特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第466話 千五百万人の悪女たち・パート主婦不倫心中!

2009年05月26日 04時07分29秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 北本弘
1986年5月22日放送

【あらすじ】
時田の友人の妻が、浮気相手である男を刺し殺し、服毒自殺を遂げた。所轄署は無理心中だと判断したものの、友人の頼みで時田に連絡。友人夫婦の仲睦まじさを知る時田は「そんなことはあり得ん!私に現場を見せて下さい!」と所轄署に指示する。折しも特命課は強盗事件を捜索中だったが、神代の温情を得て現場に急行する時田。
二人の死体を確認したところ、硬直具合から死亡時刻に数時間のズレがあるように思われるが、所轄の刑事は取り合わない。男は妻がパートで働く家電量販店の社長だった。社長夫人から事情を聞こうと、店に向かう時田。応対した店長によれば、夫人は男の死を知りつつ、商談のために外出だと言う。時田は、妻の同僚であるパート店員たちから事情を聞くが、彼女らは「どこで誰が浮気していたって不思議じゃない。そういう時代でしょう」と笑うばかりだった。
そんななか、友人が妻と男を殺した容疑で逮捕されたとの報せが入る。鑑識の結果、凶器の包丁から友人の指紋だけが検出されたのだ。さらに、事件の前日、友人が妻と浮気相手を探し回っていたことも判明する。友人が言うには、「妻が浮気相手と会っている」との密告電話があったのだという。
改めて夫人を訪ねる時田。夫人は男を「仕事もできないくせに、女にだらしない男」と断罪し、「たとえお飾りでも、この国では男が社長でないと通用しない」と男性中心の社会を痛烈に批判。友人の妻との浮気についても「前から知っていた」と言う。「彼女は浮気のできるような女じゃない」との時田の反論に対しても「浮気できない女はいるかもしれないが、その数は浮気できない男よりも少ない」と持論を展開。「休日に家でごろごろしている亭主しか見てない主婦が、急に外で働きだすと、職場の上司が頼もしく見えるもの」と女の浅はかさを鼻で笑うのだった。
特命課に戻った時田は、改めて友人の無実を主張する。「それは所轄署の事件だ。特命課には特命課の事件がある」と批判する桜井だが、時田は「強盗犯はもう分かっている。特命が追わなくとも指名手配していればいい。無実の男が罪を着せられようとしている事件こそ、特命課が扱うべき」と反論する。だが、時田の言葉も虚しく、友人が殺人を自供したとの連絡が入る。所轄署の刑事が語るには、妻の浮気の証拠を突きつけられた友人が、絶望の末に自供したのだという。
その間、特命課の追っていた強盗事件が所轄署の手で解決する。「俺がちゃんとしていれば、特命課の手で解決できたのに・・・」と悔やむ時田。そこに、男の以前の愛人が、事件を知って自殺を図ったとの連絡が入る。一命を取り留めた愛人が語るには、男は夫人と離婚し、他の女ともすべて別れると語っていたという。その言葉が正しければ、男と妻の浮気はデタラメだということになる。
二人の関係を洗い直そうとする時田のもとに、特命課の刑事たちが次々と情報を持ち寄る。妻の浮気相手は、別の中年男だったらしいのだ。では、なぜ夫人は「二人の仲を知っていた」と語ったのか?男が夫人に離婚を申し出ていたのは事実であり、それは夫人が切り盛りする会社にとって大きなダメージとなる。夫人に疑惑を寄せる特命課だが、夫人には確かなアリバイがあった。「死亡推定時刻には店で会議中だった」と店長が証言しているのだ。
さらに捜査を続けたところ、妻の本当の浮気相手が店長だったことが判明。店長を追及したところ、夫人と共謀しての犯行だったことを自白する。友人に密告電話をしたのも、店長を追い詰めて共犯に追い込んだのも、すべては夫人の描いたシナリオだった。だが、包丁に友人の指紋しかついていなかったのは、夫人にとっても予想外だったという。妻に食事の支度をさせられない友人、そして、あっさり自白した店長も含め、「男ってダメねぇ」と吐き捨てる夫人。「悪女ですよねぇ」と呟く犬養に、時田は答える。「“悪”とはもともと“強い”って意味だった。悪い女なんていない。この時代を強く生きようとする女が“悪女”と呼ばれるんじゃないかな」

【感想など】
「地図を描く女」や「黙秘する女」など、個人的に好きな作品が多い阿井文瓶氏(関係ない話で恐縮ですが、少し前にファミ劇で放送していた『ウルトラマンレオ』の円盤生物編で、子供番組とは思えない重い脚本を書いていました)が久々に脚本を手掛けた本編(手元の資料によると、時間帯変更後では本編と、最終三部作前の505話の2本のみ)は、なかなかの力作に思えました。

主題としては、“女性の社会進出”という当時の(今日でも)社会的なテーマを背景に、女性たちのもつ「もはや家庭に収まってはいたくない(家事だけに縛られたくない)」という欲求と、それでも社会な地位を認められない苛立ちを重ね合わせて描いた一本と言えますが、そこに付随して、女性の貞操観念の低下や、その裏返しとしての男の包容力の低下なども重ね合わせており、ドラマの奥行きとともに、このテーマが抱える問題の奥深さも感じさせます。

このテーマは、放送当時に起こりつつあった「価値観の転換」の一つと言えますが、そうした時代の変化を分かり易く示しているのが、旧世代の代表である時田と、新世代の代表である犬養や江崎婦警との対話です。
「今の女房たちは、何だってパートなんかに出るんだろうな?」とぼやく時田に、犬養は「経済的な問題より、社会とつながっていたい、生き甲斐が欲しいってことじゃないですか?」と応じる。時田にとっては、妻とは家庭を守るものであり、「それぐらい意欲的な女性の方がいい」という犬養の言葉に、ジェネレーションギャップを感じざるを得ません。
また、「女の生き甲斐って何だい?家の外で働き、家の外で恋愛する。そんなことが生き甲斐になるんだろうか?子供を育てる、亭主を支える。それが生き甲斐にはならんのだろうか?」という時田に対し、江崎婦警は若くして主婦となった友人のことを語ります。「私から見れば、可愛い子供に恵まれた彼女が羨ましい。でも、彼女は逆に、私を羨ましがる。働いている女性の颯爽とした歩き方と、買い物籠を提げている自分の歩き方を比べると、たまらなくなると言うんです」この友人の言葉を「浅はかな」と切り捨てるのは簡単ですが、「家庭を守る女性の姿こそ美しい」という価値観が、私たち古い世代の男性が作り上げた、自分たちにとって都合の良い女性像だという指摘に対し、私は真っ向から反論することができません。
そして、時田の妻もまた「働きに出たい」と言っており、ラストで「雪崩を打ったように家から出て行く女を止められるもんじゃない。それに、家を出たからといって、すべての女が浮気するわけじゃない。何か学ぶものもあるはずだ」と語る時田の言葉も、どこか虚しく聞こえます。この台詞の後、女性雇用者の増加を示すデータを示して、エンディングを迎えるのですが、このデータが物語る「社会の変化」は一体何を意味するのでしょうか?
すべてを語り尽くすのは困難ですが、その一端を示す視点として、ドラマ中盤、社長夫人が守ろうとする家電量販店の店先で、時田が語る台詞が印象的です。「洗濯機、掃除機、炊飯器、みんな母親を楽にさせてやるために作ったものだ。おかげで母親は手がきれいになった。そして、暇になった。そんな母親が、今、何をしているんだろう?」女性の幸せとは何なのだろうか?文明の進歩は、本当に私たちに幸福をもたらすのだろうか?視聴者にさまざまな問い掛けを行う今回の脚本は、いかにも阿井文瓶であり、いかにも特捜だと個人的には思えます。

こうした深いテーマ性に加えて、友人夫婦の仲睦まじさが時田の“青春の幻想”に過ぎなかったという苦み、トリックに思われた包丁の指紋が友人夫婦の亀裂を示す証拠だったという皮肉など、細かい点で練られた脚本の妙には唸らされます。さらに、時田が孤立しているように見えて、実は密かに仲間がサポートしているという展開も、ベタではありますが、それでも見ていて嬉しくなるもの。464話に続いて(わずか2話前なのですが、間が空いたせいで、ずいぶん前のことのように思えます)なかなか見応えがある作品が続いており、両編で主役を努める時田刑事の株も、私の中では確実に上昇中です。

ようやく再開します

2009年05月21日 01時32分23秒 | Weblog
「連休明けには」と言っておきながら、5月も下旬になってしまいましたが、ようやく仕事もひと段落しましたので、更新を再開させていただきます。この間、更新もないのに本ブログを覗いていただいた皆様、コメントをお寄せいただいた皆様、本当にありがとうございました。コメントの返信も滞っていましたが、順次、お返ししていきます。

まずは手始めに、以前(2007年12月)に視聴し損ねて欠番扱いとしていた第367話「六本木ラストダンス!」を更新しましたので、今更ではありますが、よろしければご覧になってください。

ここのところファミ劇の放送が休みがちでしたので、溜まった本数は直近の放送を含めて10本(このうち468話、469話はうっかり録画を消してしまったので、一度見た切りの記憶が頼りなのですが・・・)。今後は何とか週に3~4話のペースで更新し、なるべく早く放送に追いつきたいと思っています。
とはいえ、久しぶりにリアルタイム視聴した第474話「エアロビクスコネクション」がとんでもない出来でしたので、視聴意欲が削がれたのも否めません。まだ録画したまま見てない数本に、「これは!」というのが一本でもあれば幸いなのですが、さて、どうでしょうか。

あと、コメント欄でも物議をかもしておりますDVDについては、6月頭の結果発表を待って、改めて勝手な感想などを書いていきたいと思います。

それでは、皆様、今後とも本ブログを何卒よろしくお願いいたします。