情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

陸、陽菜、君たちは憲法制定権力を手放すのか~憲法改正国民投票法案阻止へ立ち上がれ!

2007-02-04 07:28:29 | 憲法改正国民投票法案逐条批判
陸、陽菜、君たちは、憲法制定権力っていう言葉を聞いたことがあるかい。何か難しそうだけど、とっても格好いい言葉なんだ。簡単に言えば、憲法を決める力ということだけど、そう言い換えても簡単ではないかも知れないね。

憲法って何だろう。憲法を読んだことがあるかな。憲法に従って、国会議員が選ばれ、法律を定める。その法律を政府が実行する。もし、国会の法律の決め方や、政府の実行の仕方が間違っていたら憲法に従って、裁判所が間違いだと指摘する…。

一度憲法を読んでごらん。結局、憲法っていうのは、その国に住む人について国(国会、政府、裁判所)が何かをしようとしたときに、国が守らなければならないルールなんだ。憲法は、私たちが守るのではなく、国が守るものなんだ。

憲法制定権力とは、憲法、すなわち国に守らせるルールを決める力のことだ。この力は私たち市民が持っていなければならない。なぜなら、国がその力を持ったら、自分にとって都合のいいルールを決めることになるからだ。これは分かるでしょう。もし、夏休みの時間の過ごし方を君たちで自由に決めていいよって言ったら、君たちは、一日中遊び時間にするだろう。それがよくないことは分かるよね。よくないことだと分かっていても、自分で自分のことを決めようとしたら、どうしても甘くなってしまうんだよね。憲法制定権力も同じこと、私たちはその力を絶対に手放してはいけない。

ところで、陸、陽菜は、いま、憲法を変えようという動きがあるのを知っているかな。安倍首相が自分の任期中に憲法を変えたいと張り切っている。その内容については、今度ゆっくり話すとして、憲法を変える力も当然、憲法制定権力の一つとして、私たちに与えられている。憲法96条には次のように書いてある。

【この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする】

つまり、国民の過半数が賛成して初めて憲法を変えることができるんだ。

ところが、国(国会、政府)は、この憲法を変える私たちの力を弱めようとしている。

過半数っていうのがポイントなんだ。陸、陽菜、ここでいう「国民の過半数」ってどういうイメージだろう。何歳から憲法を変えることについて投票することができるかという点では意見がいろいろあるけれど、仮に20歳以上だとすると、日本では1億人くらいの人に投票する権利があることとなる。まぁ、全員が投票するわけではないから、過半数は、5000万人以上っていうイメージではないだろう。でも、たとえば、3人だけ投票してそのうちの2人が賛成したから過半数だっていうことで憲法を変えるのもおかしな話だよね。

たとえば、君のクラスの学級委員が好きな給食をたくさん食べようとして、「給食をお代わりする順番を決める人は学級委員とする」というルールを決めようとしたとするね。このルールを決めるのはちょっと大変そうだったが、偶然、ある昼休みに学校にスマップが来ることとなった。学級委員はその日の朝のHRで、「今日の昼休みに臨時の学級会を開いて給食のお代わりする人を決めます。食べ方がゆっくりの人もいるし、早く食べると胃にも悪いから、ルールをつくっておいた方がいいでしょう」と説明した。でも、ほとんどの生徒はスマップのことで頭がいっぱいで、学級委員の説明がどういう意味かをよく理解することが出来ませんでした。「平等にしたり、体に悪いことをなくすのなら、いいことだな。昼休みは学級会には出ないでスマップを見に行こう」、みんなはこう考えたんだ。

昼休み、みんなはスマップを見に運動場へ出かけた。クラスには、学級委員とその友達が3人と陸、陽菜、君たちが残ったんだ。「では、この案に賛成の人は手を挙げて下さい」。陸はこう質問するんだ。「ちょっと待って。学級委員はどういうルールでお代わりの順番を決めるんですか」。陽菜は「学級委員だけが決めることが出来るのはおかしいんじゃないですか」と続いた。でも、それに対し、学級委員の友達はいう。「学級委員が信じられないのか。みんなのために配るんだ。順番を決めるのも大変なんだ。それを自分でしてくれるっていうんだから任せよう」…。この議論は長くは続かない。というのも…「では、昼休みも終わるので、多数決します。この案に賛成の人は手を挙げて下さい」…こうして、3人が賛成したことで、次の日から、学級委員と友人は、美味しい給食のときはお代わりを自分たちで好きなようにできるようなったとさ。そして、陸、陽菜、君たちは逆らったといって、お代わりを絶対にもらえないんだ。

極端な話かもしれないけど、こういうことが起きないようにしておく方がよいよね。だから、外国では、たくさんの国で、最低投票率などが決められているんだ。国会の事務局の調査では、最低投票を何らかの形で決めている国は、パラグアイ、韓国、スロバキア、ポーランド、ロシア、ウルグアイ、コロンビア、ウガンダ、デンマーク、ペルー、キューバ(以下は、「過半数」を有権者の2分の1以上とする)、セルビア、ベラルーシ、ラトビアの14カ国だ。これに対し、最低投票を決めていない国は、アイルランド、イタリア、オーストリア、スペイン、スイス、フランスだけだ(トルコ、フィリピンは不明)。しかも、これらのうち、直接民主制という特殊な体制をとっているスイスを除くと、選挙のときの投票率は日本(52%)よりも高い。アイルランド67%、イタリア87%、オーストリア76%、スペイン81%、フランス60%という具合だ(ここ←参照)。

また、イギリスでも、40%ルールと言って、有権者の4割が賛成しないといけないということになっている。だから、6割の人が投票してその6割が賛成しても、賛成した人は有権者の36%に過ぎないから、これでは足りないということになるわけだ。

外国の話はここまでとして、さっき話した学級委員のことに戻そう。あれは極端な話で、学級委員がそんな無茶はしないって思うでしょう。でも、だれが学級委員になるか、学級委員になったとたんそれまでと違うことをし始めるか、なんてことは誰にも分からないでしょう。だから、誰が学級委員になってもいいような決まりが必要なんだ。君たちは、アドルフ・ヒトラーという名前を聞いたことがあるでしょう。アンネの日記はもう読んだかな。ドイツの人がアドルフ・ヒトラーに政治を委ねたとき、まさか、アンネのような悲劇が生まれるとは思ってもいなかったはずだ。


憲法制定権力の大切さは分かったと思う。ところが、自民党、公明党、民主党は、この憲法制定権力が私たちにあることを軽くみて、最低投票の制度を決めないことで一致した。そういうルールを今の国会で決めようとしている。それでいいだろうか(ここ←参照)。

議員は口を揃えてこういう。「例え、最低投票の制度を決めなくても、発議(提案)するには議員の3分の2の賛成が必要です。3分の2も賛成するってありえないくらい大変なことです。しかも、その3分の2の議員に投票してくれた人の数はたくさんいる。だから、最低投票なんて不要です」と。

それだけ自信があるなら、逆に、最低投票の制度を決めてもいいんじゃないだろうか。陸、陽菜、そう思わないかい。

しかも、もっと、ひどいことは、自民党の改憲案(http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/shiryou/pdf/051122_a.pdf)は、発議を議員の過半数で足りるようにしようとしていることだ。つまり、議員の3分の2が賛成するから大丈夫というのは「騙し」なんだ。しかも、この騙しがばれないように、自民党はHPから新憲法草案をはずしている(2007年2月4日現在)。こういうのをなんて言うんだろう、そう「卑怯」「ずる賢い」っていうんだね。難しい言葉では「姑息」「卑劣」「狡猾」ともいうんだ。

陸、陽菜、憲法制定権力って声を出してみよう。何だか頼もしいよね。この力を失わないように、みんなにも、この話をつたえてほしい。











★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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憲法改正国民投票法案の問題点の解説(3つの視点)

2005-05-04 06:12:02 | 憲法改正国民投票法案逐条批判
法案に対する逐条批判だけだと分かりにくいとのご指摘をいただいたので、少し、まとめてみました。

憲法改正案について、国民が投票する際、1)できるだけ多くの意見が反映されること、2)各人が自由に自らの意見を形成すること、3)各人の形成した意見ができるだけストレートに反映されること、については、あまり争いがないと思います。

そこで、今回の法案をその3つの観点から検討してみます。

第1 できるだけ多くの意見が反映されるか
 1 案:投票権者は20歳以上
   批判:でも、国の将来を形作るのだから、少なくとも18歳以上から投票できたほうがいいのではないか。
 2 案:禁固以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者は投票権がない。
   批判:でも、刑務所に入っている人(交通事故などの過失犯も含む)が一切投票できないというのは、疑問。

第2 自由な意思形成が行えるか。
 1 メディア規制がある
   案:編集委員が社説で意見を表明することが制約されかねない。
   案:「虚偽」「事実をゆがめて」などの表現で、報道を規制している。
   批判:それでは、自由な意思形成の前提となる情報の流通が阻害されかねない。

 2 国民間の情報流通が制約される
   案:警官などは憲法改正に対し、賛成または反対の投票をさせる運動が一切できない
   批判:これは、国民投票の公正さとはまったく関係のない規制ではないか
   案:公務員はその地位を利用して運動してはならない。
   批判:地位利用の定義があいまいで、萎縮効果あり
   案:教育者がその地位を利用して運動してはならない
   批判:専門家である憲法学者が大学で憲法改正について講義をすることもできなくなる。講義をする以上、憲法改正案に賛成か反対かも
      明らかにするのが通常だから    
   案:外国人は国民投票運動が一切できない(講演や寄付もできない)。
   批判:外国人が母国での憲法改正の経験などを講演したりできないのは、情報の制約となる。

第3 意思がストレートに反映されるか
   案:改正案一括投票か、条項ごとの投票か、はっきりさせていない。一括投票の可能性がある。
   批判:改正案一括で投票する場合、ABCと3つの条項を変更する案が仮に発議されたとすると、Aには反対だが、BとCには賛成という人
      は、自分の意思を十分に反映することができないのではないか。


 以上、3つの観点からの批判でした。

ちなみに、法案全体に対する見解は、日弁連のものが詳しくhttp://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/05/2005_14.html、表現の自由に関する部分については、第二東京弁護士会のものが詳しいですhttp://www.niben.jp/01whatnew/pdfs/20050415.pdf ので合わせてご参照下さい。   

第1章から第12章について

2005-04-09 03:48:02 | 憲法改正国民投票法案逐条批判


第1章 総則(1条~6条)
 特段、問題点は見あたらない。

 なお、第4条規定の「第1号法廷受託事務」とは「法律又はこれに基づく政令により、都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」(地方自治法2条9項1号)


第2章 国民投票の投票権(7条)

 満20歳以上のものに限定している点、また憲法改正国民投票運動に関する違反以外の罪で禁固以上の刑に処せられた者などを除外している点は、問題だと考える。
 
 将来の日本のあり方を決めるという意味では、義務教育卒業年齢者には、投票権を与えるべきではないか。
 また、服役中の者を除外する合理的理由はない。



第3章 国民投票に関する区域(8,9条)
 特段、問題点は見あたらない。
 なお、与党協議会実務者会議(以下「協議会」という)において、国政選挙との同時開催は禁止されることとなったため、条文が変更される予定。


第4章 投票人名簿(10条~18条)
 協議会によって、公職選挙法に規定する選挙人名簿を使用することとされた。
 よって、大幅削除の予定。
 実質的には、特段、問題点は見あたらない(年齢の点は除く)。
 ただし、閲覧にあたっては、プライバシーの侵害に留意するべきである。

第5章 在外投票人名簿(19条~30条)
 協議会によって、公職選挙法に規定する在外選挙人名簿を使用することとされた。
 よって、大幅削除の予定。

 公職選挙法30条の4において、一定の国などに「引き続き3ヶ月以上」住所を有する者と規定されている点が問題である。
 憲法改正の発議から投票まで30日(協議会で30日に短縮された)以後90日以内とされているため、海外で投票しようと考えた長期旅行者などが投票の機会を失う。発議から投票までの最短期日を下回るよう規定すべきではないか。


第6章 国民投票の期日等(31、32条)
 31条の憲法改正発議から投票まで「60日以後90日以内」は、協議会で30日以後90日以内と修正された。
 30日は短すぎないか。発議段階で十分な情報が国民に伝わっているのが通常だろうが、手続法においては、通常ではない場合をも、考慮に入れるべきである。すなわち、憲法改悪をひそかに発議して国民に負担を押しつけようとしているような場合、十分な国民的議論を行う必要がある。
 最短は60日あるいは90日でもよいのではないか 。

 なお、協議会において、国政選挙との同時開催は禁止されることとなったため、条文が変更される予定。この点は、改善されたといえよう。

 32条の告示も「20日」では短か過ぎよう。


第7章 投票及び開票(33条~46条)
 協議会によって、投票用紙の様式(36条)、投票の方式(37条)、投票の効力(43条)そのほか国民投票に関し、必要な事項は、憲法改正の発議の際に、別に定める法律の規定によるものとされた。

 したがって、複数項目にわたり改正案が示された場合(例えば、9条変更と環境権の新設)、一括で賛否の意思を示すのか、各項目ごとに示すことができるのか、不明確。この点は、各項目ごとに示すことを明記すべきである。
 日弁連の意見書参照http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/data/2005_14.pdf


第8章 国民投票分会及び国民投票会(47条~53条)
 特段、問題点は見あたらない。



第9章 国民投票の効果(54条)
 「有効投票の総数の2分の1」というのは考えられる最低の基準であり甘すぎる。
 「有効投票総数の2分の1かつ有権者数の3分の1」にするとか、「有効投票総数の3分の2」にするとか、最低投票率を定めるなどの基準を設けるべきである。
 日弁連の意見書参照http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/data/2005_14.pdf


 
第10章 訴訟(55条~60条)
 協議会によって、下記のとおり修正された。

自民党提示案では、一の「国民投票無効の訴訟」と二の「国民投票の結果の無効の訴訟」を一つの訴訟として規定していたが、公職選挙法の「選挙無効訴訟」、「当選無効の訴訟」の区分にならって区別して規定した。

一 国民投票無効の訴訟  ※「選挙無効の訴訟」に相当する訴訟
1 国民投票の効力に関し意義があるときは、投票人は、中央選挙管理会を被告として、国民投票の結果の告示の日から起算して30日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができるものとすること。
2 1による訴訟の提起があった場合において、国民投票に関する規定に違反することがあるときは、国民投票の結果(憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の二分の一を超えること又は超えないことをいう。)に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、裁判所は、その国民投票の全部又は一部の無効の判決をしなければならないものとする。

二 国民投票の結果の無効の訴訟  ※「当選無効の訴訟」に相当する訴訟
 国民投票の結果の効力に関し異議があるときは、投票人は、中央選挙管理会を被告として、国民投票の結果の告示の日から起算して30日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができるものとすること。

三 訴訟の処理に係る原則
 一又は二による訴訟については、裁判所は、他の一切の訴訟に優先して、速やかにその裁判をしなければならないものとすること。

四 訴訟の提起が投票の効果に与える影響
 一又は二による訴訟が提起されても、その無効判決が確定するまでは、国民投票の効果に影響を及ぼさないものとすること。

  
以上については、意思申立期間が短い、東京高裁に限定している、などの問題がある。 
 日弁連の意見書参照http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/data/2005_14.pdf
 

第11章 再投票及び更正決定(61条)
 第10章の変更に伴う変更あり。
 第10章との関連で問題となるか。


第12章 国民投票に関する周知(62条)
 協議会によって、投票所内に憲法改正案が掲示されることとなった。
 特に問題点は見あたらない。

 

第13章(表現の自由関連)など

2005-04-09 02:10:44 | 憲法改正国民投票法案逐条批判
憲法改正国民投票法案における表現の自由に関わる問題点(第13章について)5月3日改訂版
                       

1 根本的問題点
  法案は、選挙の公正を図るために表現の自由を制限した公職選挙法の規定を流用している。しかし、そもそも、日本の公職選挙法は規制が厳しいうえ(奥平康弘著「なぜ『表現の自由』か」175頁。選挙運動においてこそまさに「あらゆえう言論が…自由に競い合う場」がまず前提的にあるべきであり、ただ「選挙の公正」を確保する観点から自由に対して「必要最小限度の制約」があってしかるべきである)、「一定の候補者」の中から代表者として当選すべき者を選択する際に求められる公正と憲法のあり方そのものについて自ら選択する際に求められる公正は自ずから異なる。なぜなら、選挙の場合は、その人の政策とは関係のない人格攻撃(しかも虚偽の)などが行われる可能性があり、一定程度、そのような不公正な情報が流通することを防ぐことが必要とも思われるからである。しかし、憲法の改正条文について、報道する場合、条文から離れた批判をすることはできない(しても意味がない)。したがって、両者を同一視することはできず、公職選挙法の規定を流用した法案策定は誤りである。

2 具体的問題点 
(1)報道の自由の制限
  ア 予想投票の公表の禁止(68条)
  法案は国民投票の結果を予想する投票の経過や結果を投票日前に公表してはならないとしている。
確かに、選挙に際して予想投票の結果を明らかにすることは、優勢とされた候補者の運動が弱まるなど選挙結果に影響を与えることがありうるなどの弊害から禁止されることに一定の合理性がありうる。
しかし、憲法改正内容についてメディアや市民団体などがアンケート投票させてこの結果を投票日前に明らかにする行為を禁止する合理的理由はない。むしろ、さまざまな角度からアンケートすることによって互いに理解が深まるという効果があるのではないか。
なお、与党協議会は、調査員が面談して行う世論調査は、予想投票とは異なり投票日前の公表を可能としているようであるが、テレゴングのような形での調査は禁止される。テレゴングを伴うテレビ番組によって、国民の関心はより喚起されるはずであり、そのような番組を禁止する合理的理由はない。
  イ 虚偽報道という名目での批判封じ込め(69条、71条)
   法案は、新聞・雑誌・放送事業者が報道・評論において、虚偽事項を報道したり、事実をゆがめて報道することで国民投票の公正を害することを禁止している。 
   確かに、「一定の候補者」に対して、中傷的・人格攻撃的な虚偽報道や歪曲報道をしたりすることは、選挙期間が短期であるため、当該候補者が不当に落選する可能性があるため、禁止することに一定の合理性がある。
しかし、憲法改正案について議論する際には、中傷的・人格攻撃的な虚偽報道はなしえない。改正案の内容について、正面から議論することになる。その際、改正案の評価、将来に与える影響の予測などは、千差万別となりうるし、法案の理解を深めるためにはそのような多角的な議論が交わされるべきである。しかるに、「虚偽」や「歪曲」を理由として規制がなされると、虚偽・歪曲の判断基準が明確でないため(明確性の原則:表現行為を規制する場合、その基準を明確にしなければならないという原則)、表現の自由を著しく萎縮させることになる。本法案のように、罰則をもって、規制をかけることは、萎縮効果を倍増させる。
 
  ウ 新聞・雑誌に報道・評論を掲載することの禁止(70条)
   法案では、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞・雑誌に対し編集その他経営上の特殊な地位を利用して当該雑誌・新聞に国民投票に関する報道・評論を掲載することを禁止している(70条3項)。
   確かに、新聞・雑誌が、「一定の候補者」の選挙結果に影響を与えることを目的としてその候補者を誉めたり他の候補者を非難したりすることを禁じることは、メディアの影響力の大きさから一定の合理性がある。理由は、不当な人格攻撃などがなされる可能性があるからである。
しかし、憲法改正案の内容を新聞・雑誌が賛否を明らかにしつつ記事にしたり評論したりすることを禁止することに、まったく合理的な理由はない。条文を離れた不当な批判はありえないからである。
通常の立法や政策についても、新聞・雑誌は、賛否の立場を明確にした記事を掲載しうるのであり、なにゆえ、憲法について、そのような記事を掲載しえないのか不明である。
さらに、法案では、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞・雑誌に対し編集その他経営を担当する者に対し、財産上の利益を供与するなどして、当該雑誌・新聞に国民投票に関する報道・評論を掲載させることを禁止している(70条1項。2項はその裏返し)。
しかし、軽い食事をしながらレクチャーするような場合まで恣意的に取り締まられる可能性もあり、また、広告との明確な区別が可能かどうかも不明確である。
(2)国民投票運動(憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる運動)の禁止
ア 教育者の運動禁止(65条)
法案は、教育者がその地位を利用して国民投票運動をすることを禁止している。しかし、教育者が憲法改正案について、授業などで討議することは考えられるし、そのような活動を禁じる必要はない。むしろ、そのような場で討議することによって、改正案についての理解が深まる。
イ 外国人の運動禁止(66条)
法案は、外国人による国民投票及び国民投票運動を完全に禁止し、寄付の収受すら認めていない。
しかし、外国人の中にはさまざまな事情から長年在日している者もおり、国民投票運動に対して一切の関与を認めないというのはあまりに差別的である。自らの生活環境のあり方を決める重要な政策決定の場でもあるからである。また、例えば、外国での憲法改正後の実態などを外国人が講演したりすることは、国民の憲法改正案に関する理解を深める上でも有益である。

なお、63条(特定の公務員の国民投票運動の一律禁止)、64条(一般的公務員の地位を利用した国民投票運動の禁止)、67条(教育者の地位を利用した国民投票運動の禁止)についても、規制を緩和すべきである。
 なぜなら、63条については、裁判官や検察官、警察官など、国民投票運動の公正さと直接関係のない者についてまで、一律に運動を禁止しており、規制が広すぎるからである。また、64条については、「地位を利用して」という点があいまいであり、職場で同僚とディスカッションすること、あるいは、自分が公務員であることを知っている近所の人とディスカッションすることすらしにくくなる可能性がある(萎縮効果)からである。さらに、67条においては、本来、最も憲法について研究をしており、その発言が注目されるべき憲法学者が、講義中に憲法改正案に関する議論をすることができなくなるなどの弊害があるからである(学者の著作が「講義ノート」などの形をとってなされることはよくある)。


第14章 罰則(72条~95条)
 表現の自由との関係で、73条、85条、86条、91条、92条が問題となる。
 萎縮効果を倍増させるからである。
 
第15章 補則(96条~105条)
 特段問題点は見あたらない。