特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第476話 慕情・神代課長を狙撃させた女!

2009年07月02日 04時02分43秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 北本弘
1986年7月31日放送

【あらすじ】
暴力団同士の抗争が激化するなか、市民が巻き添えとなって死亡する。その責任の一端を負う者として、神代の心は痛んだ。2年前、特命課は広域暴力団を壊滅すべく、カリスマ的な存在であった組長を逮捕。神代自らが取り調べに当たった。だが、組長は心臓病を隠しており、取調べ中に昏倒し、そのまま死去。その後、暴力団は後継者争いから分裂し、今も骨肉の争いを続けていた。「抗争の原因を作ったのは特命課だ」との非難は根強いものがあった。
そんななか、帰宅した神代を暴力団の若者が襲う。難なく取り押さえる神代。若者は取り調べに対し「お前が組長を殺したから、俺たちは身内同士で殺し合うハメになった!」と神代を罵る。その言葉は1月前、組長の墓前で、組長の娘が神代に発した言葉でもあった。
そこへ、当の娘が神代を訪ねてくる。娘は「若者を釈放して欲しい。その代わり、情報を差し上げる」と取引を要求する。娘の情報をもとに、両組織を次々と検挙する特命課。娘は神代に「世間のためにも、死んだ父のためにも、両組織とも無くなってしまえば良い」と心情を語る。今回の抗争を最も怒っているのは、心血を注いで組織を作り上げた組長だと言うのだ。
そんななか、マスコミに神代と娘のツーショット写真が出回り、警察上層部があわてて揉み消す。上層部の警告を無視して、娘からの情報提供をもとに検挙を続ける神代。その身を案じる特命課を代表し、橘は「彼女にはもう深入りしないほうが・・・」と忠告する。だが、神代は「彼女にどんな魂胆があろうと、せっかくの情報を利用しない手はあるまい」と、毅然とした態度を崩さない。
だが、今回の情報はガセネタ。暴力団が内通者を見つけ出すための罠だったのだ。娘に危険が迫ると感じた神代は、単身、暴力団の本拠に乗り込む。だが、娘をスパイだと知った暴力団は、すでにその身をどこかへ移していた。虚しく帰宅した神代を待っていたのは、怯えた様子の娘だった。自室に娘を匿う神代だが、カーテン越しに窓の外を見る娘の視線の先には、狙撃者の姿があった。
神代の部屋に打ち込まれるロケット弾。咄嗟に神代がかばい、娘も神代も軽症に留まった。だが、娘を入院させた病院で、神代は意外な事実を知る。娘は末期のガンだった。娘は神代を道連れに心中を図るとともに、神代の死によって警察が暴力団壊滅に本腰を入れることを期待していたのだ。
そんななか、神代が見舞う娘の病室を、若者が拳銃を手に襲撃。神代が身を呈して娘をかばい、事なきを得る。可愛がっていた若者の行為に、ショックを隠せない娘を橘が見舞う。「貴方が命を狙われるのは、裏切者だからというだけじゃない。あなたは両組織を壊滅させる何かを知っている。しかし、神代課長への復讐を果たすために、貴方はそれを話そうとはしない。違いますか?」否定も肯定もしない娘に、橘は続ける。「彼(=神代)は貴方の魂胆を全て承知の上で、自分の命をかけて、最後まで付き合うつもりだ。そういう人だからこそ、我々は彼を失いたくない。特命課としても、長年一緒に仕事をしてきた友人としても・・・」
神代の覚悟を知った娘は、あることを願い出る。それは、離婚した堅気の夫のもとに残してきた息子の姿を一目見ることだった。元気そうな息子を車の窓から見守りつつ、覚悟を決める娘。そして娘は知った。神代もまた、愛する家族を失う悲しみを知っていたことを。
娘は神代を貸金庫へと誘い、両組織を壊滅させるに十分な資料を託す。「私と心中までしようとしてくれたお礼です。でも、寂しいですわね。心中というものは、本来は愛し合っている人たちがするものでしょう・・・」
貸金庫を出た二人をライフルの銃口が狙う。咄嗟に娘を庇おうとする神代だが、逆に娘が神代を庇って銃弾に倒れる。「死にたくない、もっと生きたい・・・」そう言い残して、娘は息を引き取った。
娘の託した資料をもとに、特命課は両組織を壊滅させる。後日、娘の墓参に向かった神代は、入れ違いに離婚した夫と息子が墓参するのを見守る。微笑と、そして苦渋の入り混じったその表情の奥に、どんな想いが去来していたのだろうか・・・

【感想など】
石松愛弘の特捜における最後の脚本にして、ひょっとすると最高傑作かもしれない1本。前々回の感想で、ぼろくそに貶しておいて何なのですが、意外とこの人の脚本は私の琴線に触れるものがあるのかもしれません(いや、もちろん話の出来によるのですが・・・)。
タイトルにある「慕情」は、DVD-BOX Vol.8にも収録される、石松氏の代表作である第184話のもの。はじめは「とうとうネタ切れで自作の焼き直しか」と思っていたのですが、そんな下世話な先入観は、良い意味で裏切られました。愛娘・夏子を失った神代課代と、死んだヤクザの父親に対して愛憎混じった複雑な思いを抱く娘。両者の“擬似親子”的な感情の揺れ動きを描く・・・というテーマは、第184話と合い通じるものがあるのですが、娘のキャラクター(加えて演じる女優さんの存在感)は大違いでした。

末期ガンのため、残り少ない命を、父の遺志に背いて抗争を繰り返す組織の壊滅(死んだ組長の真意は不明ですが)と、父の仇である神代への復讐(逆恨みですが)に懸ける娘の執念。そして、娘の真意を知りながら、おそらくはそこに亡き愛娘、夏子の姿を重ね合わせるがゆえに、命を賭して最後まで付き合おうとする課長の覚悟。また、そんな課長を支えんとする橘ら特命課の面々。さらには、娘を敬愛しながら、最後は組織のために娘への刺客となってしまう若者など、重層的に描かれる姿は、なかなか見応えがありました。

ガンという設定は余計だったような気もしますし、娘や暴力団の行動に矛盾があったり(たとえば、課長と会食を重ね、マスコミにスキャンダルを仕掛けたこと。彼女の差し金としか思えないのですが、それでは課長への復讐にはなっても、警察に本腰を入れさせることにはつながらない。下手をすれば、課長が上層部の圧力で捜査を外れることもあり得た)と、石松氏らしいツッコミどころはあるのですが、個人的にツボだったのは、キャラクターの心理を明確に言葉にせず、視聴者に行間を読ませる台詞回しの妙でした。特に顕著なのは、クライマックスである車中での娘と課長の会話です。
「どうして(若者から)命を賭けて私をかばってくださったんです?」「別に、あなたのためじゃない。刑事として、当たり前のことをしただけです」「もし庇ってくれたのが、私を愛してくれる人だったら、いつ死んでもいいって思いました」「・・・」「でも、刑事って大変なお仕事ですね。職務のために命を賭けて、必要とあれば相手と心中までしようとなさって・・・」
この台詞の中に、「刑事であるがゆえに、娘・夏子を死なせてしまった課長の哀しみ」と、「ヤクザであるがゆえに、まっすぐに娘への愛情を注げなかった組長の哀しみ(=そんな父親を持った娘の哀しみ)」、さらには「刑事であるがゆえに、ヤクザの娘に対して(夏子の代わりとしての)愛情を示すことのできない課長の切なさ」が込められているように感じるのは、深読みのし過ぎでしょうか。
さらに深読みをするのであれば、“死んだ娘の替わり”という自らの感情を押し殺す(あるいは持て余す)、課長の人としての不器用さも表されているような気がします。また、娘の行動の背景には、愛する息子(や夫)のためにも、ヤクザ同士の抗争を止めたいという思いもあったのかもしれません(その気持ちを察したらからこその、ラストの課長の微笑だったのかも・・・)。

自分でも考え過ぎかとは思うのですが、すべてを台詞で語ってしまうような脚本に、やや辟易しつつあっただけに、こうした行間を読ませる台詞(さらには演者の表情)は、見ていて非常に心地よいものがありました。本編をもって特捜を去る石松愛弘氏に対し、前々回の感想での非礼を深くお詫びするとともに、ひとこと「お疲れ様でした」と言わせていただきたいと思います。

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