特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第299話 蒸発妻を探して!

2007年03月30日 01時54分08秒 | Weblog
脚本 大久保昌一良、監督 村山新治

ある夜、吉野は顔見知りのセールスマンが酔った勢いで喧嘩を引き起こす場面に出くわす。助けに入った吉野に、セールスマンは妻に逃げられたことを明かし「俺なんか死んだほうがいいんだ」と口走る。「一緒に奥さんを探してやる」と励ましつつ、酔いつぶれたセールスマンを介抱する吉野だが、少し目を放したすきに、セールスマンは姿を消していた。
翌日、セールスマンと飲んだスナックの付近で、主婦の絞殺死体が発見された。聞き込みの結果、被害者は近くのラブホテルで浮気相手らしき男と一緒だったことが判明。男のモンタージュ写真をもとに捜査を開始しようとした矢先、吉野にセールスマンから電話が入る。酔っているらしく要領を得ないため、苛立った吉野は電話を切る。
出張から戻った被害者の亭主を迎えた吉野は、妻の裏切りと死を受け止めきれずに錯乱する亭主の姿に、やりきれない思いを抱く。その思いを紛らわせようと飲みに出た吉野は、泥酔してタクシーに轢かれかけるセールスマンを発見。行きがかり上、やむなく自宅まで送っていく。逃げた妻についての愚痴を聞かされ、閉口する吉野。妻は勤め先の上司から紹介された元ホステスだったが、セールスマンは妻を溺愛しており、逃げられた今でも未練が尽きない様子だった。
その後、被害者の亭主が依頼していた探偵社の調査結果から、浮気相手が被害者のかつての勤め先の上司だと判明。上司を取り調べたところ、被害者との関係は認めたものの、犯行時刻には帰宅していたと主張。駅員の証言で上司のアリバイは証明されるが、新たな容疑者として、上司が見かけたという酔っ払いが浮上する。犯行時間近くに、その近くで姿を消したセールスマンに疑惑をいだく吉野だが、セールスマンは犯行を否定する。念のために尾行した吉野が見たものは、妻の行方を突き止めようと、かつて勤めていたキャバレーを訪ねるセールスマンの姿だった。見かねた吉野の助力もあって、妻が浮気相手らしき男を会っていた料理屋を突き止める。
その頃、船村は現場近くで凶器と思われるネクタイを発見。その裏に縫い取られた名前はセールスマンのものだった。同情心を隠して逮捕に向かう吉野だが、セールスマンは姿を消していた。セールスマンの勤め先を訪ねた吉野は、同僚の証言から、妻を紹介した上司こそが浮気相手だと知る。
一方、料理店の店員から真実を聞かされたセールスマンは、上司の自宅に踏み込む。そこでは妻と上司がベッドを共にしていた。妻につかみかかろうとするセールスマンを、駆けつけた吉野が取り押さえる。「放してください、僕はもう一人殺してるんだ!」と叫ぶサラリーマンに、「あんたみたいなノロマに、よく人が殺せたわね」と毒づく妻。「そんな奴は厳罰にしてくださいよ」とふてぶてしく言い放つ上司に、吉野の怒りが爆発する。「こいつは確かに人を殺した。しかし、奴の心は貴様らのように腐っちゃいない。俺が奴だったら、同じようなことをしたかもしれん」

仕事もうまくいかず、妻には裏切られ、何をやってもうまくいかない男。何よりの悲劇は、「女は男を裏切るもの」という当たり前の事実を受け入れられなかったことでしょう。吉野がラストで言い放ったように、こんな女は殺されて当然。いや、むしろ殺すべきでしょう。とはいえ「吉野さんから見れば、俺なんか男のクズでしょうね」などの甘えたことを抜かす男に同情の余地はありません。吉野のあきれるほどの面倒見の良さに、微笑ましさと同時に、「甘すぎる」という苛立ちを覚える私でした。

第298話 カナリアを飼う悪徳刑事!

2007年03月28日 19時21分16秒 | Weblog
脚本 大野武雄、監督 辻理

特命課に届いた差出人不明の手紙。その内容は、ある刑事が過去に逮捕した人間を強請っていると告発するものだった。事実を確かめるべく尾行したところ、刑事はある男を執拗に追っていた。刑事の過去を調べた結果、探しているのは5年前にホステス殺しで逮捕した男だと判明。その事件とは、泥酔した男が駅のホームでホステスにぶつかり転落させ、列車に轢殺させてしまったもので、男は過失致死で服役し、一年前に釈放されていた。
男が自分と同じ孤児だと知って共感を覚えた叶は、刑事が男の勤務先で過去をふれ回るのを目撃し、思わず飛び出す。男を解雇しようとする上司に「彼はちゃんと罪の償いもしているんです」と弁護する叶だが、「世間はそうは見てくれない」と無情にも解雇する上司。男の後を追った叶は、自殺を図る男を止め「クビになったくらいで死ぬ奴があるか!」と叱咤する。刑事に食って掛かる叶だが、刑事は「5年前の事件は事故ではなく殺人だ。俺は奴を追い詰め、化けの皮をはいでやる」と主張する。「奴は自殺までしようとしたんだぞ」と反論する叶だが、刑事は「それは狂言だ。奴にだまされるな」と強固な態度を崩さない。
その翌日、男に呼び出された叶は、刑事が男に暴行を振るう現場に出くわす。強請と傷害の現行犯で刑事を取り調べる叶だが、刑事は「奴の芝居だ」と主張する。同じ頃、船村は匿名の手紙の差出人が男らしいと突き止める。叶が問い詰めると、男は自分が出したものだと白状し「でも、内容に嘘はありません」と涙ながらに訴える。「奴の行為は卑劣かもしれません。しかし、他に方法がなかったんです」と弁護する叶に、神代は刑事の釈放を命じる。釈放された刑事は墓地を訪れ、同じ墓標を拝む女に「これで、立派な墓を作ってやってくれ」と預金通帳を渡して立ち去る。女は死んだホステスの妹だった。ホステスと刑事の関係を尋ねる叶だが、妹は何も答えない。
その後の調べで、男とホステスの過去が明かされる。事件当時、刑事は覚醒剤の卸元としてクラブ経営者を捜査していた。捜査のためにクラブに潜り込んだホステスが、麻薬取引の情報を刑事に伝えようとした矢先に、あの事故が起こったのだ。刑事はクラブ経営者が手を回した殺人だと確信していたが、男とクラブ経営者を結ぶ証拠は何も無かった。
そんななか、男のケガが狂言だったという証拠が見つかり、愕然とする叶。同じ頃、刑事のもとに男から「自首する」との電話が入る。呼び出された駅に出向いた刑事に、男は「あの事故は殺人だった」と告白するが、安心した刑事のスキをついて線路に突き落とす。
刑事の遺体の前で、ホステスの妹から明かされる過去。ホステスは元麻薬中毒者だったが、刑事のおかげで立ち直り、刑事の協力者となっていた。刑事の反対を押し切ってクラブに潜入したホステスの死に、刑事は責任を感じ執拗に男を追っていたのだ。
姿を消した男を必死に探す叶たち。そんななか、男の彼女のもとに、男から金を無心する電話が入る。自首を勧める彼女に、なおもしらばっくれる男。そこに姿を現す叶。男は彼女を人質に取り、叶を罵る。卑劣な男に叶の鉄拳が炸裂。やがて黒幕のクラブ経営者も逮捕され、事件は解決した。

いろいろとドラマ的な紆余曲折はあるものの、周囲の同情を買おうとする男の薄っぺらさが鼻についてしょうがなく、「こんな奴に騙されるなよ」と叶にツッコミを入れてしまいました。タイトルにあるカナリアも特に掘り下げられるわけでもなく、ラストシーンで刑事の部屋に残されたカナリアを、ホステスの妹が見つめているのみ。その部屋を見上げる叶がクラブ経営者の逮捕を告げるナレーションで唐突に終わるなど、どうにも物足りない一本でした。
ちなみに、悪徳刑事を演じたのは、先日の『ウルトラマンメビウス』で、昔と変わらぬ勇姿を見せたモロボシダンこと森次晃嗣。刑事ドラマや時代劇(必殺シリーズなど)などにゲスト出演しては、善悪不明な役柄を演じることが多く、いつも「今回はどっちだろう」とハラハラさせてくれます。今回は「悪人と思わせて実はいい人」だったわけですが、タイトルに「悪徳刑事」とあるのは、視聴者を欺いてるようで、ちょっとどうかと思います。

第297話 手配書を破る女!

2007年03月26日 13時00分47秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 天野利彦

ある夜、桜井は掲示板に貼られた指名手配書を破っている若い娘を見かける。不審に思い声を掛けた桜井に、娘は手配書の犯人が自分の父親だと告げ「だけど、父はこんな怖い顔じゃありません」と涙ぐむ。娘の父親が犯した事件とは、11年前、街工場の資金繰りに苦しんだ末に、親戚の会社社長を撲殺し、金を奪って逃走したというものだった。犯行後、妻子を残したまま逃走した父親は、いまだ消息を絶ったままだという。やがて母親は病死し、残された子供たちは、不幸な境遇にもめげずに健気に生活していた。
数日後、一人暮らしの老人が殺害され、金が奪われた。現場に落ちていたボタンには、手配中の父親の指紋が残されていた。桜井は娘に接触し、父親が東京に戻っていることを告げ、その居場所を尋ねる。そんな桜井の捜査を「いくら凶悪犯の娘だからって、彼女にも生活がある」と非難し、目立たぬように見守るべきだと主張する叶。しかし桜井は「父親が逃亡している限り、逃亡犯の娘という事実は消えない。なまじ同情するよりも、早く父親を逮捕したほうが、娘のためになる」と、叶の言葉に耳を貸さない。
そんなとき、娘に父親からの伝言を持って接近する男があった。父親が大切にしていた人形(かつて娘がプレゼントしたもの)を持って、「あんたの父親が金に困っている。あんたが身を売るなら金を用立ててやる」と迫る男。その後、さらに娘の部屋に金を無心する父親からのメモが届けられ、思い詰めた娘は歓楽街で働き口を探す。「父親の罪を背負うことはない」と説得する桜井だが、娘は「あなたにとっては凶悪な犯人かもしれない。でも、私にとっては優しい父なんです」と訴える。その夜、桜井は身を売ろうとして果たせず、夜の公園で一人泣いている娘を発見。「なぜ、そこまでする?」と問う桜井に、娘は11年前の事件の真相を告げる。当時、父親は金策に駆け回った末に手形を入手していたが、その手形は娘の火の不始末によって焼失してしまった。それが事件の引き金になったのだ。
娘に金を用意させようとした男を締め上げ、父親の行方を吐かせようとする桜井。しかし、男は父親の消息を知らず、父親の友人と名乗る男に頼まれただけだという。そんな男に、桜井は「金は俺が用意するから、貴様は黙ってその金を娘に貸してやれ」と命じる。金を得た娘は、父親の待つ浅草花やしきへと向かう。そこは幼い頃、父親と遊んだ思い出の場所だった。帽子で顔を隠した男が娘に接触し、金を受け取って逃走する。遮る娘を引き離し、男を捕える桜井。しかし、男は全くの別人だった。男は、父親が逃走先の北海道で知り合った男で、「どうしても子供に会いたい」という父親とともに東京に出てきたが、父親は東京に着いて間もなく病死したという。「いざとなったら子供に金を用立ててもらえって、奴が言ったんだ」と主張する男に、「父親を装って強盗を働いたのは貴様だろうが!」と怒りの鉄拳を振るう桜井。発見された父親の遺体にすがりつき、「お金なら、私がどんなことをしても用意したのに」と泣く娘に、桜井は敢えて「あのお金は、私がお父さんを捕えるために用意したものだ」と告げるのだった。

逃走犯人の娘に刑事がしてやれることは何か?そんなテーマのもと、桜井の不器用な優しさを描いた一本です。自分の身を売って父親の逃走資金を用立てようとする娘に対し、あえてその気持ちを捜査に利用することで、過去への訣別を促す桜井。それは、父親の犠牲(娘にとっては「犠牲」ではなく「償い」なのですが)になるため人生を棒に振ろうとする娘を、自分が憎まれ役になってでも救おうとする桜井の優しさの現れです。そんな桜井の姿に、当初は批判的だった叶も沈黙するしかありませんでした。
ラストシーン、葬儀場で父親の遺品を娘に渡す神代たち。それは子供たちと一緒に映ったボロボロの写真でした。しかし、そこに桜井の姿はありません。桜井は一人、娘と出会った掲示板で、破られた父親の手配書の欠片を剥がし、破り捨てるのでした。
なお、実は娘は母親の連れ子であり、実の親子ではないことが分かりますが、それは蛇足というものでしょう。

第296話 カーリーへアの女!

2007年03月26日 12時40分33秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄

長期勤続者を対象とした特別の昇任試験が行われることになり、特命課では船村が該当する。最初は「この年になって試験なんて」と渋っていた船村だが、「ハワイの娘さんに、お孫さんができたときのことを考えるんだな」との神代の言葉に、ようやく受験を決心。周囲の助けを借りつつ、試験勉強に励む日々が続いていた。
そんななか、印刷会社の社長が刺殺され、特命課が捜査に乗り出す。被害者の身辺を調査したところ、取引先や従業員の評判は良いものの、印刷会社の経営は芳しくなかった。また、結婚当初は一流企業に勤めていた被害者が、同社の倒産後は細々と印刷会社を経営していることに、一流大学出身の妻は不満を覚えているものと思われた。
この間、受験を控えた船村を気遣って、捜査に参加させまいとする特捜課の面々だが、当の本人は事件が気になって勉強が手につかない。その後、被害者の取引先の男が特命課を訪れ、「被害者がカーリーへアの若い女とラブホテルに入るところを見た」と証言し、とっさに撮影したという写真を見せる。男の証言をもとに、被害者の女性関係を調べたところ、第一発見者である女性従業員との関係が発覚。逃走を図った女性従業員を連行し、尋問したところ「犯行当夜は行きつけのスナックにいた」と主張する。しかし、スナックのバーテンは「その日、彼女は来ていなかった」と証言。女性従業員への嫌疑は深まる。
そんなとき、女性従業員の友人という女が特命課を訪れる。「かつて彼女は就職活動中、最終面接の日に誤解から警察に連行され、就職できなかった過去がある。彼女の警察に対する不審な態度は、その過去から来ている」と主張する。その言葉に、船村は顔色を変える。
そして船村の試験当日、神代のもとに「試験場に船村が来ていない」との連絡が入る。慌てる特命課の面々の前に、バーテンを連行してくる船村。「試験のことは申し訳ない」と皆に詫びつつ、船村はスナックに残されたテープを鑑識に調べさせる。そこから女性従業員の指紋が発見されたことで、ようやく彼女の無実が証明される。バーテンの証言こそが嘘だったのだ。「試験を捨ててまで、事件に首を突っ込んだ理由は何だ?」と問う神代に、船村は「かつて誤解から彼女を連行し、彼女の人生を台無しにしたのは私だ」と告白する。
その後の調べで、被害者が妻を受取人とする保険金に入っていたことや、取引先の男とバーテンの間に金銭の受け取りがあったことが発覚。さらに、取引先の男が撮ったという密会現場の写真は、被害者の妻が撮影したものだと判明し、妻と取引先の男の共謀による犯行だと明らかになる。事件が解決した後、女性従業員にかつての過ちを詫びる船村だが、昇進を棒に振ってまで自分の潔白を証明してくれた船村の誠意に、彼女の警察への不信感は拭われていた。

「疑うことが仕事」である刑事の哀しさを知り尽くしながら、それでもなお、その仕事に誠実であろうとするおやっさんを描いた一本です。
かつて、刑事の仕事を全うするために、罪も無い女性の人生を台無しにした過去が、おやっさんの心を苛みます。昇進を棒に振ってまで、そして周囲の期待を裏切ってまで、おやっさんが救おうとしたもの。それは、再び無実の罪に問われようとする女性はもちろん、それに加えて、自分の刑事としての誇りだったのではないでしょうか?

もう一つのポイントとなるのが、被害者の妻と女性従業員の対比です。ドラマ中盤、印刷会社の社員から特命課に、女性従業員を庇う電話が掛かっていってきます。「あの子はよく、自分で漬けた漬物を会社に持ってきて、皆に食べさせていた。そんな優しい娘が、社長を殺すはずがない」と言うのです。特に被害者は「こんなうまい漬物は、東京に出てきて初めてだ」と喜んだらしく、それが二人の関係につながったものと思わせます。
その一方で、被害者の妻は、零細印刷会社を営む夫に不満を抱き、必死に金策に走る夫を支えることもなく、同人誌(非オタク系)を主催することで、一流大学出身というプライドを守ろうとします。ドラマ終盤で保険金目的の犯行が明らかになったとき、「私は、あんな男の犠牲になるのは真っ平だったのよ!」と叫ぶ妻に、おやっさんはこう言いました。「あんたの夫は、あの娘の作った漬物を喜んで食べていた。何であんたは、漬物一つ作ってやれなかった?」愛情の対象ではなく、世間に対するステイタスとしてしか夫を評価しようとしない妻に対して、おやっさんと同様の怒りを覚えるとともに、「独身でよかった」と思わずにはいられませんでした。

第295話 モーニングサービスの謎!

2007年03月16日 01時10分51秒 | Weblog
脚本 峯尾基三、監督 松尾昭典

早朝、新宿のサラ金事務所を覆面強盗が襲った。現金を奪った犯人は、警官に追われて近所の喫茶店に立てこもる。報せを聞いて現場を包囲する特命課。店内に電話をかけた橘だが、受話器からは銃声とともに女の悲鳴が響く。「早く包囲を解いて!私たちも殺される!」意を決して吉野が踏み込んだところ、そこには覆面の犯人が射殺死体となって倒れており、客らしき男が銃を握り締めて震えていた。
男は劇団の演出家で、恋人である劇団員の女とともに喫茶店を訪れていたところ、事件に巻き込まれた。橘から電話がかかった隙に、逃げようとしたマスターが射殺された。次は自分たちの番だと覚悟を決めた演出家が、犯人の不意をついて銃を奪おうとし、もみ合いになった結果、射殺してしまったのだという。
事件は正当防衛として解決。演出家は一躍マスコミの寵児となったが、犯人の解剖結果から、意外な事実が判明する。犯人の胃の内容物は、事件のあった喫茶店のモーニングサービスと全く同じだったのだ。吉野の記憶では、現場に残ったモーニングの食器には、何も残っていなかったが、それを注文したはずの演出家は、ピクルスが大の苦手だった。「喫茶店でモーニングを食べていたのは、演出家ではなく、死んだ犯人だったのでは?」演出家に疑念をいだく吉野だが、犯人との間には何の接点も見つからない。強盗の身許を調べたところ、探偵社の調査員をしていたことが判明するが、担当していた調査に演出家や女との関連はない。しかし、さらに過去を遡って調べたところ、かつてシナリオ学校に所属していたことが判明し、その学校の名簿から、同期に演出家の名前が見つかった。
公開を控えた舞台の稽古中に、演出家を訪ねた吉野。強盗との過去の接点や、ピクルス嫌いなど、発覚した事実をぶつけて揺さぶりをかけるが、「面白いお話だが、何の証拠があります」と冷ややかにあしらわれる。証拠として、覆面に残されていた髪の毛と、演出家の髪の毛を比較して見せる吉野。それでも「何の動機がある!」と抵抗を見せる演出家に、吉野は公演を控えた舞台の脚本が、強盗の脚本を盗作したものだと指摘する。脚本に登場する家族は、強盗の家族構成と同じであり、強盗が自らの過去をもとに書いたものであることは明白だった。さらに、橘らの尋問ですべてを自白した女が現れると、演出家はついに観念する。吉野が演出家を連行すると、後には無人の舞台だけが虚しく残されるのだった。

何も苦労して演出家を自白させなくても、女さえ自白させれば解決したのでは・・・と、脚本の底の浅さに興醒めしてしまう一本です。この時期、メインライターの長坂氏が一時特捜を離れていることもあって、「ローテーションの谷間」的な印象の脚本家が登場していますが、そんなときに限って主役を務める吉野が少し気の毒です。

第294話 母のメロディーが聞こえた!

2007年03月15日 01時10分07秒 | Weblog
脚本 押川國秋、監督 藤井邦夫

冒頭、それぞれの正月を楽しんでいる特命課の面々。煙草をくゆらし年賀状に目を通す神代課長。たまった洗濯物と格闘する橘。ジョギングで初詣での桜井。近所の子供たちとコマ回しに興じるおやっさん。宿直の叶と吉野のもとに晴れ着姿でおせち料理を届ける高杉婦警。そして今回の主役である紅林は、渋い和服姿でパチンコを楽しんでいたところ、街角で行き倒れ寸前の少年を保護する。事情を聞いたところ、銀座のレストランで働く母親を探して、福島から一人で自転車に乗ってきたという。母親は、父親の暴力に耐えかねて家を出たのだが、その父親が年末に急死したのだ。
高熱で倒れた少年を病院に預け、母親の捜索を開始する特命課。銀座のレストランをしらみつぶしに探すものの、それらしい女は見つからない。「田舎から出てきたばかりの女が、いきなり銀座のレストランで働けるものだろうか」という船村の疑問から、捜索範囲を「○○銀座」と名のつく商店街まで拡大。たまたま見かけたGINZAというレストランで、ようやく母親が働いていたことが判明するが、その店をやめた後の消息はつかめない。
そんななか、質屋からの通報で、母親らしき女性が男物の高級時計を質入していたことが判明。身分証明書として提示した免許証の名前は、間違いなく母親のものだった。質屋に勤め先として記載していたスナックを調べた紅林だが、スナックのオーナーやバーテンは、そんな女は知らないと強固に否定する。バーテンが窃盗犯として指名手配されている男だと気づいた紅林は、女連れでビジネスホテルに泊まっていたところを逮捕する。しかし、一緒にいた女は母親ではなかった。男は母親から鞄を窃盗し、そこに入っていた免許証を利用して、共犯の女に盗品を質入させていたのだ。
「一緒に母親を探す」という少年を連れて、男が鞄を窃盗したという高田馬場周辺を歩き回る紅林。盲人用信号から流れるメロディーを耳にした少年は、母親からの電話に、このメロディーが聞こえたと言う。『通りゃんせ』の後に続いて『故郷の空』が流れたという少年の証言から、該当する交差点をしらみつぶしに探す特命課。さらに、母親が電話で「東京は面白いところ。土の中を電車が走ってるかと思えば、ビルの上に真っ赤な鳥居がある」と語っていたことを知ると、空からヘリで鳥居のあるビルを探す。
ようやく鳥居の見える交差点を探し当て、少年とともに、行き交う人の顔をひたすら見つめる紅林たち。時間はむなしく流れ、刑事たちの顔に諦めの色がにじみ出したとき、ついに少年は夕闇の中に母親の顔を見出した。母親の胸の中で泣きじゃくる少年を、紅林は感慨深げに見つめるのだった。

生き別れの母親と少年の再会という、「泣いてくれ」と言わんばかりの設定ですが、それだけで視聴者の涙を得られるほど甘くないのが刑事ドラマの難しいところ。広い東京で一人の女を探すのは、確かに難しいことでしょうが、ただしらみつぶしに探すだけでは芸がありません。長坂氏をはじめ、他の脚本家であれば、そこに一ひねりも二ひねりもいれたことでしょう。外道な発言だと承知で言えば、いっそ母親が都会で悪に手を染めていたほうがドラマ的に盛り上がったのではないかと思います。別に人の不幸を望んでいるわけではないのですが、「お母さんと出会えてよかったね」と素直に喜べないところが、十数年にわたり刑事ドラマを見続けてきた男の悲しいサガとでも言えるでしょうか。
ちなみに、ドラマの核となるメロディー『故郷の空』ですが、タイトルだけではピンと来ない人も多いでしょうが、メロディーを聴けば知らない人はいないでしょう。歌詞には何種類かあるようで、私の故郷では「誰かさんと誰かさんが麦畑・・・」でしたが、ドラマの中では「夕空晴れて秋風吹き・・・」でした。昔NHKの連続テレビ小説「はね駒」(主演:斎藤由貴)でこの歌詞を聴いたときは、すごく違和感があったのですが、どうやらこれが一番メジャーな歌詞なのでしょうか?全くの余談ながら、少し気になってしまいました。


第293話 木枯らしの街で!

2007年03月08日 21時36分22秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 辻理

年末をハワイの娘のもとで過ごそうと休暇をとった船村は、健康診断の結果を聞きに訪れた病院で、病気の母親に連れられた子供と出会う。食事に入ったレストランで、子供と再会する船村。行きずりの若い女に子供を託した母親は、止めようとした船村の目前で、ビルの屋上から飛び降りる。父親とは早くに死に別れたらしく、一人残された子供は施設に送られることになる。子供になつかれた女とともに、船村は荷物をまとめるために子供を家まで送っていく。
同じ頃、サラ金事務所に強盗が押し入った。石油をぶちまけて火を点けると脅す強盗に、居合わせた客が飛び掛る。弾みで火が点き、客は焼死。強盗はその客の鞄を奪って逃走した。桜井と叶は、その鞄を質入れしたチンピラを発見し、連行する。チンピラは「ガソリンの匂いを漂わせた男が捨てたのを拾った」と主張する。
一方、送っていった子供の家で、船村は子供の描いた絵に目を止める。そこには両親と一緒に動物園に行った光景が描かれていた。施設の者が迎えに来たが、子供は女にすがりついて拒否する。そんな子供を抱きしめ、「父親が生きてるなら、探してやろうよ」と言い張る女。船村はハワイ行きを諦め、母親の残した手帳をもとに、父親の捜索を開始する。そんななか、具合を悪くして女が倒れ、船村は女が妊娠していることを見抜く。
その後、疲れて眠る子供を連れて、食事をとる船村と女のもとに、釈放されたチンピラが合流。チンピラは女の恋人だったが、ヤクザの命じるままに、女に売春をさせていた。身重の女に客を取らせるチンピラを、船村は叱りつけた。
子供を施設に送る決意をする船村だが、施設の人の名刺は子供の家に置き忘れていた。女の指示で、名刺を取りに子供の家に向かうチンピラ。そこには、ニュースで母親の自殺を知った父親が待っていた。父親を待ち合わせ場所へ連れて行こうとしたチンピラだが、コートに残ったガソリンの匂いから、相手がサラ金強盗だと気づく。逆上した父親=強盗は、チンピラを包丁で刺す。駆けつけた桜井に、待ち合わせ場所を言い残してチンピラは息を引き取る。やがて、待ち合わせ場所に現れた父親は、船村と女に連れられた子供の前で、張り込んでいた特命課に逮捕される。
ラストシーン、売春から足を洗って子供を引き取ることを決意した女は、「これから旦那と子供を連れて帰省するから」と田舎に電話をかける。チンピラの死を知らず、無邪気に笑う女と、若い二人の再出発に目を細める船村。一人、チンピラの死を知る桜井は、言い出すことができぬまま、苦い顔で立ち尽くすのだった。

年の瀬が押し迫った街で、二組の男女が織り成す物語を軸に、さまざまな人生模様を描き出した一本です。
准看護婦時代、特異体質の子供に打ってはいけない注射を打ち、死なせてしまった女。誰よりも尊敬していた父親が、目の前で刑事に逮捕されるのを見て、以来誰も信じなくなったチンピラ。病を抱えながら幼い子供を育てる日々に疲れ、自殺する母親。再会した妻を病気から救ってやろうと、サラ金強盗を働く男。
ドラマの軸を担う4人だけではありません。母親と関係を持ち、結婚を匂わせていたスーパーの店主。人手不足のため、心ならずも准看護婦に過酷な労働を強いる医者。金策に駆けずり回っていた夫が焼死し、自殺を図るその妻。ほんの端役でしかない登場人物一人ひとりに、それぞれのドラマがあることを、わずかなシーンの中で積み上げていく脚本の妙には唸らされます。
もちろん、特命課の刑事たちも同様です。主役を務めた船村はもちろん、一人ひとりが短いシーンの中に確かな人間味を発揮しています。たとえば、定年を迎えて商売を始めようとしていた田舎の叔父のために、定期預金を解約して帰省しようとしている紅林。その紅林と連絡がつかないとの報告を受けた神代は、「心配ない、奴なら十円玉一枚あれば、必ず連絡してくる」と応じます。神代の言葉どおり、帰省を取りやめて捜査に加わった紅林は、焼死した客の自宅を見舞います。そこで自殺を図ろうとした妻を発見すると、「少しでも役に立つなら、これを使ってくれ」と、親戚のために用立てていた小切手を差し出すのです。
その他にも、娘への土産を楽しそうに選ぶ船村に、事件を告げられない叶(さらに、ラストではそのことを船村に詫びるという潔さ!)。逮捕した父親に子供が近づいてくるのに気づき、慌てて父親の手錠を隠そうとする橘。さり気ないシーンの積み重ねの中に見え隠れする暖かな視線が、まさに特捜らしさを感じさせる名編と言えるでしょう。



第292話 わらの女Ⅱ 風に舞う御陣乗太鼓!

2007年03月07日 21時35分28秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 天野利彦

海から救出した内縁の妻を運び込んだホテルで、紅林は彼女と高校生時代に同級生だった仲居と出会う。「宝石商を殺した犯人を知っているのか?」「金沢で連絡を取ろうとしたのは誰だったのか?」「あなたを船から突き落とした女は何者なのか?」仲居とともに尋問する紅林だが、内縁の妻は沈黙を守るだけだった。
一方、特命課では「内縁の妻は犯人を知っている。犯人は口封じのために女を使って内縁の妻を殺そうとし、それが失敗したので邪魔になった女を殺したのでは?」と推測。死んだ女が「男と一緒に能登に行く」と言っていたとの証言を得て、橘と叶も能登へ飛ぶ。
東京に残った桜井と船村は、デザイン学校時代の同級生から、内縁の妻と恋仲だった男の存在を知る。彼女を宝石商に紹介したのもその男らしく、同級生は「奴は、彼女を宝石商に売った!」と罵る。男の身辺を洗ったところ、数日前に多額の借金を清算し、能登に向かっていた。内縁の妻に迫る危機の切実さを知り、神代らも能登へ向かう。
詳しい情報を得た紅林は、「宝石商を殺したのは、あなたの恋人だった男なのか」と内縁の妻を問い詰める。男の名を聞いて驚く仲居。男もまた同郷であり、高校時代からの恋仲だった。そんななか、内縁の妻は仲居の助けを得て行方をくらます。「彼女は殺されるかも知れないんだ!」仲居を問い詰め、かつての逢引場所を知った紅林は、そこに急行する。
男と再会した内縁の妻は、自分を殺そうとする男に身を委ねる。彼女は、男が宝石商から金を受け取っていた事実を知らず、自分が男を裏切って宝石商と結婚したのだと、自責の念に捕らわれていた。それゆえ、男が宝石商を殺したことを知りつつ、沈黙を保っていたのだ。ようやく駆けつけた紅林だが、近づくサイレンに、二人は再び行方をくらました。
休暇中に見た光景を思い出した紅林は、藁人形を売っていた老婆を訪ねる。老婆は男の母親だった。そこに内縁の妻を発見した紅林。老婆は彼女を「息子はその女に騙されて、オレを捨てて東京に行ってしもうた。全部その女が悪いがや」と罵る。男をかばい続ける内縁の妻に、「奴は、あなたを金で宝石商に売った」と説得する船村。口では「嘘です!」と言いながらも、女は半ばその事実を知っていた。しかし、それでも男をかばう。「あの人は、私を利用するつもりなんかなかった。人から頼まれたら、どんなことでもしたくなる優しい人なんです」女の愚かさに呆然とする船村と紅林。「いつまでも夢見てるんじゃない」「あなたは奴に殺されかけたんですよ。そんな男のために・・・」船村の叱咤も、紅林の誠意も、内縁の妻には届かない。
男が同地の観光名物である御陣乗太鼓の名人だと知った紅林らは、会場となる海岸に張り込む。砂浜に響く太鼓の音に引き寄せられるように、内縁の妻と老婆が海岸に赴き、中央で太鼓を叩く仮面の男を見つめる。やがて太鼓が終ったとき、紅林は仮面を外した男の手に手錠をかけ、老婆から買った藁人形を見せ付ける「俺は初めてこの人形を見たとき、何故か懐かしくてたまらなかった。その訳が今わかった。これには、我が子を思う母親の心が、藁の一本一本に染み込んでいるんだ。」
すべてが解決した後、今も一人で土産を売る老婆を、寂しく見つめる内縁の妻。その光景を、紅林は自分だけの“旅の思い出”として胸の奥にしまっておくのだった。

最近では、愚かで身勝手で自己中心的な男ほど、女にもてるものらしいですが、バカに惚れるのもバカとしか言いようがないですし、そんな女とはなるべく関わりになりたくないものです。不必要なまでのボリュームで描かれる能登半島の風情を楽しみつつ、そんな感想を抱かされる一本です。内縁の妻の愚かさには呆れるしかなく、男もまた何を考えているのかよくわからない。太鼓を打つシーンを延々と流すより、ドラマに時間を取ってくれよと言いたくなる前後編でした。これが観光地とのタイアップものの難しさでしょうか。