特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第351話 津上刑事の遺言!

2007年09月30日 03時15分46秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野和彦

特命課に「殺してやる」などと書かれた手紙が繰り返し送られてくる。拙い文字で綴られたその手紙は、4年前に死んだ津上に宛てられたものだった。津上の妹を訪ねたところ、同様の手紙が届いているという。神代には差出人の心当たりがあった。殉職する直前、津上が親しくしていた少年だ。神代は少年の身許を知る元特命課の高杉を訪れ、居所を確認する。少年のもとに向かった紅林と叶は、少年が同様の手紙を投函するところを目撃。少年の姉に事情を尋ねる。
4年前、歩道を横断中の父親が、少年の目の前で車に撥ねられ、死亡した。警察は「信号は青だった」と言う少年の証言を採用せず、加害者の言い分をもとに「赤信号を無視して渡った父親の責任」として処理。ただ一人少年の証言を信じる津上は、「お父さんが悪くなかったと証明して見せる」と少年に約束。それを裏付ける老婆を探していたが、その矢先に殉職した。その死を知らない少年は、津上が一度も連絡をくれないことを恨んでいたのだ。津上の死を告げられ、ショックを受ける少年と姉。津上の果たせなかった約束を果たすべく、特命課はあえて異例の交通事故捜査に乗り出す。
4年前の調書を洗い直す特命課だが、津上が少年に語っていた老婆については、どこにも載っていない。捜査に協力を申し出た元特命課の滝が、津上が「一緒に信号を渡っていたおばあちゃんがいた」と語っていたことを思い出す。津上はどこからその老婆の存在を知ったのか?津上の妹の記憶では、「信号前の薬局にいたんだよ」と笑っていたという。しかし、事故現場付近に薬局は見当たらない。そんななか、何かをつかもうと現場を訪れていた叶と滝は、問題の信号が数メートル離れた別の信号とシンクロしていることを突き止める。薬局は別の信号の前にあったのだ。今は引っ越してしまった薬局を探し当てた吉野と滝は、先回りしていた高杉と再会する。
薬局の証言では、老婆は事故と同時に、シンクロしている信号を渡っていた。老婆が青信号だったとすれば、父親も青信号で渡ったはず。しかし、ようやく老婆を探し出したときには、すでに亡くなった後だった。唯一の手掛かりは途絶え、八方ふさがりの特命課。津上が遺した「現場百回」の言葉を胸に、再度現場を訪れる特命課。信号を見ていた叶があることに気付く。信号に定められたサイクルをもとに、事件の瞬間の信号を割り出そうというのだ。
加害者を事故現場に呼び出し、コンピュータで計算を開始する特命課。焦った加害者が叫ぶ。「何で特命課がここまでやるんだ?たかが交通事故じゃないか」叶は「その交通事故のために、父親を失った子供が居るんだ!」と激昂する。コンピュータが計算した結果は、少年の証言の正しさを示していた。少年の眼には、そして高杉、滝を含めた特命課一人ひとりの眼には、「これで約束は果たしたぞ」と微笑む津上の笑顔が輝いていた。

350回記念として、津上、高杉、滝と、かつてのメンバーが勢揃いする歴史的な一本。高杉、滝はともかく、殉職した津上をどう登場させるのか?脚本を担当した長坂氏が採ったのは、刑事たちの回想シーンとして登場させるという手法でした。それも、ただ回想するだけでなく、「現場百回」「一度探した場所が盲点」など、津上の残した言葉から捜査の突破口が開けていく展開はお見事。また、唯一津上を知らない叶が他の刑事たちとの会話の中から津上の人間性に触れ、触発されていくという展開も泣かせます。
冒頭で、津上が誰かに恨まれているのかと悲しむ妹に「何かの間違いです。あいつをこんな風に思う奴がいるわけはない!」と語る吉野。
「津上さん、『捜査は執念じゃない、誠意だ』って、よく言ってましたね」と語る高杉婦警。
「つねに愛を持って捜査に当たった男。それが津上だよ」と語るおやっさん。
ようやく老婆を発見したとき、「こんなに興奮した紅林さんは初めて見ますよ」と叶に驚かれ「津上の探していたお婆さんが見つかったんだ、これが興奮せずにいられるか!」と語る紅林。
刑事たちの台詞の端々から、津上に対する色褪せない想いが感じ取られ、視聴者の胸に残る津上の記憶を呼び覚まします。あの不器用なまでに誠実極まりない男は、あの暑苦しいまでに正義感に満ちた男は、もう帰らない。しかし、市民を守るために、自らの意志で若い命を散らしたあの男の生き様は、今も私たちの胸から消えることはありません。
そんな切ない記憶が、結晶となって空に登っていくかのようなラストシーンは胸に迫ります。山口百恵の『いい日旅立ち』が流れるなか、雪解け道を少年と連れ立って歩く津上の後を、特命課の刑事たちが笑顔を交わしながら歩いていく幻想的なシーン。「みんなに苦労かけやがって!」と高杉。「本当によかったですね。津上さん!」と滝。笑顔で振り返り、嬉しそうに頷く津上。そして夕焼けを背景にした刑事たちのシルエット。満面の笑顔で手を振る津上。「津上。これで、お前も安心して、ゆっくり眠れるな・・・」何度も繰り返し見てしまう、感涙のラストシーンです。
高杉と滝は面識がないはずとか、滝の喋り方はうっとうしいとか、野暮なことは言わずに、思う存分感動に浸りましょう。

第350話 殺人トリックの女!

2007年09月30日 03時12分50秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 山口和彦

東京湾から水死体が上がった。死体の着衣からヘロインが発見されたため、特命課が捜査に乗り出す。死体の検視に当たったのは、法歯学(ほうしがく)の第一人者である女性教授・冷泉。なぜか神代課長を目の仇にする冷泉に反感を抱いた吉野は、死体を縛っていたロープを見せつけ「自殺ですか?他殺ですか?」と即答を迫る。「解剖後にお答えするわ」と相手にならない冷泉に、吉野はロープが緩んでいたことを根拠に自殺だと主張。「これは学問じゃない。場数を踏んで初めて分かる経験です」と得意げな吉野に、冷泉は「私があなたを殺すときは、わざと緩く縛ってあげるわ」と冷笑する。
死体の胃から睡眠薬が検出されたため、再び自殺説を持ち出す吉野だが、冷泉は後頭部に指の圧痕を発見し、他殺を主張。さらに、死体の歯の治療跡から職種や経済状況、釣りの趣味までを推察する。その手腕に驚きつつも反発を隠せない特命課に、冷泉は意趣返しのように、紅林に指示してヘリを乗り回した後で「ただ乗ってみたかっただけ」と言い放つ。
その後、死体の肺に残っていた水質から、犯行場所は荒川と推定される。しかし、冷泉は死体に付着していたヘドロが多摩川のものと割り出し、犯行場所を偽装するトリックだと見抜く。特命課に乗り込み推理を披露する冷泉だが、すでに特命課でも「潮流を確認しろ」との神代の指摘から、真の犯行場所を突き止めていた。「それくらい、我々も捜査済みです」とムキになる紅林に、冷泉は死体の歯の治療法から施術者と思われる歯科医の出身校を割り出し、多摩川付近の該当者をリストアップする。
半信半疑ながらもリストを調べたところ、死体を治療した歯科医が見つかる。被害者は多摩川付近の工場主で、夜釣りに出かけたまま行方不明となっていた。工場を調べたところ、口紅の付着したワイシャツが発見され、女性と逢引していたのではないかと推察された。冷泉は口紅がわざと付けられたものだと分析。「犯人が女だと思わせるための偽装であり、真犯人は男だ」と主張する。だが、大阪へ出張中の神代は、電話で冷泉の分析を聞くと「魚を狙うのがいつも猫とは限りませんよ」と反論する。
その後、「歯科医が被害者から治療ミスで訴えられかけている」との噂があったことから、歯科医が容疑者に浮上。歯科医は次期教授選を控えており、犯行動機は充分にある。さらに、現場付近で発見されたタバコは歯科医のものと分析された。だが、自分の推理どおりの結果に満足する冷泉のもとに届いたのは、神代からの「策士策におぼれる、犯人に法歯学の知識あり、ヘロインの意味は何か」との伝言だった。伝言の意図を考え抜いた冷泉は、自らのミスに気付く。ヘロインは麻薬関係の事件と思わせ、特命課や法歯学者を捜査に関わらせるためのものであり、法歯学を逆手にとってミス・ディレクションを誘った真犯人は、歯科医と教授選を争う女助教授だった。
特命課とともに女助教授を訪れ、自身の推理をぶつける冷泉だが、女助教授は「何の証拠がある」と突っぱねる。だが、被害者の着衣に残されたクリームの痕が、漆かぶれを予防するものだったことが証拠となり、女助教授はついに敗北を認める。「男なんかに負けたくなかった」と動機を語り、「でもいいわ。私が負けたのは、同じ女性だもの」と負け惜しみのように口走る助教授。だが、先に女助教授のトリックを見破ったのは神代であり、自分もまた神代に敗北したのだと知る冷泉は、複雑な思いで女助教授を見つめるのだった。

350回記念作として、神代課長を演じる二谷英明の奥様、白川由美をゲストに迎えた一本。不勉強ながら、白川氏については何も知りませんでしたが、調べて見ますと「ラドン」や「美女と液体人間」でヒロインを演じるなど、特撮方面でも有名な方でした。脚本を担当した長坂氏の著書によれば、夫婦対面が実現しなかったのは白川氏の希望とのことですが、419話「女医が挑んだ殺人ミステリー!」で再登場した際には、いよいよご対面とのこと。神代と冷泉の過去の因縁も、その際に明らかにされるでしょうか?楽しみに待ちたいと思います。
内容的には、緻密なトリックと、それを解き明かしていく過程が見所と言えますが、練りに練りすぎた余りに視聴者を置いてきぼりな感が否めません。特に、ラストで真犯人を追い詰めるシーン。余りにややこしいので粗筋では省略しましたが、「女助教授が実際の漆でなくてもかぶれること」と、「死体の着衣に残っていたクリームが助教授のものであること」の間には、何の論理性もありません。こうした「論理でなく、精神的ショックを与えることで真犯人を屈服させる」という展開は、長坂脚本に限らず特捜ではよく見られるシーンですが、正直、余り感心しません。また、実際の捜査に参加してないにも関わらず、わずかな情報をもとに真相を見通す神代課長の推理力は、ほとんどご都合主義に近いようにも思われます。
まあ、推理小説を読んでいるわけではないので、余り細かなとことろに目くじらを立てるつもりはないのですが、演出でうまく誤魔化される場合と、気になってドラマどころではなくなってしまう場合があります。今回は誰が見ても後者であり、ちょっと納得いかない仕上がりと言えます。

第349話 ギリシャから来た女!

2007年09月27日 02時01分56秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 宮越澄

冬の早朝、紅林は小学校の校庭で立ちすくむ外国人の少女を保護する。駆けつけた警官に誘拐犯と間違われる紅林。少女の母親から「娘が誘拐された」との通報があり、所轄署が手配中だったのだ。日本語が話せないのか、黙ったままの少女に、英語やフランス語で話しかける紅林たち。そこに少女の母親が現れ「日本語で話してください。この子は日本人です」と怒ったような表情を見せる。「耳か口が不自由なのでは?」との問いに、「この子は私にも口をきかないんです」と悲しげに答える母親。そこに、少女を保護した現場付近でギリシャ人の他殺死体が発見されたとの報せが入る。
被害者との関わりを尋ねる紅林に、母親は「心当たりはない」と答え、「姿が見えないだけで誘拐だと考えたのは何故ですか?」との追及には口を閉ざした。だが、母親の勤めるギリシャバーのママに事情を聞いたところ、被害者は母親の夫、つまり少女の父親だと判明。母親は「係わり合いになりたくなかった」と嘘をついた理由を明かす。
ギリシャバーで被害者と知り合った母親は、少女を産んだ後、被害者の希望でギリシャに渡った。しかし、被害者は働きもせず、かつての恋人との遊び回る有様で、たまりかねて娘を連れて帰国したのだという。娘恋しさの余り日本に戻ってきた被害者が、事件前夜に少女とともに歩いていたという目撃談があり「子供を渡したくない一心で、母親が被害者を殺したのでは?」と推測する特命課。
少女が被害者と笑いながら歩いていたという証言を得て、「あの子は、ギリシャに帰りたがっていたんじゃないですか?」と母親を問い詰める紅林。だが、母親は「あの子が日本を嫌ってるんじゃない。日本があの子を嫌ってるんです」と怒りを露にする。法律では、外国人の父親と日本人の母親の間に生まれた子供は外国籍となる。離婚が成立すれば日本国籍を得ることができるが、被害者が離婚を拒んでいたのだ。学校には通わせてやるという行政の申し出を、母親は「まずは国籍を認めるのが先」と拒否。楽しみにしていた学校に通えないと知って以来、少女は口を閉ざしたのだという。
その後の捜査で、事件当夜、母親が昼間働くレストランのコックから、母親宛に「少女が父親に連れ出された」との電話があったことが判明。コックは母親と恋仲で、少女を我が子のように可愛がり、日本国籍を得る方法を弁護士などに相談していた。コックが娘を取り返そうとしたはずみで被害者を殺した、と推測する特命課。母親はコックの犯行と知りつつ、かばっていたのだ。
コックが少女を連れて姿を消したことを知り、行方を追う特命課。紅林は少女がいつも小学校を見ていたことを思い出す。果たして、コックは少女とともに、小学校の屋上にいた。少女を置いて飛び降り自殺を図るコックを必死に制止する紅林。「お前はこの子の父親になってやるつもりじゃなかったのか!」説得も虚しく、コックはフェンスを乗り越える。「おじちゃん、死んじゃいや!」口を閉ざしていた少女が必死で叫んだ言葉に、コックは涙とともに自殺を思い止まるのだった。

今では改正されているらしい国籍法の矛盾をテーマに、混血の少女とその母親の哀しみを描いた一本です。遊び相手もなく、一人無言で地面に学校の絵を描く混血の少女。紅林の口ずさむ童謡「赤い靴」の物悲しいしらべと相まって、言葉にできない切なさが胸に迫ります。「まずは国籍を」という母親の気持ちも分からんではないですが、少女の気持ちを考えれば、ともかく学校に通わせてやりながら、国籍を得る手段を講じ続けるという選択肢もあったのではないでしょうか?
法や社会の矛盾をえぐるテーマ性は評価に値しますが、ドラマ的には“ありきたり”の一言に尽きます。人のよい犯人が善意から殺人を犯してしまうという、どこかで見たような展開の末に、言葉を失った少女が必死に放った言葉で死を思い止まるという、どこかで見たような結末。ありふれた脚本のおかげで、少女に新しい靴を贈る紅林の優しさすら、ありふれたものに見えてしまいました。

第348話 爆破0秒前のコンピューターゲーム!

2007年09月25日 00時01分50秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 松尾昭典

大病院のコンピュータが何者かにハッキングされた。どのプラグラムにどんな手が加えられたのか、犯人以外には分からないが、治療データや医療システムが改変されたとすれば、ことは人命に関わる。初めて出会うタイプの犯罪に戸惑いながらも、捜査に乗り出す特命課。米国研修から戻ってきたばかりの桜井は、「向こうでは子供が遊び半分でコンピュータに侵入する事件が増加している」と示唆する。
電話回線を通じて院内のコンピュータにアクセスするにはIDとパスワードが必要であり、橘らは犯人がIDとパスワードを盗み見たと推測。コンピュータルームを見学に来ていた入院患者をリストアップする。そのリストやハッキングした際に残した手掛かりをもとに捜索した結果、3人の少年が浮上。いずれも裕福な家庭に育ちながら親の愛情に恵まれず、パソコンだけが友達という共通点があった。
その後、またもコンピュータに侵入した犯人が「アト24ジカン」とメッセージを残す。犯人の狙いは何か?桜井と橘は、犯人は再び侵入してくると予測し、コンピュータルームで待ち構える。予想通り「アト12ジカン」とのメッセージを送ってきた犯人に、コンピュータ越しにコンタクトを試みる桜井。犯人は「コンピュータバクダン」による爆破を予告する。
同じ頃、3人の少年のうち、唯一今も入院中だった少年が姿を消す。もはや少年たちの犯行であることは明白だった。姿を消した少年たちの居所を探す橘と早見。果たして、少年たちの目的は何なのか?「何も要求なんか無い。誰かに注目されたかっただけじゃないですか」と指摘する早見に、橘も頷く。少年たちの両親は、「私たちは子供の主体性を重んじている」と嘯き、金を与えるのみで一切干渉していなかった。「看護婦=鬼=父母」と書かれたメモから、病院内で孤独な日々に耐えかねた少年たちの胸中を察し、暗澹とする橘。
一方、院内に仕掛けられた爆弾を探す特命課だが、院長の反対もあって捜査は進展しない。そんななか、院内で小規模な爆発が発生。犯人からのメッセージは、爆弾に仕掛けられた無線により、時限爆弾の起爆装置がスタートしたことを告げる。「バクダンハドコダ」繰り返し尋ねる桜井だが、犯人は「ヒナンヲイソゲ」と答えるのみ。たまりかねて「ナゼ コンナコトヲスル」と打ち込む桜井。その答えは、画面一杯に繰り返される「オレタチハニンゲンダ」の文字だった。
ついに少年たちのアジトを発見し、踏み込む橘。「爆弾はどこだ?教えてくれ!」橘の必死の叫びにも「もういいじゃないですか。訓練どおり、建設予定地に非難したんでしょう」と冷淡に応じる少年たち。「爆弾は建設予定地か!」真実を察した橘の連絡により、避難した患者たちは間一髪で助かった。悪びれることなく「手錠はかけないんですか?」と吐き捨てる少年たちを「甘ったれるな!」と殴り倒す橘。「そんなに少年院に入りたいのか?」橘の言葉に「今の生活と少年院の生活と、どう違うんだよ!」と応じる少年たち。それ以上答える言葉のない橘の脳裏に、少年たちの言葉がいつまでもこだました。

前回の留守番電話に引き続き、コンピュータへのハッキング事件をいち早く取り上げた長坂ならではの1本です。冒頭、コンピュータ用語が分からず困惑する橘や紅林が微笑ましく、時代を感じさせます。橘らと同様に、大半の視聴者も頭にクエスチョンマークを浮かべながら見ていたのではないでしょうか。
年がばれてしまいますが、本放送された84年ごろ、私も「ベーシックマガジン」などを愛読するパソコン少年の一人でした。本編の少年たちと違って裕福ではなかったため、パソコンを持つ友人宅に入り浸ってプログラミングの真似事をして遊んだ日々を、懐かしく思い出しました。他にも、でっかいフロッピーやパソコン少年たちが遊んでいるMSXのゲームなど、ノスタルジーを刺激させられまくりで、個人的には非常に楽しめました。
とはいえ、ハッキング相手とリアルタイムな対話ができるものなのか?とか、大量の爆弾をどうやって入手したのか?など、いろいろひっかかる点もあり、手放しで評価できる話とは言えません。ですが、ドラマの根底には、愛情を求めて苦しむ少年たちへの優しい視線と、そんな子供を生み出してしまう社会への怒りがあり、そうした悲劇がさらに深刻化している現状を鑑みれば、長坂氏の時代を読む目の確かさには唸らされます。
愛情に飢えるがゆえに爆弾を仕掛けるという短絡さは、もちろん許せるものではありませんが、そこまで追い込まれてしまった少年たちの苦しみを思えば、容易に責めることができません。少年たちに反論する術を失ってしまった橘ですが、その拳に込められた“情”や“想い”のいくらかは、殴られた少年たちの心に届いたのではないか。そう信じたいものです。
なお、今回より6話ぶりに桜井が復帰し、お役御免となった早見。少年たちの心理を代弁した際、橘に「特命課に来て、だいぶモノが見えるようになったと思います」と誇らしげに語る姿には、なかなか感慨深いものがありました。短期レギュラーの退場時にきちんとドラマを作っているあたり「さすが長坂!」と言えるでしょう。

第347話 暗闇へのテレフォンコール!

2007年09月21日 21時41分28秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

ある夜、補導暦のある19歳の少女が刺殺された。現場に出向いた特命課は、被害者が高杉婦警の名刺を所持しているのを発見する。その頃、アパートに帰宅した高杉は、留守番電話に友人からの助けを求めるメッセージが録音されているのを聞き、慌てて友人宅に向かう。残りのメッセージを聞こうと留守電のテープを持って出かける高杉を、密かに室内に潜入していた怪しい影が見つめていた。友人宅について見れば、ライターである友人が締め切りに追われて苦しんでいるだけであり、呆れつつも安堵する高杉。そこに、アパートの管理人から高杉の行方を聞いた紅林が訪れ、被害者の死を告げる。
高杉が被害者と出会ったのは1年前。雨の中で喧嘩しているのを止めに入ったときだ。そこに通り掛った老人は、身寄りのない被害者に同情し、身元保証人となって自分の店で働かせた。高杉はその後も被害者を案じて度々会っていたが、1月前に事件が起こる。被害者が恩人である老人に暴力を振るったのだ。心配した店員の連絡で駆けつけた高杉に、被害者は反抗的な態度を取る。老人に勤務態度を咎めたれたのが気に障ったらしく、「叱り方の配慮が足りなかった。悪いのは私だ」と頭を下げる老人に背を向け、職場を飛び出していく後姿が、高杉が被害者を見た最後となった。
霊安室で被害者の亡骸と対面し「私は何の役にも立たなかった」と嘆く高杉。駆けつけた老人と、互いの無力さを噛み締めるように悲しみを分かち合う。その夜、帰宅途中に現場を訪れた高杉を怪しい影が襲う。影はカミソリでポシェットを切り裂くが、高杉はたまたま現場を巡回中の船村に救われた。帰宅後、影の狙いが留守電のテープではないかと気付いた高杉は、テープを友人宅に忘れていたことを思い出す。友人宅に駆けつけたときには、影が襲撃した後だった。だが、友人が機転を利かせたため、影は別のテープを持ち去っていた。だが、何者かが再び友人の部屋に迫る。影が別のテープと気付いたのかと思い、窓から友人を脱出させる高杉だが、それが老人だと分かって安堵する。部屋に入った老人は突如豹変し、「本当のテープを渡せ」と高杉を襲う。老人こそが犯人だと知って愕然とする高杉に、老人は「あれは、あの子が悪いんだ」と語り出す。
1ヶ月前の事件は、老人のセクハラが原因だった。事件の日、老人は被害者を食事に誘ったが、「慈善家面しやがって!」と罵られた。カッとなった弾みに殴り倒し、被害者が抵抗しようと取り出したカミソリを奪い取って刺殺したのだ。意外な真実に驚く高杉に、老人の魔手が迫る。そこに特命課が駆けつけ、老人を逮捕。高杉は神代に促され、その場でテープを再生する。そこには老人からの「これから彼女と会う」とのメッセージが録音されていた。さらに再生されたテープには、高杉に、そして老人に対する感謝の想いを語る被害者からのメッセージが残されていた。「録音だと素直に言えるのに、顔を会わせたら突っ張っちゃんだよね・・・」素直になれなかった被害者が、初めて伝えた素直な気持ちに、涙を流す高杉。そして老人もまた、激しい後悔と自責の念に駆られて泣き崩れるのだった。

当時まだ目新しかった留守番電話をモチーフにした一本。これまでにもファクシミリやビデオなど、最先端の商品をいち早く取り入れてきた長坂氏ですが、素直になれない少女の真意を語らせる小道具としてドラマを盛り上げているあたり、単に“新し物好き”というだけでなく、心憎い使い方をしています。もし今も特捜が続いていたら、長坂氏が携帯電話やブログ、SNSなどをどのようにドラマに取り入れたか、見てみたいものです。
とはいえ、ストーリー的には、「最も怪しくない関係者が真犯人」というミステリーのセオリー通りの展開で意外性は皆無(老人を演じたのが好々爺でお馴染みの下條正巳であり、役者的には意外と言えますが)。自分勝手にもほどがある高杉の友人や、ころころ口調が代わる不良少女など、少し頭がおかしいのではないかと思われる登場人物に戸惑いを隠せませんし、むやみやたらとサスペンスを盛り上げては肩透かしをくらわせる演出にも閉口させられます。消化不良の伏線も多く、全体的には駄作と言われてもしょうがないでしょう。

第346話 新春Ⅱ 窓際警視の大逆転!

2007年09月17日 00時49分08秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

運転手の行方を突き止めるべく、代議士宅に軟禁された少年を救出せんとする特命課。だが、代議士は少年の実の父親であり、下手に連れ出せば誘拐の罪に問われかねない。チリ紙交換を装って代議士宅に接近する蒲生。少年とともに軟禁されていた運転手の亡妻の妹が蒲生の声に気づき、少年だけを脱出させる。
特命課と合流した蒲生は、少年の記憶を取り戻させようと、大量のミニカーを用意する。少年をミニカーで遊ばせることで、運転手とともに逃走した自動車の車種や色を割り出す蒲生の手腕に、吉野や早見は唖然とするほかなかった。運転手が乗り捨てた赤のスカイラインを探すべく、ヘリと地上から捜索を続ける特命課。
そんななか、妹から神代宛てに電話が入り、運転手の潜伏場所の最寄駅が告げられる。だが、それは代議士の仕組んだ罠だった。妹は運転手がすでに代議士の手に落ちていると思い込まされ、それをネタに脅されていたのだ。偽の情報をもとに、見当違いの場所を探す特命課。だが、少年の記憶が特命課を救う。「この駅と違う」偽情報と気づいた特命課は、少年の描いた駅の絵をヒントに、本当の最寄り駅を探す。「坊や、ここに描いてるもじゃもじゃしたのは何だ?」「鳥の家」「そうか!ホームにツバメの巣がある駅を探すんだ!」
ようやく最寄駅を突き止めたときには、妹から駅名を聞き出した代議士たちが到着していた。いち早く赤のスカイラインを発見した代議士は、海に落として証拠隠滅を図る。スキを見て代議士の手から逃れた妹から、その事実を聞かされる特命課。もはや頼るのは少年の描いた絵しかなかったが、協力を仰いだ地元警察から「わずか4歳の少年の絵が信用できるのか?」と反対意見が噴出する。焦る余り、地元警察と衝突する蒲生。追い詰められたとき、蒲生のイナズマが光った。運転手が使った公衆電話を突き止めるべく、付近もある100台以上の公衆電話から10円玉を回収し、運転手の指紋を探そうというのだ。膨大な数の10円玉を人海戦術で調べる特命課。無限に続くかに思われた時間が過ぎた末に、ついに指紋が発見される。「皆さん、ありがとう!」感極まって頭を下げる蒲生を、大きな拍手が包んだ。
突き止めた公衆電話の付近をしらみつぶしに捜し、蒲生はついに潜伏先を発見。意識不明の運転手を救出する。その後、運転手の証言で代議士は逮捕され、運転手と少年は正式な親子に。幸福そうな少年を、蒲生、そして神代は心からの笑顔で見守るのだった。

前回に引き続いて長坂脚本の妙味が冴える一本。寒さに震えているであろう運転手の身を案じて、自分も暖を取ろうとしない少年。生死の境をさ迷いながら、うわごとのように少年の名を呼ぶ運転手。血の通わない親子の情愛が全編を貫き、見る者の胸を打ちます。
ストーリーが子供の記憶を頼りにした運転手の潜伏先探しに終始したため、「巨悪との戦い」というテーマはやや尻すぼみで、ラストもごくあっさりした印象。また、蒲生に頼り切りの特命課の面々(特に神代課長)にも、もう少し活躍の場を与えて欲しかったような気もします。
いろいろ辛口になってしまうのも、長坂脚本に求めるレベルが高いからこそ。再来週まで続く長坂シリーズがさらなる傑作揃いであることに期待しましょう。

第345話 新春 窓際警視の子守歌!

2007年09月12日 01時12分57秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

初詣に出かけた新宿で、迷子の少年と出会った蒲生。少年が「パパを助けて」と指し示した古新聞は、迷宮入りした事件を報じるものだった。5年前、白樺高原をドライブ中の家族が転落死を遂げた。当初は事故と見られたが、遺体や車から銃痕が発見され、他殺説が浮上。現場付近には元大臣の別荘があり、事件当日には大臣の息子がいた。息子には父の銃を持ち出した前歴やマリファナの噂があったため、疑惑が集中する。しかし、大臣宅の運転手は「その時間に息子はいなかった」と証言し、その後、マスコミの追及を逃れるように、車で海に飛び込み自殺した。
少年がパパと呼ぶのは、死んだはずの運転手だった。少年は運転手とともに追っ手から逃走していた。負傷した運転手は、入院していた病院から脱走し、「東京のおばちゃんが迎えに来てくれるから、新宿駅に行け」と指示したという。運転手が生きているとすれば、5年前の事件の真相を暴くことができる。蒲生は少年とともに特命課を訪れ、協力を依頼する。
運転手の行方を突き止めようと、久々に捜査の前線に立つ蒲生を見て、喜びを隠せない神代。わずか4歳の少年が駅や路線を覚えているはずもなく、捜査は難航するが、蒲生は新宿駅の交番を訪ね回り、迎えに来るはずだった「東京のおばちゃん」を探し出す。それは、運転手の亡き妻の妹だった。妹は運転手の生存を知り、陰ながら連絡を取り合っていた。蒲生は妹の証言から、少年の実の父親が、運転手ではなく元大臣の息子だと知る。運転手は少年を戸籍上も自分の子として育てるために東京に出て真実を証言するつもりだったのだ。入院していた病院も判明し、安心した蒲生は、後を特命課に託して捜査から身を引く。
元大臣の息子は、いまや父の地盤を譲り受けて代議士となっていた。少年が特命課にいると知った代議士は、上層部に圧力をかけた上に、「その子供を私の実子だと認知する」と乗り込んでくる。法的にどうすることもできず、少年と妹の身柄を引き渡すほかない特命課。代議士の圧力は病院にも及び、運転手を探す手掛かりは失われる。
八方ふさがりの中、神代は蒲生を捜査に引っ張り出すべく、飲み屋で酒に興じる蒲生に事情を告げる。「君子危うきに近寄らずだ」と告げる神代に、「見損なったぞ!あの子はどうなるんだ!」と声を荒げる蒲生。だが、神代は「俺は特命課を潰すつもりはない」と立ち去る。「おやじ。水だ」店主に命じて頭から水を浴びせ掛けさせると、蒲生はずぶ濡れのまま特命課に向かう。酒を飲んで憂さを晴らす早見から少年の居所を聞き出し、少年の救出に向かう蒲生。その姿を物陰から見守りながら呟く神代。「イナズマの蒲生が甦った!」

長坂秀佳シリーズの再開を記念した前後編の一本目。闇に葬られようとしていた代議士がらみの事件に、「イナズマの蒲生」と「カミソリの神代」と並び称されていた2人がどう立ち向かうのか?二人の友情と、蒲生の少年に対する愛情を軸に、見ごたえのあるドラマが展開されます。真価を語るのは、次週放送の後編を待ちたいと思いますが、長坂脚本の妙味は全変だけでも堪能できます。特に感心したのが、与えられた素材を料理する長坂氏の手腕です。藤岡弘の都合による桜井の不在を埋めるべく、新人・早見刑事が登場して4話目となりますが、それまでの脚本陣が活かせているとは言えなかった早見という素材を、長坂氏は見事に料理してみせました。
たとえば、少年が乗ってきた電車を思い出させようと、蒲生と吉野、早見が少年とともに新宿駅の各ホームを何度も往復するシーン。蒲生に抱かれるのを嫌がる少年を見て、「坊やは責任を感じてるんです。自分が何も思い出せないのに、おんぶされるわけにはいけないって思ってるんですよ」と、少年の気持ちを代弁する早見。普段なら吉野に言わせる台詞でしょうが、少年を思う余りに暴走しがちな蒲生と、少年の立場で考える早見、両者の意見を取り持つ吉野と、三人の立ち位置を明確にさせつつ、早見の人間性を描いて見せます。
また、前編のラスト、圧力に屈したかに見える特命課に失望し、飲んだくれるシーン。妥協なき特命課の捜査に期待しつつも、未だその真価を知らないがゆえに失望感を露にする早見に、「新入り」というポジションならではの葛藤が見事に描かれています。
この前後編を含めて、9月は長坂作品が6本も見られますので、長坂ファンとしては嬉しい限りです。期待を込めて放送を待ちましょう。

第344話 幻の父・幻の子!

2007年09月11日 01時03分09秒 | Weblog
脚本 宮下潤一、監督 辻理

一浪中の息子と同居を始めて半年、橘はバイトに精を出す余りに予備校をサボりがちな息子を叱責。息子は「僕は父さんの人形じゃないんだ」と反発して家出した。
そんななか、靴磨きや廃品回収で生計を立てる老人が、若者たちに襲われた。補導した若者たちは「スリルがあって面白かった」と語り、やり切れない思いに包まれる特命課。そこに、老人が「あの子達を許してやってください」と申し出る。若者たちを迎えに来る親たちが、誰一人老人に侘びを入れないことに憤りを覚える橘。ただ一人、親が迎えに来ない少年は、老人の申し出を知り、初めて罪の意識が芽生えたように震えていた。
一ヶ月後、老人が自宅で殺された。現場に残されていた指紋は、先日の少年のものだった。目撃者の証言によれば、少年はこの一ヶ月、老人宅に入り浸っていたという。特命課は「金をせびって、断られたから殺したのか?」と問い詰めるが、少年は沈黙を守る。特命課を訪れた少年の母親が、兄の医大受験への影響だけを心配するのを見て、「あの子もあなたの息子でしょう!」と怒りを露にする橘。結局、少年は証拠不十分で釈放されるが、橘は少年が何かを知っていると直感する。
少年の父親は数年前に死亡していた。血の繋がらない母親とその連れ子である兄に疎んじられ、居場所のない少年が、なぜ老人宅に入り浸っていたのか?廃品回収仲間から事情を聞いたところ、少年は1ヶ月前から老人を手伝っており、老人も息子にように可愛がっていたという。少年はかつて老人に暴力を振るったことを償っていたのだ。
その後、老人の戸籍が別人から買い取ったものだと判明。本当の身許を調べた結果、老人の訛りから山陰地方の出身だと突き止める。一方、張り込みを続ける橘の前で、少年は都内有数の進学校を訪れ、ある学生に声をかけるが、追い払われた。その学校では、数日前に職員室で放火騒ぎがあり、廃品回収に来ていた老人が消し止めたという。少年が声を掛けた学生に事情を聞く橘。両親を失い、アルバイトで生計を立てながらもトップクラスの成績を維持している学生は、「そんな老人は知らない」と答えたが、その言葉には山陰訛りがあった。
ある夜、少年が自宅から姿を消した。メモに残された待ち合わせ場所へと急ぐ橘。そこでは少年がバイクの男に襲撃されていた。検問で逮捕されたバイクの男は、あの学生だった。特命課の取調べに対して、学生は「あの老人が僕を強請ったから、しかたなかったんだ!」と告白。学校に放火したのは学生であり、老人は現場に落とした生徒手帳を発見し、学生に送り届けていた。老人宅を突き止めた学生は「金が欲しいのか?お前なんかに、僕の将来を壊されてたまるか!」と、老人を鉄パイプで殴りつけたのだ。
地元警察の調べで老人の身許を突き止めた橘は、入院中の少年を訪れる。事件当夜、老人宅を訪れた少年は、逃げ去る学生を目撃するが、老人は「誰も見なかったことにしてくれ。あれはわしの倅なんだ」と告白。驚く少年に、老人は「これを捨ててくれ」と小さな靴を託して息を引き取った。
老人は15年前、バクチの借金返済のため、職場の金を横領して蒸発。少年と母親は周囲の白い目にさらされ、苦労の末に母親は死んだ。被害者が自分の父だと知り、愕然としながらも「ざまあみろ、さんざん僕や母さんを苦しめやがって!」と毒づく学生に、少年は靴を差し出す。それは、老人の手元に残った唯一の家族の思い出であり、家族への償いのように、毎日磨き続けていたものだった。「償いなんて嘘だ!」と靴を叩きつける学生に、橘が言う。「思い出してみろ。君が鉄パイプを振り上げたとき、お父さんは逃げようとしたか?」その言葉に、学生は思い出す。それがかつて妻子を捨てた償いであるかのように、正面から息子の怒りを受け止めた父親の姿を。「父さん!」涙とともに絶叫をほとばしらせる学生を黙って見つめる橘と少年。「これでよかったんでしょうか?」という少年の問いかけに、橘は答えることができなかった。なぜなら、それは少年や学生、そして橘自身が出さねばならない答えだったからだ。
ラストシーン。家を出て靴磨きで生計を立てる少年を見守る橘。そこに、住み込みのバーテンとして働く息子が声をかける。「もう仕事終わりだろう、飲んでいけよ」息子の作ったカクテルを口にしながら、橘は少し逞しくなった息子の姿に、喜びと寂しさを感じるのだった。

老人に根上淳(MATの2代目隊長)、橘の息子に神谷政浩(キカイダーや17の名子役)と、特撮ファンにはお馴染みのゲストを迎え(ちなみに少年役は坂上忍)、老人と少年の哀しい交流を描いた一本です。面白半分で襲撃した老人に、死んだ父親の幻を見る少年。その少年に対して、老人もまた自らが捨てた息子の幻を見るのです。心を通わせ合った少年に一人で生きていく道を示した老人が、幼き頃に捨てた実の息子の手で生涯を閉じる。「幻の親子関係」と「現実の親子関係」が描き出す皮肉なコントラストに、橘は「自分と息子との親子関係も幻のようなものでは?」との疑問に囚われます。しかし、ラストシーンで自分の元を離れて成長した息子を見て、橘は気づいたのではないでしょうか?自分が勝手に描いていた理想の息子像ことが「幻の子」であり、一人の独立した人間として自分なりに道を模索しているのが「現実の子」であることを。

ドラマの背景にあるのは、「ホームレス狩り」だの「オタク狩り」だの、自分より弱い者を見つけてはストレス解消のターゲットとする若者たちの風潮に対する警鐘でしょうが、その背景には、この頃(1983年)から急速に空虚になりつつあった親子関係(特に父と子の関係)があるのではないでしょうか?長坂脚本において顕著な「父と子のドラマ」は、特捜全体の根幹をなすテーマであると同時に、この時代、さらには約20年を経た現在を生きる私たちが、考え続けなくてはならないテーマなのだと思います。

第343話 汚職官僚の妻!

2007年09月04日 00時24分29秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 宮越澄

贈収賄事件に関与した官僚の警護に当たる叶。官僚は宿泊先の御前崎で記者会見を開く。「大きな仕事をするには大きな金がいる。人々が期待するのは、清濁併せ飲んで大きな仕事を成し遂げる人物だ」との主張を、叶は怒りや虚しさとともに聞いていた。御前崎は叶にとって学生時代の思い出の土地だった。当時、叶はこの地で、恋心をいただいていた女に告白し、失恋した。女が選んだのは、社会福祉に情熱を燃やす叶の友人だったが、叶の胸に友人への恨むはなく、今では淡く切ない思い出だけが残っていた。
そんななか、今は友人の妻となっている女から「相談したいことがある」と電話が入る。待ち合わせ場所に出向いた叶だが、女は現れず、付近で倒れていた死体を発見する。死体は現金入りの封筒を持っており、そこに叶の自宅の電話番号がメモされていたため、所轄署は叶に疑惑を向ける。被害者の勤めていた建設会社を訪れた叶に、会社は被害者が横領を働いていたことを匂わせる。
その夜、被害者の妻が叶を訪ねてくる。「ご主人の横領を調べているわけではない」と語る叶に、妻は「手作りのケーキです」と強引に包みを残して立ち去った。翌朝、叶の部屋を捜査2課の刑事たちが訪れ、収賄の容疑で叶を取り調べる。妻が残した包みから現金が発見され、逮捕される叶。特命課は叶が建設会社の罠に落ちたと推測するが、収賄の魔手は神代にも伸びる。しかし、神代は逆手をとって建設会社の企みを暴き、叶の無実も証明する。建設会社は公共工事を得るために賄賂をバラ撒いていた。収賄の窓口となっていた土木課員の名を聞いた叶は驚く。それはかつて恋仇だった友人だった。
友人は本当に汚職に手を染めたのか?福祉畑を歩んでいるはずの友人がなぜ土木課に?疑問を解消すべく友人宅を訪れる叶だが、すでに妻子とともに姿を消した後だった。思い出の地である御前崎にいると直感した叶は、冬の海辺で妻子と落ち合う友人を発見。追跡する叶を必死に止め、女は真実を語る。
友人は、福祉課時代に業者の賄賂をはねつけたために土木課に回された。その後、女が病に倒れ、治療費に困った友人は「一度だけ」と建設会社から賄賂を受け取った。しかし、建設会社はその後も「収賄をばらす」と脅して、便宜を図るよう強要。思い悩んだ友人が叶に相談しようとしたところに被害者が立ちはだかり、もみ合いの結果、図らずも死に至らしめてしまったのだ。
灯台から自殺を図る友人を必死に制止する叶。「1円の賄賂を受け取れば犯罪者。1億円の賄賂を受け取れば英雄だ。俺もそうすればよかった。そうすれば、老人ホームや孤児院を救ってやれたんだ」と嘆く友人に、叶は「そんなことをあの二人に言えるのか?」と砂浜を指差す。あの日、叶が告白したのと同様に、砂に「LOVE」と描いた妻子の姿に、友人は言葉もなく崩れ落ちるのだった。

妻子のために一度だけ汚職に手を染めた公務員がたどる悲劇を、叶の青春時代の思い出とともに描いた一本。冒頭で汚職の罪に問われた官僚(?)が「政治家=清濁併せ飲むもの」との持論を展開しますが、放送当時(1983年)には常識だったこの真理は、最近では通用しなくなっているようです。

一国の運営を担う大臣が舌禍事件や金銭の不祥事で次々と辞任する現状は、異常で愚劣としか言いようがありません。舌禍や不祥事を起こす大臣どもは、確かにアホで卑劣ですが、政治家というのは大なり小なりそういうもの。不祥事が発覚するたびにいちいち辞めていては、誰も大臣になれません。「民間から起用しろ」という声もあるようですが、何の経験もない人に官僚の監督や外国との折衝が勤まるかは疑問です。そもそも政治家に求めるのは政治手腕(すなわち国益と国民の生活を守ること)であり、人格の高潔さではないはず。「政治家=汚職」を大前提として(もちろん明るみに出た場合は罰金などの制裁を加えた上で)、担当分野で手腕をもつ政治家を適切なポストに据え、その職務を全うしてもらうしかないと思うのですが、いかがでしょうか?

特捜に関係ない話はこれくらいにして本編を振り返って見ますと、汚職という普遍的なテーマを背景に、叶の甘酸っぱい過去が胸に切ない、叶ファンには必見の一本と言えるでしょう。とはいえ、手放しに褒められたものではなく、タイトルからして冒頭の官僚の奥さんがメインの話なのかと思いきや、全然関係ない方向に話が進み、市役所の土木課員の汚職にまつわる殺人事件にスケールダウン。「官僚」とは一般的には「国家の政策決定に大きな影響力を持つ公務員」を指すので、土木課員を「官僚」と呼ぶのは、「看板に偽りあり」と言わざるを得ません。まあ、特捜のサブタイトルにはよくあることですが・・・。
加えて、ドラマ後半では唐突に地方ロケものテイストに彩られ、さり気なく紹介されるローカル企業や名産品の数々が、否応なくドラマを盛り下げてくれます。前回から登場した早見君も、叶に生意気な口を叩いて叱責されるくらいで、特に見所はありません。

第342話 離婚届を持つ刑事!

2007年09月02日 23時52分52秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 宮越澄

「城西署の早見刑事」と名乗る男による強盗殺人事件が発生する。特命課の取調べに対して、早見は「名前を利用されただけ」と主張。事件発生時刻に船村が同じ電車に乗り合わせていたことから、アリバイが証明される。事件以前に辞表を出しており「どうせ辞めますから」とあっさり答える早見に、「汚名を晴らそうとは思わんのか?」と食ってかかる吉野。だが、早見は「古臭いことを言わんでください」と受け流す。
早見が事件と無関係でないと見た神代は、吉野を張り付かせる。早見は吉野に自分の妻を紹介。美人の妻をうらやむ吉野に、早見は「もうすぐ離婚するんです」とあっさり告げた。さしたる理由もなく、職や家庭を捨てようとする早見に「何を考えているんだか」と呆れる特命課の面々。初対面時、電車内で女性が酔漢にからまれるのを傍観していた早見に反感をいだく船村だが、幼くして死んだ息子と同じ年頃ゆえに、放ってはおけない何かを感じていた。「我慢ばかりしてきた我々と、我慢するより楽しもうとする若者。どっちがいいんですかねぇ」と呟く船村に、神代は「今の若い者たちも、我々と違った形で我慢しているのかもしれん」と答える。
そんな中、再び同じ手口の事件が発生。2つの事件の被害者は、いずれも銀座のクラブに通う客だった。そのクラブでは、素人娘をコールガールとして働かせていた。その後の調べで、早見の妻がかつてクラブに勤めていたことが判明。船村はそれが辞表や離婚の理由だったのではないかと推測。早見の妻に探りを入れるが、妻はその推測を否定する。それを知った早見は「人の裏側を嗅ぎ回るのが刑事の商売ですか?」と怒りを露にする。船村は「人の過去をほじくる権利なんか誰にもない。すべてを知っていいのは夫である君だけだ。奥さんの苦しみを分かってやれ」と語る。離婚を言い出したのは妻の方だったのだ。早見が妻に離婚の理由を聞き出そうとした矢先、吉野らが妻を連行する。
特命課に乗り込み、船村を責める早見。沈黙する船村に代わり「お前が奥さんから真相を聞けば必ず連絡してくるといって、おやっさんは最後まで奥さんの連行に反対していた」と語る吉野。「あの人が、若い者を見て苛々するのは、若い者が嫌いだからじゃない。好きだから気になるんだよ!」船村の真意を知って、早見は思わず涙を流した。
一方、凶器とともに発見された軍手から、仮出所したばかりの男が容疑者に浮上する。男はかつて早見の妻に言い寄った挙句、障害事件を起こして逮捕された。被害者の夫はいずれもコールガール時代の早見の妻を買った客だったのだ。妻は特命課の取調べにすべてを明かすと、「夫にだけは過去を知らせないで」と懇願する。
男から「東京駅に来い」との連絡を受け、特命課に報せる妻。張り込んだ特命課に追い詰められた男は、早見の妻を人質に取る。男の包丁で妻が負傷したとき、早見は男に突っ込み、格闘の末に逮捕。船村は、妻の荷物から出てきた離婚届を、早見の前で引き裂くのだった。

今回からしばらく桜井が米国研修のため不在となり、その代理となる臨時レギュラー、早見刑事の紹介編です。(しかし、こんな適当な転属ってあり得るのでしょうか?)演じるのは、二代目バルイーグルで知られる五代高之。刑事ドラマでは『西部警察(初代)』にも出演しています。両番組ともあまり熱心に見ていたわけではありませんが「こんなに線の細いキャラだったけ?」というのが率直な印象。アクの強い特命課のメンバーの中で存在感を発揮できるのか、不安が残ります。
ドラマ的には展開の強引さが目立って今ひとつですが、塙脚本ならではの味のある台詞が連発。特に、早見の何事にも熱くなれない(当時の)若者気質に対して神代が放った一言「先の見通しがないからと言って、人生までやめられるのかね?」は、ひときわ胸に迫ります。そんな神代に対して「それは飛躍しすぎです」と苦笑する早見を見ていて、会社員時代に似たような経験があるのを思い出しました。以下、私事で恐縮ですが、思い出したついでに語らせてください。
私の勤めていたのは、顧客企業からの発注でパンフレット類を制作する会社だったのですが、後輩の新人の女子社員(女性社員というより「女子」といった方がぴったり)が、顧客の言いなりになってデタラメな仕事をしているのを注意したところ「でも、お客さんがそう言うので・・・」と言い訳するのに激昂し、「お前は客が死ねと言ったら死ぬのか!」と怒鳴りつけたことがありました。彼女は泣き出してしまい、その後しばらくして、反省するもしないもうやむやのままに退社。周囲から「それは飛躍しすぎ」と注意され、「何も怒鳴ることはなかった」と反省したものでした。神代課長のように冷静な口調で「では、君は客が死ねと言ったら死ぬのかね?」と言えば、結果は変わっていたでしょうか?
忘れたい苦い思い出が甦ってしまいましたが、単に世代の違いと言い切れない価値観の差は、どうやって埋めたものでしょうか?短い出演機会の間に、早見君と特命課メンバーの溝がどのように埋まっていくか、期待とともに見守りたいと思います。