活をしていて他人の権利を侵害したことがないのか?あんたの家が建ったために日陰になった人もいるだろう。あんたが,階段でうろうろしていたために,邪魔されて会社に間に合わなかった人もいるだろう。あんたのせいで,自分の恋が成就しなかった人もいるだろう…。生活していくっていうこと自体,無人島で暮らさない限り,他人の権利を侵害することを伴うものだ。

その侵害された権利の内容,侵害の態様,侵害した側が得られた利益などを考慮することで,民事的な責任があるか?刑事的な責任があるか?を判断するわけであって,「権利を侵害してよいことにはならない」という一文で全てを割り切ってしまうのはあまりに傲慢と言うほかない。この判決を下した裁判官は,人が必然的に他人に一定の迷惑をかける存在だっていうことに対する真摯な気持ちがまったくないのだろう。自分も人に迷惑をかけてる存在だなんてこれっぽっちも思っていないのだろう。こんな裁判官には絶対裁かれたくない。

別の視点からもう一つ。本件は,民事訴訟で損害賠償請求しても認められないでしょう。それなのに,刑事事件で有罪にする必要があるのだろうか?

匿名化の議論,今後も起きない~ロンドン大学教授断言!

2006-01-28 10:22:58 | 匿名発表問題(警察→メディア)
毎日新聞が海外での警察発表の実態をシリーズで紹介している。今回(ここ)は,英国と北欧が取り上げられ,被害情報が公共性を帯びているという観点から実名発表が原則とされている旨紹介されている。(英国では生存している被害者には発表するかどうかを確認するが,匿名を希望した場合,警察はその理由をメディアに説明する義務を負う,という)詳細は,ぜひ,毎日新聞をご覧いただきたいが,ロンドンの専門家のコメントだけは引用しておきたい。


ロンドン大学シティー校のマーセル・ベルリンス教授(メディア法)のコメント引用

■■引用開始■■

 警察が事件・事故の被害者名をメディアに伝えるのは、少数の例外を除けば当然の習慣になっている。「被害者の情報は公共が共有すべきだ」という考え方を我々は受け入れている。被害再発防止の観点からも被害の実態を伝えることは重要だし、報道・表現の自由の根幹でもある。私の長いジャーナリスト(高級紙ガーディアンの法律担当記者)、弁護士経験でも、これに異議を唱えた例は知らない。

 被害者が自分の情報を言いたがらない心情は理解できる。私でも事件に巻き込まれ、名前を公表されたら不愉快になるだろう。しかし、そうした個人感情と公共の利益は分けるべきだ。我々は「開かれた社会」の国に住み、「報道・表現の自由」を定めたEU(欧州連合)人権条約の下で暮らしている。それを制限する動きを我々は受け入れられない。匿名化の議論は今後も起きないだろう。

 日本でこうした議論になったのは、被害者に多数の報道陣が殺到する「報道被害」のためだろうが、報道被害と被害者の匿名化とは問題が全く異なる。報道被害はメディアが節度ある報道姿勢を取れば改善できることで、自主的なガイドラインで対応すべきだ。報道被害が匿名化で解決できると考えるなら、大きな誤りだ。

■■引用終了■■

被害者の痛みは分かる。報道被害者の怯えきった声での電話を受けることもあるし,昔の被害について振り返って泣かれることもある。

しかし,人はほかの人との関わりの中で生活をしている。犯罪を防止するためには,ほかの人も含めて収入の中から税金を支払っている。その税金を使って犯罪防止活動や捜査が行われている。この活動が適正化どうかがチェックされうるんだ,という緊張感がないシステムでは,適正な活動は期待できない。実名発表は,緊張感を生じさせるために必要なシステムだと思う。

日本版ホワイトカラーエグゼンプション導入へ!

2006-01-26 07:42:42 | そのほか情報流通(ほかにこんな問題が)
ホワイトカラーエグゼンプションの導入が使用者側から求められてきた(ここ)が,ついに政府が日本版ホワイトカラーエグゼンプションとも言える制度を導入する方向であることを明らかにした。

【労働時間制度の見直しを議論している厚生労働省の研究会(座長・諏訪康雄法政大学教授)は25日、これまでの管理職に加え、一定以上の収入や権限のある労働者を、1日8時間・週40時間の労働時間規制から外す新制度の導入を盛り込んだ報告をまとめた。これを受け、同省は労使代表も含めた審議会の議論を経て、07年にも労働基準法の改正を目指す。成果主義などで自律的に働く人が、出退勤時間などに縛られず働けるようにする狙いだが、長時間労働や過労死の増加を懸念する声もあり、議論を呼びそうだ。
 対象者は、業務量を自分で決められる「管理職手前の中堅社員」や「プロジェクトチームのリーダー」ら。報告では、(1)仕事の進め方で指示を受けず業務量をコントロールでき、成果で賃金が決まる(2)一定水準以上の年収があり、本人が同意している(3)過労を防ぐ健康確保措置がある(4)導入は労使協議で合意する――の4点を条件とするよう求めている。具体的な金額は各企業の労使で決める。企業側は、残業代などの割増賃金を支払う必要がなくなる。】(朝日

残業代などの割増賃金を支払う必要がなくなる=サービス残業が合法化され,こき使われる…

これに対する連合のコメントは【本報告を受けて、今後、労働条件分科会において労働契約法制の議論と並行して労働時間法制の見直しについての議論が行われることが予想される。不払い残業の横行や管理監督者に関する不適切な運用などの法令違反の状況を改善するとともに、労基法40条の特例措置の見直し、法定割増賃金率の引き上げなど、長時間労働を是正し、労働者が健康で充実して働き続けられる制度とすることが必要である。連合は、構成組織との意見交換を重ねながら方針をまとめ、審議会での対応を進めていく。】などというもの。あまりに弱腰!断固として阻止する,と戦う姿勢を見せられないのか!

自衛しかありません。みんなで政府に反対の声を送り続けましょう!!

あなたは,自分を売り払いますか?それとも自分を勝ち取りますか?

現実の被害者の多くは警察の匿名発表に反対している!~毎日新聞調査

2006-01-25 18:18:18 | 匿名発表問題(警察→メディア)
毎日新聞が犯罪被害者に警察の匿名発表に対していかに考えるかを調査したことはすでにお伝えしましたが(ここ),その詳細をアップします。被害者の多くが情報が警察内部に止まることに対して,危惧の念を表明しています。なお,実際の紙面では,回答者は実名ですが,ここでは匿名としておきます。

■■引用開始■■

※Q1は「被害者名の発表を実名・匿名のいずれにするかの判断を警察に委ねることに賛成か反対か」
 Q2は「警察による被害者名の発表は原則として実名・匿名のいずれであるべきだと思うか」を尋ねた


①男性(56)
北海道で高校生の長女が前方不注意のワゴン車にはねられ、亡くなる
Q1 反対
Q2 実名
コメント
実名を発表して社会的、公的に扱うことで、被害者の尊厳を守るべきだ。交通死亡事故の場合、加害者側に偏った捜査が助長される懸念がある。判断は報道機関に任せた方がいい。ただし、匿名を望む被害者側の意向は尊重しなければならない。


②男性(56)
北海道で26歳の長男を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
判断をすべて警察に委ねれば、誤りを生む恐れがある。被害者が置き去りにされているから、こういう議論が起きるのではないか。報道による2次被害は恐ろしいが、警察は原則として実名で発表し、取材する側が被害者の立場に立った報道を考えて欲しい。


③女性(69)
札幌市で長女が殺害され、容疑者が指名手配中。12月19日で公訴時効
Q1 賛成
Q2 ケース・バイ・ケース
コメント
警察を信頼しているので、任せたらいいと思う。事件直後は被害者の名前を公表されることでマスコミの過熱報道が起き、遺族が嫌な目に遭うので実名は伏せて欲しい。遺族の意向を尊重して欲しい。


④男性(45)女性(42)夫妻
岩手県で酒気帯で居眠りの軽トラックにはねられ7歳の長女が死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者に決めさせるべきだ。なぜこんな事件が起きたか納得がいかず、黙っていたくない気持ちが強かった。名前が出て中傷の電話もあったが、マスコミ関係者が足を運び、大きく取り上げられた。


⑤男性(58)
茨城県で暴走族の脱会を申し出た15歳の二男がメンバーに暴行され、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者の名前を実名で発表した方が事件解決のためになる。警察に判断を任せると匿名にされかねない。報道でも被害者を実名で掲載していいと思う。


⑥女性(39)
茨城県で高校1年の長女が市道脇で倒れているのが見つかり、後に死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察に実名・匿名の判断をする権限はない。分かっていることを公表すべきだ。メディアにも隠さず報道してもらった方が人々の記憶に残り、事件の風化を防げる。事件解決のためメディアに協力してもらう面からも警察に判断の権限を握らせるべきではない。


⑦女性(49)
栃木県で19歳の長女が運転中、飲酒運転のトラックと衝突し、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者が主体的に実名・匿名を選べるようにすべきだ。警察が、被害者に対して、情報を操作せずに実名・匿名それぞれのメリット、デメリットをきちんと説明できるか、混乱している被害者らが即時に判断できるかが課題だ。


⑧男性(55)
埼玉県・桶川ストーカー事件で大学生の長女が殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
匿名発表では、誰が被害者かさえわからないままうやむやにされてしまう。不祥事を起こしている権力そのものの警察に判断を委ねてしまうことは、民主国家への道を一歩も二歩も後退させる。被害者の意見を聞き、実名で報道するかどうかも含めて報道機関自身が考えるべきだ。


⑨女性(60)
千葉県で男女8人が死傷したひき逃げ事件で重傷を負った被害者
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察は、被害者が捜査状況の開示を求めても情報を抑える傾向にある。被害者も基本的に実名で報道すべきであり、警察は情報を提供した方がいい。被害者は一方的に被害に遭い、何も悪いことはしていない。報道を通じて知人に事件に巻き込まれたことや詳しい状況を伝えてもらえる。


⑩女性(58)  
東京の地下鉄サリン事件で駅の助役だった夫を殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察は地下鉄サリン事件が起きるまでオウム真理教を野放しにしていた。松本サリン事件では誤認捜査をしていた。警察に対する不満が出てきた時に頼りになるのは報道だと思う。メディアは被害者に配慮し、報道被害にならないよう説明責任を果たして欲しい。


⑪男性(60)
東京のJR池袋駅のホームで立教大生の長男が男に暴行され、死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
遺族であっても本人の名前を匿名で発表するよう警察に求める権限があるとは思わない。警察に対して捜査権は与えても、被害者の氏名を匿名発表できる権限まで与えたものではない。報道の自由や真実の追究を妨げる結果になる。メディアの判断として被害者に配慮すべきだ。


⑫男性(49)
東京都内の交通事故で小学生だった8歳の息子を亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
息子などのケースでは、実名報道によって被害者の存在を認めてもらった。報道各社に任せ、問題があれば各メディアの第三者機関で話し合えばよい。「A君がどこそこで交通事故に遭いました」では訴求力が足りない。警察にもミスがある。メディアのチェックが働く必要がある。


⑬男性(60)  
甲府市で19歳の二女が誘拐され、殺害される
Q1 どちらとも言えず
Q2 一概に言えず
コメント
大事件が起きれば、遺族は大変な状況に見舞われる。発表を匿名にするかどうかで遺族が受ける傷にはほとんど変わりはない。むしろメディアスクラムをどう防ぐか、犯罪者をどう減らすかに専念すべきだ。判断を警察に委ねることを検討していること自体、的はずれの印象を受ける。


⑭男性(57)
甲府市で起きた放火殺人事件で75歳の母親が殺される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
匿名発表をした場合、何かよくない理由があるのではと、せんさくするきっかけを与えてしまう。大事件では原則として被害者名は実名発表すべきだ。警察が判断する必要はないのでは。


⑮男性(55)
長野県の松本サリン事件の被害者。妻は現在も療養中
Q1 -
Q2 -
コメント
日本新聞協会などが実名発表が必要だと主張する理由も分かるが、混乱が起きないように警察が匿名で発表しようとする理由も分かり双方に一理ある。現状では、事件発生時は警察が被害者とメディアとの間に入らざるを得ないかもしれないが、互いに理解する努力が必要だ。


⑯女性(63)
松本サリン事件で23歳の二男を殺害される
Q1 反対
Q2 ケース・バイ・ケース
コメント
実名・匿名は警察が被害者や遺族に確認して欲しい。新聞の一読者と言う立場で言えば、匿名報道では実感がわかない面がある。息子にとってみても、実名で報道されることが生きていた証だともいえる。ただ、被害者の置かれている状況はケース・バイ・ケースだ。


⑰女性(52)
長野県などで起きた連続強盗殺人で母親が殺される。容疑者扱いされる
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察が本当に事実をもとにきちんとした仕事をするところであれば考えは変わるかもしれないが、今はそうは思えない。警察はマスコミを利用しているところがあり、都合のいいように動いている。


⑱女性(50)
大阪市立高校1年だった16歳の長男が他校の生徒に暴行され死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
少年事件では加害者も被害者も匿名で発表されることが多く、事件そのものがうやむやになりかねない。匿名では社会の関心も高まらず、再発防止策も生まれない。被害者が誰で加害者が誰なのかなど警察は事実を淡々と発表して欲しい。報道の段階では匿名にするなどの配慮が必要だ。


⑲男性(43)
大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件で7歳の長女を殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
被害者も1人の人間として尊厳があり、名前はその象徴の一つ。匿名は、生きていた価値や意味さえも奪ってしまう。被害者が実名で報道されてもその尊厳が尊重される社会であるべきだ。警察・メディアを問わず、被害者・遺族の意思確認を原則として欲しい。


⑳男性(43)
大阪府内で7歳の長女を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
交通事故では、警察のずさんな捜査がたびたび問題になる。発表の判断を警察に全部委ねれば、警察の都合で匿名発表され、事実が隠されることにつながり、反対だ。被害者によっては実名で報道されたくないなど個々の事情もあるので、それは記者が被害者に確認すべきだ。


21 男性(63)
兵庫県のJR福知山線の脱線事故で、妻と妹を亡くす
Q1 反対
Q2 実名
コメント
実名発表がなければ、被害者が社会に存在したという事実が公になることはなくなり、社会的に抹殺されることにつながる。警察に被害者の社会性や尊厳を奪う権利はない。メディア側も、節度ある取材ができれば、実名発表でよい。


22 女性(51)
兵庫県で少年10人による集団暴行で15歳の長男が死亡
Q1 反対
Q2 実名
コメント
警察がすべての判断を担うことになれば、捜査ミスの隠ぺいやもみ消しの温床になってしまう可能性がある。マスコミは記事に実名を出す場合、遺族や被害者への声掛けを徹底して欲しい。遺族の中には、実名報道で息子や娘がこの世に生きていた証がほしいと思う人もいる。


23 男性(48)
神戸市でパート従業員だった妻が殺害される
Q1 反対
Q2 実名
コメント
権力側が判断すべき事項ではない。事実を粛々と報道する際は、実名で報道すべきだと思う。メディアの判断で実名・匿名を決めていい。すべての事件を警察側が判断して匿名化という流れになると、情報操作により「真相」が作り上げられてしまうという危機感を持つ。


24 女性(55)
奈良県で18歳の長男を交通事故で亡くす
Q1 反対
Q2 どちらとも言えず
コメント
警察に判断を委ねてしまうのは怖い。被害者との対話が必要ではないか。警察にはまず、被害者の希望を聞いてほしい。せめて、被害者や遺族に説明してから報道発表して欲しい。警察もメディアも、被害者との信頼関係を築くことが大事だ。


25 男性(29)
山口県光市で妻子を少年に殺される
Q1 賛成
Q2 実名
コメント
警察が直接被害者に確認し、承諾が得られた場合のみ実名発表にすればよい。報道機関は、判断を報道機関の自主性・自律性に任せるべきだというが、報道被害に対する責任にどう対処するかが明確でない。節度ある報道が実現すれば、警察発表を拒む被害者も減ってくると思う。

■■引用終了■■

匿名発表するべきだという考え方が少数にとどまっていることの意味をよく考える必要があると思います。

勝手に特ダネランキング2006年第3週(15日から21日)~今週は大事件で特ダネ激減

2006-01-25 04:09:33 | メディア(知るための手段のあり方)
ライブドア・ヒューザー関連で紙面が一杯…。わずかですが,早速ご紹介します。

第1位:「ヒューザー物件の管理業務 伊藤元長官の家族受注」(朝日16日朝刊一社トップ
【自民党衆院議員の伊藤公介・元国土庁長官の家族が経営する会社が、ヒューザー(東京都千代田区、小嶋進社長)の分譲マンション1棟の管理業務を受注していることがわかった。小嶋社長は朝日新聞の取材に対し仲介を認め、ヒューザーの社員が伊藤元長官の選挙運動を手伝うなどしていたとも説明した。両氏の関係は、耐震偽装問題をめぐる17日の衆院国土交通委員会での小嶋社長の証人喚問でも、焦点の一つとなるとみられる。】
※他社もきっちり,追及してほしい。


第2位:「別市有地にも組事務所」(朝日21日朝刊一社肩
【大阪市港区の市有地にある暴力団事務所を市が長年放置していた問題で、別の暴力団も近くの市有地に事務所を構えていることが大阪府警などの調べでわかった。市はこの事実を把握していたが、暴力団の会長と土地の賃貸借契約を結んでいることから排除は困難と判断し、会長に売却することを検討している。市の担当者は「財政難の折、借地人に買い取ってもらいたい」としており、市有地を暴力団に売却しようとしている市の姿勢に批判の声が上がっている。】
※東京の紙面では報道されていないようだが(見落とし?),18日の「大阪市有地に暴力団事務所 占有を20年放置」という特ダネの続報。続報のほうだけ東京では掲載されたよう…。

【番外】
「医療観察法の闇 偏見がつくる『野放し論』」(東京16日朝刊特報面
【「アブナイ人間は閉じこめておけ」。一昨年十一月の奈良に始まり、昨年暮れの広島、栃木と連鎖した女児殺害事件を受け、そんな社会防衛論が再び高まっている。そうした論調を反映した法律が昨年七月、施行された。心神喪失者医療観察法がそれだ。施行前「保安処分になりかねない」という反対派の懸念は情緒的な世論に押し流された。だが、施行後、こうした懸念は現実となりつつある。 (田原拓治)】
※世論に流されないでこういうことを取り上げるのはさすが東京。

「暗殺横行 政治マヒ 過激な論理で暴挙」(読売20日朝刊「検証・戦争責任」シリーズ)
【政府や政党,財閥に対する国民的憤まんを背景に生じた,テロに対する「許容」姿勢は,結果的に軍部独裁による戦争遂行体制を下支えしていくことになる】
※ナベツネの戦争反対路線は本気のようですにも見えます…。

「米投資会社、毎日新聞を提訴 1億ドル賠償求める」(朝日ほか)
【米投資会社「サーベラス・キャピタル・マネジメント」(本社・ニューヨーク)は19日、東京都内の土地取引をめぐる毎日新聞の記事が名誉棄損にあたるとして、1億ドル(約116億円)以上の賠償を求める訴訟をニューヨーク連邦地裁に起こした。AP通信が伝えた。】
※なぜ,米国で…。朝日の米国版を相手にしたのか?それとも米国でもネットなら見られるから?


「テレビ東京「ガイアの夜明け」で「過剰な演出」 BRC」(朝日ほか)
【「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC、飽戸弘委員長)は17日、テレビ東京系で昨年6月に放送された「ガイアの夜明け~消える高齢者の財産」の一部で、過剰な演出などの放送倫理に反する内容があったとする見解をまとめた。 】
※詳しくはBPOで。


鳥取県知事が人権救済条例を凍結と発表~弁護士会の抵抗功奏す

2006-01-24 19:09:26 | 人権擁護法案(原則必要派)
毎日新聞によると,【6月に施行予定の鳥取県人権救済条例について、片山善博知事は23日の定例会見で「条例は(今のままでは)凍結」と述べ、6月施行の延期は避けられないとの認識を示した。条例を巡っては「人権侵害の定義があいまい」などとして県弁護士会が強く反対しており、定義や対象をより明確にする抜本的見直しが必要と判断した。】という。

■■記事引用開始■■
片山知事は、条例制定の前提となる県内での人権侵害の発生状況や内容に関する調査・検証が不十分、との認識を表明。救済されなかった事例など、具体的な検討作業を通じた抜本的見直しが必要としたうえで「時間をかけて根っこからレビュー(再調査)すれば、条例への理解が深まるだろう」と話した。また、2月県議会に、県執行部として修正案を提出しない考えも明らかにした。

 条例は昨年10月、県議38人中35人が連名で議員提案し、34人の賛成で可決。人権侵害の申し立てを受けた人権救済委員会が調査し、加害者側に勧告などをする内容で、委員に弁護士を含むよう努力目標を定めているが、県弁護士会は「抜本的見直しがなければ一切協力できない」としている。

 県は事態打開に向け、弁護士や大学教授ら有識者11人を招いて意見交換会を昨年末から今年にかけ開催。出席者は▽調査拒否への過料や氏名公表などの罰則は行き過ぎ▽行政機関による人権侵害に甘い--などと指摘し、全員が抜本的見直しの必要性を訴えた。

 片山知事は今月12日、「法曹の協力を得られなければ空振りに終わる」と述べていた。
■■記事引用終了■■

 鳥取県弁護士会,すごい!
 「『鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例』の施行規則検討委員会委員推薦を拒否し、同条例の改廃を求める総会決議」まで出して抵抗していたもんね!

この腹の据え方を日弁連も見習ってほしい。取調の可視化を実現するためには国選拒否をするくらい,腹を据えないと実現できそうにないからねぇ。

誤報を訂正します~NHKフライングライブドア誤報事件関係

2006-01-24 18:48:17 | メディア(知るための手段のあり方)
「NHKの先走り報道で関係者の責任は問われないのか?~ライブドア強制捜査」で,事前のレクチャーに基づいてNHKが記事を書いたのではないかということを書きましたが,違うそうですので,訂正します。まったくレクチャーはなく,知っていたのは3,4社程度というのが真相のようです。NHKの当初の報道内容は被疑事実が「株式分割を巡って」という表現になっており,公式でも非公式でもレクチャーがあったら,そんなミスはしないとのことです。日経まで後を追いかけたっていうので,事前に予定稿があったのかなと思ってしまいました。すみません。

でも,上記エントリーで書いたNHKの責任の点は,事前にレクチャーがあったか否かとは関係ないです。

ちなみに,NHKの問い合わせ電話に電話して,フライング報道で特捜から出入り禁止をくらっていませんか,と正面から尋ねたところ,答えられない…とのことでした。

なぜ…。視聴者の知る権利にかかわることではないのでしょうか…。


とりあえず,訂正とお詫びです。

代用監獄の弊害事例その3~代用監獄における自白強要例

2006-01-24 07:39:08 | 適正手続(裁判員・可視化など)
自白強要がいかなる形で行われているか,日弁連の会報「自由と正義」に掲載された事例を紹介するシリーズの第3弾です。早速取調部分を引用します。プライバシー保護の観点から原文を一部変更しています。


■■引用開始■■

1及び2略

3 逮捕当日の切り違え尋問や偽計による違法な取調べ

(1) 任意であることや黙秘権の不告知
●年●月●日(日曜)午前7時30分頃、刑事約10名がA子とBを迎えに来た車中で「Bに手錠せえへんかっただけでも有り難いと思え」とA子に言うなど当初から被疑者として扱われた。取調室に入ると、任意捜査であることや黙秘権の告知もなく、「正直に言え。おまえがやったんやろう」とA子がBと共謀して本件犯行を行ったという断定の下に自白獲得のみを目的とする取調を始めた(Bは前月に法律相談センターで相談した弁護士を呼んでほしいと言ったが、午後まで連絡がつかなかった)。窓のない狭い部屋の中で、二人の男性刑事に取り囲まれ大声で怒鳴られるだけで小柄な女性のA子は恐怖を感じたが、身に覚えのないことであると否認すると、BとC子に性的関係があった、おまえは三角関係のもつれからC子を殺したのではないか、BがC子をセックスのおもちゃにしていた、●才の息子DはC子が泣いているのを見てた、Dでも知ってるのにお前がわからんか、C子の膣内から精液が検出された、とA子には初めて聞くことばかりを告げた(解剖所見では精液は検出されず虚偽であるが、BがC子に性的虐待をしていたことをBは認めていたことが公判段階で判明)。また、DがA子の兄に養子にやられる話が出ていると告げた。

(2) Bが自白しているとの切り違え尋問と偽計による聴取など
 昼食の話の後、Bは「全部認めているぞ」とBが書いたというファックスの紙をA子の目の前にちらつかせ机を叩いて自白を強要したが、この頃、Bに対しても、A子は自白しているという違法な切り違え尋問を行った。
 また、「●にBが下りて、火を付けたところをDが見てるぞ」と虚偽の事実(DはBが火を付けるのを見ていない)を告げ、さらに「おまえの言うてることとDの言うてることは違うぞ。法廷でDと争うんか。」「A子の両親に(死んだC子に対するBの行為について)Bを訴えてもらうぞ」と自白を迫った。
 我が子を亡くして以来食事が喉を通らず、その日は朝から飲まず食わずで長時間怒鳴られて身体的に疲弊し、●年間夫婦として暮らしたB(子のために入籍しなかった)が「放火を認めている、C子を性的虐待していた。」と言われて真偽がわからず混乱し、C子を助けられなかったという自責の念と火災で生き残ったDまで失うようなことを次々と言われて、生きる意欲をなくしA子は自白するに至った。

(3) 自供書の作成と逮捕状の執行とその後の弁護士の接見
A子は、●に入っている●のC子が逃げられず死ぬという警察の筋書きどおりにBの自供書と食い違わないように誘導されながら自供書5通と供述調書一通を作成したが、秘密の暴露といえる事実は含まれておらず、むしろ「煙の中に入り、自分も死ねば良かった」という真情が吐露されている。作成後の午後8時6分にA子は殺人、現住建造物等放火被疑事件につき逮捕状を執行されたが、午後8時50分項に接見に来た弁護士に、やっていないと言っても刑事らが聞いてくれず自供書を書かされたと述べた。


4 二度目の自供書作成に至る経過

 ●+1日午前11時頃、当番弁護士として接見した私(報告者)に、A子は「私はやっていません。」と否認し、「でも怒鳴って聞いてくれない。今経歴を書いているが署名しても良いか」と聞くので、調書を読み聞かされる時に、経歴の前後に罪を認めていると書いてないかを注意し、事実でないことが書いてあれば調書に署名をしてはいけないと助言し、一旦接見が打ち切られた。
 警察官調書作成後に再び、接見でき、A子から、警察官調書に署名を拒否したことを聞き、私は勾留質問までの手続について説明し、怒鳴られることに怯えているA子に否認しても検察官と裁判官は怒鳴らないと述べた。
 A子は検察官の弁解録取書でも否認した。
 私は勾留質問前にA子への接見に前後して勾留裁判官と面談して前日の違法な取調べについて述べたが、A子は裁判官の質問に対して「事実は身に覚えがな」く「警察官からBがC子をセックスのおもちゃにしていたとか私が共犯者であると自白しているとのファックスを見せられ、頭がボーッとして虚偽の自白をしたのです。」と答え、午後9時50分に拘置所に勾留された(拘置所を勾留場所に定める例は多くないと聞いているので、勾留裁判官が代用監獄での取調べ状況から正当にも拘置所を勾留場所を定めたと考えられる。)。
 ●+2日は拘置所で午後9時頃まで取調べられたが、A子が否認したため、調書は作成されていない。●+3日の午前中に検察官の準抗告が認められて警察署へ再び移監された。午後になってそれを知った私は警察で接見を求めたが接見指定が付けられたので、検察官と交渉の上、翌日に接見をしない条件で午後7時45分から20分間の接見し、A子に移監について説明した。●+4日の午前中に弁護士が接見を申し込んだが拒否された(準抗告の申立等は後記のとおり)。
 ●+3日の午後の取調では、A子が黙秘すると、刑事は「鬼のような母親や。」などと侮辱し、警察に移監されたことについて、勾留決定は一人の裁判官だが、今度は三人や、裁判所は弁護士の言うことは認めへん、警察の言うことだけを信じる、そやから、お前はまたここに戻されたんや、とか、弁護士は金目当てや、自分の名を売るためやとか、A子が弁護士を信頼して否認しても無駄であると繰り返した。午後には、A子の耳元で「これは怒鳴っているんと違うぞ。お前が聞こえてへんと思って、大声で言ってやってるんや。裁判になっても、そう証言してやる。」 と怒鳴り続け、さらに、「マスコミが静かになったのに、またBが認めておまえが否認するとマスコミがおもしろがって騒ぐぞ」(●+1日の朝から新聞やワイドショーの報道が続いたが、A子が否認していることを●+2日の午後に記者発表した後報道は止まっていた)と、新聞に再びC子のことが大きく報道されるかのように言って自白を強要した。A子が吐き気がひどく病院へ連れて行ってほしいと頼んでも詐病扱いされ、椅子から倒れ滑り落ちても放置された。
 午後6時からの取調で、「警察の言うとおりにお前が自白書を書けば、すぐこの場から解放してやる。」と打って変わってなだめるような口調で言われたA子は、朝から10時間近くも耳元で怒鳴られて朦朧とした心身共に極限状態になり、3通の自供書を作成した。検事は、午後8時半頃に接見に来た弁護士に対して取調中であると接見を拒否していたが、自供書が完成した後に午後3時40分から10分間の接見を認めた。その日以降、▲月▲日に詐欺未遂で起訴されるまで約一月の間、連日厳しい取調べが続いたが、A子の自白調書は代用監獄で作成された9通のみである。


後略

■■引用以上■■


引用した中で,「●+3日の午前中に検察官の準抗告が認められて警察署へ再び移監された。」という部分にご注目頂きたい。

なぜ,拘置所から警察署への移管を裁判所が認めたのか…。もう,ため息しか出ない…。



戦争のない世界ってつくれるヨ ~橋本勝さんの著作ご紹介

2006-01-24 02:02:29 | 橋本勝の政治漫画再生計画
政治漫画再生計画を連載してくださっている橋本勝さんは昨年秋,「戦争のない世界ってつくれるヨ 21世紀の今、9条のもつ意味をみんなで考えましょう 」という戦争の悲惨さを分かりやすく訴える児童書を出版されていますので,ご紹介します。

BOC出版部の発行で,オンライン書店ビーケーワンでは【悲惨で残酷な戦争がつづく世界を希望に満ちた平和な世界へと変えたのが日本の憲法第9条。その第9条が今とてもあぶない! 日本は戦争のできる国になろうとしている。戦争のない世界を実現しようとやさしい言葉で訴える。】と紹介されています。

「戦争はなくせない」という思いこみにとらわれすぎていませんか~などストレートに問いかけるメッセージが盛りだくさん。絵も印象に残るものが多い。

購入して出身校に寄付するっていうのはいかがでしょうか?

NHKの先走り報道で関係者の責任は問われないのか?~ライブドア強制捜査

2006-01-23 05:32:20 | メディア(知るための手段のあり方)
NHK(それにつられた日経も)がライブドアの強制捜査前に誤報を流したのはご存じのとおり。サンスポによると【NHKは16日午後4時台のニュースで、東京地検特捜部がライブドアの家宅捜索着手前に「捜索した」と報じた。NHK経営広報部は「特捜部の係官がライブドアに行ったことを確認したため『捜索』と報じた。しかし、この段階では任意捜査だったことがわかり、午後5時から捜索が始まるまで『捜査に乗り出した』と報道した」と説明している】とのことだが,果たして事実関係はきちんと調査されているのか?誤報の責任はいかなる形で問われようとしているのか?

幸いマーケットが開いていないときだったから,よかったが,この問題は安易に見過ごすべきことではない。

このような重大事件の場合,当然,事前に,発表があり,捜査開始とともに解禁というような協定がある。そうでないとテレビ局が捜索シーンにカメラを準備できないからだ。

したがって,NHKは事前に準備していた「予定稿」を誤って流したことになるが,この報道がマーケットが開いているときであれば株価に大きく影響を与えることになったのは明白だ。現にライブドアには問い合わせの電話が入ったようだ。【ライブドアが株式分割をめぐって不正を行ったとして、東京地検特捜部は1月16日、証券取引法違反の疑いでライブドアの捜索に乗り出したとNHKが報じた。東京・六本木の本社や堀江貴文社長の自宅なども捜索の対象になっているという。ライブドアは「本社の六本木ヒルズ38Fおよび堀江の自宅に捜査が入った、という事実はない。NHKに問い合わせる」とコメントした。東京地検特捜部はその後の午後6時半過ぎ、ライブドア本社などへの家宅捜索を開始した】(ITmediaニュース

普通の事件で近く逮捕するっていうことをすっぱ抜いた場合に,特捜部への出禁(庁内取材禁止)だとかされるのはどうかと思うが,今回の件は出禁どころの話ではすまない。まさに風説の流布だから…。

NHKが言っているように,途中で「強制捜査」から「捜査」に変更したとしても,マーケットが開いていれば報道が株価に与えた影響は大きいはずだ。

そもそも,NHKが入手した情報は,解禁までは報道しないことを前提にして発表されたものである。もちろん,だから解禁まで報道してはいけない,なんていうつもりはない。ただし,報道するなら,先駆けて報道する意義は何かをきちんと検討してやってもらいたいのであり,今回のようにいったん,誤報してしまったから,仕方なく…というのではねぇ。

NHKは,風説の流布をしてしまった原因について,外部の人間も入れた委員会できちんと調査したうえ,責任者に対し,きちんとした処分を下すべきだと思うが,そのような発表はいまだにない…。これって,故意に(つまり,「マーケットが開いていないから少々先走りしても株価には影響は出ない。構わないから特ダネにしてしまえ」という判断から)先走り報道をしたとしたら,懲戒解雇処分とされても仕方がない事例だと思う。

現実には,世界のマーケットは24時間稼働しており,NHKの誤報がライブドアや日本のIT企業と関連する外国企業の株価に何らかの影響を与えた可能性はある…。

一職員の放火事件なんかよりもはるかに重大な問題のように思うのでちょっと遅沿いけれど触れておきます。

参考:http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20060117/1137433607

代用監獄の弊害事例2~自白強要のおそれが認められた事例

2006-01-22 09:59:44 | 適正手続(裁判員・可視化など)
代用監獄を利用した違法捜査事例その1に続き,その2を日弁連会報「自由と正義」から引用してご紹介します。松山地裁で誤認逮捕の事件で疑われた人物が起こした損害賠償請求が認められなかったばかりだが,そんな判決※ではこういう事案はなくならない…。なお,引用の際には,プライバシー保護の観点から一部原文を変更します。

■■引用開始■■

1 はじめに
被疑者Aは、別件詐欺事件等で代用監獄である□警察署留置場に勾留中、本件殺人事件に関し、深夜にわたる長時間の取調べ、利益誘導や壁に向かって立たされるなど不当な取調べを受けたため、やむを得ず、殺人をほのめかす上申書を作成してしまい、200●年●月●日、本件殺人容疑で逮捕・勾留されるに至った。
そこで、別件詐欺事件等の国選弁護人と本件殺人事件の被疑者援助制度により選任された弁護人は、かかる不当な取調べに対し、勾留に対する準抗告を申し立てた。この申立に対し、同月●日、△地方裁判所は「自白強要のおそれが一応認められる」として、勾留場所を◇刑務所(拘置所)に変更する旨決定をし、その結果、不当な取調べは事実上なくなり、本件殺人事件については勾留満期に処分保留、その後、不起訴処分になったという事案である(なお、別件はいずれも有罪で確定している)。
前記取調べは、不当な取調べの典型、古典的な事案で、全国の弁護士が現在も直面することの多い事案と思われるが、裁判所自身も「自白強要のおそれが一応認められる」と判断した最近の事案であることから、代用監獄制度の弊害事例として報告する。

2 事件の経過(略)

3 不当な取調べ状況
① 長時間の執拗な取調べ
被疑者Aは、別件2事件で再逮捕されたころから、連日12時間にわたる取調べを受け、食事時間や就寝時間が来ても、刑事は、「もう取調べを終えてやるから、一筆書け」、「Bをやったことを書け」などと、食事や睡眠を交換材料に、自白を迫った。
被疑者Aは、食事や睡眠をしたいがため、「Bのことを思い出したら、明日話します」、「私しか知らないことを話します」などの調書の作成に応じることがあった。
また、ある日、深夜12時を回って取調べを受けていると、留置担当者が取調室まで来て、刑事に「もう寝かせてやって下さい」と頼み、ようやく取調べが終わることすらあった。

② 脅迫、壁に向かって立たせるなどの取調べ
被疑者Aは、刑事から「Bをやってしまたんやろ。はよ出したれ」と怒鳴られ続け、「私は何もそのようなことは一切していませんし、Bが今どこにいるのかなんてことは本当に心当たりありません」と言うと、「そんなことは聞いていない。そんな返事ならしゃべるな」と言われ、取調室の後ろの壁一杯に座らされた上、取調べ用の机を体一杯に押し付けられた。
更に、検事からは、「お前もヤクザのことはどういうもんか知っておるやろ。おれはその辺のヤクザとわけが違うんやぞ。なめたらあかんぞ」、「お前も家族がかわいいんやろ。これ以上心配かけんな。マスコミをバンバン家の方に行かしたろか。母親も息子ももうあの家には住めんようにしたろか」、「お前なんか二度と立ち直れんようにしたろ」などとの脅迫を受け、壁に向かって一時間半立たされたことがあった。

③ 利益誘導・偽計による取調べ
被疑者Aは、逮捕前に、ある民事訴訟を起こされ一審で敗訴判決を受け、控訴状を出したところであった。刑事は、被疑者Aの母親から「息子(被疑者A)が居なくて、全く家のことがわからず、困っている」ことや、裁判のことを知り、被疑者Aに対し、「お前がちゃんとしないと、家も大変だぞ。接見禁止が付いているが、裁判で負けないように、民事訴訟の書類を差し入れられるようにしてやる。母親にも伝えたいことがあれば、ちゃんと伝えられるようにしてやる。その代わり、殺したことを書け」などと、利益誘導し、しかも、接見禁止の解除は弁護人ではできない旨虚偽の説明をした。
このことが主たる原因となり、被疑者Aは200●年●月●日、殺害をほのめかす上申書を作成した。
実際、弁護人が調査したところ、翌日、民事事件に関する書類の受け取りにつき、更に、翌々日、民事事件に関する書類の裁判所への送付につき、それぞれ接見禁止が一時的に解除されていることが判明した。
被疑者Aは、弁護人の指示で、直ちに自白を撤回する上申書を書き、刑事から朱肉を借りて拇印を押して刑事に提出したが、受け取らなかったため、弁護人が宅下げ手続きをして、原本を保管した。

4 証拠のでっち上げ
被疑者Aは、刑事から、雑談で犬の散歩のコースや、なじみのレストランの場所などを聞かれ、何枚か地図のようなものを書いたことがあった。
マスコミは、警察から、被疑者Aが死体を遺棄した場所を書いたとの情報を得て、その旨の報道をしていたが、被疑者Aに聴取したところ、雑談で書いた前記地図が利用されていることが明らかとなった。

5 弁護人の悪口など
検事は、被疑者Aに、「弁護士の言うことは信用するな。あいつらはマニュアルどおりやっているだけだ。お前のことなど考えていないぞ。おれの仕事はお前を更生させることや。お前のことを本当に考えているのはおれだけや」などと弁護人の悪口をはき、更に、「司法取引って知っているか。アメリカでは結構こういうことはあるんやけどお前も考えようによってはしてやってもいい。Bのことをおれに話すんや。遺体を出したらお前を死体遺棄にしてやる。殺人はうやむやにしてやってもえこんんや」などとありえない司法取引を口にすることもあった。

4 裁判所の判断
弁護人は、前記不当な取調べを詳細に記述し、勾留に対する準抗告を申し立てた。
裁判所は、勾留決定自体は是認したものの、「被疑者は、本件被疑事実につき、供述を変遷させ、本件勾留質問においては本件被疑事実を否認していること、本件逮捕があった平成●年●月●日の取調べは翌日の午前0時20分ころ、同月●日の取調べは翌日の午前0時15分ころにまで及んでいること、被疑者が取調べ状況について弁護人に述べている内容等からすれば、自白強要のおそれも一応認められること、被疑者の身柄を□警察署に拘束しなければ残余の捜査ができないものでもないこと等の事情を総合考慮すれば、原裁判中勾留場所を□警察署留置場とした部分は取り消されるべき」と判断した。
裁判所は不当な取調べについて、長時間の取調べ以外は具体的には認定しなかったが、「被疑者が取調べ状況について弁護人に述べている内容等からすれば、自白強要のおそれも一応認められる」と結論付けていることから、他の不当な取調べもある程度あったものと判断したと解される。

■■引用終了■■

※【窃盗容疑などで誤認逮捕・起訴され、1年余りにわたって勾留(こうりゅう)された後、真犯人が見つかって00年に無罪が確定した愛媛県宇和島市の男性(56)が、違法な捜査や起訴で精神的苦痛を受けたなどとして、国と県に慰謝料など約1000万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が18日、松山地裁であった。沢野芳夫裁判長は「自白を強要した事実は認められず、男性に対する疑いがあると判断する合理的な理由があった。真犯人判明後の釈放も理由なく遅れたとはいえない」などとして、請求をすべて退ける原告全面敗訴の判決を言い渡した。】