特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第501話 殺人警察犬MAX

2009年09月28日 23時33分17秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳(原案 会川昇)、監督 辻理
1987年2月5日放送

【あらすじ】
老訓練士のもとで訓練に励む警察犬「マックス」を、老訓練士の娘とともに見守る犬養。マックスはかつての犬養の愛犬「アマデウス」であり、その名の由来であるモーツァルトの曲を耳にすると、昔に戻って犬養にじゃれつくのだった。
そんななか、警察犬が相次いで行方不明となり、消えた仲間を探して出動したマックスも同様に姿を消す。マックスが消えた現場にはスタンガンが残されており、何者かに拉致されたものと見られた。犯人の狙いは?マックスは無事なのか?焦る犬養のもとに、深夜スーパーの客が犬にかみ殺されたとの連絡が入る。防犯カメラには、マックスが客の喉笛に襲い掛かる姿が映っていた。時を同じくして、マスコミに「警察犬は殺人犬だ。この犬は無差別に人を襲う」との犯行予告が送られる。「厳しい訓練を受けた警察犬が、犯人の言いなりになるはずがない。あれはよく似た別の犬です!」と主張する犬養。だが、老訓練士の眼にも、マックスの犯行であることは間違いなかった。
予告どおり、マックスによる凶行は続く。今度は派出所勤務の警官がかみ殺され、犯人は警官の拳銃を奪う。一方、防犯カメラの映像を拡大した桜井は、犬の頭部に電極が埋め込まれているのを発見。大脳生理学の権威である教授を訪ねたところ、犯人はマックスの脳に電流を流すことで、攻撃行動を取らせていることが判る。時を同じくして発見された警察犬たちの無残な姿は、犯人の実験の過程を物語っていた。
「ワシは犯人を許さん・・・」マックスを鍛えた訓練所近くで、犬養とともにモーツァルトを聞きながら、静かな怒りを燃やす老訓練士。その耳にマックスの声が届く。慌てて音楽を消すものの、犬養の耳には何も聞こえなかった。
そんなか、特命課は2人の被害者のつながりを発見。第一の被害者は税関の職員で、帰国した男の手荷物に麻薬犬が吠え掛かるという事件があった。手荷物は別人のものと判明するが、男は「犬を殺せ!」と激昂したという。その同日、第二の被害者である警官は、散歩中のシェパードを殴打していた男を尋問。男は酔ってシェパードを警察犬と間違え「昼間の仕返しだ!」と主張したという。2件の男は同一人物であり、かつて教授の研究所で働いていたが、実験動物を殺すことに異様な興奮を見せるため、教授から解雇されていた。
「次は教授が狙われるのでは?」特命課の不安は的中し、教授がかみ殺される。男を犯人と断定し、その行方を追う特命課に、老訓練士の娘が救いを求める。「父を助けてください!」老訓練士は単身、犯人への復讐を誓って姿を消したという。だが、老訓練士はどうやって犯人の居所を?犬養には心当たりがあった。あの日、老訓練士が聞いたマックスの声は本物だったのだ。訓練所近くを懸命に捜索する犬養たち。その耳に銃声が響く。工場跡で発見された老訓練士の死体。その手にはカセットデッキが握られていた。老訓練士はモーツァルトの曲でマックスとの絆を取り戻そうとしたが、果たすことなく犯人の銃弾に倒れたのだ。
マックスに対する射殺命令が出るなか、犬養は一人拳銃の携帯を拒否。マックスの相棒であった警察犬を駆使して追跡するが、犯人の臭いは絶たれてしまう。そこに、桜井が意外な情報をもたらす。かつて犯人が殴打したシェパードの飼い主は、老訓練士の娘だったのだ。娘が助けを求めたことで、犯人は警官に連行された。犯人の次なる狙いは娘に違いない。その事実を知った娘は、老訓練士の残したカセットデッキを手に姿を消す。
娘の危機を知った犬養は、マックスが訓練に励んだ河原に向かう。そこではまさに、犯人がマックスに娘を襲わせていた。「よせ、マックス!」娘をかばい、マックスに立ちはだかる犬養。「なぜこんなことをする?」犬養の問いに、犯人は空ろな顔で答える。「犬が俺の人生を殺した。警察犬は人殺しだ。世間にそれを教える義務がある」娘とともにモーツァルトの曲を聞かせる犬養だが、マックスは攻撃姿勢を止めない。「ムダだ。そんなものは利かない」犯人の言葉に、教授の声が重なる。「攻撃の部位を刺激されれば攻撃する。脳はそうできてるんです・・・」だが、その一方で、老訓練士の言葉が犬養を勇気づける。「要はハートだ。心さえ通じりゃあ、何だってできる・・・」再度、モーツァルトの曲を響かせる犬養と娘だが、犯人の非情な指令が飛ぶ。「やるんだ、マックス!」「アマデウス!」犬養の呼びかけに、マックスが宙を舞う。銃声。銃弾に打ち抜かれながらも、犯人の手首をくわえて引きずり倒すマックス。夕陽のなか、マックスの亡骸を抱きしめる犬養。「俺のアマデウスは、死の直前、電気に勝ってアマデウスに戻った・・・」

【感想など】
卑劣な魔手に堕ち「殺人犬」と化した警察犬と、かつての飼い主である犬養との心の絆を描いた一本。これまで特捜で「犬」といえば叶でしたが、今回は名前つながり(?)で犬養がメイン。犬とたわむれる無邪気な表情は、三ツ木氏ならではであり、本作を犬養の代表作の一つに挙げてもよいのではないでしょうか?
なお、老訓練士役は、特捜ではむしろ悪人としてお馴染みの小林昭二氏。犬養とのからみでいい味を出していましたが、野暮を承知で言えば、少しは桜井とのからみが見たかった。

今回と次回は一般からのプロット公募による入選作を長坂氏が仕上げたものですが、原案ありとはいえ、本作には長坂テイストが満載です。脳に電極を埋め込むという仕掛けといい、教授の談話という形で強引に説得力を与える展開といい、偏執的な犯行動機(犯人役の偏執ぶりが今ひとつなのが残念。西田健を起用していれば、さぞや動機に説得力が増したことでしょう)といい、まるで過去の長坂作品のオマージュのようです。さらに言えば、今ではすっかり人口に膾炙したスタンガンも、当時は珍しかったらしく詳細な説明が加えられており、新しいモノ好きの長坂氏の面目躍如といったところでしょう。

ちなみに、原案の会川昇(現在の表記は會川昇)氏といえば、アニメや特撮で御馴染みの脚本家(最近では物議をかもした「ディケイド」の前半のみを担当して降板)。デビューは83年の「亜空大作戦スラングル」(懐かしいなぁ・・・)とのことですので、本作を応募した時点ではすでにデビュー済み。長坂氏とは師弟関係との話もありますが、その辺りの事情はどうだったのでしょうか?
そう言われて見れば「主人公の仲間が犯人に脳を操作されて悪事を働くが、主人公の呼びかけ(とか思い出となる何か)で絆を取り戻す」という展開は、アニメや特捜では定番のパターン。この際、仲間がレギュラーの場合は助かるものの、ゲストの場合は大抵死んでしまうわけですが、その点でもセオリー通り。ベタなだけに、悲しみがストレートに胸に迫り、特に犬好きの人にとってはたまらないものがあるでしょう。

ファミリー劇場の放送予定

2009年09月25日 00時19分42秒 | Weblog
スカパーガイド誌の10月号が届いたのですが、ファミ劇の番組表を確認したところ、やはり特捜の第1話からの放送再開はなし。土曜夜の「刑事(デカ)劇場」のラインナップは、「太陽(第1話から)」「西部警察(2話連続)」「Gメン82」「俺たちルーキーコップ」「太陽(終盤:2話連続)」となりました。
ルーキーコップは興味無しですが、太陽の初期編やGメン82の放送(さらにGメン75の最終回スペシャルも)は嬉しい限り。とはいえ、特捜についてはスペシャル回(疑惑のXデー)の放送があるのみで、最終3部作の再放送もありません。
よって、今週末の最終3部作を最後に、本ブログでのレビューも一旦終了となります。残り8話のレビューは順次アップしていく予定ですが、現時点では、先週末に放送された5話のうち2話を視聴済みという状況です。残りわずかではありますが、よろしくお付き合いください。
しかし、これらを見て、レビューを書いてしまうと最後になるかと思うと、どうにも見てしまうのが惜しいような気もします。そこで、無理にでも前向きになろうと考えたのですが、Gメン82は全17話、ルーキーコップは全14話と短命なので、来年早々には放送が終了します。さらに言えば、太陽の終盤も残り100話ほどなので、2話連続放送ですから約1年で終了を迎えます。これらの後番組として、特捜が第1話から放送される可能性は少なくないのでは?
ファミ劇の関係者の方が本ブログをご覧になっているかどうかは分かりませんが、こうした願いが届くことを切に祈りたいと思います。

DVD-BOX Vol.9のラインナップ発表

2009年09月21日 21時59分46秒 | Weblog
先日、らりぞーさんのコメントで教えていただきながら、ついつい後回しにしてしまっていましたが、DVD-BOX Vol.9のラインナップが発表されましたので、いつものように感想を。今回は前回と同様、「ファンが選んだエピソード」第2弾のアンケート結果がもとになっていますが、これまでの16話収録から4話ボリュームアップして、以下のようなラインアップとなりました。

第20話「刑事を愛した女」主演:桜井、脚本:塙五郎、監督:村山新治(18位)
第36話「傷痕・夜明けに叫ぶ男」主演:高杉、脚本:長坂秀佳、監督:松尾昭典(13位)
第84話「記憶のない毒殺魔!」主演:高杉、脚本:塙五郎、監督:天野利彦(23位)
第97話「追跡Ⅰ・白銀に消えた五億円!」主演:神代、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(23位)
第98話「追跡Ⅱ・愛と死の大雪原!」主演:神代、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(30位)
第106話「完全犯罪・ナイフの少女!」主演:船村、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(15位)
第162話「窓際警視の靴が泣く!」主演:紅林・蒲生、脚本:永井龍一(=塙五郎)、監督:村山新治(30位)
第164話「再会・容疑者は刑事の妹!」主演:吉野、脚本:阿井文瓶、監督:青木弘司(16位)
第180話「ダイナマイトパニック・殺人海域!」主演:特命課、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(26位)
第181話「ダイナマイトパニックⅡ・望郷群島!」主演:特命課、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(44位)
第214話「バラの花殺人事件!」主演:船村、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(26位)
第228話「通り魔・あの日に帰りたい!」主演:叶、脚本:宮下潤一、監督:辻理(26位)
第236話「深夜便の女!」主演:紅林、脚本:佐藤五月、監督:天野利彦(16位)
第287話「リミット1.5秒!」主演:桜井、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(11位)
第311話「パパの名は吉野竜次!」主演:吉野、脚本:竹山洋、監督:藤井邦夫(19位)
第350話「殺人トリックの女!」主演:冷泉、脚本:長坂秀佳、監督:山口和彦(13位)
第400話「父と子のエレジー!」主演:的場、脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(30位)
第419話「女医が挑んだ殺人ミステリー!」主演:冷泉、脚本:長坂秀佳、監督:松尾昭典(39位)
第421話「人妻を愛した刑事!」主演:吉野、脚本:長坂秀佳、監督:辻理(44位)
第491話「天使を乗せた紙ヒコーキ!」主演:桜井・犬養、脚本:藤井邦夫、監督:天野利彦(19位)

高杉主演作や吉野主演作をはじめ、これまで「なぜ収録されんのか?」と訴えていたエピソードが多数収録されており、ある意味、これまでで最も充実したBOXと言えるかもしれません?
しかし、その反面、次回Vol.10は非常に残念なラインナップとなってしまいそうです(ただし「撃つ女」「警視庁を煙に巻く男」「死体番号6001のミステリー」の3本は必見。あと「父と子のブルートレイン」と「サンタクロース殺人事件」も及第点)。とはいえ、叶ファンにとっては「恐怖の診察台」、滝ファンにとっては「上野発“幻”駅行」、幹子ファンには「結婚したい女」「瀬戸内に消えた時効」など、「そうは言っても見ておきたい」エピソードも収録されそうですので、それはそれで良し、としましょう。

それはともかく、第2回アンケートでは上位50位として52本が発表されましたが、Vol.8で10本、Vol.9で20本が収録されており、残りは22本。次回も今回と同様に20本収録だとすれば、2本だけが未収録となるのですが、果たしてそれはどの2本でしょうか?個人的には「脱走・水を飲む野獣」「カナリアを飼う悪徳刑事」あたりが落選に相応しいと思うのですが(幹子メインの2本も感心できない出来ですが、節目のエピソードということで眼をつぶりましょう)、皆さんはいかがでしょうか?

また、らりぞーさんも懸念されていましたが、第2回アンケートの結果がすべて(2本を除いて)収録された後は、一体どうなるのでしょうか?第3回アンケートをやるとも思えませんので、切り良くVol.10で終了となってしまうのでしょうか?希望を言えば、アンケート結果にこだわらず、「射殺魔」「リクエスト」「ポルノ雑誌」「歳末パトロール」「黙秘」「或る疑惑」「絞殺魔」「超能力(笑)」「単身赴任」「兜町」「隅田川」「青春レクイエム」「レジの女」など、埋もれさすには惜しい傑作選として、もう1回くらいは出して欲しいところです(もちろん「全話出せ」という方もいるでしょうが・・・)。

第500話 退職刑事船村Ⅱ・仏

2009年09月18日 23時09分01秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦
1987年1月29日放送

【あらすじ】
桜井と橘を昏倒させ、電話に出る船村。電話はやはり組織からであったが、そこには船村の娘も捕らわれていた。孫の心細さを思って、自ら組織に拉致されたという娘。二人に増えた人質のためにも、船村ははやりヤシマを殺すほかなかった。
心臓の苦しみに耐え、一人、姿を消す船村。発作で倒れたことを利用して、公園の砂場に拳銃の跡を残すのが、特命課への精一杯のメッセージだった。船村の窮地を知った神代らは、追い詰められた船村の“最後の選択”を予測する。それは、孫と娘を見捨てることもできず、かといってヤシマを殺すこともできず、窮した余りに自らを撃つという、まさに“最悪の選択”だった。船村を救う方法、それは一刻も早く二人を救出し、船村よりも先にヤシマを捕らえることしかなかった。
船村の不審な行動を検証する特命課。船村がマンションの張り込みを断念したのは、情婦が逮捕されたと知ったからではないか?情婦はヤシマと組長をつなぐ連絡係だったと見られたが、4課の西岡刑事は「組長に電話したのは俺だ」と明かし、「捜査を進展させるための揺さぶりだ」と開き直る。
一方、桜井らは、行方をくらませていた鉄砲松を発見し、特命課に連行する。鉄砲松に吉野の面影を見て動揺する刑事たち。孫を誘拐した実行犯が鉄砲松だと判明し、その行方を詰問する特命課だが、鉄砲松はデタラメな証言を繰り返すのみ。吉野と同じ顔で卑劣な言動を取る鉄砲松に我慢できず、思わず「恥を知れ、吉野!」と叫んでしまう紅林。その姿に、特命課の焦りが象徴されていた。
その頃、船村は旧知の仲である組長の前妻のもとに転がり込んでいた。そこに桜井が踏み込むが、身を隠す船村に気づきつつも、あえて見逃し、その動向を見守る。前妻は、組長と分かれた後に世話になった船村に、亡き父親の姿を重ね合わせていた。そんな前妻に、船村は「組長を渡せとは言わない。その代り、ある人を連れてきて欲しい」と要請する。
動き出した前妻を尾行する桜井。前妻が食事を届けた相手は、倉庫に身を潜める組長だった。桜井は拳銃を向ける組長の前に身を晒し「俺たちの目的は同じ(=組織をつぶすこと)はずだ。協力してくれ」と、ヤシマの正体を明かすよう迫る。桜井の報せを受けた刑事らが見守るなか、組長は説得に応じたかのように見えたが、その瞬間、所轄署の刑事が組長を射殺する。「桜井が撃たれそうだったから撃った」と主張する刑事を、内通者だと確信する桜井。だが、証拠は何もなかった。
ヤシマをたどる糸は断たれたに見えたなか、鉄砲松が人質の居所を明かすと言う。その頃、捕われの娘と孫は排気口から脱出を図るが、果たせないと見ると、布やダンボールに火をつけて煙を上げる。鉄砲松の案内で倉庫街に到着する特命課。またもデタラメに見えたが、神代は地下から上がる煙に気づく。「人質は地下だ!」無事に二人を救出したものの、肝心の船村はどこに?おそらくヤシマの居所にいるはずだと「ヤシマはどこだ?教えてくれ!」と懇願する桜井たちだが、鉄砲松は「組への恩義がある」と答えない。「ヒントだけでもくれ!ヤシマとはどんな男だ?」叶の質問に、鉄砲松は何が可笑しいのか笑うのみだった。そのとき、犬養はマンションを張り込んでいた際、船村が顔も見えない通行人を、シルエットだけでヤシマでないと判別していたことを思い出す。鉄砲松の笑いもヒントに、真相に気づく特命課。「ヤシマは男じゃない、女だ!」
急ぎ捜査本部に戻る特命課だが、すでに情婦は前妻の出迎えで釈放されていた。その許可を出したのは西岡だという。同じ頃、自宅で決着のときを待つ船村のもとに、西岡が現れる。西岡に拳銃を向ける船村。「行かせてくれ。娘と孫が殺されるんだ」
船村宅に到着した特命課を待っていたのは、西岡のみだった。「貴様、親父さんに殺しをさせたいのか?」犬養の鉄拳が飛ぶ。西岡は犬養を殴り返し「俺たちが欲しいのは、ヤシマという生き証人だ!つまらない感傷じゃねぇだろう!」ヤシマが情婦だという確証をつかめるのは、船村が銃口を向けた瞬間に他ならない。だが、そのために船村を殺人者にするわけにはいかない。「親父さんは誰も撃たん」西岡は刑事らに対し、船村が亡き妻の遺影に捧げた孫の手袋を示す。その中には、一発だけ込められていた銃弾があった。船村の拳銃には弾が入っていないのだ。
約束した倉庫で船村を待っていたのは、情婦と前妻だった。ヤシマ=情婦に銃口を向ける船村。「警察内部の裏切り者は誰だ?答えろ!」そこに特命課ら捜査陣が到着。神代は船村の銃口の前に立ちはだかる。「待て、親父さん。人質は助けた」窮地を悟った所轄署の刑事が情婦を撃つ。銃弾は外れ、特命課は刑事を逮捕。駆け寄る孫を抱きしめる船村。その仏のような笑顔に、神代らも安堵の笑みを浮かべるのだった。「親父さんには、これが本当の最後の事件となった・・・」

【感想など】
500回記念作品の後編です。物語の前半で盛り上げるだけ盛り上げて、後半になると風呂敷を畳み損ねて肩透かし、というのは長坂脚本の悪癖の一つですが、今回は特にひどかった。おやっさん再登場ということで期待感が高すぎた反動もあるかもしれませんが、ストーリーが破綻している、と言われても仕方のない出来だと思うのは、私だけでしょうか?

前編の中盤で、おやっさんが組織からヤシマの写真を見せられて驚いている辺りから、整合性に疑問符がついていたのですが、後編になると、そんな不自然さがさらに顕著となり、さまざまな疑問が浮かんできました。
・娘が自ら拉致される際、どうやって組織に接触したのか?
・組織はなぜ見張りを残さずに娘と孫を放置したのか?
・後編になると船村への監視も消えてしまったのはなぜか?
・娘はなぜ家電製品を利用した発火方法を知っていたのか?
・鉄砲松はなぜ捜査に協力する気になったのか?
・西岡や特命課は、なぜおやっさんが自宅に戻っているとわかったのか?
・おやっさんは人質が解放されたと知らないのに、なぜヤシマを撃とうとしなかったのか?
どうやって事態を収拾する気だったのか?
・所轄署の上司が刑事を怪しんでいながら(証拠が無いとはいえ)今回の捜査に加えたのはなぜか?
・たかが一刑事の内通で、ここまで麻薬組織が拡大するものだろうか?
・視聴者は突然登場する組長の前妻に戸惑わなかったのか?

加えて、個人的に最も気になった描写が、神代らが想像したおやっさんの“最後の選択”でした。たとえどんな窮地に追い込まれたとしても、おやっさんが自ら死を選ぶような人間だとは思えませんし(実際、最終段階では拳銃に弾丸を込めてなく、ヤシマも、そして自身をも撃つ意思はなかった)、私たち以上におやっさんをよく知る課長や桜井、橘が、損な想像をすること自体が不自然に思えました。

またまた批判ばかりになってしまいましたが、大滝秀治対蟹江敬三という、あの第380話「老刑事・対決の72時間」以来の緊迫感あふれるシーンは実に見応えがありましたし、ストーリー的には無理があったとしても、吉野役の誠直也の再起用には感慨深いものがありました。特捜ファンとしては見逃せないエピソードであるだけに、なおさら「惜しい」という気持ちが拭いきれません。まだ501話、502話は未見ですが、せっかく長坂氏を4話連続で起用するのであれば、「おやっさん再登場編」とは別に、「誠直也再起用編」を(できればこれも前後編で)作成して欲しかった。そうすれば、今回のストーリーももう少し納得いくものになったのではないでしょうか?

第499話 退職刑事船村・鬼

2009年09月18日 01時36分33秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦
1987年1月22日放送

【あらすじ】
「飲む覚醒剤」が蔓延するなか、密売組織に警察内部の者が関与しているとの情報もあり、特命課は所轄署や警視庁4課とともに懸命の捜査を続けていた。そんななか、密売組織と見られる暴力団組長の出所が迫る。2年前に組長が逮捕された後、暴力団幹部らは組長を裏切って覚醒剤取引を開始。組を乗っ取られた組長は、出所後に幹部らへの反撃に出ると見られており、そのカギを握るのが、組長シンパで幹部らとは手を切った「ヤシマ」なる人物だった。ヤシマは組織の秘密や、警察内部の内通者の正体を知る唯一の存在だった。だが、警察関係者でヤシマの素顔を知る者はただ一人、刑事の職を辞し、今は市井の人となった船村だけだった。
船村を巻き込みたくない神代だが、桜井と橘は船村のもとに日参し、捜査への協力を依頼する。周囲に組織の影がチラつくなか、「今さら引き戻さんでくれ。今のアタシには、娘と孫が何よりも大切なんだ」と協力を拒む船村に、4課の西岡刑事が写真を突きつける。そこには覚醒剤中毒で自殺した主婦と、残された子供が映っていた。「自分の孫さえ無事なら、そんな子供がいくら増えても平気か?」
悩んだ末に捜査への協力を決意する船村に、組織の魔手が伸びる。娘を車で撥ねると同時に、隣家に預けていた孫を誘拐。組織は船村に拳銃を渡し、孫の命を盾にヤシマ抹殺を命じる。「特命課に少しでもおかしな動きが出れば、坊やの命は無い」苦境に立たされた船村は、入院した娘にも、合流した特命課にも何も語れぬまま、出所した組長を追跡する。
管轄にこだわり情報を小出しにする所轄署や、意図的に捜査を妨害するかのような動きを見せる4課の西岡刑事など、内部にも不安を抱える特命課。そんななか、組長は情婦のマンションに入る。情婦は不在で、組長は誰かを待つように苛立った様子を見せる。組織の監視の眼が光るなか、マンションを張り込みヤシマの来訪を待つ船村だが、孫への想いが胸を締め付け、心臓の発作に襲われる。他の刑事を近づけようとしない船村の態度に不審を抱いた特命課は、密かに船村の身辺を探る。
一方、桜井と橘は、暴力団関係者を締め上げ、船村を見張っていたのが「鉄砲松」と呼ばれるチンピラだと知る。西岡からの情報で鉄砲松を探し出した桜井と橘だが、殉職した吉野と瓜二つの容貌に驚きを隠せない。
その頃、マンションに戻らぬ情婦は、4課に麻薬容疑で逮捕されていた。西岡は何を企んでか、その事実を自ら組長に電話する。また、異変を察知して病院を抜け出した娘は、特命課に電話を掛けるが、電話に出たのは組織の関係者で、孫を誘拐した事実を告げる。
組織からの伝言メモで娘の異変を知った船村は、特命課の隙をついて姿を消す。自宅に戻った船村の前には、鉄砲松に案内された桜井と橘が。娘が病院を抜け出し、姿を消したことを知る船村。「何があったんです?」二人に問い詰められるなか、組織からと思しき電話が掛って来る。追い詰められた船村は、娘と孫のため鬼と化し、二人に襲い掛かる。

【感想など】
500回記念作品として、第459・460話「挑戦」以来、久々に長坂秀敬を脚本に起用した前後編の前編です。目玉となるのは、タイトル通り、退職したおやっさんの再登場ですが、加えて殉職した吉野役の誠直也を「鉄砲松」役として再起用し、さらに「挑戦」前後編で登場した西岡刑事も再登場させるという豪華な布陣。刑事役よりもヤクザ役がはまっている誠氏の再登場は、吉野ファンとしては嬉しい限り。桜井や橘の驚きとともに、在りし日の吉野の姿が挿入されるあたり、視聴者の気持ちがよく分かっていると感心させられます(これは脚本よりも演出の天野氏の配慮かも知れませんが・・・)。また、西岡刑事も相変わらずの胡散臭さ全快で、これもファンとしては嬉しい限りです。

待望の再登場を果たしたおやっさんについては、孫可愛さの台詞が圧巻です。「孫ってのは可愛いもんでねぇ。なんでだろうかって考えてみると、アタシは自分の子供を一生懸命に可愛がったという記憶が無い。子供ができた頃は、人生で一番ぱたぱたしているときでねぇ。これは、誰でもそうなんじゃなかろうか。大きくなった娘を親だからといって、今さら抱くわけにもいかんしねぇ。そんなときに、孫が生まれる。親は自分の子供にしてやれなかったことを、孫で埋め合わせしようとする。だから、可愛いんだなぁ・・・」異常なまでに子供を可愛がる現在の親(その逆に、育児放棄したり虐待するようなクソ親もいますが・・・)には理解しづらいかもしれませんが、おやっさん世代や、もう少し下の団塊の世代にとっては、この言葉がどれだけ重く響くことでしょうか。それほど可愛い孫を人質に取られたおやっさんの痛々しいまでの心理が、らしからぬ言動の端々から感じられ、視聴者にとっても不安と緊張の連続です。このテンションを維持したまま、後編に突入するわけですが、全体の評価や感想はそちらにまとめさせていただきます。

第498話 雪に消えた憎しみ!

2009年09月16日 01時51分12秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 野田幸男
1987年1月15日放送

【あらすじ】
ある夜、クラブの雇われママが自室で殺害される。現場から立ち去った不審な男が容疑者として浮上し、目撃者の証言から似顔絵が作成される。被害者の身許を調べたところ、15年前に夫と娘を残して失踪していたことが判明。特命課は遺体確認のために家族を呼び寄せる。東京で働いているはずの夫は職場を転々としていて連絡がつかず、一人、新潟から上京してきた娘を出迎える橘。15年ぶりの対面とあって、娘は七五三の記念写真を頼りに母親の遺体を確認する。橘はその写真に目を止める。一緒に映っていた父親は、似顔絵の男に似ていた。夫が失踪した妻を探し、殺害したというのか?特命課は夫の行方を追う。
母親の死に何の感情も見せなかった娘だが、父親が容疑者だと知ってショックを受ける。泥酔した挙句、自分を捨てた母親を罵る娘。その言葉が橘の胸に突き刺さる。橘もまた、長崎に妻とともに次男を残してきた。同居中の長男とは和解したものの、次男に対する負い目は、今も橘の胸にくすぶり続けていた。
翌日、被害者の部屋から盗まれた指輪が故売屋から発見される。指輪を売った男を逮捕する特命課だが、男は「指輪は拾った」と主張して犯行を否定。男の指紋は現場のものと一致せず、殺人の証拠はなかった。
一方、橘は新潟に帰ろうとする娘を引きとめる。「お母さんは、決して君のことを忘れていない。東京で暮らした日々の間に、必ず君への想いがあるはずだ」娘とともに、被害者の15年の足取りをたどる橘。上京当初は自殺未遂を繰り返し、周囲に陰鬱な印象を与えていた被害者だが、ある時期を境に、明るく華やかな女へと変貌を遂げていた。変貌の理由を追う橘と娘だったが、シャブ中、ソープ嬢、ヒモに食い物にされるなど、浮かび上がるのは悲惨な過去ばかり。娘の様子を見かねた犬養は「もうやめてください。あの娘を傷つけるだけです」と進言するが、橘はそれでも女の過去を追う。「俺はあの娘に、親っていうのは、いつでも子供のことを思っていることを教えてあげたいんだ」だが、橘がそうだとしても、被害者も同じ想いだったという保証はどこにもない。「そんなのは子供を捨てた親のエゴですよ!」犬養の言葉が橘の胸を刺す。
「もうたくさんです」と新潟に帰ろうとする娘。だが、橘は許さない。それは、同じ親として被害者を信じたいというだけではなく、娘の心を救うためでもあった。「憎んでも、恨んでも、君はお母さんに会いたかったはずだ。このまま帰ってしまったら、一生後悔するんだぞ」祈りにも似た橘の言葉が、娘の記憶の扉を開く。毎年、娘の誕生日になると掛かってきた無言電話。そこから聞こえた遊園地の音色を手掛かりに、橘は被害者が上京直後に身を寄せていた店を発見する。娘の誕生日に電話をしていたのは、やはり被害者だった。それでもなお、母親の愛情を信じられない娘だったが、意外な事実が明らかになる。その頃、自殺を図った被害者を救ってヒモに収まっていたのが、指輪を売った男だったのだ。特命課の追及に、男は犯行を自白し、夫の無実は明らかになる。だが、まだ被害者の過去には多くの謎が残っている。それは、特命課が探し出した夫の証言で明らかになる。
上京後、夫は仕事の合間を縫って被害者を探していた。6年前にようやく発見した被害者に、夫は心から謝ったという。被害者の家出の理由は、夫の浮気にあったのだ。被害者に同情した夫の弟との仲が噂になり、二人は心中に追い込まれた。その結果、義弟だけが死に、被害者は娘を残して家を出ることを余儀なくされた。
上京後、被害者は義弟の命日になると自殺を図ったが、その度に娘を思い出し、果たせなかったという。6年前、夫と再会した被害者は「たった一つだけ、娘に母親らしいことをさせて欲しい」と頼み、それが許されると涙を流して喜んだという。明るい女に変貌を遂げたのも6年前。母親としての願いが聞き届けられたときからだった。
事件当夜、被害者は職場を移ることになった夫を自室に招き、その願いを託した直後、男に襲われた。被害者は夫に託しもの、それは6年間掛けて縫い上げた娘の晴着だった。「お母さん、これを君の成人式に来てもらいたかったんだ」橘の言葉に、娘は初めて母親に対する涙を流すのだった。
数日後、橘のもとに、娘から成人式の記念写真が届く。晴着姿の娘の笑顔に、橘は自分と次男との「親子の絆」を再確認するのだった。

【感想など】
「母親に捨てられた娘」と「息子を捨てた父親(=橘)」が、娘を捨てた母親の秘められた愛情を探し求める姿を描いた一本。テーマ的には第399話「少女・ある愛を探す旅!」を彷彿とさせますが、「少女・・・」が込み入ったストーリー展開だったのに対して、今回はシンプルな展開の中に、刑事としての立場を超えて、被害者と娘の絆を証明しようとする橘の心情が丁寧に描かれており、視聴者の胸を打つドラマとなっています(決して「少女・・・」を否定しているわけではありません)。

被害者の母親としての愛情を証明することが、まるで自身の息子への愛情の証明でもあるかのように奔走する橘。それは犬養が指摘したように「子供を捨てた親のエゴ」かもしれません。確かに、いかなる理由があったとしても、親に捨てられた子供の苦しみを考えれば、「子供を捨てた親」は許されるべき存在ではありません。もちろん、橘も自分が許されようなどとは思っていませんが、たとえ恨まれても、憎まれても、それでも「親子の絆」だけは信じたい。それをエゴと言い捨ててしまうのは、子を捨てた親にとっても、そして親に捨てられた子にとっても、あまりに悲しいではありませんか。

ある意味、結果オーライではありますが、橘が信じた通り、被害者もまた娘への確かな愛情を抱いていており、その愛情を証明することで、娘も、そして橘も救われます。七五三の写真が導入となり、成人式の写真で終わるといった仕掛けも利いており、やはりベタな方向に走ったときの藤井脚本にはうならされるものがあります。犯人逮捕よりも、母親の真情を解き明かすことに主眼を置いたこのエピソードは、後期特捜ならではの「甘さ」(前期特捜の持ち味である「苦さ」が忘れ難い視聴者からすれば、賛否が別れるところでしょうが・・・)がツボにはまった好例と言えるでしょう。その意味では、藤井氏の持ち味は後期特捜においてこそ発揮されたと言ってよいのではないでしょうか。

第497話 翔んでる目撃者!

2009年09月04日 00時56分58秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄
1987年1月8日放送

【あらすじ】
新年早々、あるアパートで殺人事件が発生。被害者は指名手配中の強姦殺人犯だった。捜査にあたった特命課は、目撃者の証言から、犯行時間近くに老婆が通り掛っていたことをつかむ。老婆はいつも決まった時間に街を散歩することから「時計婆さん」とあだ名されていた。
叶が探し出したところ、老婆は無意識のうちに防止を万引きしたり、死んだ主人を生きていると主張したり、ボケている様子。犯人を目撃した可能性は高いものの、まともな証言は期待できなかった。
一方、特命課は動機を怨恨と見て、被害者に殺された女性の遺族を訪ねる。父親は「この手で殺してやりたかった」と語ったものの、アリバイは確かだった。また、婚約者も会社の同僚と一緒というアリバイがあった。
やはり老婆の証言に頼るしかなかったが、老婆は叶の質問にトンチンカンな対応を繰り返すのみ。「私の祖父もボケていましたが、好きなことについては記憶がはっきりしていました」との江崎の言葉をヒントに、老婆から証言を得ようと奔走する叶。自他ともに老人の扱いが得意と認める紅林も協力する。
最近の老婆の興味と言えば、老人会のリーダー格で、町内の老婆たちの憧れの的である老人だった。老人とともに老婆を訪ね、明日の写生会への参加を呼びかけたところ、まともな反応を見せる老婆。しかし、肝心の目撃証言となると、やはりまともな回答は得られなかった。老婆に哀れみを感じる叶だが、紅林は「ボケた方が勝ちってこともある。あのお婆さんにとっては、その方が幸せかもしれん」と応じる。
そんななか、特命課に匿名の封書が届く。そこには「老人を調べてみてください」と綴られていた。老人と事件の関わりを調べてみると意外なことが分かる。老人は被害者に殺された女性を子供の頃から知っており、孫娘のように可愛がっていたのだ。叶は桜井とともに老人を訪ねる。老人は犯行現場を通り掛っただけだと判明するが、現場付近で若い男を見たと言う。「犯人らしい男を見て、なぜ届けなかったんです?」桜井の追及に、老人は重い口を開く。若者は女性の婚約者に似ており、「自分の代わりに仇を討ってくれた」ように思えたのだという。
婚約者を問い詰めたところ、犯行とアリバイ工作を認める。仕事中に偶然、被害者を見つけた婚約者は、悩んだ末に殺意を抑え、自首させようとアパートへ行った。しかし、被害者が開き直って暴力を振るったため、格闘の末に死なせてしまったのだ。
一方、叶は封書の筆跡が老婆のものだと気づく。叶の追及に対し、老婆はボケを装っていたことを認める。老婆は犯行現場で老人を見て、犯人だと思い込み、慕っている老人をかばう一心で、ボケを装ったのだ。だが、老人が別の老婆と仲良くしているのを見て嫉妬心にかられ、思わず封書をしたためたのだ。「もう、あの人には会えない・・・」と後悔する老婆を励まし、老人のもとへ連れて行く叶。躊躇する老婆の背中を押し、老人と仲直りさせる叶。老人は老婆の謝罪を快く受け入れ、ボケてなかったと喜ぶ周囲の仲間たちとともに、老婆を暖かく迎え入れるのだった。

【感想など】
老いてなお恋心を忘れない老婆と、周囲の老人たちとの交流を描いた一本。殺人事件はもはや添え物に過ぎず、刑事ドラマというよりも、刑事を主役にしたご町内の人情ドラマという趣すらあり、何とも批評のしようがありません。中盤での叶と紅林の会話などに、老人に厳しい社会への皮肉のようなものが伺えますが、そうしたテーマ性も、老人たちの時に可愛らしく、時に鬱陶しい演技が前面に出ているため、さほど印象に残りません。

正月一本目ということもあってか、いつもの極端なばかりの佐藤脚本の持ち味は抑えられていますが、残念なことに、これが特捜では最後の佐藤脚本となってしまいました。長坂氏の著書によれば、佐藤氏はこれが最後とは知らなかったらしく、もし知っていれば、もっと凄い話を書いてくれたのではないかと、今さらながら残念でなりません。

第496話 魔のクリスマスプレゼント!

2009年09月03日 02時40分41秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 北本弘
1986年12月25日放送

【あらすじ】
クリスマスイブの前夜、路地裏で刺殺死体と出くわす男。被害者のトランクからは、大量の紙幣があふれていた。被害者を追う足音が迫り、男は思わずトランクを手に逃げ去る。
特命課が捜査に乗り出したところ、現場に残された紙幣は精巧な偽札だと判明。また、被害者の着衣から、立ち去った男の指紋も検出される。男は横領罪で執行猶予中の元商社マンだった。特命課は紙幣偽造と殺人の容疑で男を追う。
ニュースで紙幣が偽札と知った男は、旧知の老スリに相談。執行猶予が取り消されることを恐れる男のために、老スリは一計を案じる。サンタクロースの衣装で浮浪者に偽札を配り歩くと、「あんたも『サンタクロースからもらった』と言えばいい」と男に言い聞かせる。
その頃、桜井と犬養は男の別れた妻子を訪ねる。男は離婚後も妻子を心配し、連絡を絶やさないという。だが、高校生になる娘は、男への怒りを隠さない。犯罪者の娘と指差されることが耐えられず、腹いせに不良仲間とともに万引きやカツ上げを繰り返す娘。見かねて補導する犬養と江崎に、娘は「親父に会ったら、ぶっ殺してやる」とナイフを見せる。
一方、紅林と叶は男のアパートを張り込む。アパートに戻ってきた男は、張り込みに気づいて逃走。アパート内を調べたところ、偽札につながるものは何もなく、代わりに娘名義の預金通帳と、娘へのクリスマスプレゼントが見つかる。男の娘への想いを感じ取った紅林は、男がもう一度戻ってくるはずと確信する。
その頃、被害者の交友関係から、金遣いの荒いヤクザ者の存在が浮上。橘の調べによれば、そのヤクザ者が偽造犯らしい。また、新宿で浮浪者が使った偽札から、老スリの指紋が検出される。老スリと旧知の時田には、偽札との関わりが信じられなかった。
同じ頃、桜井は妻から横領事件の真相を聞き出す。そもそもの発端は、娘が妻の連れ子であることだった。娘はその事実を知らずに育ち、男も娘を実子同然に愛した。だが、娘の実父であるヤクザが「娘に事実をバラす」と脅して妻に金を要求。妻の苦しみを知った男は、やむなく会社の金に手を付けた。その後、ヤクザは病死し、男は横領に気づかれぬうちに返済しようとしたものの、ついに発覚。男は娘のために動機を隠し、世間の眼や横領金の返済義務から妻子を守るために、自ら離婚を申し出たのだ。
男の妻子への想いを知った桜井は、犬養と江崎に娘へのマークを続けるよう指示。娘を案じて「あの子を父親の逮捕に利用しないでください」と反発する江崎に、桜井は妻から聞かされた真相を語る。
クリスマスイブ当日、老スリは警察の目を引き付けるため、引き続き新宿で偽札をバラ撒こうとするが、旅館からの通報で所在を知った時田らが包囲網を敷く。同じ頃、ヤクザ者も持ち去られた偽札を追って新宿にいた。時田の姿を見て逃走を図った老スリが、思わずブチまけた偽札に気づくヤクザ者。老スリに襲い掛かるヤクザ者を、時田らが逮捕。ヤクザ者の自白と老スリの証言によって、男が偽札や殺人とは無関係だと判明。これ以上罪を重ねさせないために、早急に男を逮捕せんとする特命課。
その頃、男は娘を電話で新宿駅に呼び出すと、プレゼントを取りに再びアパートへ。張り込んでいた紅林と叶に追い詰められた男は、「来るな!来たら死んでやる!」とナイフを自身の首に突きつける。「まだ遅くない」「罪を償い、出直すんだ」紅林や叶の説得にも耳を貸さない男。そこに桜井が妻を連れてくる。男に妻が差し出したのは、婚姻届だった。「あなた。刑事さんが、これを。もう一度、親子三人で、はじめからやり直すべきだって・・・」妻の、そして刑事たちの真心に触れ、泣き崩れる男を、安堵の思いで見守る桜井たち。
その頃、新宿駅では娘が男を待っていた。神代からの連絡で、男の逮捕を知った犬養と江崎。逮捕された父親を前に、娘はどんな行動を取るだろうか?「あの子、まさか本当に父親を・・・」江崎の呟きに、意を決した犬養は娘に真相を語る。「赤の他人だったら、もう憎む必要はないだろう。犯罪者の子供といじけることもないだろう。本当の父親だと思っているからこそ、憎むことができた。違うか?」犬養の言葉に、血のつながりがなくとも、確かな親子の絆があることに気づく娘。そこに、紅林と叶が男を連れて到着する。男の手錠を外し、「渡してやりなさい」とプレゼントを差し出す紅林。深々と頭を下げると、娘に歩み寄る男。「お父さん!」ナイフを捨て、男の胸に飛び込む娘。二人を見つめる刑事たちの眼は、喜びに輝いていた。

【感想など】
年末特有の群像劇ですが、下手にドラマを分散させず、一人の心優しい男を軸にしたことが奏功し、ベタではあるものの(ベタであるがゆえに)、非常に心温まる一本となりました。
妻の別れた夫への愛情を察知する桜井。不良への道に陥りそうになる娘を案じる犬養と江崎。プレゼントに託された男の想いを察知する紅林(と叶)。旧知の老スリの身を案じる時田など、それぞれの持ち味を活かした人物配置は絶妙なものがあります。神代と橘は無理にストーリーに絡めさせずにバックを固めさせ、杉はこの際無視するという判断も成功でしょう。藤井氏は下手にトリッキーな脚本を書こうとせず、こういうベタな話を書いた方がいい味を出せると思うのですが、そればかりだとやはりワンパターンになってしまうのでしょうか?
男と老スリの関係がよく分からないとか、娘のグレ方がステレオタイプすぎとか、突っ込みどころもありますが、この際、そこは目をつぶるのが正解でしょう。特命課刑事たちの非現実的なまでの優しさも、クリスマスならではの「大人のおとぎ話」として楽しみたい。そんな優しい気持ちにさせられる一本でした。