特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第459話 挑戦・この七人の中に犯人は居る!

2009年01月24日 04時03分04秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦
1986年4月3日放送

【あらすじ】
血相を変えて特命課を訪れた蒲生が、人目を憚るようにして神代に何かを頼み込む。何事かと詰め寄る特命課の刑事たちに、やむなく事情を語る蒲生。22年前、蒲生は妻子のある身で他の女と恋に落ち、隠し子まで産ませていた。妻子を捨てることすら考えた蒲生だが、女は生まれたばかりの娘とともに蒲生の前から姿を消した。それ以来、音沙汰の無かった娘から、突然「会いたい」との連絡があった。会わせる顔の無い蒲生は、事情を知る神代に、自分の代理として娘に会って欲しいと頼んだのだ。
その頃、特命課は拳銃密輸事件を追っていた。首謀者は新興暴力団の四代目組長で、その命を受けた代貸がフィリピンから大量の銃器を買い付ける。代貸は警視庁四課に動きを封じられるが、舎弟の助けで姿を消すと、捜査の裏をかき、まったくのカタギである花屋に命じて拳銃を密輸させる。四課は花屋を捜索するものの、拳銃の行方はつかめず、証拠もなかった。そんななか、捜査線上に一人の女が浮かぶ。かつて教師だった花屋の教え子で、暴力団との連絡役を務めたと思われるその女こそ、蒲生の隠し子に他ならなかった。
その事実を神代に秘めたまま、女が指定した待ち合わせ場所に張り込む特命課。だが、神代が到着する寸前、女は何者かに射殺される。報せを受けて駆けつけた蒲生は、我が子の仇討ちに乗り出す。だが、蒲生の暴走を危惧した神代は、蒲生を特命課に臨時配属させる。
女の鞄からは、勤め先であるスーパーのチラシとナイフが発見される。ナイフを買った刃物店の証言によれば、「これで悪い奴をやっつける」と言っていたという。女が自分を刺そうとしたと思い込み、落胆する蒲生。だが、桜井は女の真意を解き明かす。チラシの模様にナイフの刃先を合わせると、柄の穴を通して、拳銃を受け渡す日時と場所が読み取れた。何者かに「父親が刑事だ」と聞かされた女は、生まれて初めて会う父親に手柄を立てさせるべく、その証拠を渡そうとしていたのだ。
一方、特命課は花屋を取り調べる。花屋の娘は父親の無実を主張し、特命課に食ってかかる。その態度からは、自分以上に花屋の愛情を受けている隠し子への嫉妬心が垣間見えた。実は、花屋の娘は覚醒剤に手を出した過去があり、花屋はそれをネタに暴力団に強請られていた。
「自分が女の父親だ」と明かした蒲生に、花屋は意外な事実を明かす。女は名前しか知らない父親を慕い、いつの日か会えることを願っていた。そんな女に「父親が刑事だ」と教えたのは四課の西岡刑事だというのだ。西岡は蒲生の娘婿だが、以前から暴力団に情報を流しているという噂が絶えず、蒲生とは折り合いが悪かった。西岡を問い詰める蒲生。西岡は「当初はお義父さんの隠し子と知らずに接触したが、やがて父親を探していることを知り、情報を得るための交換条件として消息を明かした」と悪びれることなく語る。「なんで俺に黙っていた!」「お義父さんを傷つけたくなかったからです。それは、妻も同意しています」実娘も隠し子の存在を知っていたと知って、ショックを受ける蒲生。実娘から事情を聞いたところ、年下の隠し子への嫉妬心に駆られた実娘は、神代と隠し子との待ち合わせ場所に向かったことを明かす。そこには花屋の娘や代貸の姿もあったという。
そんななか、夜更けに何者かを呼び出した舎弟は「あんたが女を撃つところを見ていた」と何者かを脅し、拳銃の在り処を聞き出そうとして射殺される。舎弟の射殺死体を発見する特命課。死の間際に書き残した文字は、数字の「4」に見えた。「4」が示す犯人とは、暴力団の四代目組長・伊庭真司か?それとも代貸・大槍四郎か?あるいは花屋「四谷フラワー」の店主・市原林一か?警視庁四課刑事・西岡良介か?また、逆から読めば「カ」とも読め、まだ書きかけにも見えることから「ガ」と書こうとしたのかもしれない。まさか神代?あるいは蒲生?この他、容疑者として考えられるのは、花屋の娘・みえ子、蒲生の実娘で西岡の妻・さくら、女が勤めていたスーパーの上司・吉田章。犯人はこの(神代、蒲生を除く)7人の中に居る・・・

【感想など】
久々に復帰を果たした長坂秀佳による、「犯人当て懸賞ドラマ」の前編。9周年記念企画として行われたもので、ラストで名前を挙げた7人の容疑者の中から、真犯人とその理由を書いて応募する、という趣向だったそうです。刑事ドラマのセオリーを考えれば、露骨に怪しい何名かはダミーであることが容易に読み取れますが、理由も書かなければ正解とならないのが、この企画のツボ。となると、肝心なのは代貸のダイイングメッセージですが、「まだ書き換けかも」というのが大きなヒントになっているように思えます。
私はDVDも視聴してないため、現時点では真犯人を知りません。とはいえ、今後の展開や長坂氏の著書「術」などで、若干のヒントを得ていますので、初見の方に純粋に推理を楽しんでいただけるよう、総評は後編のレビューに譲りたいと思います。
あらすじで省略した要素が、真相に関わっていないといいのですが、さて、どうなることでしょうか?

第458話 終着駅の女Ⅲ 東京駅・青山圭子の逃亡!

2009年01月22日 03時28分29秒 | Weblog
脚本 橋本綾、監督 北本弘
1986年3月27日放送

【あらすじ】
雨の中で出会った中年男と若い女。女をホテルに誘った中年男は、持て余していた様子の大金を女に渡す。女は札束に火をつけると、男に「一緒に死んで」と持ちかける。「いいよ、死んでも」中年男は動じることもなく、女の言葉を受け入れた・・・
悪徳サラ金業者が殺害され、現金二千万円が奪われた。使用された拳銃は警視正のものと判明。警視正は橘の警察学校以来の友人であり、昨日から行方を消していた。警視正の無実を信じつつ、捜査に乗り出す橘。
警視正の自宅を訪ねた橘は、男の射殺死体を発見。それは、数年前に罪もない通行人を殺害した通り魔で、最近、釈放されたばかりだった。別居していた警視正の妻を訪ねた橘は、二人の結婚生活が愛の無いものだったと聞かされる。貧しい生い立ちゆえに、上昇志向の強かった警視正は、大物政治家の娘だった妻を“出世のためのバックボーン”として利用していた。だが、10歳になる息子を亡くしたとき、警視正は“上だけを見つめる人生”に疲れたのかもしれない。そう妻は語った。
その後、さらに子供数名を殺しながらも無罪となった覚醒剤中毒者殺が死体で発見される。警視正の凶行の理由を解き明かす神代。「彼は、自分の気に入らない奴を、すべてあの世へ連れて行こうとしている。そして最後は・・・」
その頃、中年男、すなわち警視正は女のアパートに転がり込んでいた。「東京を離れたい」と思いながらも、過去に犯した罪ゆえに、東京から出ることを恐れる女。「東京は、私みたいな女が住むのに一番いい場所。大きくて、汚いゴミ箱みたいな街だから」「俺たち、ゴミ同士って訳だ」女の言葉に微笑む警視正。そこに、何者かが乱暴にドアを叩く音が・・・
警視正が青山圭子なる女と一緒だとつかんだ特命課だが、女の部屋に踏み込んだところ、そこに残されていたのは、女のヒモであるチンピラの死体だった。女の過去を調べたところ、かつて男を殺して服役していた過去が判明。「誰にでも、ふっと、すべてを捨ててしまいたくなるときがある。その点で、あの二人は似た者同士なんだ」警視正の気持ちを代弁する橘に、神代や桜井は危機感を募らせる。
警視正が女と泊まったホテルから、1頁だけ破られた時刻表が発見され、東京駅に網を張る特命課。二人は警官隊によって資材置き場に追い詰められる。「四人殺したなら、残った弾は二発。東京は出られなかったけど、ここで終わりにしよう」と、女は警視正とともに死ぬことを願う。女を突き飛ばし、警官隊の前に姿をさらす警視正。銃を構える警官隊に、声が飛ぶ。「撃つな!」それは橘の声だった。橘と視線を交わした警視正は、自らのコメカミに銃口を当て、引き金を引いた。
「もう一人殺せたのに、男はみんな嘘つきね」自分を殺さなかった警視正への恨み言をこぼす女に、橘は真実を語る。「警官は、実弾5発しか装填しない。あんたと一緒に死にたくても、もうその弾がなかったんだよ。生きてて欲しかったんじゃないかな?あんたに」「残酷な人ね、男だけが、勝手に一人で死んじゃって。女はゴミ箱みたいな街に、一人だけ残されて・・・」
事件は解決したが、警察上層部では警視正に自殺を許したことを問題視する。「私が警官隊を止めたせいで・・・」と謝罪する橘に、神代は「私はそうは聞いてない。橘は警官隊にではなく、警視正に叫んだと聞いている」と答え、不問に付すのだった。
その後、女の消息を知るものはない。いまも東京から出られないであろう女の行く末を案じつつ、「東京は、一人で生きるには、少し寂しすぎる街なのかもしれない」と橘は思った。

【感想など】
視聴意欲をとことん低下させる「終着駅の女シリーズ」第3弾。高橋悦史演じるところの警視正の存在感もあって、序盤は「前2話よりは良い出来ではないか?」と思っていた本編ですが、終わってみれば「うんざり」という言葉しか出てこない、前2話以上の空回りっぷりでした。
意味不明な死にたがり女などをからめずに、警視正と橘のドラマにすれば、まだしも盛り上がったのではないかと思います。あるいは、どうしても女と警視正による「行きずりの男女の逃避行ドラマ」にしたいのであれば、特命課を完全な狂言回しにして(拳銃の装弾数について橘が語るシーンにしても、神代が橘をかばうシーンにしても、付け足しとしか思えない適当な展開なんだから)、二人の心理をもっと克明に描けばよかったのはないか、など、いくつか改善策は思いつくものの、今さら何を言っても虚しいだけです。

それにしても、あの女は一体何だったのか。実際問題、稼いだ金を燃やしてしまったら生活は成り立たないと思うのですが、そのへんはどうなってたんでしょうか?この女はもちろん、(というか、この女の意味不明な繰言に時間をとったがために)警視正がなぜ死にたがったのか、まるで理解できない(想像できなくはないが、少なくとも画面上からは一切伝わってこない)ため、視聴者からすれば感情移入のしようがありません。
シリーズ3話を通して言えることですが、結局のところ、自分の不幸な境遇に酔った女の妄言を聞かされただけ、という印象しか残りません。自らの悪事への反省もなければ、罪の意識すらなく、“どん底”といえる境遇に堕ちながら、そこから這い上がろうとする意欲もない。そんな自堕落な女たちの生き様を美化するこのシリーズは、果たして何だったのか?特捜史上に残る大きな謎として、今後も語り継がれることでしょう(私はあまり語りたくありませんが・・・)。

第457話 終着駅の女Ⅱ 上野駅・徳永礼子の犯罪!

2009年01月17日 00時12分07秒 | Weblog
脚本 橋本綾、監督 三ツ村鐵治
1986年3月20日放送

【あらすじ】
「夫は自殺なんかじゃない、誰かに殺されたんです!」特命課を訪れた主婦の訴えを受けて、自殺と見られる男の死を調べる時田と桜井。経営するスナックで焼け死んでいた男は、死の数日前から不機嫌になり「なぜ、心や記憶は燃えてしまわないんだろう」と、意味不明の言葉を繰り返し言っていたという。
所轄署では、遺書もあることから焼身自殺と断定。「あの奥さん、自殺だと保険金が下りないから、殺人と言い張っているだけ」と相手にしなかった。時田も同感だったが、桜井だけは殺人の可能性を主張する。その根拠は「こうすることが一番いい。君は君で、新しい人生を見つけて欲しい」という遺書の文面にあった。別の女に宛てた「縁切り状」ではないかと推測する桜井。主婦は男と結婚した3年前以前の過去を知らず、他の女に心当たりはなかった。
占い好きだった男は、死の5日前に手相占いの女から「火に気をつけろ」と言われていたという。死の予告とも言える占いと、男の意味不明の言葉とのつながりが気になった桜井は、手相占いの女を探し出す。特命課の調べでは、「徳永礼子」なるその女は、男を占って以来、街から姿を消していた。また、15歳で故郷の宮崎を出てから、3年前に占いを始めるまでの消息が不明だった。
女の自宅を訪ねた桜井は、女こそ男を殺した犯人と確信する。「あんたは男が占い好きだと知って、蜘蛛の巣を張っていたんだね?」桜井の追及を「証拠はあるの?」とかわす女。
一方、特命課の調査により、119番通報をしてきたのが女性で、電話を掛けたのもスナックからだと判明。また、男は二度目の結婚であり、6年前に前妻が焼身自殺を遂げていたことも分かる。当時、男は借金を抱えていたが、前妻の保険金で清算し、故郷の青森から姿を消していた。
青森に飛んだ時田と桜井は、焼け焦げた死体の身許確認が困難だったことや、前妻が占いを得意としていたことを知る。桜井は死体こそが「徳永礼子」で、彼女を殺した前妻が、その名を借りているではないかと推理する。
東京に戻り、再び女を追及する桜井。証拠を要求する女に、桜井は言った。「証拠はある。心と記憶だ」たとえ顔や名前は変えても、前妻としての記憶や心が残っているはず、と訴える桜井に、女は「あなたは間違っている。そんなもの、燃えちゃうのよ」と答えた。
その後、桜井を呼び出した女は、かつて務めていた夜の街を案内し、自分が「徳永礼子」であることを証明しようとする。だが、それは却って、女に6年前以前の過去がないことを浮き彫りにするだけだった。「この女は、誰かに自分の本当の過去を暴いて欲しがっている」そう確信した桜井は、一計を案じる。
女の元に特命課から電話が入る。「あんたの故郷に向かった桜井が交通事故にあった。あんたに会いたがっている。駅で待っているから一緒に来て欲しい」上野駅に向かった女の前に現れた神代は、女を前妻だと決め付ける。「徳永礼子の故郷である宮崎に行くはずなら、東京駅にいくはず。上野に来たということは、貴方の故郷は青森だということだ」「引っ掛かっちゃったというわけね・・・」女はスッキリしたような顔で、自身が前妻であること、そして男を殺したことを告白する。
6年前、女は男の言うがままに「徳永礼子」を焼殺し、顔を替えて夜の街で働いた。すべては、再び男と幸せになると信じてのことだった。だが、男は件の手紙を残し、女の前から姿を消した。そして事件当日、ようやく男を探し当てた女に浴びせられたのは、男が自分を捨てた理不尽な理由だった。「顔を変えたことで、お前は変わっていった。美人になって、金を稼げるようになって自信がついたせいか、俺を馬鹿にするようになった・・・」と姿を消した理由を語り、不意に襲ってきた憎悪に従って、女は男を焼き殺したのだった。「今でも、自分が誰なのか分からない・・・」女の呟きに、時田は、桜井や神代が卑怯な手段を使ってまで女を逮捕した理由を知る。それは、犯罪者を逮捕するためではなく、自分を見失いかけた女を救うためだったからだと。

【感想など】
「終着駅の女シリーズ」第2弾。前話のラストシーンで紅林とすれ違った女が、今回の女占い師。同様に、今回のラストで桜井とすれ違った女が(おそらく)次回のメインゲストかと思われます。その着想はともかく、どれだけの視聴者が気づいたか、また何らかの効果があったかどうかは疑問ですが、そんな工夫よりも本編を何とかして欲しい。

前回同様、洒落た言い回し(と脚本家や女優自身が思っているであろうことは伝わってくるものの、実際は薄っぺらくて現実味のない陳腐な台詞)の応酬が、鼻について仕方ありません。加えて、変にニヤついた笑顔といい、妙に軽薄で饒舌な態度といい、桜井がいつもの桜井ではないのも違和感を禁じえません。脚本の陳腐さに閉口した藤岡氏が、「これは桜井ではない」とばかりに、敢えていつもの桜井とは似ても似つかぬ別人を演じたのではないかと勘ぐってしまうほど。

改めて文章にしてみると、ストーリー自体のお粗末さというのは、取り立ててあげつらうほどのものではないかとも思えます(もちろん、桜井や女の言動が論理性に乏しい、場面転換がスムーズでない、そもそも話の取っ掛かりだった主婦が途中から完全に消えている、など引っ掛かる点は多々あります)。私に不快感を覚えさせた細大の原因は、やはり、この脚本化独特の台詞回しが、致命的なほどに性に合わないせいでしょう。もう一本、付き合わねばならないのかと思うと、少し憂鬱な気すらしてしまいます。いるのかどうか分かりませんが、「この脚本家の台詞回しが好き」という方がいたとすれば、誠に申し訳ありませんが、「趣味の違い」と言うことでご容赦願いたいと思います。

第456話 終着駅の女Ⅰ 新宿駅・田所初江の蒸発!

2009年01月16日 01時41分14秒 | Weblog
脚本 橋本綾、監督 天野利彦
1986年3月13日放送

【あらすじ】
新宿駅で浮浪者の女が絞殺死体で発見された。呆気なく逮捕された犯人が「見ていると苛々するから処分してやった」と動機を語るのを、叱り飛ばす紅林。だが、女の身許は不明のままで、その所持品から人骨が発見される。
人骨の主を探るべく、女の身許を追う特命課。浮浪者仲間に名乗っていた源氏名から、ソープ嬢だったことを突き止める紅林だが、本名も本籍地も不明のまま。唯一分かったのは、「桜のきれいなところ」から亭主や子供を捨てて上京してきたことだけだった。
(その後いろいろあったが無駄なので省略)「子供を残して蒸発した女に、なぜ捜索願が出ていないのか?」時田の提示した疑問をきっかけに、失踪宣告者を調べた結果、女が長野出身の田所初江と判明。紅林は女の遺骨とともに現地に向かう。女の亭主はすでに再婚していたが、紅林の問いに対し、女との別れを苦々しく振り返った。
8年前、女はいきなり「自分の生き方が間違っていた。我慢するのはもうイヤ。好きな人がいます」と好き勝手なことを言い出したかと思えば、「勝手なことだとわかっています。自分がどんなにひどいことを言っているかも承知しています」と開き直った挙句、「私を自由にしてください」と、あたかも亭主が不当に自分を拘束しているかのような物言いで離婚を迫ったという。「子供はどうするんだ」という亭主に対し「貴方にお願いするしかありません」とぬけぬけとぬかし、「それでも母親か?」という至極当然の問いに対し「私は女です」と意味不明のことを主張。「母親として生きるつもりはありません。私の人生は私だけのものです。子供にも左右されたくありません」と言い放つ女に、亭主は言葉もなかった。
「同じ女としてどう思う?」という紅林の問いに、亭主の再婚相手は「ある意味、うらやましい」と語る。「女はみな、ここじゃないどこか、この人じゃない誰かを探しているもの」再婚相手の言葉が、紅林の胸に突き刺さる。
「女の浮気相手だったカメラマンこそ、骨の主ではないか」と思われたが、カメラマンは東京で生きていた。女がカメラマンを追って上京したのは事実だったが、カメラマンからすればただの戯言だった。「そんなこと、誰にでも言いますよ。男と女はただ楽しめばいい。男なんてみんなそう思っている」カメラマンの言葉に打ちのめされた女は、今さら長野にも戻れず、夜の世界に身を落とした。
女の消息はつかめたものの、骨の主は依然として分からない。神代は(なぜか今頃になって)女の所持品の中にあった新聞・雑誌が、いずれも3年前のホテトル嬢殺しを報じていたことを指摘。犯人はホテトル嬢と同郷の若者で、ホテトル嬢を心配して故郷に連れ帰ろうとしたところ、説得に失敗して殺してしまったものと見られていたが、いまだ捕まっていなかった。事件当夜、女が同じホテルの隣室に泊まっており、紅林は「彼女は殺人現場を見てしまったのでは?」と推測するが、そこで何があったのかまでは想像できなかった。
「新宿で骨を抱えていた2年間が、もっとも幸せだったんじゃないか・・・」長野で聞いた再婚相手の言葉を思い出した紅林は、「なぜ、2年間と知っていたのか?」と疑問を抱く。紅林の追求に、再婚相手は女が死体を埋めたときに会っていたことを明かす。
3年前、ふらりと長野に現れた女は「どうして帰ってきたんですか?」となじる再婚相手に、「大事なものを埋めに来ただけ」と語ったという。それは、ホテトル嬢を殺した若者だった。殺人現場を目撃した女は、「好きだから、自分のものにするためには殺すしかなかった」と語る男が、そんな若者に殺されたホテトル嬢が、羨ましかったという。そして、自首するという若者を、女は「誰にも渡したくなかった、私だけのものにしたかった。東京で会った、一番きれいで優しい男だから」と、意味不明の理由で殺害した。そして何故か、はるばる長野まで埋めに来たのだ。(そしてさらに意味不明なことに、1年後に骨になるのを待ってわざわざ掘り返した。)
「なぜですか?」女の行為を知りつつ、沈黙を保っていた理由を再婚相手に尋ねる紅林。「羨ましかったから。私も、あの人と同じだったから」再婚相手も、かつて東京で暮らしたことがあった。「東京には、何でもあるような気がするんです。命を賭けられるような何か、命を賭けられるような誰か。でも、私には見つからなかった・・・」
紅林には、分からなかった。女の考えていたことも。そんな女を羨ましがる再婚相手の気持ちも。

【感想など】
橋本綾脚本による3話連続での「終着駅の女シリーズ」の第1弾。おそらく脚本家本人とっては「いい話」なんだろうし、少なくとも「やっつけ仕事」ではないのだろう。そんな意欲だけは伝わってくるものの、残念ながら、胸に響いてくるものは何もない。というより、何を言っているのか、さっぱり訳が分からない。

率直な感想としては、勘違い女の身勝手極まりない言い草と、無責任極まりない行為に対し、不快感しか残りません。しかも、そんな女を「羨ましい」と評するのが、どうやら女性の総意らしいというのが、なんとも切なくなってしまいます。こんな愚劣で、恥知らずで、無責任な行為が、「憧れの対象」となるとは、世も末としか言いようがありません。特にやり切れないのが、佐藤五月脚本に顕著なように、女の身勝手さを「男から見た女の醜さ」としてではなく、「女から見た格好良い女の生き方」として描かれていること。結果としては、女に対する嫌悪感や絶望感を喚起する効果は前者以上だというのがなんとも皮肉です。
「自由奔放」という言葉を借りた「勝手気ままさ」が美徳とされ、「辛抱」「我慢」「自己犠牲」が蔑まされる哀しい時代の到来、すなわち、古き良き時代(まさに、私たちが愛してやまなかったかつての「特捜」が放送されていた時代)の終焉を物語っているようで、やり切れない思いです。

「ここじゃないどこか、この人じゃない誰か」といった、気の利いたつもりらしき言葉が繰り返されていますが、それは劇中で言われているような女に限ったものではなく、誰もが抱いている気持ちであり、そんなありふれた気持ちを言い訳にして、自分の責任を放り出してしまう人間も、男女を問わず数え切れないほど存在します。それは決して「羨ましい」などと評されるものではなく、ごくありふれた「クズ」の「愚行」でしかない。(同様に「彼女が悪いんじゃない、東京が悪いんだ」などと、実態のない何者かに責任をなすりつけることで、人の醜さを直視することを避けようとするのも、ありがちな愚行)。
そんなものを、さも美しく飾り立てて悦に入っている(ように感じられる)今回の脚本に対しては、申し訳ないですが、「なんか勘違いしとるんじゃないか?」と言わざるを得ない私です。