特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第404話 殺意を呼ぶダイヤルナンバー!

2008年05月15日 02時39分34秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 三ツ村鐵治

夫を亡くした子持ちの女教師と恋に落ち、半同棲生活を送る紅林。幼い息子にも慕われ、真剣に結婚を考える紅林だが、時折、女教師のもとにかかってくるいたずら電話が、かすかな影を落としていた。
そんななか、特命課は警官による射殺事件の究明に当たっていた。若い警官は、特命課の取調べに対し「不審尋問中の男にナイフで襲われ、威嚇のために拳銃を抜いたところ、もみ合いになって発砲した」と語る。人を殺しておきながら冷静な態度を崩さない警官に、船村や桜井は「計画的な殺害ではないか?」と疑惑を抱くが、紅林は「警官が殺意を持って拳銃を抜くなどあり得ない」と反論する。
律儀で模範的な警官と、性風俗のスカウトとして働く被害者との間に、どんな接点があるのか?被害者の部屋を調べた紅林は、窓から女教師の部屋が覗けることに、一抹の不安を覚える。部屋から発見された多数の女の写真を手掛かりに捜査を続けるなか、女教師がいたずら電話の主らしき変質者に襲われる。報せを聞いて駆けつけた紅林は、怯える女教師に「どういう具合に撫で回された?」と執拗に質問する。そんな態度に、女教師は紅林が刑事であることを改めて認識させられ、ショックを受けた。
その後の捜査で、写真の女の一人が愛人バンクに引きずりこまれた挙句、自殺していたことが分かる。その女は、警官の勤務する派出所によく花を届けに来ていた。女が自殺したことを恨んで被害者を殺したのではないかと推測する桜井。だが、警官は「自分が彼女と関係があったら、自殺するまで放っておきません」と否定する。「冷静な彼が、一時的な感情で人を殺すとは思えない」と疑問を呈する紅林。「どんな冷静な人間でも、大切なものを壊されたときには、普通じゃなくなる。お前ならどうする?」桜井の問い掛けに、紅林は「私は殺意を持ったりしません」と言い切った。
その夜、紅林が女教師の部屋にいるとき、例のいたずら電話が掛ってくる。紅林は「話を長引かせろ」と指示し、被害者の部屋へと走る。部屋は無人だったが、掛けっぱなしの電話は女教師の部屋につながっていた。変質者は、被害者の知り合いなのか?
事件の真相を解くカギを得るため、女教師の過去の男性遍歴を問い質す紅林。「嫌な仕事ね、刑事って・・・」あまりの無神経さに呆れ果て、紅林に黙って自宅に戻る女教師。そこに待ち伏せていた変質者が襲いかかる。窮地を逃れた女教師に「顔を見たんだね。誰なんだ?」と問い詰める紅林。女教師は諦めたように変質者の名を語る。それは、主人を亡くして寂しかった女教師の心の隙に付け込んだ、屑のような男だった。「そんな男と付き合っていたことを、貴方に話したくなかった・・・」
変質者の名は、被害者の交友リストにあった。変質者の部屋に踏み込む紅林。格闘の末、負傷しながらも変質者を逮捕。その姿は怒りに満ち、いつもの冷静さはどこにも無かった。自分が殺意を持っていたことに気づいた紅林は、負傷の身を顧みず、警官の取調べに臨む。「私は警察官としては失格だったかもしれん。だが、人間として間違ってないつもりだ。君が、彼女を愛していたならば、殺意を抱いても当然だ」同じ痛みを抱えた男として、殺意を持って射殺したことを告白する警官。こうして、事件は解決した。だが、それは紅林にとって、愛する人との別れの時でもあった。息子の手を引いて去っていく女教師を、紅林は黙って見送るしかできなかった。

あまりに不器用な紅林の、悲しい愛の終わりを描いた一本です(それにしても、サブタイトルは意味がなさ過ぎ)。刑事という仕事の哀しい習性ゆえに、愛する女を幸せにできない悲劇、といえば聞こえはよいかもしれませんが、紅林の言動には不自然なまでに人間性がなさ過ぎ、興ざめしてしまいました。
特に、女教師に対する言葉はひどすぎです。「どういう具合に撫で回された?」「亡くなったご主人以外に、どんな男と、どんな付き合いをしてきたんだ」「奴はね、君の体の特徴まで知ってるんだよ」などなど、いずれも変態的な趣味の持ち主でもない限り、愛する女に対して言える言葉ではありません。「変質者に襲われて震えていたとき、大丈夫かって抱きしめて欲しかった。いたずら電話のときも、バカヤローと怒鳴って電話を切って欲しかった・・・」女教師の言葉はまことにもっともであり、いくらなんでも紅林が無神経すぎ。ここまでいくと不器用というよりも非現実的であり、真面目に見る気も失せてしまいます。
また、もう一つの焦点である(こうして安易に複数の焦点を持たせるのも、ドラマに取り止めがなくなってしまう原因だと思うのですが・・・)警官の殺意の有無についても、紅林の主張は全くの空論に聞こえます。「愛する人が傷つけられても、警官ならば殺意を抱いてはいけない」という倫理観をもつことと、「愛する人が傷つけられても、殺意なんか抱くはずがない」という想像力の欠如とは、全くの別物。刑事として多くの事件を見てきたはずの紅林が、まるで自分の無垢さを信じる若者のような言葉を口にすることに、リアリティの欠如が感じられてなりません。
「私は刑事であるがゆえに、二人を幸せにしてやることができなかった。しかし、遠くから見守り続けることなら、できるかもしれない・・・」ラストの紅林の言葉も、それなりに良い台詞かもしれませんが、それまでの言動が言動だけに、ただ現実から逃げているだけにしか聞こえません。見るべきところといえば、「私にとっても、部下の一生の問題だからね」と語る神代課長の親心や、ラストで「お前がどんな思いで奴を殴ったか、伝えなくていいのか?」と気遣う橘など、周囲の刑事の温かさくらいでしょうか。
ちなみに、女教師を演じたのは、郷秀樹の彼女役で有名な榊原るみ。ナックル星人に惨殺されてから14年後だけに、えらく老けてしまっています。ちなみに、今秋公開の新作映画「大決戦!超ウルトラ8兄弟」で郷秀樹の奥さん役として出演するとかで、往年のファンにとっては嬉しい限りです。

8 コメント

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悲しい… (神木)
2008-05-15 16:38:53
はじめまして。
毎回鋭い視点に感心しながら拝読させていただいております。
さて、このお話ですが、紅林刑事の生き方に共鳴していた私にはとても辛く悔しい話となりました。
ご指摘の通り、紅林のあまりのデリカシーのなさには、思わず「紅林甚一はこんな人間じゃない!」と叫びたくなるほどです。でも、何より一番悔しかったのは、「(殺意をもって殴り続けた自分の行動は)人間として間違えていないつもりだ。」という、この台詞です。
犯罪被害者の殺意を正当化するようなこの言葉は、特捜の世界において、絶対に言わせてはならない言葉なのではないでしょうか。それを、紅林に言わせたことに、私は憤りさえ感じます。
この話は、初めて悪い意味で声を大にして叫びたくなる、悲しいエピソードとなりました。
長々と失礼しました。
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同感です。 (袋小路)
2008-05-16 01:46:04

神木さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
神木さんの気持ちはお察しします。紅林ファンにとっては、まさに憤懣やるかたないエピソードでしょう。

長期にわたり、多くの脚本家が手掛けるドラマですから、時折キャラクター像がブレてしまうのもやむを得ないとは思うのですが、個々のキャラクターの「芯」にあたる部分だけは、揺るがせないで欲しいものです。紅林の場合、その「芯」とは、今回のような「不器用さ」ではなく、「生真面目さ」や「弱者への優しさ」だと思います。「不器用さ」というドラマで表現しやすい側面だけを安易に強調することが、そのキャラクターを愛するものにとってどれだけ不愉快なことか、作り手には理解いただきたいものです。
ことに、こんな描き方をしたのが、脚本家としてだけでなく監督としても多くのエピソードを手掛けてきた藤井氏だということに、いささか憤りを感じています。
また、神木さんがご指摘された「被害者の殺意を正当化」するような台詞についても同様であり、たとえば「撃つ女!」でおやっさんが見せた苦悩をはじめ、これまで多くのエピソードで訴えかけてきたことを無意味にしかねない、「安易」で「無神経」な台詞だと思います。
今回のエピソードは、やりようによっては、私や神木さんが口惜しい思いをしたような台詞がなくとも成立させられたと思います。「ささいなこと」なのかも知れませんが、この時期のスタッフにそうした「ささいなこと」を大切にするだけのこだわりがなかったのであれば、特捜が終了したのもやむを得なかったのではないか、とすら思います。

こちらも長くなってしまいましたが、神木さんも、どれだけ長文になってもかまいませんので、よろしければまたコメントください。今後ともよろしくお願いします。
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確かに・・・(>_<) (すずめ)
2008-05-16 20:55:51
神木さんはじめまして。袋小路さんお邪魔します!
確かにお二人の仰るとおり・・・。
「特捜」らしくない、「紅林」らしくないエピソード・・・とても残念です。
救われるとすれば、袋小路さんの仰るように、課長や橘さんの暖かさ。
一番納得がいかなかったのは、紅林さんを一番知っている、紅林自身である横光さんだったかも知れないな~と思うと・・・。
最後までやり遂げた横光さんと皆さんに拍手を送りたいな~と思います♪(*^_^*)
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6年後? (ゲッターピジョン)
2008-05-18 05:23:02
>女教師を演じたのは、郷秀樹の彼女役で有名な榊原るみ。ナックル星人に惨殺されてから6年後ですが、えらく老けてしまった印象です。
 
つ「ウルトラマン夕陽に死す」1971/12/17
つ「殺意を呼ぶダイヤルナンバー!」1985/2/27
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再び、失礼します (神木)
2008-05-18 23:40:11
苦しい胸のうちをお察しいただき、ありがとうございました。

生真面目で融通の利かない仕事人間の紅林が不器用にも苦しみながら捜査を続け、最後の最後に我を忘れ半狂乱になって仕事に私情をはさんでしまう。この話では、それを紅林の人間的な部分として描きたかったのかもしれません。でも私は、紅林の人間的な部分はもっと別の方法でも表現できると思うのです。苦悩の末に自ら捜査を降りる決断を下す、という潔さを描く方法もありでしょう。自分一人では抱えきれず橘や桜井に助けてもらいながら捜査する、という迷いや弱さを描く方法もありでしょう。袋小路さんのおっしゃる通り、いくらでもやりようはあったはずなのです。だからこそ、余計悔しさがつのるのかもしれません。それしかやりようがないのなら、すぱっと諦めるしかないのですから…。
それから、“一番納得がいかなかったのは横光さんご自身だったのでは…”というすずめさんのご指摘で、某雑誌のインタビュー記事を思い出しました。(すずめさん、はじめまして。すずめさんの投稿も、いつも楽しくよまさせていただいています。)
紅林刑事の最後のセリフは、横光さんご自身が監督に頼んで入れてもらったのだ、という内容でした。それを考えると、横光さんご自身もこのストーリーの虚しさに納得がいかず、最後に何か少しでもあたたかいものを残したかったのかもしれない、と思ったりもします。
このエピソードはどうしても悪い意味で私の心から離れてくれなくて困惑していましたが、少し心が楽になった気がします。内容そのものにはまだまだ悔しさは残りますが、役者横光さんの紅林を大切にする心と、それを許してくれた監督の心意気に、このエピソードの中にほんの少し明るい光が見えた気がしました。
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皆さんにお返事 (袋小路)
2008-05-19 20:48:59
ゲッタービジョンさん、はじめまして。
ご指摘ありがとうございます。いったい何を勘違いしたものやら、自分でもお恥ずかしい限りです。深く反省するとともに、間違った情報をさらけ出し続けるのも何ですので、本文を修正しておきました。
今後はこうしたミスの無いよう、気をつけるつもりですが、何かお気づきの点がありましたら、またご指摘いただけると助かります。末永くご指導ください。

すずめさん、神木さん。コメントおよびご返信ありがとうございます。
今回はコメント欄を通じていろいろと有意義なお話ができ、とても嬉しく思っています。とくに、神木さんのインタビュー記事の話は貴重な情報でした。ありがとうございました。
今後は今回のようなネガティブな話題ではなく、明るい話題で意見を交換したいものですね。お二人とも、今後ともよろしくお願いします。
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はじめまして (静岡人)
2010-02-03 12:21:19
確かに紅林さんの無神経さが過剰になっていて不自然ですよね。でもこの話は好きです。
最後のどぶ川で我を忘れて犯人を逮捕するシーンは最高です。
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静岡人さんにお返事 (袋小路)
2010-02-05 03:11:32
静岡人さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
静岡は立ち寄ったことしたありませんが、気候が良くて住み易いところだそうですね。
特捜とのからみで言えば、確か「自供・檻の中の野獣」で小池朝雄の父親が住んでいたかと記憶しています。

再放送されたばかりの本エピソードについては、コメント欄でのやり取りも含めて語り尽くした感がありますが、仰るとおり、あのシーンの紅林さんは鬼気迫るものがありましたね。
せっかくの静岡人さんお気に入りのエピソードだというのに、ひどくネガティブな感想を書いてしまって恐縮です。ご気分を害してなければ良いのですが・・・あくまで私の個人的な感想ですので、どうかお気になさらないでくださいね。

これを機に、またコメントいただければ嬉しく思いますので、よろしくお願いします。
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