特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第417話 誘拐ルート・5時間の追跡!

2008年06月27日 02時10分53秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 宮越澄
1985年5月29日放送

【あらすじ】
7歳の少年が誘拐された。誘拐犯の指示を受け、身代金を持って首都高速を走る父親。その前後を橘・吉野と桜井・叶が車で見張り、さらに上空からは紅林がヘリで追跡する。目印の白いハンカチは待避車線に残されており、父親はトランクを置いて走り去る。非常階段を上ってきた犯人がトランクを持って逃走。このまま逃がしては、首都高速の影に隠れて上空からの追跡も困難となる。車を降りて犯人を追う桜井と叶。「止まらんと撃つぞ!」叶の威嚇に驚いた犯人は転落死を遂げる。
少年の身柄はどこに?犯人の衣服に残ったメモをもとに、遊園地跡にヘリで先行する紅林。少年のランドセルとともに、割れた窓ガラスと血痕を発見。血痕は少年のものと判明し、出血の量からすれば、救出は一刻を争う。血痕の途切れた場所で聞き込んだところ、軽トラックが慌てて走り去って行ったらしい。
軽トラックに記されていた会社名から、運転しているのは零細企業の社長と判明。社長は誘拐の共犯なのか?零細企業を訪ね、社長の妻を問い質す桜井たち。妻は誘拐犯に心当たりはなく、社長は朝から金策に出かけているという。今日中に手形を決済できなければ、会社が倒産してしまうのだ。
社長の足取りを追う桜井は、融資に必要な印鑑証明と住民票を取りに行った区役所へと向かう。区役所員の証言では、終業時間の12時を過ぎていたため、必死に頼む社長を追い返したという。朝一に出かければ、区役所まで12時過ぎまでかかるはずはない。その間、社長は何をしていたのか?だが、身代金受け渡しの最中にも金策に走り回っていたことは明らかであり、「社長は共犯などではなく、脱出してトラックに逃げ込んだ子供に気づいていないだけでは?」と推測する桜井。
なおも捜査を続けたところ、社長が警官に尋問されていたことが判明。老人が貧血で倒れる現場に行き会った社長は、親切心から老人を病院に送り届けた。だが、目撃者は軽トラックが轢いたと勘違いして通報。老人の意識が戻るまで、しつこく警官に尋問されたため、区役所に間に合わなかったのだ。
社長の無実に気づき、公開捜査に切り替える特命課。ニュースを聞いて子供の存在に気づいた社長は、特命課に電話を掛ける。応対した神代に対し、社長は「区役所員と警官にテレビで謝罪させろ!そうしないとあの子は返さない!」子供の命はもちろん、善意の行動のために窮地に陥った社長を犯罪者にしないためにも、必死の説得を続ける神代。絶望感に駆られて自暴自棄になる社長だが、逆探知で居場所をつきとめられ、観念する。「あなたの善意を誤解し、窮地に陥れたことを謝りたい」同じ警察官の一人として頭を下げる神代の態度に、社長は子供の居所を明かす。無事に保護された子供は、社長の応急手当により一命を取り止める。事情を知った子供の祖父が融資を申し入れたことで、社長の会社も倒産を免れるのだった。

【感想など】
誘拐された少年の安否を巡るサスペンスと、理不尽なお役所仕事に追い詰められる社長の悲哀とが絶妙に絡み合った一本。ここのところ、着実にレベルが上がってきていると感じていた藤井脚本ですが、今回でその評価をさらに高めた感あります。後半の展開が第118話「子供の消えた十字路」の焼き直しだったり、オチが丸分かりだったりと、気になる箇所がないでもありませんが、特定の主役刑事がいないながらも、刑事一人ひとりにさり気なく見せ場を与えているあたり、非常に好感が持てます。
誘拐犯を死なせた責任にかられる余り、社長を共犯と決め付けたことを後悔する叶。そんな叶をフォローする桜井。誘拐犯の母親を気遣う吉野や橘。そして、何よりも一人の警官の不始末を、我がことのように頭を下げる神代の潔さ。彼ら一人ひとりの誠意と責任感が、救いのあるラストに結びつき、非常に爽やかな後味を残します。
その一方で、社長を追い詰めた区役所員や警官は、結局、何の罪も責任も問われることなく、これからもお役所仕事や高圧的な尋問を続けることでしょう。職務に忠実であった警官はまだしも、ルールを自分たちが楽をするための道具としか捕らえていない区役所員の姿は、当時も今も全く変わることなく、怒りを越えて憎悪すら覚えます。自分たちの仕事が誰のためのものか、自分たちが得ている給料は何に対する対価なのか、一度たりとも考えることなく、顧客満足などという言葉とは無縁のままに、ただ定年までの日々を過ごす連中には、社長ならずとも「謝れ!」と怒鳴りつけたくなります。甘く、安易なラストと思われる方もいるかもしれませんが、こんなクズどものために犯罪者にならなくてよかったと、心の底から思う私でした。

第416話 老刑事・レジの女を張り込む!

2008年06月24日 21時53分11秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 北本弘
1985年5月22日放送

【あらすじ】
幼い娘と二人暮しの未亡人が刺殺された。未亡人が最後に残した言葉から、犯人の氏名と動機が判明。犯人は覚醒剤中毒者で、他の女の名前を呼びながら、錯乱したように刺したという。犯人の氏名は前科のある詐欺師のもので、その被害者リストの中に、犯人が呼んでいた女の名があった。10年前、女は詐欺師に騙され、当時勤めていた銀行から1億五千万円を横領し、解雇されていた。犯人が女のもとに現れると見た特命課は、女を徹底的にマーク。船村が女の勤めるスーパーに警備員として潜入する。
万引きした女性客を連行しようとした船村だが、女は咄嗟に盗品をレジ打ちし、女性客をかばう。その事件をきっかけに接近し、焼鳥屋で酒を酌み交わす二人。「お客さんの籠の中に、それぞれの生活が詰まっているんです」とレジ打ちの仕事の魅力を語る女。船村は当初抱いていた先入観とのギャップに戸惑いを感じる。
一方、10年前の横領事件を調べた橘は、女とともに責任をとって辞職した上司の存在を知る。上司の実家を訪ねた橘だが、応対した老母は「辞職以来、遠洋漁業に出て日本に帰って来ない」という。だが、橘は上司が実家に潜んでいることを見抜く。
そんななか、女は包丁で強盗を企てた老人を止めようとして負傷する。女を自宅まで送り、看病する船村。女のためにビーフシチューを作り、亡き妻の思い出を語る。荒れ放題だった庭を手入れし、花を育てる約束をする船村と女の間に、確かな絆が育まれていく。女が自分に対して男女の情を抱きかけている事に気づいた船村は、黙って女の自宅を去り、神代に「疲れました」と潜入捜査の交代を申し出る。
だが、未亡人の娘が描いた犯人の似顔絵によって、事態は急変。そこには詐欺師の顔ではなく、上司の顔が描かれていた。犯人は詐欺師の名を騙った上司だったのだ。さらなる凶行が繰り返され、やむなく、再び女に接近する船村。降りしきる雨の中を、寄り添い合って歩く二人。「あんたは私を物分りのいい老人と思っているかもしれんが、年寄りほど怖いものはない。あんたは本当の私を知らない」そう語る船村に、女は「私だって、隠していることがある」と過去を告白。「詐欺師はもう死んでいる。私が殺したんです」と衝撃の事実を告げる。この10年間の苦しみを救って欲しいと、船村を部屋へと誘う女。だが、船村は特命課に戻り、「詐欺師の行方に心当たりがある」と報告。10年前に、女が詐欺師と待ち合わせたという秩父の山小屋付近を捜索した結果、詐欺師の死体が発見される。
詐欺師殺害の容疑者として、女を連行する特命課。「船村さんが喋ったんですか?船村さんに会わせてください!」半信半疑の女の前に、自ら歩み出て、刑事の身分を明かす船村。「信じていたのに!長い間、人を信じたことなんかなかったのに!私に話してくれた奥さんのことも、みんな嘘だったんですか!」女の問い答えず、あくまで刑事として接する船村。「あなたも、あの詐欺師と同じなんですね・・・」失意の中で、女は真相を語る。詐欺師を殺したのは、女から相談を受けた上司だった。上司は横領した金を手に渡米し、女を待っていた。だが、女は上司の元に行くことなく、スーパーでレジ打ちの仕事に就き、横領した金を少しずつ返却し続けていた。
釈放した女のマークを続ける特命課。だが、女は仕事中に姿を消す。すべてを捨ててやり直そうと、自宅で荷造りする女。その庭には、約束した花を植える船村の姿があった。そこに、女を探し当てた上司が背後から襲い掛かる。女を守って格闘する船村。駆けつけた特命課によって上司が逮捕された後には、ボロボロになった花が残った。

【感想など】
おやっさん×塙五郎の名コンビによる珠玉の名編も、いよいよラスト2本。今回も深い味わいを残す1本でした。刑事の身分を隠して容疑者や事件関係者に近づき、ラストで「騙していたのね!」と恨まれる展開は、これまでにも数多く描かれてきた定番パターンですが、今回がそれらと一線を画するのは、おやっさんと女の間に男女の愛が生まれるという展開。私の知る限り、おやっさんの恋が描かれること自体(奥様への愛情は別にして)が初めてであり、おやっさんファンにとってはそれだけで非常に価値あるエピソードと言えます。
逆に言えば、おやっさん主演でなければ「よくある展開」で終わってしまいかねないわけですが、それだけで終わらないのが塙脚本の魅力。まず、印象深いのは、レジ打ちの女を通して描かれるさまざまな人々の姿です。男に騙されたショックから精神を病み、子供もないのに産着の万引きを繰り返す女。一万円札のお釣りを「嬉しいことがあったから、取っとけ」と差し出したという男。定年を迎えて何をすることもなく、店内を徘徊した挙句、自暴自棄な衝動に駆られて強盗に走る老人・・・こうしたエピソードの積み重ねを通じて、おやっさんと女の心の距離が縮まっていく展開が見事です。

刑事としての立場や自分の年齢、そして亡き妻への想い。女に惹かれるがゆえに、男女の情に流されることを躊躇うおやっさん。一度は耐えかね、交代を申し出ながらも、捜査のために再び接近し、女の告白を引き出します。人間(というか男)に対する拭いようのない不信感と、レジ打ちの仕事を通じて回復しつつあった他人への優しさ。その間で苦しみ続けてきた女の内面を理解しているがゆえに、その(勇気を振り絞った)信頼を利用してしまったことに罪悪感を抱くおやっさん。取調室ではあえて刑事としての自分に徹したものの、やはり女への想いは捨てきれませんでした。もう一度、刑事ではなく、一人の男として向き合えないかと願ったおやっさん。その象徴が、女の庭で育てようと持ち込んだ花の苗であり、その花がボロボロになってしまう結末に、それが叶わない願いだったと示されているような気がします。

悲恋に終わった「老いらくの恋」。そのドラマの締めくくりもまた印象的です。事件解決後、男女の仲の難しさを語り合う刑事たち。「おやっさん、あの女に惚れてたような・・・」と呟く紅林。「いい年して、そりゃないでしょう」と笑う吉野に、神代課長が少し怒ったように言います。「おかしいかね。いい年して女に惚れちゃあおかしいかね。あの女、亡くなったおやっさんの奥さんに似ていたね・・・」
神代課長のおやっさんに対する、深く、さりげない友情が描かれる名シーンを経て、ラストでは、女の姿が消えたレジを見つめるおやっさんの脳裏に「私、この仕事が好きなんです」という女の台詞が響きます。それは「あなたは刑事という仕事が好きですか?」という呼びかけのようにも聞こえます。その問いに対し、おやっさんはどう答えたのでしょう。表情からはその答えを読み取ることはできませんでしたが、残り少ない刑事生活を控えたおやっさんが「私も刑事という仕事が好きだ」と言い切れたとは思えない。私にはそんな気がしてなりません。間近に迫ったおやっさん退職編において、果たして、その答えがどのように描かれるのか、心して見届けたいと思います。

第415話 広域指定117号の女!

2008年06月21日 01時50分47秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 天野利彦
1985年5月15日放送

【あらすじ】
ある夜、一家3人が強盗に惨殺された。遺留指紋から浮かんだ犯人は、半年前に出所したばかりのヤクザ。橘は、ヤクザとその情婦らしき女に面識があった。半年前、車内暴力事件の目撃者として、二人連れの男女に証言を求めた橘。最初は名前すら明かそうとしなかったものの、橘の説得で証言を決意したその二人連れこそ、ヤクザと女だった。
普通の家庭の主婦だと判明した女の住所を訪ねる橘。そこには「警察のせいで、うちの家庭は崩壊した」と嘆く亭主がいた。橘の説得で裁判に出廷したことで、女とヤクザの関係が世間に明るみに出たため、子供は「ヤクザの女の子」として周囲のいじめに遭い、亭主の郷里である熊本に避難。亭主も職を失い、肝心の女は家出して行方不明だという。
その後、ヤクザが奪った車が熊本で発見され、橘は熊本へ飛ぶ。亭主の実家には、祖父母のもとで幸福に暮らす息子の姿だった。「あの女とは無関係」と関わりを避ける祖父母から、ようやく女の勤め先を聞き出した橘だが、女は「二度と警察と関わりたくない」と拒絶する。橘がマークを続けるなか、速達ハガキを受け取った女が熊本城へと出かける。後を追う橘だが、ヤクザらしき男を発見したとたん、女に妨害されて逃走を許してしまう。
その後、神代らも熊本に到着。黙秘を貫く女を釈放し、マークを続ける橘。法律事務所を訪ね、息子に対する親権を放棄する手続きを取る女。その真意を問う橘に、女はヤクザとの出会いを語った。早くに両親を失い、親戚中をたらい回しにされて育った女は、家出同然に家を飛び出し、ヤクザに拾われた。女と同様に、早くに両親を無くしたヤクザは「他人事とは思えない」と女を保護し、世間知らずだった女はヤクザの女房気取りで過ごしていたが、ヤクザが入獄したため、「お金のため」に亭主と結婚したのだという。
一方、東京では、女の同僚だったホステスの証言から、子供の実の父親がヤクザだと判明。女は「本当のことを言って亭主を苦しませるより、その分尽くしなさい」というホステスの助言を受け、亭主には黙ったまま結婚したが、ヤクザはその事実を知っているという。女はこれ以上迷惑をかけないために、親権を放棄したのでは?そう推測する橘のもとに「女が姿を消した」との連絡が入る。女の部屋に残されたハガキから、ヤクザに呼び出されたことが判明。待ち合わせ場所に急ぐ橘だが、女とヤクザの姿は見えない。
2度にわたるハガキの文面が印刷されたものだったことに違和感を抱く神代。女の勤め先の隣にある印刷工場で確認したところ、ハガキを依頼したのは女自身だった。また、東京にいるはずの亭主が、橘が訪れた直後に熊本に飛んでいることも明らかになる。「ヤクザは既に死んでいる。熊本城で見たのは、ヤクザではなく亭主だ!」女の部屋の床を掘り返す橘。そこから現れたのは、ヤクザの死体と、女が残した橘宛の手紙だった。自殺を示唆する言葉に、必死に女の行方を探す橘。ようやく海岸に倒れる女を探し出し、事件は解決する。
女が最も恐れていたこと。それは息子にヤクザの子だと知られることだった。そのことをネタに金を強請ろうとしたヤクザを、女は思わず殺めてしまった。そこに、心配のあまり訪ねてきた亭主が。真相を知った亭主は女を許し、協力して隠蔽を図ったのだ。子供の元に戻った父親が、手を取り合って遊ぶ姿を、見つめる橘と神代。「あの子が、一度は崩壊した家族の絆を戻してくれたんだ」と語る神代に、橘は強く頷くのだった。

【感想など】
愚かな女と外道なヤクザのために、罪も無い亭主や子供までが迷惑をこうむるという、わりとよくある話を描いた一本。気の毒なのは冒頭で一家皆殺しにされた家族であり、他には特に同情すべき点はありません。ヤクザはもちろんのこと、不幸な自分に酔っているかのような女に対しても嫌悪感しか抱けず、ラストの神代課長のまとめ方も、強引にオチをつけただけにしか聞こえません。やっぱり地方ロケ編は駄作率が高いと、変な意味で納得しました。

第414話 喫茶店ジャック25時の謎!

2008年06月19日 02時14分20秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 天野利彦
1985年5月8日放送

【あらすじ】
背中に紫のバラの刺青をした強盗犯を逮捕した特命課。連行される強盗犯の姿がニュースで報道された直後、女性の声で「助けて、殺される!強盗犯を釈放して!」との電話が特命課に入る。逆探知した結果、ある喫茶店からだと判明。たまたまその喫茶店付近を聞き込んでいた叶は、銃を手に立て篭もっていた若者に足を撃たれ、人質となっているマスターやウェイトレスとともに監禁される。
喫茶店を包囲する特命課に対し、若者は「強盗犯をここに連れて来い」と要求する。やがて若者の身許が判明するが、強盗犯との関わりは不明。若者の部屋を捜索したところ、強盗犯の刺青と同じ絵柄の皿が発見される。両者の間にはどんなつながりがあるのか?取調室で強盗犯を締め上げる船村。強盗犯は若者のことを知らなかったが、若者の郷里である大分には、10年前に一度だけ行ったことがあるという。
絵皿を持って大分へ飛ぶ紅林と吉野。絵皿は「その色を絶対に忘れないために」と若者自身が望んで作ってもらったものだった。10年前、まだ中学生だった若者は、自分がロープから手を離したために、友人を崖から転落死させていたが、その事件に強盗犯が関わった形跡は無かった。
一方、神代は逃走方法など考えていない若者の様子を見て「奴の狙いは、強盗犯を助けることではないのかもしれない」と推測する。若者の要求に従い、船村が強盗犯を連れてくる。強盗犯の姿を見た若者は、強盗犯を狙って発砲。弾は逸れたものの、若者の目的が強盗犯への復讐だと判明する。「奴にどんな恨みがある?」叶の問い掛けに答えないものの、ウェイトレスに対していたわるような態度を見せる若者。
一方、紅林と吉野は、死んだ友人の母親を訪ねる。若者は母親に対し「ロープを放したのは、刺青の男に突き飛ばされたからだ」と語ったという。母親は「事故のことは忘れろ」と諭したが、若者は刺青の男を探すために上京したという。さらに、人質のウェイトレスが友人の姉だと判明。若者は、友人の姉の目の前で、友人の仇を討つつもりなのだ。
「友人の死であれほど悩んだお前が、今度は本当の人殺しになるつもりか?10年前の事件は、私たちがきっと解明する」神代の説得に動揺する若者に、ウェイトレスが「もうやめて!」と飛び掛かる。その隙をついて叶が組み付き、踏み込んだ桜井、橘とともに若者を取り押さえる。だが、強盗犯には友人を死なせたという自覚は無かった。強盗犯にとっては、邪魔な子供を突き飛ばしただけであり、その事を覚えてすらいなかった。「じゃあ、あいつの死は、いったい何だったんだよ!」事件は解決したものの、刑事たちの胸には、やり場のない若者の怒りが重く響き、せめて「あんな男のために、自分自身をこれ以上苦しめるな」という神代の言葉が、若者の胸に刻まれることを願うのだった。

【感想など】
何が言いたいのかよく分からない一本。あえて言えば、加害者と被害者の意識のギャップと、それゆえの被害者の哀しみ、ということになるのでしょうが、いかんせん投げっ放しであり、「それはお気の毒に・・・」とでも言うほかありません。
また、若者の素性も目的も理解しているウェイトレスが、最後まで何も言わないのも不自然であり、大分での聞き込みも(主要な観光地を巡る必要があったのは分かるが)まだるっこしいことこの上なく、評価は低くならざるを得ません。
ただ、ゲスト陣は無駄に豪華であり、強盗犯は「時代劇や刑事ドラマの悪役なら任せろ!」のゼロ大帝こと中田博久(キャプテンウルトラの方が有名?)。また、若者を演じるのは後にカクレンジャーやライオン丸Gで怪演を見せる遠藤憲一。当時から只者でない雰囲気を漂わせています。
あと、最も意味不明なのがタイトルの「25時の謎」ですが、確認してみると、事件発生(最初の電話)から解決までの時間がちょうど25時間。このことを指しているのなら「25時間」でないと変。25時といえば、普通は深夜1時のこと。もうちょっと何とかならなかったのでしょうか?

第413話 眠れ父よ、季節はずれの雛人形!

2008年06月14日 02時56分30秒 | Weblog
脚本 広井由美子、監督 辻理
1985年5月1日放送

【あらすじ】
ホステスがマンションの自室で刺殺された。犯行時刻、マンションから出て来た初老の男がバイクにはねられ重体に。所轄署は、凶器のナイフの指紋から男を犯人と断定。しかし、男とホステスの関係や動機は不明のままであり、「容疑者が証言できない状態のまま、推測だけで決め付けるのは危険」という神代の考えのもと、捜査に乗り出す特命課。
男が事故にあっても離そうとしなかった荷物の中身は、和紙で作った雛人形だった。時期遅れの雛人形に、どんな意味が隠されているのか?一ヶ月が過ぎても意識不明のままの男を、なぜか敵意を見せながら看病する一人娘。詳しい事情を聞こうとする叶だが、娘は、男が痴情のもつれから愛人を殺したのだと決め付けていた。その理由は、母親の死にあった。数年前、男の浮気を苦にした母親は蒸発し、自殺を遂げたという。娘からすれば、男が母親を殺したようなものだった。愛憎入り混じった思いで看病を続ける姿を案じる叶に、娘は「父の安楽死を考えない日はない」と心境を吐露する。
その後、ホステスの内縁の夫である宝石商の存在が明らかになり、男とホステスが愛人関係でなかったことが判明する。また、現場の証拠を洗い直した結果、男の指紋は一度ナイフをきれいに拭った後で付いたものだということや、男が110番しようとしたことが判明。真犯人は宝石商で、男はホステスが殺された後に訪ねたのではないか?だが、尋問する桜井らに対し、宝石商は「事件の前日から出張しており、今日戻ってきたばかり」とアリバイを主張する。
一方、雛人形の製造元を追った叶は、ある女が刑務所で作ったものだと知る。現在は出所しているその女は、死んだはずの母親だった。母親は、男の出張中に浮気相手と蒸発。やがて、自分を裏切った浮気相手と心中を図ったが、一人生き残り、殺人罪で服役した。男は、母親の浮気と殺人を娘に隠すため、あえて自分が憎まれ役になっていたのだ。娘に真実を隠し通した男の気持ちを「父親のエゴだ」と断じる叶。しかし橘や神代、船村には、男の真意が痛いほど分かった。「彼には傷つけたくない人間がもう一人いた。女房だよ」
真実を明かすべきだを決意した叶は、娘とともに母親のもとに向かう。互いにショックを受ける娘と母親だが、母親の口から真実が明らかになる。母親が殺した浮気相手は、殺されたホステスの夫だった。事件当日、母親はホステスに侘びを入れるべく、男とともに雛人形を持って訪ねる予定だった。だが、母親が急用のため、男だけが訪ねたところ、事件に遭遇したのだ。
やがて、宝石商のアリバイが偽装だと判明し、特命課は真犯人として逮捕。男の無実は証明される。だが、そこに娘から叶に「父を殺した」との電話が入る。意識を失ったまま衰えていく男を見かねて、人工呼吸器を外し、安楽死させたという娘。だが、それは母親をかばっての証言だった。特命課を訪れた母親は、真実を語る。母親には、男が魂で訴えるのが聞こえ、その言葉に従ったのだという。罪を認め、連行される母親に「待っているから」と涙ながらに声をかける娘。泣き崩れる娘を、叶は優しく抱き止めるのだった。

【感想など】
夫婦の、そして親子の愛情が、その深さゆえに伝わらない悲劇を描いた一本です。素直な気持ちで見れば感動的なエピソードなのでしょうが、素直に見れない私としては、正直なところ底の浅い陳腐な話としか映りませんでした(タイトルにある雛人形に全く意味が無かったことも含めて)。
台詞がすべて計算ずく(しかもその計算が見え見え)なせいでもあるでしょうが、その台詞をただ暗記した通りに再現しているだけの娘の芝居臭さが何とも空々しく、余計に底が浅く見えてしまいました。また、植物人間となった男を安楽死させ、罪に服する母親の姿を「命の尊厳を越えた愛情」として描くのも気になります。母親が聞いたという父親の魂の声とは「もう楽にさせてくれ、そしてお前たちも楽になってくれ」というものだったのでしょうし、そこに共感できなくはないですが、だからといって命を奪うことが愛情だとは、感情はともかく理屈として認めるのは抵抗があります。その当たりは脚本かも分かっているようで、だからこそ母親は進んで罪に服するわけですが、それも「罪を背負ってでも愛を貫く」という姿であり、安楽死させるという選択を美化していることに変わりはありません。この当たり、非常にデリケートなので語りづらいのですが、私は安楽死=非だと結論づけているわけでなく、その是非はそうした境遇にある一人ひとりが悩みに悩みぬいて末に、自分の責任で決めるものだと思っています。だからこそ、是非いずれであっても、脚本家の主観を押し付けるような脚本は(本人にその気がなくとも)好きになれません。
とはいえ、娘のため、そして妻のために、自分が憎まれ役となってでも真実を隠そうとする父親の姿や、そこに共感する妻帯経験者たち(神代、橘、おやっさん)の姿には、心を揺さぶられるものがあり、安楽死の是非というデリケートかつ視聴者にとって受け止めづらい展開にするのではなく、意識を取り戻した父親を囲んで、この家族が明かされた真実にどう向き合っていくかを描いて欲しかった、というのが個人的な感想です。

第412話 OL・横浜ラブストーリー!

2008年06月10日 04時28分53秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 三ツ村鐵治
1985年4月24日放送

【あらすじ】
妻を殺害して逃走した男を追う特命課。資産家の娘である妻は、家庭を顧みず遊び回っており、男はそんな妻に嫌気が差していたという。捜査の結果、かつて男と一緒に故郷から駆け落ちした恋人の存在が浮上。現場に残されていた燃えかけの手袋は、恋人が編んだものであり、嫉妬した妻が手袋を焼いたことが殺人のきっかけかと思われた。男は金に目がくらんで恋人を捨てながら、今でも忘れられなかったのだろうか。
元恋人は、現在は横浜でOLとして働いていた。吉野はOLのアパートの隣室を借り、勤め先にガードマンとして潜入する。OLの身辺に男の気配は無く、結婚相談所の会員になっていることからも、今では男と接点が無いように思われた。電車内で狼藉するチンピラを注意し、からまれるOL。その窮地を救ったことで、吉野はOLと親しくなる。
吉野と屋台のおでんを食べながら、男との過去を語るOL。古いフォークソングの歌詞のように、好きな男と貧乏暮らしに耐える姿に憧れ、失敗したことを「子供だったのよね」と振り返るOL。自分を捨てた男を恨むこともなく、「過ぎ去った青春」を淡々と受け入れるOLの姿に、吉野は男とは無関係だと確信する。
やがて、OLのアパート付近に男が出没。勤め先の受付に、残った片方の手袋と手紙を託す男。だが、OLは男の呼び出しを断り、スナックに吉野を呼び出す。「寂しいよね、忘れた方がいいことの多い人生なんて」「無理して忘れることはない。そんなことより、君がこの先どうやって生きていくか、その方が大切なんだ」忘れていたつもりでも、男を忘れていなかった自分に気づきながら、過去を吹っ切ろうとするOL。その姿に、吉野は捜査を越えた感情を覚える。恋人同士のように、夜の街を歩く二人。そんなOLに、結婚相談所で紹介された中年男が声を掛ける。妻を亡くし、男手一人で娘を養う中年男は、OLを妻にと強く望んでいたが、吉野の存在を知り、潔く去って行った。
その後の捜査で、男が会社の金を横領し、妻との離婚を企んでいたことが判明。過去の思い出を守るためなどではなく、所詮は自分の都合による殺人だったのだ。「若い頃から自分の都合のままに扱ってきたOLは、男にとって最後の避難所だ」神代の指摘に、吉野は「冗談じゃない!俺は、絶対にそんな奴を彼女に会わせません!」と怒りを露にする。
だが、OLは男に呼び出されて会社を早退する。捜査を忘れて、OLの乗るタクシーに駆け寄る吉野。「なぜ行くんです?今、あの男を忘れなきゃ、あんたはずっとあいつのために苦しむことになる!」「あの人、泣きながら電話してきたんです。私のために妻を殺したって・・・」吉野の制止を振り切り、走り去るOL。
港で男と再会を果たすOL。そこに追いついた吉野は、怒りの形相で男を逮捕。「私、分かってました。吉野さん、人を騙すの下手です」刑事という身分を偽っていたことを責めることなく、自分を傷つけまいとした吉野に「嬉しかった」と語るOL。やがて、吉野のもとに、OLから中年男との結婚を決意したとの手紙が届く。彼女の前途を祈り、吉野は一人、おでん屋で祝杯をあげるのだった。

【感想など】
過去の過ちを淡々と受け入れつつ、新しい人生を生きようとする女性に惹かれる好感・吉野の純情さを描いた一本。藤井邦夫脚本ということで、失礼ながら期待していなかったのですが、個人的には非常に好感の持てる秀作でした。そう思える理由の一つは、吉野やOLの人物像もさることながら、OLと男の過去を描く際に、かぐや姫の名曲『赤ちょうちん』が用いられていること。個人的にすごく思い入れのある曲で、イントロだけでフルコーラスの歌詞が想起され、それだけで二人青春時代を見て取れたような気がしました。

「覚えてますか寒い夜。赤提灯に誘われて、おでんをたくさん買いました。月に一度の贅沢だけど、お酒もちょっぴり飲んだわね」『神田川』と並んで四畳半フォークの代表作とされるこの曲は、貧しくとも美しい、いや、貧しいがゆえに美しい、愛する若い男女を描いたもの。OLが「昔、おでんに憧れていたの」と語るように、古きよき時代の若者たちが理想とした世界の一典型でした。とはいえ、発表されたのが1974年ですので、本放送時点で既に懐メロ。ラストシーンで「おでんに憧れて、苦労を背負い込んだ女がいたんですよ」と語る吉野に、おでん屋が「まさか」と笑ったように、もはや時代遅れのセンチメンタリズムに過ぎなかったと言えるでしょう。

実は、『赤ちょうちん』の歌詞の後半では、働かない男に愛想をつかした女が、別れた男を懐かしむ姿が描かれます。「貴方と別れた雨の夜、公衆電話の箱の中、膝を抱えて泣きました」「今でも時々、雨の夜。赤ちょうちんも濡れている、屋台に貴方がいるよな気がします。背中丸めてサンダルはいて、一人でいるよな気がします」男に捨てられるまで尽くし続けた若い日のOLに比べれば、まだ歌詞の中の女の方が懸命です。しかし、そんな懐メロの歌詞以上に昔気質な女だからこそ、吉野の優しさを理解することができた。そして、刑事という立場とOLへの想いの間で揺れる吉野を思いやり、「忘れなくちゃいけないのに、忘れられない人ができたかも」と、さり気なく別れを告げることができたのだと私は思います。「この人は、刑事であることを捨てられない。自分を愛することが、(いつか)この人にとって足枷になる」OLの台詞の裏には、そんな想いが込められており、そんなOLの賢明さ、慎み深さに、吉野や中年男は惹かれたのでしょう。刑事という立場を捨てることを許さない厳しさの中に、吉野の純情さを見守る優しさを秘めた神代や桜井の態度も含めて、非常に好感の持てる一本でした。

第411話 消えたニューナンブ38口径の謎!

2008年06月06日 01時46分18秒 | Weblog
脚本 押川國秋、監督 天野利彦
1985年4月17日放送

【あらすじ】
3件の連続殺人の容疑者として起訴された男の身柄を預かり、再捜査に乗り出す特命課。男は警察官を呼び出して拳銃を奪って殺害、その拳銃でサラ金強盗を働き店員を射殺、さらに愛人関係にあったホステスを射殺したものと見られていた。だが、公判では弁護側が、男にはホステス殺しの時間に確かなアリバイがあることを立証。3件とも同じ拳銃が使用されているため、1件が男の犯行でないとすれば、他の2件についても起訴事実の信憑性が問われることになる。
犯行当日、男は一日中パチンコをしていたと主張。その夜、ピンサロで愛人のホステスらに札束を見せびらかしていたが、店を出た後は路上のトラックで寝ていたという。翌朝、ホステスが殺された時間にはデパートで食事をしており、その姿が目撃されていたのだ。
男は取り調べ段階でもホステス殺しを否定し、その現場で発見された指紋も、男のものとは一致しなかった。特命課は、先の2件は男の犯行で、ホステス殺しは同じ拳銃を使った別人の犯行だと推測。唯一の物証である拳銃の行方を追う。
ふてぶてしい態度で刑事たちを翻弄する男。特命課は「トラックで寝ていた」という証言を疑問視し、その夜の足取りを追う。代々木公園近くの屋台で目撃証言を得た橘は、男が付近に寝場所を確保していたはずと推測する。男の妻を訪ね、立ち回り先を尋ねる橘だが、妻に心当たりは無いという。代々木公園付近に空きアパートを発見した橘は、近所の住人から「よく酔っ払いの歌声を聞いた」との証言を得る。酔っ払いが歌っていたという歌詞を間違えた調子外れの演歌は、男の癖そのものだった。事件当時、そのアパートに住んでいた住人を捜し当てたところ、事件当夜、逃げるように走っていった女を見たという。
そのアパートこそ凶器の隠し場所と見た橘は、アパート内を徹底的に捜索。廊下の天井から拳銃を発見する。だが、男はなおもシラを切る。逃げた女の心当たりを問われた男の「自慢じゃねぇが、死んだホステス以外には、女房くらいしか縁がねぇ」との答えから、特命課の疑惑は妻に向けられる。改めて妻を訪ねる橘。ホステスが殺された日、妻は勤め先を休んでいた。追及したところ、妻は浮気を確かめるべく容疑者を尾行していたことが認めるが、ホステス殺しは否定。だが、妻の指紋が現場で発見されたものと合致。妻はついに観念し、夫の隠した拳銃を持ち出してホステスを撃ったことを自白する。ギャンブル狂いの亭主を抱えて守り続けた家を、ホステスに奪われるのが許せなかったのだという。妻の自白を知り、愕然とする男。「3件とも女房がやったと言うのか?」と橘に迫られ、男はついに警官殺しとサラ金強盗を認める。廊下ですれ違う妻に「バカヤロー!」と叫ぶ男。そのやり場の無い怒りの裏に、橘は男の妻に対する確かな愛情を感じ取るのだった。

【感想など】
ひねりも無ければ意外性も無い、ぶっちゃけて言えば何のドラマもない一本ですが、大地康雄の味のある演技と印象的な劇伴に助けられ、最後まで飽きることなく見ることができました。特に、ふてぶてしさの影に、臆病なまでの繊細さを隠した容疑者を見事に演じきった大地康雄には、お見事というほかありません。
それにしても、夫の犯行を知りつつ、全くかばおうともしない妻の行動には疑問を抱かざるを得ません。ギャンブル狂いの夫に手を焼くのは分かりますが、せめて拳銃を別の場所に隠すとか、拳銃を包んでいた布(夫の衣服をちぎったもの)を捨てるとかするのが普通では?

第410話 愛子・運河の街の女!

2008年06月05日 02時47分24秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄
1985年4月10日放送

【あらすじ】
ある企業の社長宅に「2億円払え、さもなくば社員の家を一軒ずつ燃やす」との脅迫電話が入る。「金の用意ができたら『愛子、8日夜8時、新宿歌舞伎町のエルムで待つ』との新聞広告を載せろ」との指示に従い、2億円を持ってエルムに向かう紅林。その記事を見ながら人待ち顔をしている女に気づいた紅林は、女に声を掛ける。愛子という名のその女は「家出した夫からの連絡かと思った」と語る。結局、犯人は現れず、単なる偶然かと落胆する紅林に、女は「夫を探して!」とすがりつく。
翌日、犯人は警察に報せた報復として、ある社員の家に放火し「今度は3億円用意しろ」と要求する。犯人の声に北海道訛りがあることに気づいた紅林は、女の部屋を訪ね、事情を説明した上で、その声を聞かせる。「夫の声ではない」と答えた女は、紅林に「夫の代わりに、これにサインして」と人工中絶の同意書を突きつける。「私には賛成できない」と拒絶する紅林。念のため、夫が勤めていた消火器メーカーの社長にも確認するが、声だけでは何とも言えないという。
その後、神代の指示で社員名簿を入手した者がいないかを調べると、社長宅で誤ってチリ紙交換に出したていたことが判明。その際、消火器のセールスマンが訪れていたことから、夫への疑惑が強まる。改めて消火器メーカーを訪ねたところ、夫は女から貢がせた金で、若い愛人と遊び歩き「女なんて、絞れば絞るほど喜ぶんですよ」と自慢していたという。
女が勤めるキャバレーを訪れ、詰問する紅林。女は「あの人は優しい人。悪いことをするような人じゃない!」と夫をかばう。女はかつて、別の男に貢ぐために窃盗を繰り返し、刑務所に入っていた。出所後、行き場を失った女に唯一優しくしてくれた男。それが夫だったという。以来、女は夫の生活を支えるために、夜の街で働き続けていた。だが、「ご主人はこの女と一緒にいるはずだ。居場所に心当たりはないか?」と紅林に写真を見せられると、「嘘だ!あの人が愛しているのは私だけよ!」と錯乱する。
翌日、またも犯人から電話があり、(何をトチ狂ったのか)金の受け渡し役として女を指名する。紅林が協力を要請したところ、女は「あんな奴、刑務所に送ってやる」と協力を引き受ける。特命課が総出で張り込むなか、酔客に絡まれる女。飛び出そうとする紅林を橘らが制止する。「来ちゃ駄目!刑事が張っている!」と叫ぶ女。その視線の先には夫がいた。逮捕され、連行される夫の背中に、女は「私のことを覚えていてくれたのね!嬉しかった!」と(トンチンカンなことを)叫んだ。
事件解決後、女を訪ね「これを読んで、子供を産むことを考えて欲しい」と母子家庭福祉基金のパンフレットを差し出す紅林。「そんなことより、お金ちょうだい」と先日のキャバレーの代金を要求する紅林。女の顔を見つめたまま、無言で金を渡すと「子供のこと、生活のことを、考えるんだ」とさらに数枚の紙幣を握らせる紅林。一度は「ありがとう」と背を向けた後、「これももらっておくわ」とパンフレットを手にする女。その頬は涙に濡れていた。

【感想など】
女を食い物にする男は卑劣ですが、そんな男にコロリと騙される女も(酷なようですが)愚劣としか言いようがありません。これほど愚かな女が一人で子供を育てられるとはとても思えない私ですが、それでも更生の余地があると考え、救いの手を差し伸べようとする紅林の態度には、皮肉ではなく頭が下がります(私も基本的には中絶に反対ですが、「生まれてくる子供が気の毒」と考えるか、「子供という存在には母親を立ち直らせるだけの力がある」と考えるか、実に難しいところです)。ラストシーン、雑踏に姿を消す女に、「困ったことがあれば、いつでも相談に来るんだぞ!」と声を掛けた後、一度は雑踏に背を向けながら、やはり立ち去り難く、雑踏を振り返る紅林。その表情、そして演出は絶品です。
そうした演出の妙に助けられて、何とか最後まで見られたものの、正直、脚本は無理がありすぎ。思わずあらすじ内でも突っ込みを入れてしまいました。冒頭の記事を要求したことをはじめ、犯人や女に意味不明な行動が多く、さらにはエルムという店がもう一軒見つかったり、男が若い愛人の裸の写真を見せびらかしたり、本筋に関係ないところでの描写が多く、なおさら支離滅裂な印象でした。それも佐藤脚本の持ち味と言えなくもないですが、とても褒められたものではありません。
ちなみに、この夫婦はいずれも札幌生まれで「エルムという店を指定したのもそのため」と女が言い張るシーンがありました。札幌とエルムの関係がよく分からなかったので調べたところ、エルムとは楡の木の愛称で、北海道を代表する木らしく、上野・札幌の寝台特急の愛称にもなっていたとのこと。劇中では何の説明もありませんでしたが、知らない私がおかしいのでしょうか?