脚本 大野武雄、監督 辻理
1986年1月23日放送
【あらすじ】
ある日の早朝、マンションの一室で火災が発生し、ベランダから脱出しようとした女が転落、重態に陥る。女のタバコの不始末が原因と見られたが、紅林は行きつけの小料理屋の亭主から捜査を依頼される。女はそこの常連であり「タバコを消した後、水をかける癖がある」というのが根拠だった。
消防署で火災時の状況を調べる紅林。女と同棲中の男は、火災の30分前にジョギングに出て無事だった。男は消防署に対し「女は酒に酔っていて、ジョギングに出る自分をベッドでタバコを吸いながら見送った」と証言しており、他に火元は考えられなかった。だが、女がホステスとして働く店に当たったところ、女は妊娠中のため酒は控え気味だったという。男は才能あるギター弾きで、数ヶ月前に別れ話があったが、女の妊娠を知ってよりを戻したという。また、火災現場を調べ直したところ、電気スタンドに残った指紋から、男が火災発生後にスイッチを切っていたことが判明。紅林の報告を受け、神代は男を容疑者として捜査を開始する。
改めて現場を調べたところ、「なぜ、女はベランダから逃げようとしたのか?」との疑問が浮上する。寝室から玄関に出れば、無事に逃げられた可能性は高いのだ。玄関につながるドアを調べると、家具が動かされた跡があった。「家具を重石にして、何かでドアを塞いだのでは?」と推理するものの、消防士たちが消火する際、その扉は問題なく開いたという。また、出火場所に残されていたライターはガス切れだったが、それは女が当日に知人からもらったばかりのものであり、ガス切れを起こすのは不自然だった。
一方、男の身辺を当たったところ、大物作詞家の娘との婚約が判明する。紅林は「男は邪魔になった女を出火に見せかけて殺した」と推測し、さらに現場検証を重ねる。ドア扉付近に付着していた汚れから、水道水の成分が検出されたこと。火災の熱で割れた電球の破片。出火直前に電話のベルが鳴っていたこと。この3点から、特命課は男の仕掛けたトリックを解明する。
出火のトリックは、電気スタンドの電球に穴を空け、そこにライターのガスを溜め、頃合を見計らって外から電話をかけるというもの。女が電話に出ようとスタンドを灯したとき、電球内のガスが引火するという仕組みだ。さらに、女の逃げ場をなくすために、氷の板を家具で固定し、ドアが開かないよう細工したのだ。氷は火災の熱で溶け、証拠は残らない。完璧な推理だったが、残念ながら物証がなく、男はシラを切る。
女が意識を取り戻したとの連絡を聞き、病院に駆けつける紅林。だが、女は「鳥が火を・・・」とだけ言い残し、意識を失う。火災現場に焼け焦げていた鳥のおもちゃと、付近に落ちていたコップに着目する紅林。鳥のおもちゃは音に反応して動く仕組みがあり、音センサーは電話のベルに反応するよう改造されていた。さらに、グラスが落ちていた周辺の床からは、苛性ソーダが検出される。「グラスに入っていた水が、電話に反応した鳥の動きで床にこぼれる。床に置いていた金属ナトリウムと水が化学反応を起こして発火し、苛性ソーダになる」電話による2重の発火トリックを暴いた神代は、男が金属ナトリウムを入手した経路を探すよう指示を出す。男が勤めていた冶金工場を当たったところ、数日前に男が訪ねており、金属ナトリウムが少量紛失していた。また、杉の発想が功を奏し、男がモーニングコールを依頼していた電話サービス会社が発見される。
証拠を固め、逮捕状を手に男のアパートを訪れる特命課。そこでは、男と婚約中の娘が食事の支度中だった。娘が作っていたのは、ニンジン抜きのキンピラ。それは、女が男のためにいつも定食屋に頼んでいたメニューだった。女が息を引き取ったとの連絡を受け、紅林は静かな怒りを胸に、男にかけるべき手錠を握り締めるのだった。
【感想など】
巧妙なトリックを駆使した犯行を、地道な捜査で暴いていく特命課の活躍を描いた一本。犯人や被害者の心情や背景にはあえて深入りせず、主役はあくまでも特命課。いや、むしろ「電気スタンド+ガス+電話による発火」「氷によるドアの封鎖」「鳥のおもちゃ+化学反応+電話による発火」という3つのトリックこそが、本編の主役と言えるかもしれません。トリック自体は練りこまれたもので(とはいえ、音センサーの改造や、金属ナトリウムの入手方法には、かなりの無理がありますが・・・)、それらを地道な現場検証を積み重ねて解明するプロセスも、それなりに見応えはあります。
しかし、正直な感想を言えば、(おそらく意図的ではあるのでしょうが)トリックが独り歩きしてしまい、私のような裏面を見るのが好きな視聴者にとっては、描写に乏しい犯人よりも、脚本家の存在・意図が前面に出てきてしまい、少し興ざめしてしまいました。タイトルにある「挑戦」という言葉は、本来は男からの警察に対する「挑戦」を意味しているのでしょうが、むしろ脚本家の「トリックだけで1時間番組を成立させよう」との挑戦を意味しているようにも思われます。その挑戦の結果は、見る者それぞれの判断に委ねられるでしょうが、個人的には成功とは言い難い印象です。
1986年1月23日放送
【あらすじ】
ある日の早朝、マンションの一室で火災が発生し、ベランダから脱出しようとした女が転落、重態に陥る。女のタバコの不始末が原因と見られたが、紅林は行きつけの小料理屋の亭主から捜査を依頼される。女はそこの常連であり「タバコを消した後、水をかける癖がある」というのが根拠だった。
消防署で火災時の状況を調べる紅林。女と同棲中の男は、火災の30分前にジョギングに出て無事だった。男は消防署に対し「女は酒に酔っていて、ジョギングに出る自分をベッドでタバコを吸いながら見送った」と証言しており、他に火元は考えられなかった。だが、女がホステスとして働く店に当たったところ、女は妊娠中のため酒は控え気味だったという。男は才能あるギター弾きで、数ヶ月前に別れ話があったが、女の妊娠を知ってよりを戻したという。また、火災現場を調べ直したところ、電気スタンドに残った指紋から、男が火災発生後にスイッチを切っていたことが判明。紅林の報告を受け、神代は男を容疑者として捜査を開始する。
改めて現場を調べたところ、「なぜ、女はベランダから逃げようとしたのか?」との疑問が浮上する。寝室から玄関に出れば、無事に逃げられた可能性は高いのだ。玄関につながるドアを調べると、家具が動かされた跡があった。「家具を重石にして、何かでドアを塞いだのでは?」と推理するものの、消防士たちが消火する際、その扉は問題なく開いたという。また、出火場所に残されていたライターはガス切れだったが、それは女が当日に知人からもらったばかりのものであり、ガス切れを起こすのは不自然だった。
一方、男の身辺を当たったところ、大物作詞家の娘との婚約が判明する。紅林は「男は邪魔になった女を出火に見せかけて殺した」と推測し、さらに現場検証を重ねる。ドア扉付近に付着していた汚れから、水道水の成分が検出されたこと。火災の熱で割れた電球の破片。出火直前に電話のベルが鳴っていたこと。この3点から、特命課は男の仕掛けたトリックを解明する。
出火のトリックは、電気スタンドの電球に穴を空け、そこにライターのガスを溜め、頃合を見計らって外から電話をかけるというもの。女が電話に出ようとスタンドを灯したとき、電球内のガスが引火するという仕組みだ。さらに、女の逃げ場をなくすために、氷の板を家具で固定し、ドアが開かないよう細工したのだ。氷は火災の熱で溶け、証拠は残らない。完璧な推理だったが、残念ながら物証がなく、男はシラを切る。
女が意識を取り戻したとの連絡を聞き、病院に駆けつける紅林。だが、女は「鳥が火を・・・」とだけ言い残し、意識を失う。火災現場に焼け焦げていた鳥のおもちゃと、付近に落ちていたコップに着目する紅林。鳥のおもちゃは音に反応して動く仕組みがあり、音センサーは電話のベルに反応するよう改造されていた。さらに、グラスが落ちていた周辺の床からは、苛性ソーダが検出される。「グラスに入っていた水が、電話に反応した鳥の動きで床にこぼれる。床に置いていた金属ナトリウムと水が化学反応を起こして発火し、苛性ソーダになる」電話による2重の発火トリックを暴いた神代は、男が金属ナトリウムを入手した経路を探すよう指示を出す。男が勤めていた冶金工場を当たったところ、数日前に男が訪ねており、金属ナトリウムが少量紛失していた。また、杉の発想が功を奏し、男がモーニングコールを依頼していた電話サービス会社が発見される。
証拠を固め、逮捕状を手に男のアパートを訪れる特命課。そこでは、男と婚約中の娘が食事の支度中だった。娘が作っていたのは、ニンジン抜きのキンピラ。それは、女が男のためにいつも定食屋に頼んでいたメニューだった。女が息を引き取ったとの連絡を受け、紅林は静かな怒りを胸に、男にかけるべき手錠を握り締めるのだった。
【感想など】
巧妙なトリックを駆使した犯行を、地道な捜査で暴いていく特命課の活躍を描いた一本。犯人や被害者の心情や背景にはあえて深入りせず、主役はあくまでも特命課。いや、むしろ「電気スタンド+ガス+電話による発火」「氷によるドアの封鎖」「鳥のおもちゃ+化学反応+電話による発火」という3つのトリックこそが、本編の主役と言えるかもしれません。トリック自体は練りこまれたもので(とはいえ、音センサーの改造や、金属ナトリウムの入手方法には、かなりの無理がありますが・・・)、それらを地道な現場検証を積み重ねて解明するプロセスも、それなりに見応えはあります。
しかし、正直な感想を言えば、(おそらく意図的ではあるのでしょうが)トリックが独り歩きしてしまい、私のような裏面を見るのが好きな視聴者にとっては、描写に乏しい犯人よりも、脚本家の存在・意図が前面に出てきてしまい、少し興ざめしてしまいました。タイトルにある「挑戦」という言葉は、本来は男からの警察に対する「挑戦」を意味しているのでしょうが、むしろ脚本家の「トリックだけで1時間番組を成立させよう」との挑戦を意味しているようにも思われます。その挑戦の結果は、見る者それぞれの判断に委ねられるでしょうが、個人的には成功とは言い難い印象です。