特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第474話 エアロビクス・コネクション!

2009年06月30日 03時09分13秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 三ツ村鐵治
1986年7月17日放送

【あらすじ】
東南アジアのフィラネシア国で政変が勃発し、革命軍が新政権を樹立。新政権は前大統領の円借款にからむリベート疑惑を追及し、日本企業数社を告発する。捜査に当たった特命課は、疑惑企業の社長がフィラネシアから帰国することを察知し、社長を監視下に置く。だが、社長は何者かに刺殺される。犯人の狙いはリベートの証拠となる裏帳簿ではなかったかとみて、特命課は社長とともに帰国した駐在員を尋問する。
「警察は国家権力とつながっている」と特命課を敵視し、沈黙を守る駐在員だが、その妻子の近辺にも怪しい影が付きまとう。駐在員の妻はエアロビクス教室のインストラクターを勤めていたが、新設される大規模スポーツクラブから好条件でスカウトされた。だが、そのスポーツクラブの理事長は、リベート疑惑の黒幕と目される大物政治家の懐刀だった。黒幕が妻に接近する狙いは何か?特命課は妻の勤めるエアロビクス教室をマークし、生徒として江崎と杉を潜入させる。
そんななか、駐在員は黒幕に接触。資料を盾に、自身と家族の安全を要求するが、特命課のガードを振り切って逃走したところ、刺客の手にかかって命を落とす。杉が値追跡したものの、刺客はトラックの荷台に飛び乗って逃走を果たした。
失意のなか、駐在員の遺品からマイクロフィルムを発見する妻。その手元に、息子の誘拐を示唆する脅迫状が届く。息子を守るため、そして夫の復讐を果たすため、妻は黒幕との対決を決意する。
そんななか、杉はエアロビクス教室の生徒である若者が、駐在員を殺した刺客だと気づく。江崎に事情を伝えて若者を尾行する杉。立ち聞きしていた妻もその後を追う。尾行に気づいた若者は杉を振り切って逃走するが、妻はものすごい加速で若者に追いつく。呆気にとられる杉と視聴者。若者の反撃で窮地に陥る妻だったが、ようやく追いついた杉が取り押さえる。
実行犯は捕らえたものの、依然として黒幕は闇の中。神代は妻に協力を依頼するが、妻は警察を信じることができない。妻と息子の身の安全を気遣い、説得に努める叶だが、妻は「貴方がたに協力すれば安全なんですか?主人だって貴方がたの目の前で殺されました。主人がどんな気持ちで死んでいったか、貴方にわかるんですか?」と叶を拒絶する。
神代から理事長と黒幕の関係を知らされた妻は、理事長に黒幕との面会を申し出る。それは神代の描いたシナリオどおりの展開だった。神代は捜査のために、妻の命を危険にさらそうというのか?
息子を伴い、黒幕に面会する妻。叶は息子に仕掛けた盗聴器を通じて、その会話に耳を澄ます。妻がマイクロフィルムの代償として要求したのは、金ではなかった。「私の夫を、この子の父親を返してください!」むろん、死んだ命が返ってくるはずもなく、妻は特命課の存在を盾に、フィルムを手にしたまま「今日の会話は録音しました」と言い残して黒幕の前から立ち去る。
もちろん、黒幕がこのまま手をこまねいているはずは無い。妻は自らの命を的に、黒幕を陽のあたる場所に引き摺りだそうとしているのだ。杉と叶が見守るなか、一瞬の隙をついて、二人組が妻のバックを奪い、息子を連れ去る。身を挺して二人組の車に立ちはだかる叶。車で包囲していた特命課のフォローもあって、叶は無事に息子を救出。ようやく叶を信じた妻は、マイクロフィルムを特命課に託す。こうして全ての真相が明らかになり、黒幕と理事長にも法の裁きが下った。東京を去る妻と息子に別れを告げ、叶はまた、厳しい捜査の渦中へと戻っていくのだった。

【感想など】
疑獄事件の渦中で、巨悪の前に翻弄される家族の悲劇と絆を描いた一本。それだけの話にしておけば、可もなく不可もない、ごく普通の話で終わったと思うのですが、何を思ったか意味不明のエアロビクスシーンをからめたことで、訳が分からなくなってしまった感があります。
特に冒頭、フィラネシア(この架空の国名もまた、えらく適当です)政変を伝える新聞記事が緊迫感をかもし出すなか、突如エアロビクスシーンに切り替わって視聴者を困惑させたかと思えば、次のような意味不明のナレーションが混乱に拍車をかけます。「人生は闘いだと言われます。でも、人間は争いよりも平和を求める気持ちの方が、ずっと強いと思います。エアロビクスは体の中のムダなエネルギーを燃やすのに役立ちます。無理なく楽しく身体を動かして、心の安らぎに到達しましょう!」って、なんかの宗教か?

何を思ってこんな奇天烈な脚本を書いてしまったのか、想像をめぐらせて視たところ、一つの仮説が浮かびました。かつての「地獄の子守唄」シリーズよろしく、4本連続執筆の依頼を受けたは良いものの、さすがにネタ切れになった石松氏。1話分(第475話)は藤井邦夫氏に代わってもらうことにしたものの、それでもネタに困った挙句、「三題噺」をやろうと思いついたのです。(ちなみに、三題噺とは落語の一形態で、寄席の客から適当に挙げてもらった3つの言葉を盛り込んで、即興で演じること。有名なところでは三遊亭円朝の「芝浜」があります。)
適当にテレビのチャンネルを回して、放送していた内容を3つ盛り込もうとした石松氏。まず映ったのがニュース番組で報じられる「海外の政変」。次のチャンネルで流れていたのが「エアロビクス」だったというわけ。それだけならまだしも、3番目のチャンネルで放送していたのは、何と「サイボーグ009」(再放送)。普通の脚本家であれば、さすがに「これは無理だ」と諦めるところでしょうが、そこは石松氏。前言撤回を潔しとせず、「海外政変」「エアロビクス」そしてサイボーグ009から「加速装置」をお題として、今回の脚本を執筆したのです。
こう考えれば、誰もが呆気に取られた妻の加速シーンにも説明がつくというもの・・・とまぁ、こんなわけの分からん妄想くらいしか感想の書きようのない一本でした。これを最後に(すでに発注済みだった第476話は別)、特捜から二度とお呼びがかからなかったのも納得というものです。

第473話 原宿・ハウスマヌカン夢芝居!

2009年06月25日 03時01分31秒 | Weblog
脚本 石松愛弘、監督 北本弘
1986年7月10日放送

【あらすじ】
死んだ友人の妹が原宿でハウスマヌカン(ブティックの店員)をしていると知って、江崎婦警を伴って会いに行く犬養。「引っ込み思案な泣き虫」という印象しかなかった妹が、店の常連である女流スター相手に堂々と接客する姿を、犬養は感慨深く見守る。
その翌朝、所轄署から犬養に連絡が入る。妹が殺人容疑で逮捕されたというのだ。所轄署で事情を聞いたところ、妹は昨夜、刺殺死体の側で座り込んでいるところを発見され、その手には凶器が握られていたという。被害者は最近まで妹と付き合っていた男で、妹の疑いは濃厚だった。だが、妹は黙秘を決め込み、犬養の名だけを口にしたという。
犬養に事情を語る妹。男の浮気が原因で別れ話を持ち出したところ、逆上した男がナイフを振りかざし、もみ合ううちに刺してしまったのだという。妹の涙ながらの告白を信じ、神代に捜査の許可を求める犬養。神代は単独での捜査を許しつつ、「彼女への先入観は捨てろ」と忠告する。
懸命の聞き込みの結果、ようやく目撃者を発見する犬養。「女の悲鳴を聞いた」との証言が決め手となって、妹の正当防衛が立証される。釈放された妹を祝う犬養だが、そんな二人を時田が尾行していた。特命課が妹への疑惑を解いていないことを知り、激昂する犬養。神代は犬養を諭すように、疑問点を示唆する。「一度は結婚まで約束した男の死を、そう簡単に割り切れるものかね?」
疑惑はまだあった。正当防衛の決め手となった目撃者は金に困っており、買収された疑いがある。また、悲鳴を聞きながら通報していないのも妙だった。目撃者を尾行する犬養が見たものは、目撃者の車に乗り込む妹の姿だった。犬養は車を見失ってしまうが、その翌日、目撃者はモーテルで死体となって発見される。
妹を詰問する犬養。目撃者との関係は「たまたま近所で出会って、証言してくれたお礼を言っただけ」と釈明。アリバイとして、女流スターの兄である芸能プロ社長と一晩中一緒だったと語る。ショックを受けながらも社長に確認したところ、社長は妹との仲を認める。
だが、二人はグルだった。真相は、妹と社長の仲を知った男が逆上して二人に襲い掛かり、社長が返り討ちにしたのだ。妹はとっさに社長を逃がし、自ら容疑者として逮捕され、その裏で社長が目撃者を仕立て上げたのだ。妹はしたたかにも、この事実をネタに、自分にブティックを持たせるよう社長を脅迫する。
その夜、疑惑を拭いきれず、妹の部屋を訪ねる犬養。「君は華やかな生活を知って、かつての恋人に物足りなくなったんじゃないのか?」犬養の言葉に、妹は憤りを見せる。「いつまでも田舎にいた頃の、世間知らずな良い娘でいろというの?貴方はそんな女でいて欲しいんでしょう?私が変わったのを怒っているんでしょう?私は一生懸命生きてきただけなのに・・・」言葉に詰まりながらも、刑事としての責任感から、捜査のカギとなる情報を明かす犬養。「死んだ証言者が持っていたはずの札束が消えている。それが見つかれば、犯人は明らかになるはずだ」
妹から連絡を受けた社長は、早速、札束を処分しようと銀行を訪れる。だが、その背後には特命課の眼が光っていた。その札束から被害者の指紋が検出され、社長の自白によって、妹の目撃者殺しと、男殺しの真相が明らかになる。「恐ろしい女ですよ・・・」という社長の言葉が、犬養の胸をえぐる。やるせない思いを抱え、ブティックを訪ねる犬養。社長の自白を知った妹が流す涙。そこには、どんな想いが込められていたのだろうか?

【感想など】
虚飾に満ちた華やかな世界に生きようと足掻く女の哀しみを描いた一本。かつて妹のように可愛がっていた「世間知らずな良い娘」が、いつの間にか計算高い「悪女」に変わってしまう。そんな事態に戸惑いを見せる犬養が本編の主人公ですが、事件解決にはほとんど役に立ってなく、正直言って刑事としては無能の謗りを免れません。画面上でも犯人の独白的に真相が明らかになるため、刑事ドラマの本筋=捜査による真相究明を期待している視聴者にとっても、肩透かし的な印象が残ったのではないでしょうか?犯人側のドラマをメインに描く手法としてはアリだと思うのですが、犬養視点なのか、妹視点なのかが終始曖昧なため、どっちにも感情移入しづらい展開になっているのが残念です。

とはいえ、万全に表現できたかどうかはともかくとして、脚本家が描こうとしたドラマ自体には、共感できる面もあります。男にとって変わってしまう女を見るのは(それがどんな変わりようであれ)辛く、切ないものですあり、友人の妹、というどこか甘酸っぱさが伴う関係が、その辛さ、切なさを増幅させます。
これは私を含めた男性視聴者からの視点でしょうが、一方の女性視聴者からの視点に立てば、また違った感慨があるのではないでしょうか?あらすじに掲載した台詞のやり取りや、ラストシーンを見て感じたのですが、「変わってしまう女を見る男」だけが辛く、切ないのではなく、「変わってしまう女」自身も、実は辛く、切ないのではないでしょうか?ラストの妹の涙が、ただ逮捕される辛さや、華やかな世界の住人となれなかったことの悲しさによるものだけとは、私には思えません。
私の個人的な評価としては、決して褒められたものではない本作ですが、女性視聴者から見れば、また違った評価が出るような気もする、そんな一本でした。

第472話 嘘から出た殺人・結婚詐欺師に愛の手を!

2009年06月24日 02時14分33秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 天野利彦
1986年7月3日放送

【あらすじ】
高級マンションで発見された女性の他殺死体。被害者は生け花の先生で、死体には指輪を抜き取られた痕があった。近所でスーパーを営む姪夫婦の証言によれば、高価な指輪らしく、預金通帳や印鑑とともに、犯人が奪い去ったものと思われた。犬養と杉は、被害者が飾ってあった写真の老人に見覚えがあった。人を食ったようなその老人は被害者の婚約者らしいのだが、数日前に犬養らが出会ったときは、違う女とデートを楽しんでいた。
その女は高名な画伯の未亡人と判明。未亡人は「自分こそ老人の婚約者」と主張。被害者のことは「勝手に婚約者と言いふらす図々しい女」と罵り、老人のことは「彼は優しすぎるんです」とベタ惚れの様子。さらにもう一人、「我こそが婚約者」と主張する踊りの師匠のもとで、犬養は老人と再会する。
老人は「私も罪な男だね」と嘯きつつ、アリバイを主張。証明するのは未亡人と踊りの師匠であり、釈然としないものを感じつつも、老人を釈放せざるを得ない特命課。だが、老人は現場の遺留品であるキーホルダーに目を止め「これを持っていた男を知っている」と証言、「捜査に協力する」との名目で、犬養や杉を翻弄する。
一方、特命課の調べにより、老人が初老の女性ばかりを狙った結婚詐欺師だと判明。また、犬養は老人がゴミ箱に被害者の通帳を捨てるのを目撃し、参考人として取り調べる。老人は犯行を否定し、「通帳は被害者から押し付けられた」と主張。その後は黙秘を貫くが、アリバイを証言した二人に老人の正体を明かしたところ、アリバイは崩れる。老人は女たちのライバル意識を利用して、嘘の証言をさせていたのだ。
一方、桜井の調べで、老人に捜索願が出ていたことが判明。老人は熊本で妻と死別した後、男手ひとつで息子を育て上げ、医大に合格させた。だが、地元で開業して欲しいという老人の願いを裏切って、息子は大病院の娘と結婚。老人は寂しさを募らせた挙句、行方をくらませたのだ。その後、多忙の息子に代わって嫁が上京。嫁が語ったところでは、老人は持病のリューマチが悪化しており、そんな身体で殺人を犯せるものか、疑問が浮かぶ。
その後、被害者の指輪を質入しようとした男が発見される。人相は老人の証言と酷似していた。やはり真犯人は別にいるのか?特命課は似顔絵をもとに男を追う。
そんななか、老人の息子が上京。老人を心配してのことかと思いきや、「おかげで病院の評判はガタ落ちだ」と老人を罵り、嫁を連れ帰ろうとする。思わず「まだ殺人犯と決まったわけじゃない」と老人をかばう犬養だが、息子は聞く耳を持たなかった。
その後、特命課は似顔絵の男を発見。男は指輪を奪ったことは認めたものの「自分が訪ねたときには死んでいた」と殺人は否定。男が「犯行現場で老人を見た」と証言したことで、再び老人に対する疑惑が深まる。「本当のことを言ってくれ!」との犬養の説得にも「どうせ誰も信じちゃくれん。嘘つき人生のツケが回ってきた」と嘯く老人。だが、代わって取調べに当たった神代は、老人の寂しさを見抜いていた。「あんたは寂しかったんだ。同じく寂しい境遇にある女性たちと慰め合っていたら、結果として結婚詐欺になった、違うかね?」神代の言葉に心を開いた老人は、真実を明かす。その日、老人が被害者を訪ねたのは、押し付けられた通帳を返そうとしたのだった。だが、被害者は「ナスやキュウリに化けるより、二人のために使いたい」と、再び通帳を押し付けたという。
神代は、被害者の言葉から、スーパーを営む姪夫婦に疑惑を向ける。特命課の尋問に、姪夫婦は犯行を認める。二人は経営難から被害者に借金を申し込みに行ったが、赤の他人に通帳を渡したと知って激怒し、犯行に及んだのだという。
事件解決後、結婚詐欺罪で起訴される老人に、犬養は嫁からの「体に気をつけるように」との伝言を、息子からだと偽って伝える。その優しい嘘を見抜いて「詐欺師に向って下手な嘘を言うもんじゃない」と微笑む老人。その笑顔に、犬養は老人が再び他人に心を開こうとしていることを確信するのだった。

【感想など】
牟田悌三氏演じる老結婚詐欺師の人を食った態度の裏に隠した寂しさと、その心を開かせようとする犬養の優しさを描いた一本。デラシネ(フランス語でいうところの根無し草)を気取る老人のキャラクターが本作のキモだと思うのですが、正直なところ、うまく表現できたとは言い難い印象です。『ケンちゃんシリーズ』の父親役で知られ、特捜でも何度かゲストとして登場した(特に第336話「緑色の爪の娘たち」は印象的)牟田氏のキャラクターと、老結婚詐欺師のそれとが微妙に合ってないこともありますが、むしろ脚本に難があったように思われます。

脚本の意図としては、冒頭での犬養、杉との出会いのシーンから、老結婚詐欺師のキャラクターを印象づけようとしたようですが、果たしてどんな人物として印象づけたかったのか、今ひとつ伝わってきません。「なんとなく不愉快な人物」としか印象に残らないばかりか、最後までその裏に隠れた「寂しさ」が、具体的には伝わってこないため(本人や犬養、課長の言葉でしか伝わってこない)、「はじめは不快に見えた人物が、その内面が明らかになるに連れて、隠れていた魅力が際立つ」という、定番ながらも、うまくいけば効果抜群な展開につながってきません。これは被害者の女性も同様なので、「彼女の気持ちを考えたことがあるか!」という犬養の一喝も、どこか空回りしてしまっている印象です。

あんまりネガティブなことばかり言いたくないでのすが、今回に限っては、無理してでも褒めるところが見当たりません。なんか犬養主役編はこんな話が多いような印象があり、比較的脚本に恵まれている時田に比べると、ちょっと気の毒な気がします。

第471話 死に憑かれた女!

2009年06月23日 03時39分00秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 辻理
1986年6月26日放送

【あらすじ】
数日来、胃の痛みに悩まされる橘。医者からは精密検査を勧められるが、医師と息子との電話を立ち聞きしたところ、胃ガンの疑いがあるという。だが、精密検査を受けるはずの日、橘は胃の痛みと不安を抱えたまま、杉とともに捜査に出かける。
あるアパートで、女の自殺現場に出くわす橘。「あんた、苦しいかい、ごめんね・・・」とうわ言のように呟く女。橘の応急処置で一命を取り止めた女は、自分を救った橘に「私は死にたかったのに・・・」と恨み言を言う。なぜ、女はそこまで死にたがるのか?そして、女のうわ言は何を意味するのか?
特命課に戻った橘のもとに、女が再び自殺を図ったとの連絡が入る。息子から「病院に行け」と忠告されながらも、放っては置けないと捜査に乗り出す橘。女の病室を訪れたものの、女は自殺の理由を語ろうとしない。うわ言に出てきた亭主を調べたところ、3ヶ月前に風呂場で入水自殺していたことが判明。亭主の遺書には「保険金で負債を返してくれ」とあったという。
女と亭主は内縁関係で、互いの家族を捨て、4年前から同居していた。橘は女が捨てた家族を訪ねる。前夫が語るところでは、女はまだ22歳のとき、他に婚約者がいたにも関わらず、妻に先立たれ、幼い息子を抱えて途方にくれていた前夫と結婚。年の離れた前夫と血のつながらない息子を懸命に支え、前夫の会社が傾いたときには、ホステスとして働きにまで出た。亭主とはそこで客として出会ったという。「彼女は、この会社が立ち直り、息子が志望の高校に合格するのを見届けてから出て行った」と、恨む様子もない前夫だが、息子は「もうあの女の話しなんかするな!」と憤りを隠せない。
好んで苦労を背負い込むかのような女。その過去をたどった橘は、その悲惨な生い立ちを知る。父親の死後、幼くして養女に出された女は、18歳のときに養父母のもとを出奔していた。一方、杉の調べによると、自殺した亭主の過去も似たようなものだった。早くに両親と別れ、さまざまな仕事を経て、ようやく会社と家庭を設けたが、妻に裏切られたショックで、家庭と仕事を捨てて出奔。酒浸りの日々を送るなかで、女と出会ったのだという。まるで不幸な魂が呼び合ったかのような二人に、陰鬱な思いを隠せない特命課。そんななか、橘は女のうわ言から「彼女は亭主を殺している。その罪の意識に耐えかね、自殺しようとしている」と推測する。胃の痛みに倒れた橘を心配し「もう、そっとしておいてやりませんか?」と言う杉に、橘は「このまま自殺させたんじゃ、彼女の人生はむごすぎる。自殺を思い止まらせるためには、真実を明らかにして、法の裁きを受けさせるしかない」と応える。
一方、桜井が亭主が自殺した旧宅で聞き込んだところ、事件当夜、付近で不審な少年を見たとの証言を得る。桜井はその少年が、女の前夫の息子ではないかと推測する。息子が亭主の死の真相を知っているとみて、息子を問い詰める橘。「君は、お母さんが自殺してもいいのか?」橘の説得に、息子は真実を語った。息子は、分かれた今も女を母親と慕い、大学に合格したことを報告に行った。そして、そこで見たものは・・・
橘の推測どおり、女は自殺しようとして果たせず「死なせてくれ」と懇願する亭主を、風呂に沈めて殺していた。「過去の辛さを忘れるために、他人に愛を注ぐなんてことは、もうおやめなさい。母親の自殺を止めるために、辛い思いをしながら母親の殺人を告白した息子さんの愛を受け入れるんです」橘の言葉に、女は涙とともに亭主殺しを自供するのだった。
取調室を出た女の前を待っていたのは、前夫と息子だった。「待っているから、必ず帰ってきて・・・」「ありがとう・・・」それは、他人に愛情を与えることでしか幸せを感じられなかった女が、初めて他人の愛情から幸せを得た瞬間だった。そして橘もまた、胃ガンではなく胃潰瘍だったことを知り、安堵する息子の思いやりを受け入れるのだった。

【感想など】
死の恐怖から逃れるように捜査に没頭する橘と、罪の意識からひたすら死を望む女との対比が印象的な一本。不幸を絵に描いたような男女の境遇は、確かに同情すべきものかもしれませんが、亭主はともかく、女の場合は「何もそこまで・・・」と思わなくもありません。なんでそこまで不幸を選ぶのか、延々と過去を掘り返したわりには決定的なものがなく、引き取られた先で幸せになることも、婚約者と結婚して幸せになることも、前夫や息子と幸せになることもできたのに、わざわざ不幸な道を選ぶ本人だけでなく、その時々の選ばなかった相手までも不幸にしてしまっている女に対しては、同情する以前に、首を傾げざるを得ません。

また、愛する人の自殺幇助としての殺人というテーマも、犯人の心を救うために真実を明らかにするという捜査動機も、特捜では何度も繰り返されたものであり、目新しいものではありません。その点、冒頭から視聴者に「あの橘が胃ガン?」という衝撃を与え、死を恐れる橘と、死を望む女とを対比させるという展開は面白く、結末に向けたドラマの盛り上がりを期待させてくれました。しかし、その対比がうまく捜査上で表現できず、ラストの橘の「ガンだと思い込んで、まだ死にたくないと思いました、そんなとき、死にたがる彼女に会って、腹が立ったんです」という台詞だけで表現されているのは、まことに残念です。
粗筋で触れた説得の言葉は、それなりに胸に迫るものはあったのですが、そこで自らの死の恐怖を語らなかったところが、橘らしいと言えばそうかもしれませんが、やはりドラマ的には残念。(これがおやっさんだったら、もっと明け透けに「アタシはガンだ!けど、あんなみたいに「死にたい」なんて絶対に思わん!死にたかぁない!」と喚き散らしていたことだろう、と勝手な想像を膨らませてしまいます。)

とはいえ、「死ぬのが怖い」と思いながらも、宣告を恐れて検査を避けてしまうという、橘の矛盾した心情は、ある程度の年齢に達した者なら、誰もが共感できるものでしょう(私自身、似たような経験がありますので、何か身につまされるようでした)。橘もまた、死を恐れるという当たり前の「弱さ」を持った人間であり、だからこそ、同じ「弱さ」を持った人々の心を、誰よりも深く理解できるのだろうと、いつもとは違う側面から、橘の人間性を垣間見ることができました。加えて、橘の身を案じる杉や神代、桜井の心情なども、控えめながらもしっかりと描写されており、橘ファンなら抑えておくべき一本と言えるでしょう。

プロレス界の至宝、三沢光晴さんの訃報に際して

2009年06月16日 02時20分55秒 | Weblog
いまから約20年前、学生寮に住んでいた私は、日曜深夜になれば友人たちとともにテレビのある談話室に陣取り、「全日本プロレス中継」で放送される熱闘に魅入られていました。そこには、やがて日本プロレス界の柱となる稀代の天才プロレスラー・三沢光晴が、まだ未完成の技と身体を、人並み外れた精神力で補いながら、鶴田、ハンセン、ゴディ、ウィリアムスといった桁外れの怪物たちに、ひたむきに立ち向かっていく姿がありました。

やがて就職・上京後は、毎シリーズ最終戦の日本武道館に足を運び、「スパルタンX」にあわせて喉も避けよとコールを送ることで、仕事もプライベートも思うままに行かないストレスを発散していた私。その頃の三沢は、まさにプロレスラーとして充実期を迎えており、鶴田亡き後の団体を支え、川田、田上、小橋らと、のちに「四天王プロレス」と称される限界以上の闘いを繰り広げていました。

その後、亡きジャイアント馬場の後を継いで老舗団体の社長という地位を得ながらも、安住の地位を捨てて新団体を旗揚げした姿に、どれだけ勇気づけられたことでしょうか。私が会社を辞めてフリーの道を選んだのは、三沢と違ってただの我がままでしたが、その決断を後押ししたさまざまな要素の中には、旗揚げ当時の三沢の言動があったのではないかと、今にして思います。

私にとってプロレスラーとは、猪木・馬場にしても、藤波・長州にしても、前田・田・藤原にしても、闘魂三銃士にしても、興味や愛着の対象でこそあれ、人として尊敬できる対象かと問われれば、口をにごさざるを得ませんでした。しかし、三沢光晴だけは(もちろん直接的に接したわけではないですが)、プロレスラーとして、そして人間として、「心から尊敬できる」と言って恥じることのない存在でした。そんな彼の訃報に対して、今は「悲しい」とか、「信じられない」とか、そんな言葉では表現できないような感情に襲われ、丸2日経った今でも、そこから脱し切れておりません。

本ブログのテーマとは全く関係のない話題で誠に恐縮ですが、更新のために特捜のビデオを見ようとしても、全く頭に入らないばかりか、最後まで見る気力すらありません。明日には立ち直るために、この表現できないような感情を整理するために、今は勝手気ままな投稿をお許しください。

最後に、三沢光晴さんの冥福と、残されたプロレスリング・ノアの各選手たちの(特に、誠心会館時代から思い入れの深い斎藤彰敏選手の)今後のさらなる奮闘を、心からお祈りいたします。

第470話 殺人依頼をする女・あの人を殺して・・・!

2009年06月12日 02時20分12秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 天野利彦
1986年6月19日放送

【あらすじ】
雨の夜、ある事件の裏付け調査を進める時田と叶に、女が深刻な表情で話しかける。「お願いです。500万円で人を殺してください!」絶句する時田らをよそに、行き交う人々に次々と声を掛けながら、女は雑踏の中に姿を消した。
翌朝、アパートの自室で男の刺殺死体が発見される。男の顔を見て動揺を隠せない時田。さらに時田を驚かせたのは、「私が人に頼んで殺させた」と自首してきた内縁の妻だった。それは、昨夜の女に他ならなかった。
「病気がちな男の看病に疲れ、殺してくれる人を探し回った。だけど、いざ殺されてみると逃げられないと思った」特命課の取り調べに対し、あっけらかんとした態度で供述する女。その自供を受け、実行犯として逮捕されたのは、資金繰りに苦しむ中小企業の社長だった。社長は「私が現場に行ったときには、男はすでに死んでいた」と犯行を否定。だが、なぜ現場に行ったかについては口をつぐんだ。
殺された男の身許を洗ったところ、奇妙な事実が判明する。男は7年前、殺人依頼を受けてヤクザを殺した罪で投獄され、半年前に出所していた。逮捕された当時、男は犯行を否定。依頼を受け、現場に行ったことは認めたものの、怖くなって逃げ出したというのだ。男は「現場付近でぶつかった男こそ真犯人だ」と主張し、自らの「直後に売春婦とホテルに行った」とアリバイを主張するが、男も売春婦も発見されなかった。また、男に殺人を依頼したヤクザの情婦は熱海で投身自殺を遂げ、結局、男には有罪判決が下った。
奇妙な符合に驚く特命課だが、女に問い質したところ、「男から聞いた話を参考にしただけ」と語る。だが、時田は女の姿に違和感を覚えていた。あっけらかんと自白する姿と、夜の街で出会った際の震えるような姿とが、どうしても重ならなかったのだ。
改めて女の素性を洗う時田。女は病気の母親のために早くから働き続け、母親の死後は運送会社に勤めていた。だが、男との出会いが真面目だった女を変えた。いつの間にか同棲関係となった男のために、女は会社の金を横領して解雇され、夜の街に身を落としていた。
その後の捜査で、男が末期ガンだったことが判明する。男はその事実を知り、病を隠して3千万円の生命保険に加入。受取人は女だった。さらに、男と社長が同じ病院に通っていたことが判明。男は偶然出会った社長の顔を見て「あいつが殺したんだ!」と喚き散らしたという。社長こそが、7年前の事件の真犯人だというのか?
特命課では、男の死は自殺であり、女が社長を陥れるために殺人に見せ掛けかけたのではないかと推測する。だが、なぜ女は自ら罪を被ってまで、男の復讐を果たそうとするのか?釈放した女を尾行した時田は、女がホテルの前に立ち尽くすのを見て、その真意に気づく。それは、7年前に男が売春婦と入ったと主張したホテルだった。男が買った売春婦とは、まだ少女だった頃の女であった。運送会社で再会を果たしたとき、男は女の顔を覚えていなかったが、女にとっては忘れることができない顔だった。7年前、女は男の無実を証明できるのは自分だけだと知りながら、買春の事実を母親に知られることを恐れ、名乗り出ることができなかったのだ。自分のせいで、無実の身で投獄された男のために、女は献身的に尽くした。そして、そんな女にせめて保険金を残そうと、男は無念の死を選んだのだ。
7年前の事件を調べ直す特命課。熱海で自殺した情婦は、実は口封じのために社長に殺されたのではないか?現場を洗い直すものの、7年という時間の壁は厚く、手掛かりはつかめない。だが、手すりに残った指紋が証拠となり、社長の犯行が立証される。
事件解決後、刑事たちの前で神代がもう一つの真実を明かす。7年前の事件で、ただ一人、最後まで男の無実を主張したのが、時田だった。今回の事件は、女にとっての贖罪であると同時に、時田にとっての贖罪でもあったのだ。男の墓前で出くわした時田に、女は語る。「これからが、本当の罪滅ぼし。あの人の分も、私は幸せになります・・・」

【感想など】
7年前と現在、2つの依願殺人の背景に隠された、女と刑事、2人の贖罪を描いた一本。かなり込み入ったストーリーにも関わらず、すんなりと展開を楽しめるのは(逆に言えば、あっさりしすぎて盛り上がりに欠けるとも言えるのですが・・・)、脚本の妙か、それとも演出の巧みさなのか。いずれにしても、時田編らしく情感のこもったドラマが味わい深い、なかなかの佳作と言えるのではなでしょうか。

ここ最近、私の中で時田刑事の株が上昇中なのですが、今回もまた、彼の魅力が存分に発揮されていました。刑事がかつての捜査上の過失を悔いる、という展開は、正直言って食傷気味なのですが、それを序盤から匂わせながらも、自分の胸にしまいこみ、ラストで課長の口から明かされるだけで、時田本人の言葉としては、「後悔」「贖罪」といった想いが一切語られないというのが、また時田らしいと思います。
7年前、男の有罪を主張した他の刑事たちは、きっと男のことなど忘れてしまっているでしょう。にも関わらず、当時、ただ一人だけ男の無罪の可能性を主張した時田だけが、(言葉には出さずとも)後悔と贖罪の念を背負い続けているというのは、なんともやり切れません。組織の中で、組織の利益に逆らってでも良心的であろうとした者は、組織から疎外された上に、一人、その良心の呵責に耐え続けなければならない。現実でもよくあるケースだけに、時田の姿勢に共感する視聴者は多かったのではないでしょうか?
最近も過去の事件が冤罪と分かって世間を騒がせていますが、あの事件でも時田のような刑事がいたのではないか?その刑事は、今、何を思っているだろうか?などと考えると、なんともやり切れません。

一方で、女の「贖罪」に対しては、演じた女優さんの演技が、いかにもステレオタイプな「悪女ぶりたがる女」すぎて辟易したこともあって、どこか違和感を拭いきれません。男への罪悪感が、いつしか愛情に変わっていった、と見えなくもないですが(おそらく脚本的にはそう描きたかったのだと思いますが)、どうもこの女の場合、自分を悪者に仕立て上げないときがすまない性分というか、「罪悪感」に縛られ、男への本当の気持ち(=愛情)に気づいていないというか、ここまで言うこともないのですが、あえて言えば「自己満足」のためにやっているように見えてしょうがありませんでした。
彼女が果たすべき贖罪とは、男の無実を証明することでも、ましてや社長を道連れに自ら罪をかぶることでもなく、ラストの台詞のように「男の分まで幸せになること」でもないと思います。あくまで私見ですが、荒み切った男の人生の終幕を、その側で支え続け、ひとときの安らぎを与えたことで、女の贖罪はすでに果たされているのではないでしょうか?男の死は、一見して不幸な死に方に見えますが、死の間際に男が感じたことは、案外、自分が他人のために死ねるという喜びだったのかもしれないと思うのです。死の間際に、思いやれる相手がいたという事実は、男の人生が絶望だけに彩られたものではないという証明だと思うのです。
そうした贖罪のあり方を、時田なら気づいていたかもしれないと思うのですが、ならば、そのことを女に気づかせてあげて欲しかった。そこが少し残念です。

第469話 連続放火事件・待ち続けた女!

2009年06月05日 01時16分04秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄
1986年6月12日放送

※前話と同様、レビューを書く前に録画を消してしまいましたので、一部に記憶違いの記述があるかもしれません。何卒ご容赦いただくとともに、お気づきの点などありましたら、コメントにてご指摘いただければ幸いです。

【あらすじ】
連続放火事件を追う所轄署に、特命課から紅林と犬養が応援に出向く。ベテラン鬼刑事の昔気質な精神論に閉口する紅林たち。そんななか、鬼刑事の妻が所轄署を訪ねてくる。捜査に熱中するあまり、署に泊まり続けで一向に帰宅しない夫を心配し、着替えや差し入れを持ってきたのだ。「捜査の邪魔だ」と相手にしない鬼刑事に代わって対応した紅林は、健気な妻の態度に同情を禁じえなかった。
やがて、4件目の放火事件が発生。逃げようとして階段から転倒した若い女が死亡する。報せを受けた際の不審な様子と、他の刑事たちと別行動を取り、いち早く現場に駆けつけた鬼刑事の様子に、紅林は疑念を抱く。付近を聞き込んだところ、以前から鬼刑事が女のもとを訪れていたことが判明。一連の事実を特命課に報告した紅林は、鬼刑事と旧知の橘とともに、鬼刑事を監視する。
そんななか、鬼刑事の妻が、深刻な表情で紅林を訪ね「どうしても話したいことがあるので、夫に家に戻るよう伝えて欲しい」と懇願する。紅林の説得を受けた鬼刑事は、照れ隠しのためか、強引に紅林を同行させ、ようやく帰宅。しかし、嬉しそうに料理を披露する妻を見て「下らん理由で呼ぶな!」とちゃぶ台をひっくり返し、捜査に戻ってしまう。落胆する妻をなだめる紅林は、ゴミ箱の中に地図を発見する。その地図上には、一連の放火現場に印が付けられていた。妻に問い質したところ「夫が自宅でも捜査のことばかり考えている」とのことだったが、鬼刑事は捜査中、ほとんど帰宅していなかった。
改めて一連の放火事件を調べ直したところ、意外な事実が判明。放火現場は、いずれも死亡した女と関係のある場所だったのだ。一連の放火は女を狙ったものだったのか?女と鬼刑事の関係を洗い直した紅林は、二人が不倫関係にあったことを知る。当初は否定していた鬼刑事だが、やがて胸中を語り出す。非の打ち所がない貞淑な妻との日々は、鬼刑事にとって心休まるものではなかった。妻の前では、鬼刑事は常に「刑事」であらねばならなかった。だが、若い女と一緒の時間だけは、捜査を忘れ、一人の人間に戻ることができたのだという。
鬼刑事の言葉、そして妻の態度から、紅林は真相を察知する。一連の放火は、女の存在を知った妻が、鬼刑事に振り向いてもらうために行った、哀しい犯行だったのだ。「バカな!」絶句しつつも否定しきれず、自宅へと向かう鬼刑事。ようやく自宅に戻ってきてくれた夫に対し、妻は自らの犯行を認めるのだった。
こうして事件は解決。鬼刑事が下した決断は、妻が罪を償って戻ってくるのを待ち続けるというものだった。「今度は、ワシが待ち続ける番だ」と寂しげな笑みを見せる鬼刑事を見て、紅林は「夫婦の絆」というものに、言い知れぬ複雑な思いを抱くのだった。

【感想など】
長門勇と赤座美代子という名優をゲストに迎え、夫婦の気持ちのすれ違いが生んだ哀しい事件とともに、他人には窺い知れない夫婦の絆を描いた一本。佐藤脚本で描かれる夫婦関係と言えば、「女の身勝手さに振り回される哀れな夫」というのが定番ですが、今回は「仕事を逃げ場にして、妻と向き合うことを避ける夫」と「そんな夫を振り向かせるために、無関係な第三者をも巻き込んで放火を繰り返す、これまた身勝手な妻」という、一ひねりした関係が描かれています。

こうして言葉にまとめてしまえば、夫婦揃ってとんでもなく破綻した人間のようですが、そこは名優が揃っただけに、ドラマとして実に見応えのあるものになっています。特筆すべきは、赤座美代子の「中年女の悲哀」と「少女のような無邪気さ」が同居する奇跡のような存在感。不幸な女性が似合うゲスト女優は、特捜にとって、さらに言えば日本のTVドラマ界にとって、欠かすことのできないものだということを再認識させられました。

惜しむらくは、鬼刑事と若い女の関係が今ひとつ描写不足なため、視聴者からすれば「なんでこんな良い奥さんがいるのに?」という疑問を禁じえないこと。とはいえ、こうした疑問は現実の男女関係においても、ままあること。結局、男女の仲は他人には理解し得ないものだということでしょうか。

第468話 追跡・声紋No.105937!

2009年06月04日 01時57分24秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 村山新治
1986年6月5日放送

※はじめに、お詫びと言い訳をさせていただきますが、本編と次回469話については、うっかりレビューを書く前に録画を消してしまいました。このため、一月以上前に一度視聴したきりの記憶を頼りに書いておりますので、一部に記憶漏れの箇所があり、ひょっとして記憶違いの記述があるかもしれません。何卒ご容赦いただくとともに、お気づきの点などありましたら、コメントにてご指摘いただければ幸いです。

【あらすじ】
資産家の一人息子が誘拐された。資産家は特命課の介入を拒み、単身で身代金の受け渡し現場に向かう。密かに網を張る特命課。現れた誘拐犯を捕らえようと、功を焦った杉が飛び出す。しかし、誘拐犯には逃げられ、杉をかばった桜井が負傷する。怒りを抑え、特命課に息子の救出を懇願する資産家。実は、息子は血が固まりにくい持病をもち、わずかな流血が命取りになりかねないのだ。
負傷をおして捜査を続ける桜井は、街角の映像に耳を止める。そこに映っていた通行人の声が、現場で聞いた誘拐犯のものと酷似していたのだ。映像から声紋を鑑定したところ、脅迫電話のものと一致。映像に映っている人々のうち、誰かが誘拐犯に違いないが、中には顔が見えない者もいる。映像を手掛かりに、特命課の必死の捜査が始まった。
まずは若者二人の食べていたクレープから、クレープ店を探し当て、二人の素性へとたどり着く。二人の証言から、界隈で有名なナンパ中年を割り出し、さらにその証言から、中年のアベックを割り出す。アベックのうち、まずは女を発見したものの、二人は不倫関係にあるらしく、男の素性を語ろうとしない。桜井の必死の説得により、女はようやく男が公務員だと明かす。公務員を調べたところ、その訛りが誘拐犯と酷似していた。「こいつが犯人か!」と色めきたつ特命課だが、声紋鑑定の結果、別人と判明する。
一方、運河のほとりの倉庫に監禁された息子は、脱出を図ろうとして負傷。自分の血で「たすけて」と記したハンカチを運河に投げ捨てる。やがてハンカチが発見され、「早く保護しなければ、子供の命が危ない!」と、橘らは運河沿いを徹底捜索する。
(この後、ちょっと記憶が飛んでいます。)
ついに誘拐犯が判明し、特命課は懸命に身柄を追う。桜井は誘拐犯の別れた妻子を訪ねるが、妻子は夫、そして父親抜きの生活を受け入れており、今さら誘拐犯が訪れるとは思えなかった。やがて、必死の捜索によって誘拐犯を捕らえる特命課。だが、誘拐犯は犯行を否認し、息子の所在を明かそうとしない。
刻一刻と時間が過ぎるなか、頑として口を開かない誘拐犯。万策尽きかけたとき、桜井は脅迫電話を録音したテープを聞き返し、誘拐犯の声に紛れて、息子の歌声が残っていることに気づく。それは、誘拐犯の子供が口ずさんでいた童謡であり、誘拐犯が我が子に残した唯一の思い出だった。その童謡こそが、誘拐犯の心に残った唯一の良心に違いない。そう確信した桜井は、誘拐犯に息子の歌声を聞かせる。「お前だって、この子を死なせたくないはずだ!」桜井の言葉を受けて、誘拐犯の脳裏に、息子に、そして我が子に童謡を歌って聞かせた記憶が甦る。「刑事さん、あの子は・・・」ついに息子の監禁先を明かす誘拐犯。
すんでのところで発見された息子は、治療の甲斐あって一命を取り留める。桜井は安堵の吐息とともに、いつかこの誘拐犯が罪を償い、妻子のもとに戻ることを祈るのだった。

【感想など】
誘拐された子供の命を救うため、雲をつかむような状況からも、懸命な捜査で一歩ずつ犯人に迫っていく刑事たちの姿を描いた一本。わずかな映像から、細い糸を手繰るようにして犯人を特定していく捜査過程は見ごたえがあり、「血小板障害」というタイムリミット設定も奏功して、サスペンス溢れるスリリングな展開が見応え充分でした。後半は一転して、取調室における桜井と誘拐犯の対決を描き、「子供を置き去りにする」非情さの中に、「童謡を歌って聞かせる」人間味が残っていること気づかせ、解決に導くという人間ドラマが描かれています。

このように、黄金期と呼ばれるかつての特捜の魅力がふんだんに詰め込まれ、見るものを飽きさせない佳作と言える本作ですが、おそらく、多くの視聴者は軽い既視感(デジャビュ)とともに、前半と後半のトーンの違い(テーマの違いと言っても良い)への違和感を覚えたのではないでしょうか?
というのも、前半の展開は、「誘拐」「タイムリミット」といったキーワードといい、スピーディーで畳み掛けるような展開といい、かつて「誘拐の長坂」と評された長坂脚本の魅力を再現したものに他なりません(これは何もパクリと言っているわけではなく、宮下氏なりに「かつての長坂風味」を再現しようとチャレンジした結果、あるいは「かつての長坂脚本みたいなのを書いてよ」とのプロデューサーの要望だったのではないでしょうか?)。
一方、後半の展開は、「取調室」「家族愛」といったキーワードといい、熱苦しいばかりの緊迫感といい、かつて「取調べの塙」と評された(嘘です、すみません、今考えました)、塙脚本の魅力を再現したものに他なりません(これは何も・・・以下略)。

私見ですが、今回の脚本の残念な点は(いや、充分に面白かったんですけどね)、この異なる魅力をもった二人の先人を、一本の作品で同時にオマージュしようとしたことではないでしょうか。前半の引き込まれるような展開を見る限り、宮下氏には長坂氏ばりのサスペンスフルな脚本を書く力量が確かにありますし、後半については、やや誘拐犯の人物設定が希薄な面もありますが、それでも塙作品と遜色ないレベルの「取調べモノ」を生み出す力量があるものと思われます。とはいえ、それらを一度に両立しようとするのは、さすがに欲張り過ぎと言えるのでは?できることなら、前半の犯人探し、子供探しのサスペンスのみに絞った一本と、後半の誘拐犯と桜井の対決に絞った一本、それぞれを見たかったと思うのですが、それこそ欲張り過ぎでしょうか?

DVD-BOX Vol.8のラインナップ発表

2009年06月03日 01時09分20秒 | Weblog
東映ビデオのサイト上で、DVD-BOX Vol.7の購入者“限定”のアンケートによる第2弾「ファンが選んだエピソード」の結果とともに、Vol.8のラインナップが発表されました。
http://www.toei-video.co.jp/tokusou/index.html
詳細は上記サイトをご確認いただくとして、Vol.8に収録される上位10位は以下のような結果となりました。

1位:第256話「虫になった刑事!」主演:橘、脚本:長坂秀佳、監督:藤井邦夫
2位:第70話「スパイ衛星が落ちた海!」主演:橘、脚本:長坂秀佳、監督:村山新治
2位:第123話「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!」主演:紅林、脚本:長坂秀佳、監督:野田幸男
4位:第77話「挑戦Ⅰおじさんは刑事だった!」主演:神代、脚本:石松愛弘、監督:村山新治
4位:第79話「挑戦Ⅲ・十三歳の旅立ち!」主演:神代、脚本:石松愛弘、監督:村山新治
6位:第78話「挑戦Ⅱ・僕はおじさんを許さない!」主演:神代、脚本:石松愛弘、監督:村山新治
7位:第275話「望郷 凶悪のブルーハワイ!」主演:船村、脚本:塙五郎、監督:天野利彦
8位:第276話「望郷Ⅱ 帰らざるワイキキビーチ!」主演:船村、脚本:塙五郎、監督:天野利彦
9位:第257話「母………」主演:紅林、脚本:阿井文瓶、監督:辻理
10位:第179話「面影」主演:神代、脚本:長坂秀佳、監督:佐藤肇

この10話に、前回のアンケートベスト100の残りである以下の6話を加えた計16話が、Vol.8に収録されます。

第167話「マニキュアをした銀行ギャング!」主演:叶、脚本:長坂秀佳、監督:田中秀夫
第184話「慕情」主演:神代、脚本:石松愛弘、監督:佐藤肇
第205話「雪国から来た逃亡者!」主演:叶、脚本:長坂秀佳、監督:宮越澄
第226話「太鼓を打つ刑事!」主演:桜井、脚本:塙五郎、監督:辻理
第323話「二人の夫を持つ女!」主演:桜井、叶、脚本:塙五郎、監督:藤井邦夫
第340話「老刑事・96時間の追跡」主演:船村、脚本:大野武雄、監督:野田幸男

Vol.7未購入ゆえに投票権利もなかった私に、文句をたれる資格などないことは承知のうえで、あえて今回の結果についてぶっちゃけた感想を言わせていただければ、1位はともかく、2位、3位については「長坂脚本だからといって、すべてが傑作とは限らない」というのが正直なところ(2位の「スパイ衛星」は、私の案でも挙げていましたが、だからと言って2位に価するかというと、ちょっと疑問)。「挑戦」3部作やハワイ前後編についても、「見たい」という方がいるのもわかるのですが、「撃つ女」(12位)や「傷跡・夜明けに叫ぶ男」(13位)、「深夜便の女」(16位)、「パパの名は吉野竜次」(19位)などよりも上位にランクされるのは、傲慢を承知で言ってしまえば「残念な結果」です。
また、順当にいけばVol.9に収録されるであろう上記作品はともかくとして、「記憶の無い毒殺魔」(23位)や「バラの花殺人事件」(26位)、「通り魔・あの日に帰りたい」(26位)、「窓際警視の靴が泣く」(30位)、「警視庁を煙に巻く男」(35位)、「死体番号6001のミステリー」(39位)、「人妻を愛した刑事」(44位)などは評価が低すぎるのでは?
さらに言えば、「歳末パトロールで逢った女」や「黙秘する女」「老刑事・レジの女を張り込む」といった私的傑作は、今回もランク外。多くの方に見ていただきたい作品だけに、なんとも残念です。コメントいただいた皆様のご意見と比較しても、コロンボさん一押しの「死んだ筈の女」や、ホヮリンさん推薦の「超能力の女」はランク外、らりぞーさんのセレクト、徳吉さんの投票作を見ても、とても「期待通り!」とは言えない結果だったのではないでしょうか?

何故にこんなに意見が食い違うのか?私の好みはそれほど世間の皆様とかけ離れているのか?とつらつら考えてみたところ、あることに気づきました。このアンケートは、あくまで「特捜が好きな方」を対象とした「DVDに収録して欲しい作品アンケート」であり、決して「特捜を全話見た方」を対象とした「名作エピソードアンケート」ではないのです。(今頃気づいたのか!とお叱りを受けそうですが・・・)
つまり、投票した方々の中には、「すでに多くの本数を見ていて、その中から印象に残ったエピソードを選んだ方」もいれば、「DVDでしか見ていないので、タイトルや予告編映像を頼りに、見てみたいエピソードを選んだ方」もいるわけですから、その結果に対して「その作品よりも、こっちの作品の方が面白いのに」ということ自体、的外れだということ。(念のためお断りしておきますが、決して未見エピソードの多い方を下に見ているわけではありません。私もまだまだ見てないエピソードが多いのです。)

とはいえ、Vol.8の収録結果については、やはりひとこと言いたくなるのが人情というもの。特に、吉野主演作が(高杉主演作も)無し、というのは、ファンにとっては寂しい結果と言えるのではないでしょうか?また、「面影」「慕情」が収録されて、3部作の完結編とも言える「償い」が未収録なのも残念なところ。

※以下、ネタバレ含みですので、上記3部作を未見の方(特にVol.8の購入を楽しみにしている方)は読まないほうが良いかと思います。すでに3部作をご視聴済の方のみ、お読みいただけますようお願いします。

あくまでも個人的な好き嫌いで言えば、(本ブログで苦言を呈することの多い)石松脚本のなかでも佳作の一つと思っている「面影」に比べて、「慕情」は小泉純子の「悲劇のヒロイン」を気取った自己陶酔っぷりが鼻について、あまり好みではありません。むしろ、未収録の「償い」の方が、前2話で描かれた神代と小泉純子の“擬似親子”的な関係に、神代と叶という、もう一つの“擬似親子”を対比させることで、ドラマが深まった感があり、未収録というのはいかにも残念です。

とはいえ、こうしたアンケートを行うからには、特捜DVD-BOXは引き続きリリースされると思いますので、私や皆様の私的お奨めエピソードも、いつか陽の目を見ることでしょう。ファミ劇での第1話からの放送再開とともに、気を長くして待つこととしましょう。

第467話 死体彷徨・水の殺人トリック!

2009年06月02日 03時09分53秒 | Weblog
脚本 大野武雄、監督 三ツ村鐵治
1986年5月29日放送

【あらすじ】
ある朝、公園で男の首吊死体が発見される。現場を通り掛った橘が死体を確認したところ、その男は、15年前に橘が追っていた殺人事件の犯人だった。「自殺に見せかけた殺人ではないか?」と疑念を抱く橘。というのも、男があと3日で時効を迎えるからだ。
捜査に乗り出す特命課。現場検証の結果、現場には男の足跡がなく、別の人間の足跡が残っていた。それは、サイズに比べて体重が重すぎる不自然なものだった。一方、男が働いていた工事現場が判明し、男の遺留品からアベックの写真と雑誌が見つかった。同僚の証言によれば、男がその雑誌を見て「俺にも運が向いてきた!」と興奮していたという。
その後、アベックの写真に写っていた料理から、橘はそれが関西で撮ったものだと気づく。男がかつて勤めていた大阪の探偵社を訪ねる橘。写真のアベックは、当時の男の調査対象だった。アベックは結婚を反対され、毒を呷って心中死を遂げていたが、男だけは、それが偽装心中だと知っていた。なぜなら、男が撮った写真には、アベックの目を盗み、ジュースに毒薬を仕込む第三者の手が映っていたからだ。男は逃走中も、いつか真犯人を探し出し、写真をネタに強請ろうと図っていた。そして、雑誌の中に真犯人の姿を発見。男と同様に時効を目前にした真犯人を強請ろうとして、逆に殺されたに違いなかった。
くまなく雑誌を調べ直した橘は、人気歌手と婚約した医師の記事に目を止める。その手には、写真の手と同じ箇所に黒子があった。心中当時、医師は借金に苦しんでいながら、母親の入院費として大金を支払っていた。それは、アベックが手切れ金として手にした金と同額だった。
医師を調べたところ、靴跡が現場のものと一致する。医師が男を絞殺した後、男を背負って公園に運び、自殺に見せかけた。そう推理する橘だが、医師は「同じ靴を履いた人間はいくらでもいる」と犯行を否認。医師は黒子を別の傷跡で隠しており、男の死亡推定時刻である深夜には、手術中という確かなアリバイがあった。やむなく医師を釈放し、15年前の偽装殺人は時効を迎える。
男殺しを立証すべく、医師のアリバイ崩しに奔走する特命課。医師が犯行可能な時刻は、夕方の2時間と、夜明け前の1時間のみ。桜井は、男の腕時計が、生前の右手から、死後は左手に移っていることに気づく。腕時計を外すのは入浴時。医師は夕方に病院内の自室で男を絞殺した後、裸にして水風呂につけて死後硬直を遅らせ、夜明け前、闇に紛れて公園に運んだのだ。
だが、その推理に対し、医師は「数キロ離れた公園まで、死体を抱えて走れると思いますか?」と反論。医師の主張どおり、車やタクシーを使った痕跡もなく、捜査は再び暗礁に乗り上げる。
「奴はなぜ、あの公園を選んだ?」神代の言葉をヒントに、公園を再度調べ直す特命課。マンホールの蓋にロープの糸くずが挟まっていたことから、橘は真相をつかむ。公園と病院の裏庭は、下水道で一直線につながっていた。医師は雨で増水した下水道を利用して死体を運び、公園のマンホールから引き上げたのだ。マンホールの蓋から医師の指紋が発見され、物証となる手袋も下水道から発見される。
橘が逮捕状を手に病院に到着したとき、医師は交通事故にあった少年の手術に臨んでいた。やがて、手術が無事に成功。幼い命を救った医師に、橘は逮捕状を突きつけるのだった。

【感想など】
第449話「挑戦・炎の殺人トリック!」に続く、大野武雄脚本のトリックシリーズ第2弾。(ちなみに、第3弾として第485話「喪服のソープ嬢・1/30の殺人トリック」がありますので、このシリーズがお好きな方はどうぞお楽しみに)。
前作以上に込み入ったストーリーを、論理にいささかの破綻もなく、かつ視聴者にも分かり易くまとめ上げており、丹念な証拠集めや、無理な飛躍のない推理など、非常に丁寧なドラマづくりという印象。特に印象的なのが、前作と同様に一ひねりしたラスト。見る者に何とも言えない余韻を残します。

とはいえ、手放しに褒められないと思ってしまうのが、肝心要のトリックです。増水した下水を利用して死体を運ぶというのは、着想こそ「なるほど」と思えるものの、数キロ離れた公園まで、激流となった下水よりも早く走れる人間がいるのでしょうか?仮に走れたとして、増水して激流となった下水道から、どうやって死体を地上まで運び出したのでしょうか?水の量や速度、公園までの距離など、詳細は分からないので、一概に不可能とは言い切れませんが、「ホンマにできるのか?」と思った視聴者は私だけではないでしょうし、そう思わせるだけで、映像作品としては失敗と言えるのでは?(逆に、実際には不可能であっても、視聴者に違和感を抱かせなければ、映像作品としてはある意味成功。そこが活字と映像の違い、というのは余談が過ぎますね。)
こうした、ロジックにこだわる余りに実現可能性が置き去りにされているという印象は、前作でも感じたもの。もちろん、推理ドラマとしてロジックを楽しまれる方にとっては、充分評価に値する作品だと思いますので、視聴者の嗜好によって評価の分かれるシリーズと言えるのではないでしょうか。