脚本 長坂秀佳、監督 天野和彦
特命課に「殺してやる」などと書かれた手紙が繰り返し送られてくる。拙い文字で綴られたその手紙は、4年前に死んだ津上に宛てられたものだった。津上の妹を訪ねたところ、同様の手紙が届いているという。神代には差出人の心当たりがあった。殉職する直前、津上が親しくしていた少年だ。神代は少年の身許を知る元特命課の高杉を訪れ、居所を確認する。少年のもとに向かった紅林と叶は、少年が同様の手紙を投函するところを目撃。少年の姉に事情を尋ねる。
4年前、歩道を横断中の父親が、少年の目の前で車に撥ねられ、死亡した。警察は「信号は青だった」と言う少年の証言を採用せず、加害者の言い分をもとに「赤信号を無視して渡った父親の責任」として処理。ただ一人少年の証言を信じる津上は、「お父さんが悪くなかったと証明して見せる」と少年に約束。それを裏付ける老婆を探していたが、その矢先に殉職した。その死を知らない少年は、津上が一度も連絡をくれないことを恨んでいたのだ。津上の死を告げられ、ショックを受ける少年と姉。津上の果たせなかった約束を果たすべく、特命課はあえて異例の交通事故捜査に乗り出す。
4年前の調書を洗い直す特命課だが、津上が少年に語っていた老婆については、どこにも載っていない。捜査に協力を申し出た元特命課の滝が、津上が「一緒に信号を渡っていたおばあちゃんがいた」と語っていたことを思い出す。津上はどこからその老婆の存在を知ったのか?津上の妹の記憶では、「信号前の薬局にいたんだよ」と笑っていたという。しかし、事故現場付近に薬局は見当たらない。そんななか、何かをつかもうと現場を訪れていた叶と滝は、問題の信号が数メートル離れた別の信号とシンクロしていることを突き止める。薬局は別の信号の前にあったのだ。今は引っ越してしまった薬局を探し当てた吉野と滝は、先回りしていた高杉と再会する。
薬局の証言では、老婆は事故と同時に、シンクロしている信号を渡っていた。老婆が青信号だったとすれば、父親も青信号で渡ったはず。しかし、ようやく老婆を探し出したときには、すでに亡くなった後だった。唯一の手掛かりは途絶え、八方ふさがりの特命課。津上が遺した「現場百回」の言葉を胸に、再度現場を訪れる特命課。信号を見ていた叶があることに気付く。信号に定められたサイクルをもとに、事件の瞬間の信号を割り出そうというのだ。
加害者を事故現場に呼び出し、コンピュータで計算を開始する特命課。焦った加害者が叫ぶ。「何で特命課がここまでやるんだ?たかが交通事故じゃないか」叶は「その交通事故のために、父親を失った子供が居るんだ!」と激昂する。コンピュータが計算した結果は、少年の証言の正しさを示していた。少年の眼には、そして高杉、滝を含めた特命課一人ひとりの眼には、「これで約束は果たしたぞ」と微笑む津上の笑顔が輝いていた。
350回記念として、津上、高杉、滝と、かつてのメンバーが勢揃いする歴史的な一本。高杉、滝はともかく、殉職した津上をどう登場させるのか?脚本を担当した長坂氏が採ったのは、刑事たちの回想シーンとして登場させるという手法でした。それも、ただ回想するだけでなく、「現場百回」「一度探した場所が盲点」など、津上の残した言葉から捜査の突破口が開けていく展開はお見事。また、唯一津上を知らない叶が他の刑事たちとの会話の中から津上の人間性に触れ、触発されていくという展開も泣かせます。
冒頭で、津上が誰かに恨まれているのかと悲しむ妹に「何かの間違いです。あいつをこんな風に思う奴がいるわけはない!」と語る吉野。
「津上さん、『捜査は執念じゃない、誠意だ』って、よく言ってましたね」と語る高杉婦警。
「つねに愛を持って捜査に当たった男。それが津上だよ」と語るおやっさん。
ようやく老婆を発見したとき、「こんなに興奮した紅林さんは初めて見ますよ」と叶に驚かれ「津上の探していたお婆さんが見つかったんだ、これが興奮せずにいられるか!」と語る紅林。
刑事たちの台詞の端々から、津上に対する色褪せない想いが感じ取られ、視聴者の胸に残る津上の記憶を呼び覚まします。あの不器用なまでに誠実極まりない男は、あの暑苦しいまでに正義感に満ちた男は、もう帰らない。しかし、市民を守るために、自らの意志で若い命を散らしたあの男の生き様は、今も私たちの胸から消えることはありません。
そんな切ない記憶が、結晶となって空に登っていくかのようなラストシーンは胸に迫ります。山口百恵の『いい日旅立ち』が流れるなか、雪解け道を少年と連れ立って歩く津上の後を、特命課の刑事たちが笑顔を交わしながら歩いていく幻想的なシーン。「みんなに苦労かけやがって!」と高杉。「本当によかったですね。津上さん!」と滝。笑顔で振り返り、嬉しそうに頷く津上。そして夕焼けを背景にした刑事たちのシルエット。満面の笑顔で手を振る津上。「津上。これで、お前も安心して、ゆっくり眠れるな・・・」何度も繰り返し見てしまう、感涙のラストシーンです。
高杉と滝は面識がないはずとか、滝の喋り方はうっとうしいとか、野暮なことは言わずに、思う存分感動に浸りましょう。
特命課に「殺してやる」などと書かれた手紙が繰り返し送られてくる。拙い文字で綴られたその手紙は、4年前に死んだ津上に宛てられたものだった。津上の妹を訪ねたところ、同様の手紙が届いているという。神代には差出人の心当たりがあった。殉職する直前、津上が親しくしていた少年だ。神代は少年の身許を知る元特命課の高杉を訪れ、居所を確認する。少年のもとに向かった紅林と叶は、少年が同様の手紙を投函するところを目撃。少年の姉に事情を尋ねる。
4年前、歩道を横断中の父親が、少年の目の前で車に撥ねられ、死亡した。警察は「信号は青だった」と言う少年の証言を採用せず、加害者の言い分をもとに「赤信号を無視して渡った父親の責任」として処理。ただ一人少年の証言を信じる津上は、「お父さんが悪くなかったと証明して見せる」と少年に約束。それを裏付ける老婆を探していたが、その矢先に殉職した。その死を知らない少年は、津上が一度も連絡をくれないことを恨んでいたのだ。津上の死を告げられ、ショックを受ける少年と姉。津上の果たせなかった約束を果たすべく、特命課はあえて異例の交通事故捜査に乗り出す。
4年前の調書を洗い直す特命課だが、津上が少年に語っていた老婆については、どこにも載っていない。捜査に協力を申し出た元特命課の滝が、津上が「一緒に信号を渡っていたおばあちゃんがいた」と語っていたことを思い出す。津上はどこからその老婆の存在を知ったのか?津上の妹の記憶では、「信号前の薬局にいたんだよ」と笑っていたという。しかし、事故現場付近に薬局は見当たらない。そんななか、何かをつかもうと現場を訪れていた叶と滝は、問題の信号が数メートル離れた別の信号とシンクロしていることを突き止める。薬局は別の信号の前にあったのだ。今は引っ越してしまった薬局を探し当てた吉野と滝は、先回りしていた高杉と再会する。
薬局の証言では、老婆は事故と同時に、シンクロしている信号を渡っていた。老婆が青信号だったとすれば、父親も青信号で渡ったはず。しかし、ようやく老婆を探し出したときには、すでに亡くなった後だった。唯一の手掛かりは途絶え、八方ふさがりの特命課。津上が遺した「現場百回」の言葉を胸に、再度現場を訪れる特命課。信号を見ていた叶があることに気付く。信号に定められたサイクルをもとに、事件の瞬間の信号を割り出そうというのだ。
加害者を事故現場に呼び出し、コンピュータで計算を開始する特命課。焦った加害者が叫ぶ。「何で特命課がここまでやるんだ?たかが交通事故じゃないか」叶は「その交通事故のために、父親を失った子供が居るんだ!」と激昂する。コンピュータが計算した結果は、少年の証言の正しさを示していた。少年の眼には、そして高杉、滝を含めた特命課一人ひとりの眼には、「これで約束は果たしたぞ」と微笑む津上の笑顔が輝いていた。
350回記念として、津上、高杉、滝と、かつてのメンバーが勢揃いする歴史的な一本。高杉、滝はともかく、殉職した津上をどう登場させるのか?脚本を担当した長坂氏が採ったのは、刑事たちの回想シーンとして登場させるという手法でした。それも、ただ回想するだけでなく、「現場百回」「一度探した場所が盲点」など、津上の残した言葉から捜査の突破口が開けていく展開はお見事。また、唯一津上を知らない叶が他の刑事たちとの会話の中から津上の人間性に触れ、触発されていくという展開も泣かせます。
冒頭で、津上が誰かに恨まれているのかと悲しむ妹に「何かの間違いです。あいつをこんな風に思う奴がいるわけはない!」と語る吉野。
「津上さん、『捜査は執念じゃない、誠意だ』って、よく言ってましたね」と語る高杉婦警。
「つねに愛を持って捜査に当たった男。それが津上だよ」と語るおやっさん。
ようやく老婆を発見したとき、「こんなに興奮した紅林さんは初めて見ますよ」と叶に驚かれ「津上の探していたお婆さんが見つかったんだ、これが興奮せずにいられるか!」と語る紅林。
刑事たちの台詞の端々から、津上に対する色褪せない想いが感じ取られ、視聴者の胸に残る津上の記憶を呼び覚まします。あの不器用なまでに誠実極まりない男は、あの暑苦しいまでに正義感に満ちた男は、もう帰らない。しかし、市民を守るために、自らの意志で若い命を散らしたあの男の生き様は、今も私たちの胸から消えることはありません。
そんな切ない記憶が、結晶となって空に登っていくかのようなラストシーンは胸に迫ります。山口百恵の『いい日旅立ち』が流れるなか、雪解け道を少年と連れ立って歩く津上の後を、特命課の刑事たちが笑顔を交わしながら歩いていく幻想的なシーン。「みんなに苦労かけやがって!」と高杉。「本当によかったですね。津上さん!」と滝。笑顔で振り返り、嬉しそうに頷く津上。そして夕焼けを背景にした刑事たちのシルエット。満面の笑顔で手を振る津上。「津上。これで、お前も安心して、ゆっくり眠れるな・・・」何度も繰り返し見てしまう、感涙のラストシーンです。
高杉と滝は面識がないはずとか、滝の喋り方はうっとうしいとか、野暮なことは言わずに、思う存分感動に浸りましょう。