特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第270話 赤い髪の女!

2006年11月30日 22時46分47秒 | Weblog
脚本 竹山洋、監督 天野利彦

後頭部を殴られた上で絞殺されたヤクザの死体が発見された。捜査線上に浮かんだ会社員は、あっさりと犯行を認める。雨の中、現場検証のため犯行現場に連行される会社員に、その妻が泣きながら追いすがる。「あなたはやってないわよね!」と錯乱したように泣き叫ぶ妻に、近所のソバ屋の女房がそっと傘を差し出すのを見て、叶は心を慰められる。
会社員はかつて、海外出張を利用して、ヤクザに覚醒剤の密輸を手伝わされていた。その後ヤクザが逮捕されたことで開放されたのだが、最近になって出所したヤクザと再会し、金を揺すられていたのだ。灰皿で後頭部を殴ったことは認める会社員だが、首を絞めてはいないと証言。詳しい調査の結果、ヤクザは睡眠薬を飲まされた上で絞殺され、その後後頭部を殴られたことが判明。会社員の証言が正しければ、真犯人は他にいることになる。
そんなとき、特命課に女の声で「あの人は犯人ではない」との電話が入る。女の声がソバ屋の女房と似ていることに気づいた叶は、ソバ屋をマークする。女房は出前に出た途中で会社員宅を訪れ、会社員の妻や息子を励ましていた。その帰りに特命課に電話する現場を押さえた叶は、女房を問い詰める。「なぜ、彼が犯人ではないと?」叶の問いに「犯行現場で赤い髪の女を見た」と証言する女房だが、「なぜ早く言わなかったのか?」と追及されると、答えることができなかった。
ヤクザが以前逮捕されたのは、同居していた赤い髪の女のタレこみによるものであり、その女が今回の犯人だと思われたが、身元がつかめない。ソバ屋の女房の過去を調べた叶は、数年前にソバ屋で無銭飲食したことが馴れ初めで、当時は赤い髪をしていたことを突き止める。女房こそが赤い髪の女だと確信した叶は、証拠がないまま女房を連行する。
かつてヤクザの女だったことは認めるものの、犯行は頑なに否定する女房。それは自分を信じる夫と、お腹の赤ちゃんを思ってのことだった。そんな女房に、叶はタレこみ電話を再生して聞かせる。「あの人は犯人じゃありません。奥さんが可愛そうです。もう一度良く調べてください」その電話は、雨の日の現場検証で、会社員の妻が泣き叫ぶ姿を見た後のことだった。「奥さんは、誰かを不幸にしてまで、幸せになれる人じゃない。もう一度、あのときの気持ちを思い出してください」叶の言葉に泣き崩れ、犯行を自供する女房。
ラストシーン。夫に見送られて連行されるソバ屋の女房と、釈放される夫を迎えにきた会社員の妻が、特命課の廊下で擦れ違う。深々と頭を下げる会社員の妻に、ソバ屋の女房は初めて心からの笑みを見せるのだった。

前半でほぼ真相は判明し、あとはいかに自供させるかが今回のドラマのポイントでしたが、最後の一押しに工夫が欲しいところです。それにしても、女房が自供した後、落ち込むソバ屋の主人を「大丈夫、刑務所でも赤ちゃんは生める」と慰める神代課長ですが、余りフォローになっていないような気がするのは私だけでしょうか。

第269話 窓際警視、投げ込み魔を追う!

2006年11月29日 22時46分07秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 田中秀夫

吉野の住むアパートの郵便受けに、現金入りの封筒が投げ込まれた。この事件を担当することになったのが、神代の同期で、今は遺失物係の蒲生警視だった。吉野は蒲生とともに捜査に当たる。目撃者を求めてアパートを見下ろせる位置にある病院の一室を訪れる二人だが、そこに入院していた少年は寝たきりで、外の様子は見えなかった。
そんなとき、公園でヤクザの死体が発見された。吉野は「投げ込み犯をつかまえて、どんな罪に問うのか?」と不満を漏らし、殺人事件を追いたがる。殺人現場に残されたサイフの写真を見た蒲生は、投げ込み事件との関係に気づく。単身で捜査する蒲生だが、誤解からチンピラに襲われる。負傷した蒲生を気遣う吉野に、「財布に入っていた1万円札のナンバーはが、投げ込まれた1万円札と連続していた」と告げる蒲生。「何故黙っていたのか」と詰め寄る吉野に、蒲生は「俺だけの手柄にしたかったんだ」と告白する。飄々とした態度の中に、窓際に追いやられた哀しみを隠していた蒲生の真意に気づいた吉野は「今のは、ここだけの話です」と応えるのだった。
2つの事件の関連を追う吉野は、入院中の少年から、投げ込みのあった日からアパートの前の街灯が点かなくなったことを知る。窓から外を見ることしかできない少年は、いつも決まった時間に街灯が点されるのを、唯一の楽しみにしていた。街灯を点けていたのは、アパートの管理人だと知った吉野だが、管理人は黙して語らない。
会社員時代から誰にも注目されない人生を送ってきた管理人は、自分の存在を世間に届かせようと、突発的に現金を投げ込んだのではないか。そんな推測を管理人にぶつける吉野。「そんなことをしなくても、あんたを認めている人間だっている」と言うのだが、管理人は「そんな奴はいない、誰も俺なんか見ていない」と反論する。吉野は少年の言葉を告げる。「あんたが毎日していたことが、一人の少年を励ましていたんだ。あんたがこの世の中にいるっていうことを、誰かが見ていたんだ」吉野の言葉は管理人を、そして取り調べを聞いていた蒲生の心を揺さぶった。
管理人はヤクザ殺しを告白する。管理人は現金の投げ込みをヤクザに目撃され、脅されていたのだ。「お前みたいに、生きてるんだか死んでんだか分かんねぇ奴のやることじゃねぇ」という一言が、殺意の引き金になったのだという。
ラストシーン、管理人の代わりに街頭に灯を点す吉野。それに応えるように病室に明りが点るのを見て、吉野は笑顔を浮かべるのだった。

窓際警視こと蒲生が久々に登場した一本。「どんな人間でも、自分がいるってことを認めてもらいたいんだ。一番辛いのは、自分の存在を無視されることなんだ」閑職に甘んじている我が身を振り返った蒲生の台詞は、現金を投げ込むことで世間に振り向いてもらおうとした管理人のものでもあり、病院で寝たきりの少年のものでもあり、そして今、自ら死を選ぶ子供たちの心の叫びでもあるのではないでしょうか?「誰かがあんたの存在を認めている」吉野のこの言葉を、そんな子供たち一人ひとりに聞かせてやりたいと思わずにいられません。


第268話 壁の向こうの眼!

2006年11月21日 23時20分55秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 辻理

久しぶりに亡き妻の墓参りに出向いた船村は、幼い娘とその両親と出会う。幸せそうな家族の姿に目を細めつつ、若い母親には不釣合いな年配の父親が印象に残る船村だった。
数日後、二人組のサラ金強盗の片割れが逮捕された。逃走したもう一人の犯人は、七年前に迷宮入りになった事件の犯人だと判明。それは夜道でヤクザが殺された事件で、凶器の鉄パイプから犯人二人の指紋が検出されており、逃走犯の指紋がその一方と一致したのだ。
逃走犯が当時の共犯と接触するのではないかと考えた特命課は、七年前の事件を洗い直す。当時の捜査線上に浮かび、行方不明となっている岩手出身の男の手配写真を見た船村は、先日出会った年配の父親に似ていることに気づく。家族の身元を調べ、様子をうかがった船村は、父親が咄嗟に岩手なまりを使うところを目撃する。
疑念を募らせた船村は、刑事であることを隠し、偶然を装って家族と同じアパートに引っ越す。母親から「うちのお父ちゃんと友達になってくれませんか」と頼まれ、夕食に招かれた船村は、故郷の民謡を歌い合うことで身元を探ろうとするが、父親が唄ったのは柏崎の民謡だった。自分のカンに疑問を抱く船村だったが、友人づきあいを深めるうちに、自らの過去に大きな悔恨を持つ父親への疑惑とともに、自分が家族の幸せを壊そうとしているとへの迷いを深めるのだった。
そんななか、父親が家族に黙って姿を消す。逃走犯に呼び出されたと見て、父親を探す船村に、桜井と吉野が接触する。「身柄を拘束すべきだったのでは?」という吉野だが、船村は反論する。「犯人を追い詰めることだけが刑事の仕事じゃない。追い詰められた犯人が破滅に向かうのを救ってやることも、刑事の仕事だ」
走り回った末に、屋台で独り飲んでいた父親を見つける船村。屋台で飲みながら、父親は7年前の事件を告白する。田舎から出稼ぎに出かけてきた二人は、稼いだ金を持って故郷に帰ろうとしたところをヤクザに絡まれ、必死に抵抗した結果、殺人を犯してしまったのだ。「俺に何かあったら、妻と娘とは何の関係もないと証言してください」と言い残し、制止する船村を振り切ってタクシーで逃走する父親。
逃走犯と待ち合わせた父親は、なけなしの金を渡す。しかし、逃走犯は「これでは足りない。また連絡するから、若い女房としっかり金をためておけ」と言い残して立ち去ろうとする。家族を守るべく逃走犯を殺す決意を固め、隠し持っていた包丁を取り出す父親だが、間一髪で間に合った船村が制止する。駆けつけた特命課に逮捕された逃走犯は、連行されつつ、父親が7年前の殺人犯だと告発。船村は桜井が父親に手錠を掛けるのを、哀しげに見守ることしかできなかった。
ラストシーン。残された母親と娘を訪れ、刑事の身を明かす船村。「船村さんが刑事だなんて、知りたくなかった。ずっとお父ちゃんのいい友達でいて欲しかった」と眼を伏せる母親に、船村は言う。「私は、これからもずっと友達です。奥さんと、娘さんが許してくれるのなら」

年配の父親役を演じるのは、Gメン75の初期に印象深い犯人役をたびたび務めた、わが心の名優である谷村正彦氏。逮捕シーンは言うに及ばず、屋台での告白シーンや、差し向かいで将棋を指すシーンなど、谷村氏と大滝氏の演じるシーンは、いずれも心に残る場面が目白押しです。生きることの喜び、哀しみを知り尽くした者同士の心の触れ合いを、台詞に頼らず、表情や雰囲気で演じる二人の名優。いまだ人生の深淵を知り得ない私には、そこに込められた想いを推し量ることしかできません。



第267話 裸足の女警部補!

2006年11月20日 23時20分11秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

大規模なビル火災が発生。現場から逃走したのは、ビルのオーナーである総会屋の元ボディーガードとその妻で、彼らによる放火と見られていた。放火の黒幕は総会屋で、その指令のもとに放火したとみる神代だが、吉野は「あの二人がそんなことをするはずがない」と反論する。
逃走した二人は、いずれも過去に吉野が面倒をみたことがあり、二人が結婚するとき「これからは、まじめに働いて幸せになる」と吉野に約束していたのだ。二人の身を案じる吉野のもとに、元ボディーガードから連絡が入る。しかし、待ち合わせの現場に向かった吉野の眼前で男は拉致された。男が残したフィルムを現像したところ、そこには着替え中の女が写っており、顔は見えなかったものの、腋の下の黒子から逃走した妻だと推察された。
捜査一係から派遣された女警部補から、逃げた妻が整形して顔を変えたらしいとの情報を得た特命課は、写真に残された手がかりから妻の行方を追う。手がかりとは、背景に映ったロッカーと、出前持ちの女だ。ロッカーのメーカーを突き止め、納品先リストから女子更衣室をリストアップし、逃げた妻と面識のある女警部補と吉野が、女カメラマンとその助手に扮して捜査を開始した。その一方で、橘らは出前持ちの女を探す。
リストをしらみつぶしに当たる吉野たちだが、捜査に気づいた総会屋が裏から圧力をかけ、一係は捜査から手を引く。女警部補は首をかけて捜査を続行。もちろん特命課も圧力には屈しない。しかし、ようやく突き止めた黒子の女は、逃げた妻ではなかった。では、なぜこの写真を残したのか。「写真が狙ったの黒子の女ではなく、出前持ちの女ではなかったのか」と気づいた吉野は、女の行方を追う。女はやはり逃げた妻だった。妻の証言で、犯行を指示したのが総会屋との証拠をつかんだ特命課だが、女警部補は「後は任せたわ。彼女を助けられればそれでいい」と言い残し、吉野に後を託して捜査から手を引くのだった。

はじめは高慢な態度で吉野を苛立たせた女警部補が、次第に優しさを現し、ラストでは吉野に「今度飲みに行きましょうね」と笑顔を向ける。そこがドラマのポイントで、今で言うツンデレです。とはいえ、逃げた妻との関わりが今ひとつ描写不足のため、やや説得力に欠けるのが残念です。



第266話 老刑事、女詐欺師を追う!

2006年11月14日 23時07分11秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 村山新治

病院を訪れた老婦人が、面識もない看護婦を刺殺した。老婦人は「この女に騙された息子が自殺したのだ」と動機を語る。新聞で事件を知り、驚愕する船村。殺された看護婦は、以前に負傷で入院した際に面倒を見てもらっており、男を騙すような人ではないと確信していたからだ。
所轄に出向いて老婦人を取り調べた船村は、自殺した息子が騙した女と出会ったのは結婚相談所だとの証言を得る。結婚相談所のファイルにあった写真は、やはり看護婦とは別人だった。写真の女が看護婦の隣の部屋に住んでいたことを突き止めたものの、女はすでに部屋を引き払っていた。部屋に残されたマッチから、女の出入りしていた飲み屋を見つけ出した船村は、刑事であることを隠して店に通い詰める。
やがて女と出会った船村は、自分が独り身の裕福な老人だと匂わせる。船村の狙い通り、女は美容院を開業するための資金を掏り取られたと、涙ながらに相談を持ちかけてくる。
禁じられている囮捜査に手を染める船村を案じる神代だが、船村は「このままじゃ、彼女は死んでも死に切れんよ!」と、捜査の続行を訴える。看護婦は病気の母の看病のために婚期を逃していたが、ようやく結婚相手を見つけ、幸せになろうとした矢先に殺されたのだ。その無念を晴らしたいと訴える船村を、神代はそれ以上止めることはできない。
その一方で、特命課の捜査によって共犯者の存在が浮上。船村が刑事ではないかと確認してきた電話を逆探知して、共犯の男をつきとめたものの、男は頑なに否認する。
船村から騙し取った250万を男に渡そうと、待ち合わせたホテルに向かう女だが、そこに現れたのは船村だった。共犯の男が家庭を持っていることを知らされ、女は「嘘よ!」と絶叫。女が結婚詐欺で騙し取った金は、すべて共犯の男に貢いでおり、彼女もまた結婚を餌に騙されていたのだった。

男を騙した上で殺害し、その母親に殺人を犯させ、しかも名を騙った看護婦を死に追いやっておきながら、「私は結婚したかっただけなのよ」と何の罪悪感も抱かない女の姿に、怒りや哀れみを通し越して絶望するしかない一本です。「ヤクザのぶっ放した拳銃で、関係のない一般市民が死ぬ。あんたがやったことは、そういうことなんだよ」と諭すおやっさんですが、女の流す涙からは、自分が男に裏切られた悲しみしか感じることができず、虚しさが募るばかりです。


第265話 遠い炎尾の記憶!

2006年11月13日 23時06分25秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 野田幸男

男の焼殺死体が発見され、最近治療した骨折痕から、被害者は熊本在住の男性と判明する。報せを聞いて上京した妻の証言では、被害者は東京に知人もなく、上京した理由が分からないという。東京で起こったビル火災を報じるニュースを見たのがきっかけこらしいと知った橘は、熊本に飛ぶ。被害社宅で録画していた問題のニュース映像を見たところ、被害者の母親は、野次馬の中に、数年前にデパート火災で亡くなったはずの被害者の前妻が映っていたことに気づく。
前妻らしき女を追う橘を、謎の男が襲った。ニュース映像で女と一緒に映っていた男だと気づいた橘は、関係を問い詰める。男はホステスをしていた女と恋仲になり、結婚を申し込んだ間柄だった。ビル火災を目撃して以来、男の前から姿を消した女を探していたところ、同様に女を探している橘をヤクザと間違え、女を守ろうとして襲ったという。
ようやく女を発見したものの、彼女は被害者の妻でもなければ、熊本に行ったこともないという。しかし、履歴書の内容はデタラメで、以前勤めていたバーの同僚の証言では、彼女は熊本に送金していたらしい。ところが、被害者の友人が持っていた写真から前妻の指紋を入手したところ、問題の女性とは指紋が異なっていた。
前妻の出身地である岡山に飛んだ橘は、小さい頃の火傷の痕が手首に残っているはずとの証言を得る。再度女の元を訪れる橘だが、火傷の痕はなかった。なおも前妻の哀しい過去を語る橘に、女は涙ながらに走り去る。女に追いすがり、その眼前で新聞紙に火をつける橘。怯えた女の手首には、火傷の痕が浮かび上がっていた。女はやはり前妻だったのだ。
幼い頃、自分の不注意で起した火事により、母親と妹を死なせた彼女は、火事を見るたびに、「自分は幸せになる資格はない」と、愛する者の前から姿を消していた。たまたま上京していた夫の友人に見つかり、「夫に黙っていて欲しければ」と金を揺すられていたのだ。ニュース映像で前妻の生存を知って上京した被害者を殺したのも、この友人の仕業だった。「なぜ警察に言わなかった?」と問い詰める橘の前で、友人の凶刃に襲われる女。橘はその場で友人を逮捕する。一命を取り留めた女の元に、結婚を申し込んでいた男が駆けつける。女の無事を喜ぶ男を励まし「彼女を支えてやれよ」と、心からの言葉を贈る橘だった。

犯人である被害者の友人は、被害者の妻が上京した際に付き添いとして登場。あまりの唐突さに、その場で「ああ、こいつが犯人か」と視聴者に分かってしまうのは、いかがなものか。にせの指紋を提供して捜査を攪乱したのもこの友人ですが、それも説明不足で、どうにも消化不良な一本です。それはともかく、「自分が不幸になることが罪滅ぼしだと思っているのか?あんたが幸せになることが、一番の罪滅ぼしじゃないか!」という橘の台詞は泣かせます。いつか誰かに言ってやりたいものです。

第264話 白い手袋をした通り魔!

2006年11月08日 23時05分10秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

ある夜、何者かに主婦が背中を刃物で切りつけられた。たまたま現場近くにいた叶は、自分と入れ違いにコインランドリーに入って行った男が妙に気になる。
数日後、同一犯によるものと思われる事件が発生。今度は若い女性が太ももを刺された。いずれも犯人はジャージ姿の男だが、警察の迅速な手配にも関わらず、捜査網には引っかからない。さらに第三の犯行が行われ、今度は寿司屋の若い店員が殺害された。足元を切られながらも犯人を追い、顔を見たために殺されたらしい。現場に駆けつけた叶は、第一の現場にあったものと同じ車を発見。ちょうど戻ってきた車の持ち主を尋問する。男は大物政治家の息子である都会議員で、権力をカサに回答を拒む。強引に車を調べる叶だが、手がかりらしきものは見つからなかった。
議員は神代に圧力を掛け、捜査を妨害しようとする。「何の証拠がある?それに、動機は何だ?そんなものは捜査の初歩だろう。」嘲笑うような議員の言葉を覆さんと、捜査を開始する特命課。付近を丹念に聞き込んだ結果、叶はある推論に達する。犯行現場の近くには、いずれもコインランドリーと銭湯がある。犯人は犯行の後、ジャージをコインランドリーで洗濯し、その間に銭湯で凶器のカミソリを処分し、何食わぬ顔で車に戻り、捜査が終わった頃にコインランドリーに戻ってジャージを回収したのだ。
「確かにつじつまは合う。しかし、証拠は無い。そして動機もだ。」神代の言葉を受けて、議員の身辺を探る叶に、議員のゴシップを狙う週刊誌の女性記者が接近する。議員は数ヶ月前に母親に死なれ、その頃から言動がおかしくなり、婚約者にも婚約を破棄されたのだという。執拗に議員に迫る叶の前で、女性記者が万年筆のインクで議員のスーツを汚してしまう。「貴様ら出て行け!」と激昂する議員の様子にヒントを得た叶は、再度関係者の聞き込みに回る。元婚約者は、デート中にすれ違った自転車に足元を汚された議員が、執拗に汚れを落とそうとする姿に恐怖心をいだいたと証言する。その自転車に乗っていたのは第三の犠牲者だった。また、第二の被害者は喫茶店のウェイトレスで、店の客の太ももにコーヒーをこぼしたことがあった。さらに第一の事件の犠牲者は、通りすがりの男の背中に車で泥をはね飛ばしたことがあった。議員は自分の衣服を汚した相手を狙い、汚された場所を刺したのだ。
「次は彼女が危ない!」女性記者の身元を追う叶だが、議員はすでに記者の背後に迫っていた。間一髪で間に合った叶に逮捕された議員は、取調室で神代に動機を語る。「私の服を汚すような不始末は、お母さんが許さない。私はお母さんに代わって罰を与えたんだ・・・」

一見無関係な被害者同士のつながりを追う、いわゆる「見えない糸」モノですが、これほど異常な動機は前代未聞では?マザコンで潔癖症の犯人を演じるのは、「異常な犯人を演じさせれば日本一」と言われる西田健。DVDにも収録された伝説の一本「恐怖のテレホンセックス魔!」と並ぶトラウマ系の犯人を見事に演じています。ラストシーン、またもコインランドリーでサイレンを聞いた叶は、すれ違った男の顔が議員に見え、戦慄します。すぐに錯覚と分かるのですが、異常者が社会の至る所に潜んでいるという恐怖感を暗示させる秀逸なエンディングでした。


第263話 痴漢になった老刑事!

2006年11月07日 23時04分26秒 | Weblog
脚本 大野武雄、監督 宮越澄

電車の中で若い娘から痴漢と訴えられた船村。新聞沙汰にすると騒ぎ立てられ、憤慨する船村だったが、同じ日の新聞に、その娘が電車内でスカートを切られたと訴える記事が載っているのを見て、不審に思う。
調べたてみると、娘は東北の寒村から幼馴染の青年二人を探しに上京しており、相談に訪れた派出所で船村を見かけていたことが判明。新聞に自分の名前が載ることで、探している青年らに気づいて欲しいと考えたらしい。「なぜそこまでして?」と問い詰める船村に、娘は「二人は人を殺しに上京した。早く探さないと大変なことになる」と告白する。青年らが狙っているというのは、同じく幼馴染である人気歌手であり、その歌手が約束を破ったため、二人が怒って上京したというのだが、肝心の約束の内容は黙して語らない。
半信半疑で歌手を訪ねた船村は、約束とは何のことかと問いただす。彼ら四人が生まれ育った村がダム工事で廃村になるため、四人が卒業記念に植えた松の木を植え替える約束をしていたのだという。その約束を守るため、イタリア行きをキャンセルすると言い出し、マネージャーを困らせる歌手。腑に落ちない点はあるものの、これで一件落着と思う船村だが、そんな矢先、青年のうちの一人が水死体で発見、続いて歌手のマネージャーが何者かに刺された。マネージャーは犯人の顔を見ているはずだが、かたくなに証言を拒む。
死んだ青年が一年前に故郷でひき逃げを起して逮捕されていたことを掴んだ船村は、四人の故郷に飛んだ。船村はそこで、四人を育てた教師から、一年前のひき逃げ事件の日に、歌手が故郷でコンサートを行っていたと聞かされる。ひき逃げを起したのは歌手で、青年が身代わりになったのではないかと推理した船村は、東京に戻って自分の推理を娘にぶつける。必死に否定する娘だが、歌手が約束を破ってイタリア行きの飛行機に乗ろうとしていると知ったとき、ついに真実を語った。
その頃、もう一人の青年はマネージャーの雇ったチンピラに刺されながら、執拗に歌手を付け狙う。空港への道で待ち伏せしたものの、返り討ちにあう青年。そこに駆けつけた特命課だが、歌手は「俺は知らない」となおも否定する。青年の落としたナイフを拾い、思わず歌手に襲い掛かる娘を制して、船村は狂ったように歌手を殴りつけるのだった。

タイトルから興味をそそられていたのですが、娘や青年たちの言動が不明瞭で、どうにも消化不良な一本。特に娘の身勝手な態度には、演技の拙さのせいもあって非常に不愉快にさせられました。また、どこかで同じようなストーリーを見た気がして気になって調べたところ、第82話「望郷殺人カルテット」と同じ脚本家で、ほぼ同じプロットでした。長く続いている番組には、こういうこともあります。


第262話 紅い爪!

2006年11月05日 11時42分17秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 辻理

学生時代の友人宅へ昇進祝いに招かれた紅林は、友人の母親で、学生寮で賄をしていた老婦人に再会する。帰路、老婦人と一緒になった紅林は、「結婚するときは、奥さんも同じ人間だということを忘れないで」と約束させられた。
その翌日、老婦人が自宅で洗濯中に殺害されているのが発見された。現場に駆けつけた紅林は、老婦人が珍しく紅いマニキュアをしていたことが気になった。
事件を知らせに老婦人の夫の会社に向かった紅林が見たものは、定年退職を迎え、まさに会社を去ろうとする夫の姿だった。夫が確認したところ、自宅から預金通帳と老婦人の衣類が無くなっており、物取りによる犯行と思われた。しかし、銀行に確認すると、夫の退職金も含めた全額を、事件の前日に老婦人自身が引き出していた。また、お通夜の席に現れた不動産屋の証言で、一週間ほど前に老婦人が一人でアパートを契約していたことが判明。そこには盗まれたと思っていた老婦人の衣類が運び込まれていた。夫はこれらの事実を全く知らなかったと言う。
そんな時、特命課に出版社の編集者と名乗る男から電話が入る。事件の重要な資料を持っていくと告げた編集者は、特命課を訪れる前に何者かに殺害された。殺害現場には、ペンキ塗りたての壁の前で争った形跡があり、犯人の着衣にもペンキが付いているものと推測された。出版社に確認したところ、熟年婦人を対象とした随筆コンクールに老婦人が応募しており、編集者はその原稿を持って特命課に向かったところを殺され、犯人に原稿を持ち去られたらしい。
一方、葬儀の前後で礼服を着替えていた友人に不審をいだいた紅林は、友人の妻から、事件当日に父親から友人宛に電話があったとの証言を得た。妻を友人宅に送った紅林は、その場で家宅捜査を開始し、ペンキの付いた礼服を発見する。
老婦人を殺害したのは夫で、友人が物取りの犯行と見せかけるべく偽装し、さらに証拠隠滅のために編集者を殺害したと推理する紅林。しかし、友人は頑なに否認し、夫は沈黙する。「いい年をして派手なマニキュアなんかしている女、母親じゃない」と毒づく友人に詰め寄る紅林。「貴様はいつおばさんがマニキュアをしているのを見た?」「・・・通夜の席だ」「嘘を言うな!マニキュアは貴様が通夜に来る前に、妹さんが拭き取っていた。貴様が見たとすれば、それは死体を偽装したときだ。」観念するかに思えた友人だが、「なぜ、親父が母親を殺す理由がある。動機は何だ?」とさらに抵抗を見せる。
やがて、老婦人の引越し先のアパートから随筆の控えが見つかった。そこには、35年もの間、ひたすら自分を犠牲にして夫と息子に尽くす生活に疲れ果て、夫の定年を機に新しい人生をスタートさせようとする決意がつづられていた。結婚以来、初めて付けた紅いマニキュアは、第二の人生をスタートさせる彼女の決意の証だったのだ。ここに至って、夫はついに犯行を自白する。会社に出かけようとした際に、老婦人から離婚の意思を告げられ、思わず犯行に及んだのだ。
「奥さんも同じ人間だということを忘れないで」老婦人の言葉に込められた哀しみを想い、憤る紅林。だが、友人は「俺だって被害者だ。親父が悪いんだ!」と父親を罵り、父親は「私には、何で妻があんなことをしたのか分からない。」と呟くのみ。事件は解決しても、紅林の心には喜びはなかった。

いわゆる『定年離婚』を描いた一本ですが、この言葉が登場するはるか以前に作られているあたり、特捜脚本家陣の時代を見る目の鋭さが窺えます。事件そのものも悲惨なものですが、何より哀しいのは、その真意が明かされた後ですら、老婦人の苦悩が夫や息子に全く理解されないという事実です。彼らにとって、妻や母親は、自分に尽くすのが当然だということでしょうか。紅林をはじめとする特命課の憤りも、彼らの胸には届かない。そこにこそ、この事件の悲惨さがあるのではないでしょうか。


第261話 ニューナンブ38口径!

2006年11月04日 11時41分20秒 | Weblog
脚本 竹山洋、監督 野田幸男

ある夜、交番勤務の老巡査が何者かに襲われ、拳銃を奪われた。老警官は負傷の身も顧みず、「私の拳銃で、誰かが撃たれるかもしれないんです、寝てなんていられません」と、捜査への参加を懇願する。
老警官は吉野の知人だった。数年前、捜査のために巡査部長試験に遅刻してしまった吉野は、同じく迷子を送っていて遅刻した老巡査と出会った。ともに試験を受けられなかった二人は、老巡査が行きつけの小料理屋で意気投合した。「私は交番巡査が好きですから」と淡々と語り、自分と違ってできの良い息子を誇らしげに紹介する姿を思い出しつつ、老警官の身を案じる吉野だった。
老警官が恐れていたように、奪われた拳銃は火を噴いた。一発目は麻薬捜査官を、二発目は買い物帰りの主婦を撃ち、いずれも傷を負わせた。両方の現場に居合わせた老警官に不審を抱く桜井。「老警官が襲われた場所を通りかかったが、その時刻には誰もいなかった」との証言もあり、神代は老警官の狂言と見て、吉野に張り込ませる。
その夜、老警官は弁護士の元を訪れた。吉野が様子を窺っていると、弁護士は老警官を振り払うように出かけ、その矢先に何者かに撃たれた。麻薬捜査官と主婦、そして弁護士。撃たれた三者をつなぐ糸を追う特命課がたどり着いたのは、1年前に老警官の起した発砲事件だった。当時、麻薬密売組織を捜査していた老警官は、組織が隠れ蓑にしていた商社の社長がバーから出てきたところを尋問。車で逃走を図る社長を威嚇しようと発砲したのだが、社長は麻薬を所持していなかった。マスコミは老警官の行為を非難し、その社長をマークしていた麻薬捜査官は、捜査を邪魔されたと怒り、「交番巡査の分際をわきまえろ!」と老警官を罵った。撃たれたのはその捜査官と、老警官に不利な証言をしたバーのホステス、そして社長に雇われ老警官を非難した弁護士だった。
老警官と出会った小料理屋の女将の証言から、吉野は拳銃を奪ったのは老警官の息子だと知る。息子の狙いは、麻薬組織に迫りながらも逮捕することができず、世間はともかく、同じ警察からも非難された老警官の無念を、父親に代わって晴らすことだった。
次に狙われるのは社長に間違いないと、商社へ急ぐ吉野。しかし、すでに社長は息子に呼び出された後だった。社長を撃とうとする息子の前に、駆けつけた老警官だが立ちはだかる。老警官は拳銃を取り返すと、「警官として、私はお前を許すわけにはいかない」と、銃口を息子に向ける。しかし、やはり引き金をひくことはできない。そこに飛びかかった社長ともみ合う中、銃弾は老警官の胸を撃ち抜いた。
ようやく駆けつけた吉野たちの手で、社長は逮捕される。老警官の死体にすがって泣きじゃくる息子に手錠をかけた吉野は、老警官の胸ポケットに収められていた遺書に気づく。そこには30年にわたり交番勤務を続けてきた誇りと、にもかかわらず巨悪に手を出すことを許されなかった無念さが綴られていた。

同じ組織にありながら、(特に刑事ドラマでの描かれ方には)天と地ほどの差がある刑事と警官。その立場の違いがもたらす悲哀を描いた一本です。老警官の声と息子の顔に、どこかで見聞きした記憶があったのですが、エンディングクレジットを見て納得。老警官は『大草原の小さな家』でオルソンさんの声を当てた草薙幸二郎氏、息子は『星雲仮面マシンマン』でマシンマンこと高瀬健を演じた佐久田修氏でした。こうした再会を楽しめるのも、昔のドラマを見る喜びの一つです。