特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

DVD Vol.5ラインナップ決定!

2007年11月22日 22時37分41秒 | Weblog
来年4月に発売されるDVD-BOX・Vol.5に収録されるエピソードが決定しました。ファン投票によるベストエピソードのアンケート結果から、特命課の刑事一人ひとりの主役編をチョイスとのことでしたが、実際は16編中5編がランク外から選ばれています。個人的にはあのランキング結果には納得していないので、その点では埋もれた名作にもスポットが当たってよかったのではないかと思います。

《特命課主役編》
第2話「故郷へ愛をこめて」脚本:今村文人、監督:村山新治(ランキング99位)
・・・高杉刑事のキャラクターを決定づけた感のある一本。寺田農に織田あきらなど、Gメンを思わせるゲスト陣といい、現在ファミリー劇場で放送中の時期とはかなりテイストが違っていた記憶があります。

《橘刑事主役編》
第53話「背番号のない刑事!」脚本:塙五郎、監督:村山新治(55位)
・・・橘登場編。ストーリー的には余り印象に残ってません。

《高杉刑事主役編》
第63話「痴漢・女子大生被害レポート!」脚本:八幡史郎、監督:村山新治(ランク外)
・・・見逃したのか、ちょっと印象に残ってません。個人的には、高杉主役編として第58話「緊急手配・悪女からのリクエスト!」や第84話「記憶のない毒殺魔!」をもう一度観たいです。

《津上刑事主役編》
第90話「ジングルベルと銃声の街!」脚本:長坂秀佳、監督:佐藤肇(ランク外)
・・・個人的には大好きなエピソード。クリスティを彷彿とさせる大仕掛けだけでなく、善意ゆえの犯罪を、善意をもって暴いていく津上の覚悟がしっかり描かれていて見事でした。それゆえ、救いのない話にもかかわらず爽やかな印象が残っています。ラストの津上のドラム演奏シーンも懐かしく思い出されます。

《吉野刑事主役編》
第91話「交番ジャック・4人だけの忘年会!」脚本:大野武雄、監督:村山三男(ランク外)
・・・これもまた印象深いエピソード。何の罪もない青年があれよあれよという間に凶悪な立て篭もり犯へと転げ落ちていくのを見て、唖然とした覚えがあります。第246話「魔の職務質問」と並び、警官嫌いを増幅されてくれる一本でした。余り目立たなかった初期の婦人警官、玉井さんにスポットが当たってるのも、貴重です。

《高杉婦警主役編》
第124話「顔切り魔・墓場からきた女!」脚本:藤井邦夫、監督:長谷部安春(88位)
・・・夏場恒例の幹子メインの怪談話からセレクト。記憶に残っていませんが、長谷部安春が監督というのも大きなトピックス(特捜では2本のみ)。

《滝刑事主役編》
第143話「殺人伝言板・それぞれのクリスマス!」脚本:塙五郎、監督:田中秀夫(ランク外)
・・・主役は一応滝ですが、各刑事のクリスマス風景にスポットを当てた「ちょっと良い話集」的なエピソードです。

《紅林刑事主役編》
第210話「特命ヘリ102 応答せず!」脚本:長坂秀佳、監督:村山新治(60位)
・・・詳細はブログのレビュー(姉妹版のほう)を参照。山本昌平の悪役振りが最高。

《船村刑事主役編》
第230話「ストリップスキャンダル!」脚本:長坂秀佳、監督:野田幸男(45位)
・・・同じく姉妹版ブログを参照。おやっさんを語る上で外せない一本。

《叶刑事主役編》
第264話「白い手袋をした通り魔!」脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(70位)
・・・当ブログにレビューあり。西田健の魅力が爆発。

《桜井刑事主役編》
第318話「不発弾の身代金!」脚本:長坂秀佳、監督:藤井邦夫(95位)
・・・同じく西田健の魅力が炸裂。とはいえ、さすがに2本連続で西田健を取り上げるのはどうかと思います。

《特命課主役編》
第320話「特命ヘリ緊急発進!」脚本:長坂秀佳、監督:辻理(99位)
・・・個人的には特捜らしくないと思いますが、見応えはあります。

《蒲生警視主役編》
第345話「新春 窓際警視の子守歌!」脚本:長坂秀佳、監督:天野利彦(64位)
第346話「新春Ⅱ 窓際警視の大逆転!」(68位)
・・・最近見た話ですが、まず及第点かと。蒲生主役編としては、第269話「窓際警視・投げ込み魔を追う!」がお勧め。

《神代警視正主役編》
第397話「銃弾・神代課長撃たれる!」脚本:長坂秀佳、監督:辻理(84位)
・・・未視聴なのですが、397話~400話の的場登場編は、まとめて収録したほうが良かったのでは?(399話はVol.3に収録、他2編は未収録)

《叶刑事・犬養刑事主役編》
第490話「青い殺意・優しい放火魔!」脚本:宮下隼一、監督:天野利彦(ランク外)
・・・未視聴。時間帯変更後からはこれ一本のみがセレクト。

気が付けば過半数(9本)が長坂脚本。個人的には長坂氏の脚本は好きな方ですが、決して長坂=特捜ではないので、もっと他の脚本家陣(竹山洋氏や佐藤五月氏、阿井文瓶氏など)のエピソードを収録してもよかったのでは?まあ、それはVol.6以降(あるのか?)の楽しみとしましょう。

第365話 沖縄ラブストーリー!

2007年11月21日 02時04分53秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 藤井邦夫

前回の事件の裏付捜査で沖縄に居残っている特命課。一人紅林だけが「早く東京に帰りたい」と呟くが、なぜ生まれ故郷でもない東京が恋しいのかは、本人にもよく分からない。
アイスクリーム売りの若い女が、観光客らしき若者たちに絡まれるのを助けた紅林と叶。その後、「人が撃たれて海に落ちた」と女の声で通報が入る。現場には水中銃で撃たれた若者の死体が浮かんでおり、それは先ほどの若者の一人だった。
現場に設置されたビデオカメラの映像から、通報したと思われる女を割り出した紅林は、それがアイスクリーム売りの女だと気付く。だが、探し出した女は「知りません」と関係を否定する。一方、被害者のカメラを現像したところ、そこには友人たち以外の男女が映っていた。友人に確認すると、現地で知り合った観光客だという。被害者はその男と女を取り合ってもめていたという。名前とキャンピングカーを頼りに男を探す特命課。
アイスクリーム売りの女がフェリー乗り場で誰かを探し続けるのを見た紅林は、「彼女は男の知人で、犯人と知りつつかばっているのではないか」と推測。再び女を尋問する紅林。女は沖縄から東京に働きに出ていたが、最近になって故郷に戻ってきていた。「男とは東京で出会ったのではないか」と推測する紅林だが、女は隙をついて姿を消す。女の実家を訪ねた紅林だが、女は唯一の肉親である母親にも沖縄に戻っていることを報せていなかった。
母親から女の東京での勤め先を聞いた紅林は、先に東京に戻った船村に調査を依頼する。船村と吉野の捜査で、容疑者と思しき男との接点が明らかになる。寮に住むのを拒み、わざわざ福生(ふっさ)にアパートを借りたことで、女は職場で孤立した。そんな女をただ一人かばったのが、同じく基地の街である青森・三沢生まれの男だったという。福生もまた基地の街であり、女はそこに故郷・沖縄と同じ安らぎを感じていたのだ。
ようやく女を発見した紅林は、「自分の生まれた土地も知らず、故郷をもたない私が、やっと見つけた落ち着ける場所が東京だった。東京は今や、私の故郷です。だから恋しくなるんです。あなたもそうだったんじゃないですか?」と語りかける。そんな紅林に、ようやく心を開いた女は、男にもらった星の砂(有名な沖縄土産)を手に胸の内を語る。「あの人だけが、私の気持ちをわかってくれた。だから、私はあの人を信じます。人を殺したとしても、よほどの訳があるはずです」
その後の捜査で、男の連れていた娘を発見する紅林。だが、それで明らかになったのは、殺人の動機が単なる女がらみの諍いだということだけだった。「逃げ場を失った奴の行き場所は、故郷に近い基地の街しかない」紅林の意見をもとに、米軍基地周辺を捜索する特命課。同様に男を探しているらしき女を見つけた紅林は、その後を追う。街の片隅の公園で男を発見し、逮捕する紅林。「親の金で遊びまわっている奴らにはいい薬だ」と理由にもならない動機を語る男を、女は哀しげに見つめるのだった。

前回に続いての沖縄ロケ編ですが、何だかよく分からない話でした。
男はどうして変わってしまったのか?たいした理由も無く男を殺したはなぜか?そもそも職を転々としていた男がなぜ沖縄までキャンピングカーで遊びに来るような金が会ったのか?
女の行動にも疑問が残ります。なぜ一度かばってくれただけの男をそこまで信じるのか?何で東京に憧れ、何で沖縄に戻ってきたのか?なんで母親に連絡一つしないのか?(この当たり、お決まりのパターンとしては想像がつきますが、意図的になのか全く描かれていないのがかえってシュールな印象すら与えます。)
他にも、なんでラストで男の居所がわかったのか?などなど疑問はつきませんが、最も不可思議なのが、スタッフは何を思ってこの話を作ったのか?脚本からしてこうだったのか?観光地を紹介するためにいろいろと脚本内の要素を端折っていったらこうなったのか?そんなんで良いのか?こんな話を放送するくらいなら、前回の誘拐話を前後編でやって欲しかったと、不毛な感想を抱いてしまいました。

第364話 誘拐・天使の身代金!

2007年11月18日 22時41分29秒 | Weblog
脚本 宮下潤一、監督 宮越澄

小学生が特命課を訪れ「友達が女の人に誘拐された」と訴える。友達とは財閥家の一人息子。慌てて財閥家を訪れる特命課だが、父親は「息子はハワイに旅行中だ」と否定する。
その夜、一人の男が心臓麻痺のため路上で急死した。男の所持していたテープには、誘拐されたと思しき子供が親に助けを求める声が録音されていた。特命課では、やはり財閥家の息子が誘拐されており、親が警察に黙って犯人と接触しているのだと推測。テープを解析したところ、波の音ととも沖縄の子守唄が確認される。また、死んだ男も沖縄から上京したばかりだと判明した。事件の手掛かりを求めて、桜井と紅林は沖縄に飛ぶ。
男が働いていたバーを訪ねた桜井は、そこでホステスとして働く女に目を止めた。桜井と女の出会いは2年前。当時、警察病院の看護婦だった女は、乳児を残して自殺を図る母親を説得した。その現場に居合わせた桜井は、子供を蔑ろにする親への怒りを露にする女の姿に、強い印象を抱いていた。
航空会社から、この数日間に子供連れで沖縄に到着した乗客リストを入手した桜井は、そこに女の名前を発見。連れていた子供の名は財閥家の息子と一致した。半信半疑ながらも女を尾行する桜井。女の部屋には、無人のベビーベッドの前で黙したままの妹がいた。自我を失った妹を献身的に世話する女に、桜井は「君は財閥家の息子を誘拐し、男を使って脅迫させた」との推測をぶつける。だが、女は「何の証拠があるんですか?」と突っぱねる。
一方、東京では小学生の証言から、女が誘拐犯だとの確証を得る。財閥家の夫妻も沖縄に向かったとの情報を得て、吉野一人を残して神代らも沖縄へ。観光地を巡りつつ、誘拐犯からのメモを受け取る父親を発見する特命課。なおも誘拐を否定する父親を説き伏せ、メモを確認したところ、そこには「探し物は造成地に埋葬済み」と記されていた。造成地に向かうと、そこには十字架が。慌てて掘り返した特命課は、ランドセルを発見。中には「もっと苦しめ」とのメッセージが。
息子の身を案じて泣き崩れる母親。一方で、父親は女の顔写真を見せられても「見たことも無い」ととぼける。夫妻が赤ん坊を連れて来ていることに気付いた特命課は「財閥家には誘拐された息子以外に、子供はいなかったはず」と不審を抱く。桜井は「その赤ん坊が妹の子供ではないか」と直感する。
東京に残った吉野の調査で、真相が明らかになる。妹は財閥家の父親と不倫関係の末に、子供を授かった。だが、財産の流出を恐れた財閥家に子供の親権を奪われ、絶望した妹は自殺を図り、その後遺症で自我を失ったのだ。「子供を誘拐して何になる?子供を返して、赤ちゃんの親権は改めて裁判で争え」必死に女を説得する桜井。だが、女は妹を地獄に落とした財閥家への恨みを消すことはできず、妹とともに逃走する。
父親は取引に応じるかに見せかけ、女の殺害を図る。息子の命よりも金を重視する父親の姿に絶望した母親は、特命課に助けを求める。間一髪のところ女を救出する特命課。そこにヘリが現れ、中からは桜井とともに、わが子を抱いた妹が。その姿を見て、女はようやく子供の居場所を告白する。
こうして、子供も赤ちゃんもそれぞれの母親の元に戻った。だが、育児能力を持たない妹に、子供を育てることなど望めない。暗澹たる思いの桜井が見たものは、わが子のために子守唄を歌う妹の姿だった。「きっと、彼女は治る」桜井の言葉に、女は涙ながらに頷くのだった。

沖縄ロケを記念して、オープニングの映像やナレーションも特別バージョンの一本。吉野(と幹子)だけがお留守番なのですが、それを良いことに、オープニングで課長の椅子にふんぞり返る吉野の姿に爆笑。
地方ロケといえば、必然性のない観光地巡りに嫌気がさすのが毎度のパターンですが、今回はそれほど過剰ではありません。ただし、舞台が沖縄であることに何の必然性もないのは、やはり残念。また、ドラマが普段以上に濃密過ぎるせいか、どこか急ぎ足で落ち着きの無い印象のも残念です。女や妹に感情移入する前に、どんどんドラマが展開していくので、さほど印象には残りませんが、脚本的にはなかなか秀逸ではないかと思います。
一家心中で両親を失った姉妹がたどる皮肉な運命。両親に殺されかけたトラウマから、誰も信じることなく荒んだ生活を送っていた妹は、初めて愛した男に裏切られたショックで自我をも失います。一方、家族のつながりを人一倍に大切に思っていたはずの姉は、妹の復讐のために、子供を誘拐するという非常手段を選びます。見るからに救いのなさそうなストーリーを、ぎりぎりのところでハッピーエンド(?)に落とし込む構成は見事。誘拐された財閥家の息子が沖縄暮らしに馴染んで東京に戻るのを嫌がるところや、犯罪行為と知りつつ息子を預かっていた老婆の清々しい振る舞いなど、細かなところまで目配りが行き届いているだけに、いっそ前後編でじっくり描かせてあげたかった、と残念に思われてなりません。
ちなみに、『刑事マガジンⅤ』に掲載された宮越監督のインタビューによれば、脚本時のタイトルは「南から届いた子守唄」。どう考えても原案の方が良いと思うのは、私だけでしょうか?

第363話 獄中からのラブレター!

2007年11月16日 01時45分26秒 | Weblog
脚本 峯尾基三、監督 村山新治

ホステスが自宅で殺された。被害者の顔を見た吉野は驚く。それは、かつて吉野が逮捕した男の恋人だった。4年前、二人組の銀行強盗が女行員を射殺し、現金を奪って逃走した。共犯に裏切られた男は、逃亡中に恋人に助けを求めたところを、恋人を張り込んでいた吉野に逮捕された。男の証言に寄れば、強盗を計画したのも、二人分の銃を用意したのも、女行員を射殺したのも、金を独り占めして持ち去った共犯の仕業。競輪場で知り合っただけで名前も知らなかったため、共犯は今も逃亡したままだった。
男は従犯ゆえに刑期も短く、模範囚だったために仮釈放を目前に控えていた。面会に訪れた吉野から恋人の死を知らされ、男は慟哭する。男への同情を抱きつつ、捜査を開始する特命課。鑑識の結果、被害者の爪に残っていた毛髪が人口毛髪だと判明。人口毛髪メーカーから顧客リストを入手した特命課は、目撃者の証言から割り出した容疑者を逮捕する。
だが、現場から金品が奪われた形跡はなく、犯行動機は謎だった。容疑者の自宅から、男が獄中からホステスに送った手紙が発見され、吉野は容疑者が4年前の共犯だと気付く。容疑者は強盗もホステス殺しも認めたものの、4年前の事件の真相については異を唱えた。主犯格も、女行員を殺したのも、金を独り占めしたのも、すべて服役中の男だったと言うのだ。
4年前、自ら取調べに当たった吉野は、男の証言を支持。白黒を付けるべく、収監中の男を容疑者と対決させる吉野。4年ぶりに対面を果たした二人の証言は、真っ向から食い違う。強盗の舞台となった銀行で現場検証を行ったところ、男は「女行員が非常ベルを押そうとしたのを見ていたが、手が震えて撃てなかった。その隙にこいつが発砲したんだ」と主張する。だが、別の行員の証言によれば、銃を撃たなかった男の位置からでは、非常ベルが見えなかった。男を信じたい吉野だが、容疑者の4年間の足取りを洗って見ても、大金を得た様子はどこにもなかった。自分が欺かれていたことを悟る吉野。だが、男は吉野の追及にもシラを切り続ける。
その間、桜井は容疑者が銃を売ったというチンピラを締め上げる。発見された銃の弾丸は女行員を撃ったものとは一致せず、女行員を撃ったのは男だったと証明される。動かぬ証拠を前に、ついに男は自白する。独り占めした金を隠し、従犯として逮捕されることで、晴れて大金を手にするという計画だった。だが、一事不再理(一度確定判決を受けた事件については、再度の実体審理を認めない)の原則によって、男を再度主犯として裁くことはできない。真実を明らかにしたものの、男を断罪できない矛盾の前に、吉野は苦い表情を浮かべるのだった。

なぜか吉野メインが多い峯尾氏の脚本ですが、毎回どうにも練り込み不足な印象が否めません(第284話「恐喝!」、第295話「モーニングサービスの謎!」、第307話「証言を拒む女!」)。今回は「一事不再理」という、本来は検察側の暴走から市民を守るためのルール(判決に納得いかない検察が、別の罪状で何度も起訴を繰り返すことを防ぐため)を逆手に取った、なかなか興味深いプロットでした。とはいえ、真相が明らかになるプロセスは、あまりにひねりが無さすぎ。何の盛り上がりもなく終わってしまいました。
真相を暴いても断罪できないという「一事不再理」の矛盾をテーマにするなら、自白した男が泣き崩れるのではなく、「それがどうした。もう一度裁判できるものならやって見ろ」とでも開き直った方が、後味の悪さが出て良かったのではないでしょうか?

第362話 疑惑Ⅱ 女捜査官の追跡!

2007年11月14日 02時34分50秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

殉職した警察犬・イカロスの仇討ちを果たすべく、貿易商が覚醒剤ルートのボスである証拠をつかもうと奔走する叶たち特命課。イカロスの同僚だった警察犬も全面的に協力する。
貿易商を追い詰めた倉庫のオーナーを突き止めるべく、倉庫の管理責任者を締め上げる。「シャブなんか見たこともない」とシラを切る管理責任者だが、麻薬犬の鼻はごまかせなかった。その証言により、倉庫のオーナーは貿易商の子会社社長だと判明。しかし、社長はすでに姿を消していた。貿易商を締め上げても「子会社の不始末だ」と関係を否定する。「社長の身柄を押さえるしかない」と、叶と女訓練士は社長の残した遺留品をもとに、追跡犬で捜索を開始。しかし、発見できたのは絞殺された社長の死体と凶器のネクタイだけだった。
落胆する女訓練士の自宅を訪れる船村。女訓練士の亡き父親は、船村にとっては尊敬する先輩だった。女訓練士が在りし日の父親、そして海外で働く兄とともに映った写真を見ながら、「せめて、兄さんが側にいてくれればねぇ」と溜息をつく船村。
一方、貿易商は死んだ社長の後釜に覚醒剤ルートを任せて海外逃亡を図ろうとしていた。後釜の写真を見た船村は驚きを隠せない。それは、女訓練士の兄だった。社長殺しの証拠をつかむべく、凶器のネクタイをもとに追跡犬で捜索する女訓練士。だが、追跡犬がたどり着いた部屋にいたのは、貿易商ではなく兄だった。愕然とする女訓練士は、咄嗟に兄を逃がし、叶らには嘘をつく。
貿易商が兄を身代わりにしたのは明らかだった。電話を掛けてきた兄を、叶とともに説得する女訓練士。兄は父親の死の真相を語る。父親は退職後も独自に覚醒剤ルートを追い、そのボスが貿易商だと突き止めたが、逆に覚醒剤中毒者にさせられてしまった。父の復讐を誓った兄もまた、同様に中毒者となっていた。もはや正常な判断が下せない兄を、必死で説得する叶。兄は「奴の倉庫にある証拠を持って出頭する」と約束して電話を切った。
貿易商が所有する倉庫をしらみつぶしに当たる特命課。その一方で、目撃者の証言から貿易商の社長殺しが立証される。追い詰められた貿易商は、兄を人質に山中に逃亡。追跡する特命課をダイナマイトで葬り去ろうとするが、爆弾犬が危機を察知したため難を逃れる。石切り場に立て篭もり、半狂乱になってダイナマイトを放り投げる貿易商。首輪に取り付けた無線機で遠隔操作が可能な無線犬を囮にして、その隙に襲撃犬が突入。続いて他の警察犬や特命課も突入し、貿易商を逮捕。兄も無事救出された。
事件解決後、イカロスの墓前に報告する女訓練士と叶。叶の励ましを受けた女訓練士は、これからも自分の育てた警察犬とともに麻薬撲滅に挑むことを誓うのだった。

前編の感想で「どんでん返しに期待」と書きましたが、結局、宮内洋は悪人のままで、さらには覚醒剤中毒者の兄は長谷川初範(=ウルトラマン80)。特撮ファンに対する嫌がらせのようなキャスティングもあって、あまり好きになれない前後編でした。

麻薬犬をはじめ、追跡犬、爆弾犬、無線犬、襲撃犬と、それぞれ独自技能をもった警察犬たちの活躍は見応えがあり、長坂氏にすれば「取材の成果を遺憾なく発揮した」と言いたいところでしょうが、ドラマ的な持ち上がりに欠けることは否めません。前編では元売人、後編では女訓練士の兄と、それぞれサブストーリーを用意しているため、ドラマが分断されて前後編の意味が薄れてしまったのも残念なところ(もちろん意図的にやっているのでしょうが、それが奏功したとは思えません)。また、石切り場でダイナマイトを放り投げつつの銃撃戦を見せられると、何か別の刑事ドラマを見ているようでちょっと興醒めです。

あと、細かいことですが、ドラマ内では「訓練士」と呼んでおきながら、タイトルに「捜査官」と付けるのはどうかと思います。実際は訓練士も捜査官を兼ねているわけで、間違いとは言いませんが、統一感のなさが気になってしまいました。

第361話 疑惑 警察犬イカロスの誘拐!

2007年11月09日 03時36分39秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

暴力団を介さない新たな覚醒剤ルートを追う特命課。そんななか、麻薬犬として訓練中の警察犬・イカロスが何者かに誘拐される。イカロスは、幼犬の頃に叶が寄付した犬だった。イカロスと一緒だった女訓練士はエーテルで眠らされ、犯人の顔すら見ていなかった。逃げるように立ち去る女訓練士に、厳しい言葉をぶつける叶。
その後、叶は訓練所の所長から、女訓練士が亡き麻薬捜査官の娘だと聞かされる。捜査官の死因は、押収時に舐めた覚醒剤のせいだと噂されていた。もともと弁護士を志していた彼女は、「覚醒剤は父の仇」と思い定め、麻薬犬の訓練士となった。女訓練士の真意を知った叶は「本当の気持ちも知らず、ひどいことを言った」と詫びるのだった。
タレコミを受けて覚醒剤組織のアジトに踏み込んだ特命課だが、すでに人影はなかった。アジトから発見された犬の足跡は、イカロスと同じ犬種のものと判明するが、叶は「イカロスが犯罪者に従うはずがない」と主張する。女訓練士はイカロスと恋仲にあった警察犬を連れ出し、叶とともにアジトに向かう。足跡を嗅いだ警察犬の態度から、二人はそれがイカロスのものだと確信する。
末端の売人から組織を探ろうとする特命課は、堅気の娘を妻に迎えて足を洗ったはずの売人に目をつける。しきりに売人仲間と接触する売人を尾行した叶は、怪しげな倉庫に潜入したところを何者かに襲われる。薄れる意識の中で、イカロスの姿を見る叶。だが、目を覚ましたときにはイカロスの姿はなかった。倉庫からは大量の香港製のボールが発見され、その一部は空洞だと判明。倉庫が麻薬ルートの作業場であり、イカロスは覚醒剤入りのボールを選別させるために誘拐されたものと推測された。だが、イカロスはまだ訓練途上であり、覚醒剤を嗅ぎ分ける能力はない。「麻薬組織はイカロスに麻薬を選別させるために、麻薬中毒にしたのではないか?」橘の推測に、叶と女訓練士は戦慄する。
そんななか、売人の妻が麻薬中毒者として発見される。変わり果てた妻の姿に慟哭する売人。売人仲間と接触していたのは、麻薬に手を染め、姿を消した妻を捜すためだったのだ。麻薬組織への怒りを燃やす売人の証言で、貿易商が容疑者として浮上する。一刻も早くイカロスを救出せんと、貿易商をマークする叶。単独で貿易商を追う女訓練士の車に乗り込み「捜査は我々に任せろ」と説得する。女訓練士は叶に告白する。「退職した父は、仕事を失った寂しさを紛らわすため、覚醒剤中毒者になっていたんです」女訓練士を制して、貿易商が入っていった倉庫に一人乗り込む叶。やつれ切ったイカロスの姿に愕然とする叶を背後から襲う影。逃走する影を追う女訓練士。影の銃口が火を吹く中、イカロスが吠えた。特命課が駆けつけたとき、影は逃走し、後には女訓練士をかばって撃たれたイカロスの死体が残されていた。「よくやったイカロス。お前は立派な警察犬だ!」叶はイカロスの墓標に麻薬組織の壊滅を誓う・・・

7周年記念の一環として制作された長坂脚本の前後編。例によって評価および感想は後編を見てからとさせていただきますが、一つだけ言いたいのは、「いくら大人向けの番組とはいえ、宮内洋に悪役(=貿易商)を演じさせるな!」ということ。後編でのどんでん返しに期待しましょう。

第359・360話 哀・弾丸・愛 七人の刑事たち!についての感想の続き

2007年11月07日 00時44分45秒 | Weblog
『哀・弾丸・愛』前後編の余韻に浸ったままで、録画したままの第361話をなかなか見る気になりませんが、改めて前回の投稿を読み返して見ると、とにかく長すぎ。「誰が読むねん。こんなもん」と自分でツッコミを入れてしまいました。しかし、それでもなお語り足りないので、もう少し語らせてください。
前回の感想はおやっさん主体でしたが、タイトルに「七人の刑事たち!」とある以上、他の刑事たちについても触れる必要があるでしょう。とはいえ、実際には七人に等しくスポットライトが当てられたとは言い難いのですが、その辺の事情を私なりに推察してみました。

本編における各刑事たちの描かれ方を考察する前提として、次のことを押さえておく必要があります。本編のテーマは、刑事という仕事に対するおやっさんの苦悩であり、他の刑事たちの役回りも、そうした苦しみに対する理解度によって決定せざるを得ない、ということです。

まず、最も印象の薄かった桜井および橘ですが、二人とも、おやっさん同様に刑事であることの辛さを知り尽くした人間であり、それゆえに、おやっさんの苦悩が痛いほど分かる。分かるがゆえに、安易に掛ける言葉を持たず、憂い顔で見守る他はありません。そうした微妙な立ち位置ゆえに、スポットを当て辛かったのではないでしょうか。(もちろん、桜井には強盗の恋人を気遣って紅林にコートを貸すよう促すシーン、橘には警備員をかばい続ける強盗の態度に「(警備員は)奴がこの世で一番信じている人間だ。悔しいね。こういう人間をパクらにゃならん」と呟くシーンなど、わずかながらも見せ場は与えていますが・・・)

一方、この二人以上に刑事であることに苦しみ続けている神代は「それでも、やめてはいかん」と、おやっさんに逃げることを許しません。それは「刑事という仕事から逃げ出した後に、おやっさんに何が残るのか?」という危惧であると同時に、「俺を置いて一人だけ逃げるのか?」という寂しさでもあったのでしょう。刑事であり続けることを強いる残酷さを自覚していてなお、引き止めずにはおられない神代。それゆえに、神代のおやっさんに対する態度は揺れ動きます(引き止めておきながらも、無理に捜査に戻そうとはせず。出動させておきながらも、弱音を吐いて車内に残るのを認める、というように)。ラストで警備員を射殺し、再び修羅の道に戻らざるを得ないおやっさんに対して、神代が抱いた想いを察するだけで、胸に迫るものがあります。
なお、ドラマ中で語られなかった警備員の真の動機は、自分をお払い箱にした警察に対する復讐ではなかったのかと思われますが、神代は警備員自身が気付いてなかったかもしれない(おそらくは認めたくもない)動機を洞察し、おやっさんが警備員の二の舞になることを案じていた、と察するのは、慰留する際の長台詞を聞く限り、そう穿った見方ではないのではないかと思います。

神代らの対極にあるのが、まだ刑事という仕事の真の辛さ、醜さ、哀しさを知らない若手たちです。叶や紅林は、自らを唾棄すべき存在だと考えているおやっさんに対し、尊敬の念を抱き、その想いを素直にぶつけてきます。もちろん、息子のように目をかけてきた後輩に慕われ、目標とされることを喜ばない者はいません。しかし、慕われる自分、目標とされる自分の醜さを知り尽くしているがゆえに、そしてそんな後輩たちが可愛いだけに、彼らの言葉がおやっさんを追い詰めていったのではないでしょうか?おやっさんが彼らに望むこと、それは「俺のようになるな!」ということであり、自分の仕事に誇りをもちながらも、後輩に対してはそう言わずにいられない哀しさも、おやっさんの心を「ボロ雑巾のように」してしまった要因の一つではないでしょうか?

では、なぜ叶や紅林よりも付き合いが古く、最もおやっさんの薫陶を受けてきたはずの吉野だけが、彼らと異なる位置づけなのでしょうか?決して塙氏が吉野の存在を叶や紅林よりも軽くみていたわけではないでしょう(それならば『張り込み 閉ざされた唇!』や『東京犯罪ガイド!』のような話は書けないはず)。塙氏の理解する吉野、そして私たちが愛する好漢・吉野は(演じる誠直也のパーソナリティーの影響も大きいと思いますが)自己嫌悪や自己矛盾とは無縁の古き良き九州男児。そして、人一倍悪を憎み、決して甘えを許さない男です。これまでの吉野を振り返ってみれば、悲しい事情を背負った犯罪者の甘えを許さないのはもちろん、子供の甘えも、父親の甘えも、自分の甘えも許さない男として描かれてきました。そんな吉野にとっては、おやっさんの苦悩も「甘え」であり、特命課の中でただ一人おやっさんの弱さを糾弾する立場に回ります。おやっさんを擁護する場合でも「強盗は射殺して当たり前」すなわち「刑事として犯人を撃つことに迷う必要はない」というように、おやっさんの苦悩に対する対立概念として描かざるを得ないのです。
刑事であることに悩まない、という吉野のキャラクターは、ある意味で損な役回りと言えますが、しばしば悩める刑事たちの対立概念として描かれる彼の存在があってこそ、特捜というドラマが成り立っている側面もあります。つまり、「七人の刑事たち」というタイトルに象徴される集団劇としての魅力も、吉野という存在があってこそだと言えるでしょう。塙氏は、そうした吉野の役回りを理解しているがゆえに、あえて損な役回りを任せる一方で、負傷した幹子を気遣い、見舞いすら拒否する元婚約者の名を騙って花を送り続けるという、吉野ならではの見せ場を用意したのでしょう。

長坂秀佳と並び「特捜の歴史を支えた両輪」と称される塙五郎氏。七人の刑事それぞれに対する塙氏の理解、そして愛情が、今回の前後編には余すところなく表現されているのではないか、と私は思います。今後も塙氏の描き出す奥深い人間ドラマを、心して味わいたいものです。

第360話 哀・弾丸・愛Ⅱ 七人の刑事たち!

2007年11月05日 00時30分23秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 辻理

容疑者であるマスターの逃走を許したことで、刑事局長やマスコミの批判はさらに強まる。やむなく船村を休養させることを決意する神代。だが、船村はすでに自分の意思で謹慎していた。
その後、マスターは船から海に身を投げ、死体で発見される。一緒に引き上げられたトランクには、1万円札が1枚残るのみ。残りは海に消えたものと見られた。
船村を気遣って自宅を尋ねる叶だが、船村は居留守を使って会おうとしない。代わりに応対する娘に叶が語る。「おやっさんには、いつまでも現場に居て欲しいんです。僕らはみんな、おやっさんを目標にしてるんです」そんな叶の純粋さが、船村には痛々しかった。「歯の浮くようなこと言いやがって。この商売がどんなに嫌なものか、あいつには分かっちゃいないんだ。人の裏側ばっかり覗いているうちに、俺のような嫌なジジィになっちまうんだ」
元警官の警備員を赤ちょうちんに誘い、愚痴をこぼす船村。「私はこの仕事が好きでねぇ、今まで夢中になってやってきた。この仕事だけは誰にも負けないって自信があった、誇りがあったんだ。それを、紙切れ一枚で、もう役に立たねぇっていんだ。そんなもんだったのかなぁ、俺の存在ってのは・・・」船村の言葉に、我が身を思い出したように苦い表情を見せる警備員。「断りゃよかったんですよ。そんな、人をバカにした話・・・」「バカにするなって思った。仕事で見返してやろうと思った。ところがね、かえって決定的なミスをやっちまった。俺はもう役に立たない人間になっちまったと思ったよ・・・」辞意をもらす船村を自宅に誘って飲み直す警備員に、船村も胸襟を開いて打ち解けあう。
一方、桜井らは強盗の恋人を訪ね、金を送ってきたのは共犯のマスターだったと明かす。だが、恋人は「マスターは共犯者の女に分け前を渡すような人間じゃない」と指摘する。また、改めて現場検証を繰り返した結果、神代はマスター以外に銀行内にも共犯がいたはずだと気付く。あの状況で自由に動けたのは、人質だった女行員、そして負傷していた警備員しかいなかった。
警備員を訪れた紅林は、そこに居た船村に驚きを隠せない。「嫌な商売だ。被害者まで疑うなんてね」と、船村もろとも紅林を追い返す警備員。「さすがですね、おやっさん。あの人をマークしてたんでしょう」紅林の言葉に、船村は「情けないことをいうな、あの人は私の友達だ!」と怒りを露にする。
同じ頃、女行員の別れた夫を訪ねた橘は、女行員に別の男がいたことを知る。それは強盗ではなく、もっと年配の男だという。さらに、マスターが船から飛び込む現場を見た女の証言から、第一発見者が年配の男で、自分を「僕」と呼んでいたとの証言を得る。警備員もまた、自分を「僕」と呼んでおり、容疑は深まる。
辞表を胸に抱いた船村が特命課に赴いたとき、捜査会議は佳境を迎えていた。警備員を主犯と断定する紅林の言葉に、真っ向から反論する船村。「あの人はそんな人じゃない。貴様、あたしの目が節穴だって言うのか!」「節穴です!この事件に限っては節穴です!」紅林は、捜査記録にも残らない細かい事件から、警備員と強盗の接点を見出していたのだ。かつて強盗が犯した窃盗事件を扱った際、警備員は強盗の将来を思い、被害者に働きかけて示談にした。以来、強盗は警備員を親のように、神のように慕うようになったという。絶句する船村。そこに橘から電話が入り、女行員の浮気相手が警備員だったと告げる。突然、顔をくしゃくしゃにする船村。その頬を涙が伝っていた。
警備員の自宅に向かう車中で、紅林に向かって「よくやったよ、脱帽だよ」と笑顔を見せる船村。紅林は船村に詫びる。「生意気なことを言って、すみませんでした。みんな、おやっさんに教わってきたことです」無言で応じる船村に、紅林は続けた。「辞めないでください。おやっさんが辞めるなら、自分も辞めます」唇を震わせながらの紅林の言葉を、船村は「バカなこというなよ」と笑い飛ばすしかなかった。
警備員は自宅から行方をくらまし、銃砲店から盗まれたもう一丁の猟銃を所持しているものと思われた。緊急配備を敷く特命課。その間、辞意を固めた船村は刑事局長のもとへ向かうが、その前に神代が現れる。神代は、かつて警備員が警察を辞める際、いかに鮮やかに辞めたかを語る。「だがね、自分の仕事に誇りを持った人間が、そうあっさり辞められるだろうか?私だったらできない。未練たらしい男だからね。俺を何だと思ってやがるって、わめき倒す。奴もそう思ったはず。悔しければそういえばよかった。そうすれば、こんな事件は起こさなかったはずだ・・・」神代が警備員について語る言葉は、そのまま船村に向けた言葉だった。慰留する神代に、船村は語る。「課長、私は年を取った。自信がなくなった。身体のことじゃない、気持ちがボロ雑巾みたいんなんです」船村の肩をつかんで神代が語りかける。「おやっさん!人間、誰しも年をとることから逃れられん。それを認めるには勇気がいる。だがね、年をとらなきゃできんこともあるし、年を取らなきゃわからんこともある」
船村を残して捜査に戻る神代だが、警備員の行方を知るはずの強盗は、いくら締め上げても沈黙を守ったままだった。「喋りませんね。よほど奴を信頼してるんでしょう」と弱音を吐く叶。そこに船村が現れ「私がやります」と尋問を引き受ける。「刑事なんかを信じていいのか?お前みたいなのは一目見りゃあ分かるんだ。誰も信じないって顔をして、誰かを信用したくてたまらねぇんだ。苔の生えた刑事にかかっちゃ、ころりとひっかかる。奴は3千万を独り占めして逃げたぞ。お前の女もつまみ食いしてな」「嘘だ!あの人は、そんな人じゃねぇ!」「お前みたいな奴を見てると反吐が出そうだ!ずっと奴を神様扱いして拝んでろ!」
ついに強盗は吐いた。犯行は警備員が計画したもので、最初からマスターにすべての罪を押し付け殺害する予定だったのだ。強盗の明かした潜伏場所へと出動すべく、銃を携行する刑事たち。だが、船村は差し出される銃を拒み、突入時の気持ちを語った。「あのとき、あたしは最初っから撃ち殺するつもりだった。刑事を辞めろと言われたのがショックで、まだやれるってことを証明したくて、殺すことに夢中になっていた。土壇場でそのことに気がつき、ゾッとした。今、引き金を引いちゃいけないのかって思ったら、拳銃をおろしてしまっていた・・・」そのためらいが生んだ悲劇を知っていてなお、神代は言う。「おやっさん、それでいいんだ。それでいいんだよ」
警備員の潜伏する廃駅跡に出動する特命課。「私は駄目です。大人しくしています」という船村を車に残して、配置に付く刑事たち。遠巻きに銃撃戦が交わされるなか、迷い込んだ少年の姿を認める船村。追い詰められた警備員は、少年を人質に逃走を図る。少年の叫び声と銃声が交錯する。駆けつけた神代以下の刑事らが見たものは、拳銃を構えた船村と、その前に倒れ付す警備員の死体だった。
そして事件は解決し、高杉婦警も順調に回復。己の功績が称えられるなか、船村は決して険しい顔を崩すことはなかった。

何というか、後世に残したい名シーン、名台詞ばかりで、粗筋がいつもの倍以上のボリュームになってしまいました。
これまでも、おやっさん主演話を中心に、刑事という仕事の虚しさ、哀しさを描き続けてきた特捜ですが、今回のように刑事を「必要悪」とまで断じたエピソードは、かつて無かったのではないでしょうか?
「刑事なんてのは屑だ」と自ら語るように、刑事という仕事の醜さを知り尽くしていながら、その仕事に情熱を燃やし続けてきたおやっさん。ときには人の情や信頼を踏みにじってでも、真実に迫らなければならない。ときには銃を手に、誰かの命を奪わねばならない。そうしなければ守れないものがあるならば、自分たちがその汚れ役を引き受けよう。そんな覚悟を誇りとする一方で、そんな汚れ仕事に慣れ切った自分に耐えがたいほどの自己嫌悪を抱く。おやっさんの直面した自己矛盾は、すべての刑事たちが見据えなければならないはずのものであり、だからこそ、己を慕い、己を目標とする若い刑事たちの言葉が、おやっさんの胸を鋭くえぐるのです。
自分を称えられれば称えられるほど、激しい自己嫌悪に苛まれるおやっさん。俺のしてきたことはなんだったのか?人と人との信頼関係を踏みにじり、自分を分かってくれる友達を殺し、そんなことを繰り返す自分に嫌気がさしていながら、なおもその仕事にしがみつく自分が、おやっさんには絶え難かった。しかし、それでもなお、おやっさんには刑事を続けるしかない。なぜなら、それは自分の人生そのものであり、存在そのものなのだから。
自分の醜さを知り尽くしていても、自分を辞めることなどできはしない。人という存在の業の深さを煎じ詰め、凝縮したものが、まさに刑事という仕事に他ならない。そうした視点こそが、特捜を刑事ドラマ=人間ドラマとして、単なるアクションドラマや人情ドラマ、推理ドラマに堕してしまった凡百の刑事ドラマと一線を画する所以ではないでしょうか?
完成度や感動できるという点では、本編を上回る作品は少なくありません。しかし、刑事という仕事の本質にここまで迫ったエピソードは他になく、その意味では、特捜を語る上で、いや、日本の刑事ドラマを語る上で、欠かすことのできない作品として、永遠に語り継がれるべき一本です。是非、一人でも多くの方に視聴いただき、感想を語り合っていただきたいものです。

DVD Vol.5発売決定!

2007年11月03日 02時01分40秒 | Weblog
DVD-BOX・Vol.4の発売を前に、早くもVol.5の発売が決定したようです。発売は2008年4月で、今回は「特命課オールスター選」と銘打って、ファン投票の上位エピソードから各刑事の主役編をチョイスするとともに、各期毎にフルメンバーが活躍するエピソードを盛り込むとのこと。

ファン投票の上位で未収録の作品を刑事別に列挙して見ると、
神代編:第239話「神代警視正の犯罪!」
おやっさん編:第230話「ストリップスキャンダル!」、第193話「老刑事・鈴を追う!」、第86話「死んだ男の赤トンボ!」
橘編:第53話「背番号のない刑事!」、第234話「リンチ経営塾・消えた父親たち!」、第155話「完全犯罪・350ヤードの凶弾!」、第208話「フォーク連続殺人の謎!」第177話「天才犯罪者・未決囚1004号!」、第74話「死体番号044の男!」
桜井編:第194話「判事ラブホテル密会事件!」、第17話「爆破60分前の女!」
紅林編:第248話「殺人クイズ招待状!」、第210話「特命ヘリ102応答せず!」第188話「プラットフォーム転落死事件!」第315話「面影列車!」
叶編:第186話「東京・殺人ゲーム地図!」、第264話「白い手袋をした通り魔!」
吉野編:第100話「レイプ・17歳の記憶!」
津上編:第59話「制服のテロリストたち!」
高杉編:第7話「愛の刑事魂」
滝編:第110話「列車代爆破0秒前!」
幹子編:第174話「高層ビルに出る幽霊!」
蒲生編:第345話「新春 窓際警視の子守歌!」第346話「新春Ⅱ窓際警視の大逆転!」
といったところですが、こうして見ると、吉野の冷遇ぶりがよくわかるというもの。ランキング外なら第311話「パパの名は吉野竜次」や第334話「東京犯罪ガイド」などの名作があるのですが・・・

あと、気になるのは「フルメンバーが活躍するエピソード」ですが、第143話「殺人伝言板・それぞれのクリスマス」や第293話「木枯らしの街で」のような各刑事の姿を点景するようなパターンでしょうか?それとも第244話「消えた聖女・恐怖の48時間!」や第320話「特命ヘリ緊急発進!」のような大規模捜査ものでしょうか?全員出張の地方ロケもの(特に「炎の女」前後編)だけはやめて欲しいと思うのですが、さて、どうなるでしょう。収録環の発表を楽しみに待ちたいと思います。

余談ですが、Vol4収録の第255話「張り込み 顔を消した女!」について、「なぜ藤井邦夫氏が推薦したかわからない」とコメントしましたが、もしや常連ゲストの本阿弥周子&大谷朗に陽の目を見せてやりたかったのではないか、と思い当たりました。真偽のほどは分かりませんが、だとすれば藤井氏の配慮に頭が下がります。