特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

夏夕介さんのご冥福をお祈りします

2010年01月27日 22時48分57秒 | Weblog
大変悲しいことですが、叶旬一刑事こと、夏夕介さんが胃ガンのため59歳でお亡くなりになられました。ここ最近、ショッキングな訃報が続いていましたが、まさか夏さんが、この若さでとは予想だにせず、何というか、言葉もありません。
今はまだ気持ちの整理がつかず、何をどう書いたものやら分かりませんが、素晴らしいドラマを楽しませていただいたことへの感謝の気持ちとともに、謹んでご冥福をお祈りさせていただきます。

ありがとうございました。
あなたの優しい笑顔を、これからも忘れることはありません。

第507話 桜井警部補・哀愁の十字架(後編)

2010年01月18日 02時48分29秒 | Weblog
【あらすじ(後編)】
桜井の父親が会った面々を調べた結果、新宿東署の腐敗の実態が明らかになる。その背後には、エリート署長の経歴に傷をつけまいとする同署の体質があった。さらに、犬養や杉の調べに応じて、一人のベテラン警官が思いつめた表情で証言する。「東署にも、一生懸命働いている署員もいるんだということを、皆さんに分かって欲しいんです」東署内に蔓延する悪しき風潮を困ったことだと思いながらも、上に睨まれることを恐れて声が出せない署員たち。それでも戦おうとした一人が、あの巡査だったが、左遷の噂で黙らされた。「警察官は、警察官に対しても、警察官でなければならんのです・・・」悔しさを押し殺すような警官の言葉が、特命課刑事らの胸を刺す。
再び巡査を取り調べる橘と桜井。「着任早々、お前は東署の腐敗ぶりに呆れ、独自に不正を突き止め、副署長へ訴え出た・・・」「覚えのないことです」動揺しながらも、二人の言葉を否定する巡査。二人は構わず、調べた結果を語り続ける。巡査の訴えを握りつぶした副署長は、巡査の口を封じるために左遷の噂を流す。巡査は風俗業者の口車に乗って女社長から百万円を借り、署の上層部に賄賂を贈ることで左遷を回避した。しかし、借金には法外な利息がつき、進退窮まった結果、今回の事件につながったのだ。
「問題はここからだ。お前の性格からして、ごまかしたまま平気でいたとは思えない。お前、一度自首しているな?」橘の言葉に凍りつく巡査。確かに、罪の意識に耐えかねた巡査は、捜査課長にすべてを告白していた。だが、捜査課長は直後に逮捕された男に罪をかぶせた。現職警官が殺人を犯したとなれば、署長の経歴に傷がつく。署長に引っ張られて出世を目論む捜査課長からすれば、署長を守ることが最優先だったのだ。事態を知った巡査は強く抗議したが、捜査課長の「家族のことを考えろ」との言葉に、沈黙するしかなかった。
「お前は子供たちに、正義を貫く子になれ、弱い者を思いやる子になれ、と教えた。おまえもそう生きてきた。何故その生き方を変える?」「一度は戦おうとしたはずだ。警察の不正摘発に手を貸してくれ!」巡査の正義感に訴えかける橘と桜井。だが、巡査は事実を認めない。「それは警察官がやるべきだ。桜井弁護士にそう言われました」もはや警察官ではない巡査にとっては、正義以上に大切なものがあったのだ。
怒りの形相で父親の事務所に乗り込む桜井。「貴方は一人の男の心から、優しさと純粋さを奪った。大事なものを捨て、打算に生きろと教えた。それでいいんですか?」そんな桜井を冷ややかに見つめ、父親は答える。「人間のクセ一つ分からん奴が何を言う。そんな話なら帰ってもらおう」そんな父親に対し、桜井は一転して懐かしげな表情で語りかける。「父さん。僕は今、刑事としてじゃなく、貴方の息子としてお尋ねする」無言のままの父親の目を覗き込むように、語り続ける桜井。「父さんは昔から厳しかった。僕は父さんを憎むことで、成長した。同時に、父さんは僕の目標だった。誇りだった。その息子が、父である貴方にもう一度お尋ねします。貴方のしていることは、正義ですか?」我が子と視線を合わせぬまま、父親はインターホンを押した。「桜井刑事がお帰りだ」
特命課に戻り、神代に報告する桜井。「私は親父を許すことができません・・・」「まだ分からんのか。この間のお父さんの動き、一流の弁護士としては派手すぎるとは思わんのか?」神代の言葉を受け継ぎ、橘が諭すように言う。「お父さんが目立たぬように動くことは容易かった。だが、俺たちはお父さんの動きを追うことで、複雑な事件背景を知ることができた」「父がわざと手掛かりを残してくれたと言うんですか?」衝撃を受ける桜井の脳裏に、父親の言葉が一つひとつ甦る。今にして思えば、それらの言葉は、桜井らが真相に迫るヒントとなっていた。「この種の腐敗は確証が掴みにくい。お父さんは依頼人を裏切ることなく、弁護士としての行動範囲内で、ウミを出そうとした。お前に何かを気づかせおうとした。私にはそう思えるんだがね・・・」「お父さんは泥を被る気だ。自分が法を犯し、たとえ逮捕されてでも、俺たちに大掃除をさせようとしている」社会正義を貫くために、自らを犠牲にする覚悟を決めた父親。ようやくその真意に気づいた桜井は、先ほどの会話にもヒントが隠されていたことに気づく。「クセ・・・」捜査課長にはメモ魔というクセがあった。巡査の証言を記したメモが残っていれば、証拠になる。
東署を捜索する特命課。慌てて副署長が止めに入る。桜井は怒りを込めて副署長を叱責する。「貴方は今、何が大切ですが?人の評判ですか?署長の査定ですか?退職金ですか?警察官になりたての頃は、違うものが大切だったはずだ!」沈黙する副署長に、まくし立てる桜井。「警察官は、警察官に対しても、警察官でなければならん。貴方と同じ年配の、ヒラの警官の言葉だ。貴方のように偉くはないその人が、汗を拭き拭き言った言葉だ!分かるか!」うつむく副署長。そこに捜査課長が戻ってくる。しかし、桜井が捜査課長に詰め寄る直前、メモを受け取った父親が桜井らの目前で焼き捨てる。証拠は消された。ほくそ笑む捜査課長。だが、父親の覚悟を知った桜井は、悲壮な表情で手錠を握る。「証拠隠滅の現行犯で、逮捕します」それでいい、とばかりに満足げな笑みを浮かる父親に、桜井は万感の思いで手錠を掛けた。
連行される父親を見送る桜井。そっと神代が囁きかける。「途中に、景色の良いところがある」神代の心遣いに一礼し、後を追う桜井。遠巻きに刑事らが見守るなか、ひとときの別れを交わす桜井親子。「裁判、傍聴にいくよ。被告人としての父さんの供述ぶりを、聞きにいく」「ありがとう、哲夫」心ならずも敵対関係にあった二人が、ようやく親子に戻った瞬間だった。そんな二人を見つめる神代の胸に、一つの決意が宿っていた。「それにしても、桜井弁護士には教わるところが随分あった・・・」その言葉は、果たして何を意味するのだろうか?

【感想など】
最終三部作の中軸を担うは、エリート刑事・桜井と大物弁護士である父親との“父と子のドラマ”を軸に、警察の腐敗に立ち向かう特命課の闘いを描いた一本。同じく“父と子のドラマ”であった前話は、父親である橘が主役であるのに対し、今回は反発しつつも尊敬してやまない父親との対決を迫られる息子・桜井が主役。それだけに、長坂氏自身の「父親に反発する息子」としての立場が色濃く反映されているように思われます。

一見、悪に取り込まれるかに見えて、悪に雇われた弁護士としての職務を全うしながらも、自らの社会的生命を懸けて悪を糾弾しようとする父親の雄雄しき姿は、安部徹氏の熱演もあって、見る者を圧倒します。そんな父親の姿に翻弄され、一時は信頼を裏切られた怒りと悲しみに包まれた桜井が、神代や橘の言葉から隠された真意に気づく。しかし、父親の壮烈な覚悟を知り、尊敬と愛情を再確認した瞬間、その覚悟をまっとうさせるために自らの手で手錠を掛けねばならないという悲哀に満ちたラスト――いつになく大きな感情の揺れを見せる桜井の姿からは、演じる藤岡弘氏の足掛け10年という歴史(途中、1年間の不在もありましたが)の集大成的な意気込みが感じられます。

3部作の流れからすると、前話で描かれた女社長殺しを端緒として、警察腐敗の実態が暴かれる本編は、最終話において特命課が対峙する最後にして最大の敵が何なのかを示唆する布石となっています。こうしたストーリー展開の背後には、エリート警察官僚の特権意識や、キャリア優先の体質がもたらす腐食の構造に対する長坂氏の激しい怒りと憎悪が込められているように思われます。ドラマ中盤で桜井が口にした「人格で署長を選ぶ時代が来んものでしょうかね」という痛烈な台詞の裏には、「人格でトップを選んでいない」現状を糾弾するとともに、「人格が優先される時代など来ない」という長坂氏の(あるいは庶民の)諦念までもが隠されているように思われてなりません。

その一方で、単なる警察腐敗の糾弾のみにとどまってはいないのが、長坂脚本の凄いところ。「警察官は、警察官に対しても警察官でなければならない・・・」印象的に使われたこの台詞の主が、ヒラのベテラン警官であったことが、今回の脚本の真骨頂の一つでしょう。警察組織の腐敗によって最も深く傷ついているのは、組織の大半を占める(であろうと思いたい)善良な警察官たちである、という視点は意外と忘れがちなもの。もちろん、所属する組織の腐敗を正せない彼らにも責任の一端があるのは事実ですが、組織内部、それも組織の底辺から、組織全体の体質を変えることがどれだけ困難であるかは、哀れな巡査の末路を見るまでもなく、組織に属した者であれば容易に想像がつくでしょう。特命課が立ち向かうことができたのは、特命課という特殊な組織だからであり、仮に特命課刑事たちが巡査の立場にいたとすれば、巡査同様の末路をたどらなかったとは言えません。

とはいえ、私自身がそうであるように、組織外の視点からすれば、巡査のような心ある弱き立場の者たちも、腐敗組織の一員として憎まれ、責任を追及されるもの。しかし、彼らもまたある意味では被害者であり、(繰り返しますが、確かに責任の一端はあるものの)一方的に断罪すべきではないとする長坂氏の“情”が、本編の深い味わいとなっているように思われます。彼らを責める資格があるとすれば、桜井弁護士のように、自らの社会的生命を懸けても悪を糾弾する覚悟を持った者だけでしょうが、そうした覚悟を持つものは、決して弱き立場の者を一方的に責めることはありません。ラストの神代課長の台詞ではありませんが、桜井弁護士の態度には、大いに教わるところがあります。

本当の正義とは、決して誰かを安易に悪と決めつけ、糾弾することではない。自分の守りたい何かのために、己のすべてを懸けて戦い抜くことだと、桜井弁護士は教えてくれました。その教えを受けた特命課は、何のために、何と戦うのか。神代課長以下、特命捜査課の刑事たちの最後の闘いを、剋目して見守りたいと思います。

第507話 桜井警部補・哀愁の十字架(前編)

2010年01月14日 04時41分33秒 | Weblog
脚本 長坂秀敬、監督 田中秀夫
1987年3月19日放送

【あらすじ(前編)】
女社長殺しの犯人として巡査を取り調べる特命課。巡査は女社長に借金があり、その話し合いのために訪ねたところ、女社長は不在で、思わず金庫内の借用書手を出しかけた。そこを戻ってきた女社長に咎められ、思わず殴り倒し、死に至らしめたのだという。
解決したかに見えたこの事件だが、2つの疑問点が残されていた。1つは巡査が借りた金の使途。もう1つは、犯人である巡査以外知りえない事実を、男が供述できた理由。だが、巡査は殺人を認めた以外は、何も語ろうとしない。
巡査の弁護にあたったのは、大物弁護士である桜井の父親だった。「たかが一警察官のために、父さんほどの弁護士が乗り出すわけがない」と、事情を探ろうとする桜井だが、父親は「たかがとはなんだ。公僕の犯罪は、下にいくほど哀しみが深く、上にいくほど邪なものが多い」と応じ、巡査の犯行の背後に警察組織の腐敗が隠されていることを示唆するとともに、自身が弱き者の味方であることを宣言する。だが、その言葉を額面どおり受け取ってよいものだろうか?父親は巡査が雇えるような弁護士ではない。誰が、何の目的で父親に巡査の弁護を依頼したのか。「このヤマは単純ではないな・・・」と呟く神代。
巡査と接見した父親は、家族の生活を保障することを条件に、借金の理由、そして犯行後に一旦自首したことを口止めする。その言葉に従い、巡査は黙秘を貫く。やむなく、拘置所に男を訪ねる桜井と橘だが、すでに父親が取り調べと称して男の記憶を混乱させていた。
その夜、父親の事務所を訪ねて糾弾する桜井。「貴方は誰に雇われ、何を隠そうとしているんです?」だが、父親は弁護士の守秘義務を盾に、桜井を一蹴する。「心のどこかに、自分の父親を立派だと思う甘えがあった」と自分を責め、父親と正面から戦うことを誓う桜井。特命課刑事たちに、父親の行動を探り、そこから依頼人をたどるよう指示を出す。「大物弁護士だからといって遠慮するな。俺の親父だと言うことも忘れろ。もし証拠を押さえたら、逮捕しても構わん。すべての責任は、俺が持つ!」
刑事たちの調べにより、父親が新宿東署の防犯課刑事や白バイ警官、風俗関係者たちに口止めして回っていたことが判明する。一方、男の調書を調べ上げた桜井は、男に女社長殺しを認めされたのが新宿東署の捜査課長だと確信し、課長を追及する。「あんたは何らかの理由で巡査の犯行を知った。殺しの様子を巡査から聞き、男に誘導尋問の形でそっくり認めされた。誰がそうさせた?桜井弁護士に何をさせようとしている?」はぐらかすような課長の態度に激昂する桜井を副署長が制止し、署長の呼び出しを告げる。若くして出世が約束された“キャリア組”の署長は、権威を傘に桜井を威圧する。
高級官僚候補の若い署長の経歴に傷をつけまいと、定年間近のベテラン副署長が保身に走る――新宿東署の体質が、署員に悪い影響を与えないはずがなかった。「人格で署長を選ぶ時代が来んものでしょうかね・・・」橘と警察組織の欠陥を嘆き合う桜井のもとに、犬養が駆けつける。報せを聞いて、料亭に急ぐ桜井。そこでは、署長との密会を終えた父親の姿があった。血相を変え、父親の車を止める桜井。「貴方は誰の味方なんです。金でヒラを黙らせ、権力のトップに尻尾を振るのが貴方の正義ですか?」父親は桜井の怒りにも顔色を変えず、「では聞こう。正義感で何が買える!」と応じる。ショックを受ける桜井に、父親はなおも続ける。「あの巡査の12年間の正義では、何も買えなかった。だが、今では沈黙で家族の生活が買える」「それが、法曹界の良識といわれた弁護士の言うことですか・・・」怒りに桜井の声が震える。「誰が言おうと、真実は1つだ。君も、泣き言で自分の無能をカバーするようなことはよしたまえ」思わず父親に殴りかからんとする桜井を、橘の声が制した。尊敬する父親に裏切られたショックが、桜井を打ちのめす。
果たして、桜井たち特命課は、警察組織の腐敗を糾すことができるのか?署長や捜査課長が隠そうとする女社長殺しの背景とは?そして、父親の行動の真意は?(後編につづく)

【感想など】
最終三部作の二話目となる本編では、前話で解明された女社長殺しをきっかけに、新宿東署の腐敗の構造が明らかにされていくという展開をみせつつ、大物弁護士である父親と桜井との対決が描かれています。尊敬する父親との対決を余儀なくされる桜井の葛藤。そして、その父親が悪に与していることを知った桜井の衝撃。ここでも前話とは形を変えた“父と子のドラマ”が展開されていますが、圧巻なのが桜井の父親を演じる安部徹氏の存在感。時代劇をはじめ、悪役としての印象が強い安部氏ですが、重厚かつ凄みのある演技の前に、さすがの桜井も圧倒されている感があります。
結局、最終三部作はすべて前後編で紹介することとなりました。詳細な感想は、週内にも投稿する後編でまとめさせていただきます。