特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第309話 撃つ女!

2007年05月06日 23時52分00秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 田中秀夫

パトロール中の警官が襲われ、実弾五発が装填された拳銃が強奪された。直ちに合同捜査本部が設けられ、リストアップされた容疑者の一人を特命課が担当することになる。容疑者のアパートを張り込む船村は、容疑者の隣室が空部屋だと気づき、その部屋を借りようと不動産屋と交渉する。あいにく一人暮らしの女が契約したばかりだったが、譲ってもらうよう頼んだところ、快く了承された。代わりの部屋を用意しようとした船村だが、その目的が拳銃強奪犯の捜査らしいと気づいた女は、前言を撤回して当初の部屋に入居する。
奪われた拳銃によって次々と凶悪な事件が起こるなか、特命課が追う容疑者が犯人だと明らかになる。その間もアパートの張り込みを続ける船村は、次第に女と親しくなり、女の留守中に部屋を借りることになる。事件のたびに、しきりと残弾数を気にする女の様子が気になる船村。残り一発となったとき、ついに容疑者がアパートに現れる。首尾よく逮捕した特命課だが、拳銃は所持していなかった。拳銃を探して再度アパートを訪れた船村は、女が鍵も掛けずに外出したままだと気づき、不審に思って部屋を調べる。そこで発見した花びらは、近くの公園に咲いている花だった。容疑者がアパートに戻る途中、念のために近くの公園に拳銃を隠し、たまたま見ていた女が拾ったのでは、と推測する船村。
自分の想像を打ち消しながらも、女が拳銃を必要とする理由を求めて、女の保証人となった工場主を訪ねたところ、女の意外な過去が明らかになる。女は早くに夫を失い、幼い娘と二人暮しだったが、その娘を変質者に殺されていた。変質者には同様の前科があり、二度と罪を犯さないよう自ら去勢手術を受けていたため「婦女暴行などできるはずがない」と犯行を否認していた。所轄署で確認したところ、女は取調べ中の変質者をナイフで刺そうとして制止され、「あの男を死刑にしてください!」と懇願したという。
女の狙いを理解した船村は、降りしきる雨の中、必死に女を探す。ふと思いついて変質者の公判日を確認したところ、翌日の朝だという。そこに現れるに違いないと確信したとき、心臓の発作が再発し、船村はその場に崩れ落ちた。
翌朝、病院で目を覚ました船村は、看護婦の制止を振り切って裁判所へ向かう。駆けつけた船村の目前で、女は変質者を射殺する。愕然とする船村。法と正義の狭間で悩み、苦しみながら、神代や船村は、せめて女の罪を軽くしようと、犯行時には気持ちが動転していたとの供述を引き出そうとする。そんな船村の想いを知りながらも、女は確固たる殺意をもって拳銃を撃ったことを主張する。女の哀しく、強い決意の前に、船村は女の言葉通りの供述書をしたためるのだった。

すごい話。傑作です。女が変質者を射殺するシーンから始まり、そこに至る経緯が描かれるなかで、女の過去が明かされていくのですが、圧巻なのが射殺以降の台詞の応酬です。詳細に再現してみますが、未見の方はぜひ、以降を読まずに来週金曜朝の再放送を視聴されることをお勧めします。
まずは、自らの失態を詫びる船村を「もっと早く容疑者を捕まえていれば、こんなことにはならなかった」と慰める神代。「水臭いですよ、おやっさん」と非難する吉野に対して「おやっさんは、心の奥底で、彼女が拳銃を持っていると思いたくなかったんだ」と桜井が弁護します。
その後、取調べに当たった橘に、女は笑みを浮かべて「拳銃が手に入ったとき、神様っているんだなって思いました」と語ります。「違う。どこの世界に人殺しを喜ぶ神様がいる」と否定する橘に、女は「娘を殺した男は法律に守られ生き延びるところだった。でも、娘は生き返りません」と反論します。そこにおやっさんが割って入り「娘を殺されたから殺し返す。そんな理屈が通ると思っているのか?我々は理性のもとに法律を作っている。これは我々が人間らしく生きるための約束なんだよ」とまくし立てますが、女は「その約束が間違っていたらどうするの?」と引き下がりません。「だめだこれは。話にならん」と言って取調室を出る船村。しかし、神代に対しては「法律がつねに正しく人を裁いているとは、私にはどうしても思えない!」とやり場のない怒りをぶつけます。そんな船村に、神代は言います。「おやじさん。彼女は本当に殺意があると言ったのか?夢にまで見た拳銃を見たばかりで、気が動転していたんじゃないのか?」
神代の言葉に、女を救う唯一の道を見出したおやっさんは、再び取調室に入ります。「あんたは奴を撃ったとき、自分のやったことがわかっていなかった、そうだね?」船村の気持ちを分かりながらも、女は断言します。「いいえ。分かってました。殺してやろうってはっきりと思いました」「あんた!」言葉を失う船村。あきらめたように座り直すと、どこかふて腐れたような態度で、彼女の言葉を調書に書き記すのでした。

法を守る立場からすれば、おやっさんや橘の意見はまったく正しい。しかし、娘を殺された女にとって、変質者を殺すことはまぎれもなく正義です。いずれも正しいわけですから、おやっさんが言ったように「話にならん」のも当然です。「法律」とは、あくまで社会をスムーズに運営するためのルールであり、個人の主観に過ぎない「正義」を規定したものではありません。では、警察とは「法の番人」なのか、それとも「正義の番人」なのか?「法律」と「正義」は往々にして一致するものですが、決して等しいものではなく、時によって両者の差が浮かび上がります。そんなとき、刑事たちは「法の番人」という立場を取らざるを得ず、結果として「正義」は切り捨てられるしかありません。
「法の番人」である神代やおやっさんにできることは、「法律」に則り「正義」を救うことしかありませんが、それは彼女の行為に対する侮辱ではないでしょうか?彼女は「法律」が自分の正義と異なること知りつつ、それでも自分の意思で、自分の正義をまっとうしたのです。その自覚をなかったことにしろ、と言われて頷くことは、自分の正義を否定することに他なりません。「法律」に従うことを拒否し、自分の「正義」を貫いた者を、「法律」をもって救う術などどこにもない。そうした諦観と虚しさが、ラストのおやっさんの表情に表れているのではないでしょうか。

5 コメント

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今の時代には相容れない (仕置屋稼業)
2008-12-02 21:33:12
 今だったら撃つ女は全面支持されおやっさんの主張は完全に否定されるでしょうね。「何、人権屋みたいなことを言ってんだ」とか「あんな奴を殺して何が悪い」とか。
 実際に家族を惨殺された人たちなら、なおさらこの女の行為に共鳴することでしょう。
 (私もこの話では撃った女を支持します。なにしろ「約束」があまりにも被害者をないがしろにしていますからね、昔も今も)
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はじめまして (袋小路)
2008-12-04 00:50:49
仕置屋稼業さん、はじめまして。裏稼業の方からコメントいただけるとは感激です。今後ともよろしくお願いします。
当時と今とでは世論もだいぶ変わっているでしょうが、女の行為が「罪」とされるのは今も変わらないですよね。何かと話題の裁判員制度がスタートしますが、こうした事件の場合、素人の裁判員が全員「無罪」を主張したら、いったいどうなるんでしょうかね?
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Unknown (警視庁刑事部長)
2016-06-15 10:55:04
この作品
特捜最前線の中でも名作中の名作

間違いない
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Unknown (シニア)
2019-03-27 16:00:28
既に袋小路さんがこのブログを管理されているか、或いは御存命かどうか判り兼ねますが、コメントさせていただきます。放映から数十年経過したこの物語ですが、内容的には全く古さを感じさせません。永遠のテーマのように思えます。こういう秀逸なテレビドラマが途絶えて久しく、何かと不便で窮屈な昭和という時代だったものの、テレビ文化の面では最盛期だったのでは?と思わずにはいられません。
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Unknown (特捜大好き)
2022-01-22 02:41:33
傑作だというので期待してみましたが中途半端でした。結局、この哀れな女性はどうなったのか知りたい。日本は犯人に対して甘過ぎ!こんな変態人殺しは殺すべきです。命には命をです!
昔は仇討ちまで認められていたのに今の犯人擁護の判決がおかしいです!許せません!罪もない人を殺した奴は一人でも即死刑にすれば世の中は犯罪は減りますし遺族も被害舎も浮かばれます。
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