特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第289話 死んだ筈の女!

2007年02月19日 22時22分11秒 | Weblog
脚本 竹山洋、監督 永野靖忠

粉雪の舞う夜、紅林はトラックで野菜の行商を営む夫婦を見かけた。女の顔に見覚えがあった紅林は、慌てて声をかける。女は「人違いです」と言って去っていったが、紅林は見過ごすことができなかった。それは、かつて紅林が通っていた定食屋の店員で、殺害された筈の女だったからだ。
女は2年前の夏、奥多摩渓谷で大量の血痕を残して行方不明になった。現場に残された母子手帳に父親として記載されていた男を探したところ、行方をくらましていることが判明。潜伏先を突き止め逮捕したところ、男は犯行を自供した。渓谷で女から妊娠を告げられた男は、会社の重役の娘と結婚話が持ち上がっていることを打ち明け、「子供を堕してくれ」と頼んだのだという。しかし、女が拒否して結婚を迫ったため、思わず刺してしまったのだ。結局、遺体が発見されないまま殺人事件と認定され、裁判では死刑が宣告された。
もし女が生きていたなら、男の罪状は大きく変わる。当時の模様を詳しく聞こうと、紅林は収監されている男を訪ねる。男は罪を悔い、「早く女の元に行って謝りたい」と刑の執行を待っていた。男の様子を女に伝え、「奴も2年間苦しみ続けてきた、もう許してやれないか」と説得する紅林だが、女は頑なに人違いだと言い張る。
女の身元を探ろうと市役所を訪ねた紅林は、女に住民登録がなく、そのため母子手帳の発行を受けられなかったことを知る。女の指紋を採取しようと機を窺うが、それに気づいた女は手袋を外さず、執拗に指紋を取らせまいとする。そこで、女の後を追って高杉婦警が銭湯に入り、女のわき腹に残っていた刺し傷を確認。それを証拠として同行を迫ったところ、女はガスコンロに火をつけて手を突っ込み、指紋を消そうとするのだった。「そこまでして男を死刑に追いやりたいのか」と、女の執念に愕然とする紅林だが、船村は「女は自分の過去だけではなく、亭主の過去を守ろうしているのでは」と指摘する。夫の過去を調べたところ、かつて九州で外科医をしており、手術ミスで患者を死なせて行方をくらまし、業務上過失致死の罪で追われる身だと判明。夫を逮捕し、女も連行する紅林。女に日陰の生活を強いていることを悔いていた男は、すべてを自白する。
患者を死なせたことを悩み、自殺しようと奥多摩渓谷を訪れた男は、上流から流されてきた女を発見し、手当したのだという。「お腹の赤ちゃんもあなたが?」と問う紅林だが、夫は「そのときは妊娠などしていなかった」と証言する。2年前の事件のきっかけとなった妊娠は、女の嘘だったのだ。愕然とする紅林に、女は全てを語る。貧しい学生だった男と恋に落ちたこと。会社に入ってから、男が変わっていったこと。自分から別れ話を持ちかけたこともあったが、そのたびに男が「愛している」といってくれたこと。男の本心を知るために、妊娠したと偽ったこと。刺されて渓流に落ちた瞬間も、男が飛び込んで助けてくれると信じていたこと。流されていく自分を見下ろす男の着ているシャツが、なぜだか重役のお嬢さんからプレゼントされたものだと分かって、そのとき、たまらなく惨めな気持ちになったこと・・・泣き崩れる女に、紅林は語る。「今の君は、戸籍かが消えているというだけでなく、心が死んでいる。昔の天真爛漫なあの子に戻ってくれ」自分が生きていたと認め、男の再審に証言することは、戸籍や名前を取り戻すと同時に、男への恨み一色に染められた人生をやり直すことにもなるのだと、真摯に説得するの紅林だった。
その後、戸籍を取り戻して取得した母子手帳を手に、九州に移送される夫を見送る女の顔には、昔のような明るい笑顔が戻っていた。今日も一人、トラックで野菜を売る女を、紅林は遠くから優しく見守るのだった。

「女の言うことを真に受けてはいけない」という教訓が心に痛い一本です。男に裏切られ、殺された被害者に見えた女が、実は妊娠したと偽って男を追い詰めていた。その一方で、女を殺したこと悔い、死刑を覚悟しているかに見えた男が、助かる可能性があると知るや、「刑事さん!助けてください!お願いします!」と無様なまでに泣き叫ぶ。どちらも一方的に善悪の判定を下せないのが、若い男女の愛憎というものなのでしょうが、それに比べて胸を打つのが、彼らを見守る老人たちの姿です。事情も聞かずに野菜の仕入れを請け負う八百屋さんも良い味を出していますが、特に印象的だったのは、女を娘同然に可愛がっていた定食屋の老夫婦です。
ドラマ中盤、紅林は女の身元を確かめるべく、この老夫婦を伴ってアパートを訪ねます。女将さんは女を見た瞬間、抱きついて涙するのですが、女は叫ぶように「人違いです」と言って眼を逸らします。そんな女の様子を見て、親父さんは「あの子じゃない。人違いだ」と断言し、強引に立ち去ります。女の新しい生活を思いやり、怒ったような顔で涙をこらえる親父さんの姿が胸に迫ります。
また、一つ考えさせられるのが、同じ行為であっても結果によって量刑が変わってしまうという現在の裁判のあり方です。量刑とは、犯罪者の行為を裁くものではなく、結果に対する責任として課されるものだとすれば、犯行へと至らしめた悪意(あるいは善意)は何によって裁かれるのでしょうか?門外漢の戯言ではありますが、近い将来、栽培員制度が現実のものになることと考え合わせて、妙に気になってしまいました。


3 コメント

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わたしの傑作選 (コロンボ)
2008-05-21 22:25:28
特捜のいい味が出ている(未だDVD選から漏れていますが)傑作で千楽食堂の親父さんが我が子同然にかわいがっていた知子の無事を内心喜びながらも「友ちゃんじゃねえ、人違いだ。帰ろう。奥さん、すいませんでした。」と帰っていくシーンで涙が止まりません。ロケ地マニアとしては(千楽食堂は未発見)友子が青果の行商をする団地が知りたくて、探しました。看板にあるクリーニング店から判明しました。東武東上線沿いの北坂戸団地で線路の反対側の犬猫病院からもほぼ間違いないでしょう。
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お待ちしてました (袋小路)
2008-05-26 21:06:55
いよいよコロンボさんからのコメントが始まり、嬉しく思っています。私もご指摘のシーンが本編の白眉だと思います。今後もロケ地探訪の話題など、楽しみにしております。
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Unknown (カオリナイト)
2024-05-21 07:13:04
同じような話がGメン75にもあるのを思い出しましたよ。
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