特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第291話 わらの女 哀愁の能登半島!

2007年02月27日 07時25分29秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 天野利彦

珍しく休暇の取れた紅林は、能登半島まで足を伸ばした。路上に並んだ土産物屋を見て回る途中、わらで作った人形(呪殺用ではない)を売る老婆を見かけた紅林は、人形を買おうとして老婆から無視され続ける女に目を止める。女の哀しげな様子が気にかかる紅林だが、それ以上の関わりを持つことはなかった。
東京に戻った紅林は、宝石商殺害事件の捜査に当たる。現場は宝石商が内縁の妻と暮らす高級マンションで、金庫から大量の宝石が奪われた上で放火されたが、内縁の妻の姿が見えない。宝石商の愛人の証言によると、内縁の妻にも恋人がいた。そのため宝石商は内縁の妻を無一文で追い出し、愛人と結婚しようとしていたらしい。動機は十分にあると見て、紅林は内縁の妻の行方を追う。
一方、焼け残った内縁の妻の部屋から発見されたノミは、輪島塗の工具だと判明。美術商を当たったところ、内縁の妻は新進の工芸家で、金沢料理を扱う店からの注文も増えていたという。そこで初めて内縁の妻の写真を見た紅林は、それが能登半島で見た女だと気づく。料理店を訪ねたところ、内縁の妻は能登の出身で、つい最近、契約していた作品を現地から送ってきたという。
犯行時点に金沢にいたとすれば、内縁の妻は事件と関わりが無いのか?だとしても、事件が大きく報道されているのに、なぜ名乗り出てこないのか?疑問を解くべく、吉野とともに金沢に飛んだ紅林は、現地警察の協力を得て内縁の妻を発見。同じホテルに宿を取り、その動向を見張る。内縁の妻は、金沢の観光地を出歩いては、行く先々で電話をかけるが、誰とも会う様子はない。また、謎の女が終始その後をつけていることに気づく。
フェリーに乗り込んだ内縁の妻を追う紅林は、謎の女によってフェリーから突き落とされるのを目撃。とっさに海に飛び込み、内縁の妻を救出したものの、謎の女は死体となって発見された。謎の女は何者だったのか、そして誰が彼女を殺したのか、謎は深まる・・・

金沢ロケの前後編。たまの休暇に一人で能登半島を旅行する紅林が格好よく、私も今度やってみたいと思います。後編は来週放送のため、詳細な感想は後編を見てからにしたいと思いますが、地元とのタイアップということで主要な観光地を紹介する必要があるためか、いつもに比べてやや冗長な印象です。


第290話 ふるさとの女!

2007年02月26日 07時24分54秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 藤井邦夫

資産家宅に住む若い娘が誘拐された。犯人の要求通り、身代金の百万円を娘自身の口座に振り込んだが、金が引き出された後も娘は戻らない。そこで、ようやく警察に通報し、特命課が捜査に乗り出す。女は周囲の友人に「資産家の娘で女子大生」と名乗っていたが、実は資産家とは同じ津軽の出身で、同姓の縁でお手伝いさんとして住み込んでいた。銀行の防犯カメラには、身代金を引き出した若い男が映っており、特命課は娘の狂言という可能性も視野に入れて、娘の交友関係をあたる。
高校の同級生で、津軽弁を売りにする漫才師を訪ねた吉野は、高校時代に娘と付き合っていた男の存在を知る。かつては娘の方が熱を上げていたが、上京後、男が津軽弁をからかわれたことを気に病み、せっかく入社した大手商社をやめて土建会社で働くようになると、二人の仲は気まずくなっていった。しかし、男は一途に娘を思い「都会の男があいつをダメにした」と言っていたらしい。男の職場を訪ねた吉野だが、男は終始無言を貫いた。
その後、吉野は女友達の証言から、娘がディスコで知り合った若者と付き合っているとの情報を得る。ディスコからの通報で若者を発見し、取り調べたところ、若者は金を引き出したことは認めたが、「娘が父親から金を巻き上げるのに協力しただけだ」と主張。娘が消息不明だということも知らなかった。
同じ頃、大量の血痕が残された現場近くで、娘のバッグが発見される。血痕の量から、娘は死んでいるものと推測されたが、遺体は見当たらない。バッグに残されていた産婦人科の診察券から、娘は数日前に中絶手術を受けていたことが判明。若者を尋問したところ、娘に妊娠を告げられ、「持参金を百万円持ってきたら結婚してやる」と言ったところ、娘から「家から金を出させるのに協力して欲しい」と持ちかけられたのだと言う。しかし、百万円を手にした娘は、人が変わったように「まだまだ遊び足りないし、子供は堕すわ」と言い残し、若者から去っていったらしい。
若者を釈放したところ、何者かにナイフで襲われ負傷した。かつて娘と付き合っていた男の仕業ではないかと調べたところ、男は職場を辞めており、アパートからは血塗られた着衣が発見された。男が何かの拍子に娘を殺し、それの若者のせいだと思い込み、復讐のために襲った。そう推理した吉野は、再び襲われると見て若者をマークする。吉野を煙たがって逃走した若者を、男が襲う。「話し合えば分かるじゃないか」必死に説得しようとする若者に、「その滑らかな言葉で、あいつばダメにしたんだべ!」と叫ぶ男。その前に、吉野が立ちはだかる。「言葉なんかで、人がダメになるもんか!訛りくらいでいじけるような根性が、人間をダメにするんだ!」そう叱咤する吉野に、男は訛りのきつい言葉で犯行を自白すると、「訛りを気にせず喋るって、気持ちいいなぁ」と吹っ切れた笑顔を見せた。

前回と似たような結論で恐縮ですが、今回も「女は怖い」と骨身に染みて思い知らされる一本です。被害者とはいえ、今回の女はとにかくひどい。意を決して結婚を申し込んだ男に、「あんたにテニスやサーフィンをしたり、ディスコで踊ったりできるの?」と情け容赦なく言い放ち、「テニスば習う、サーフィンばやってみる。できるじゃ、おらだって」と必死に追いすがる男に、「テニスやサーフィンに、そんな言葉が似合うと思ってるの」と嘲笑するのです。これで殺意を抱かぬ男がいるとは思えませんが、同時に「そんな女のために人生を棒に振ってはいかん」とも思い、哀れにも殺人者となってしまった男に同情を寄せるほかありません。(ひょっとして女性の方が読んでくださっていたら、不快感を与えて申し訳ありません)ちなみに、男を演じたのは直江「腐ったミカンじゃねぇ」喜一。金八先生の終了からわずか2年弱のことでした。

それはさておき、今回の脚本の秀逸さは、当初は諸悪の根源に思えた若者の描き方にあります。アメリカ留学帰りの大学生と自称し、女と遊び歩いている若者ですが、じつは普段はスーパーの店員として真面目に働いていました。ラストシーン。吉野の計らいで男の供述を聞いた若者は、取調室で男に歩み寄ると「おれも岩手の出身だ」と告白。「俺も、便所でこっそり練習したり、訛りを取るのに苦労した。テニスを覚えるために食費を削って、身体を壊しそうになった。体だけじゃなく、人間もダメになっちまったのかもしれない。でも、他には何もないしよ・・・」都会生活をエンジョイしているかに見えた若者も、内面は男と同様の寂寥感にあえいでいました。女と遊び歩く他には“何もない”都会暮らしの虚しさを、そこからこぼれ落ちた男とともに、表裏一体で表現する若者の言葉が、ドラマに厚みを与えています。

ふるさとの訛りなつかし停車場の人込みの中にそを聞きに行く・・・おやっさんが口ずさむ啄木の歌に象徴されるように、「訛り」はふるさとの象徴であり、郷愁の対象でした。それが、いつの間にか田舎モノの象徴として、蔑みや嘲笑の対象になっていることに、言い知れぬ悲しさを感じます。最近では、テレビの普及で訛りも減っているという話も耳にしますが、それはそれで寂しい思いがします。もし、今でも訛りのせいで辛い思いをしている人がいれば、吉野のこの言葉を贈りたいと思います。「お前が両親から与えられた言葉が、そんなに恥ずかしいか!」


第289話 死んだ筈の女!

2007年02月19日 22時22分11秒 | Weblog
脚本 竹山洋、監督 永野靖忠

粉雪の舞う夜、紅林はトラックで野菜の行商を営む夫婦を見かけた。女の顔に見覚えがあった紅林は、慌てて声をかける。女は「人違いです」と言って去っていったが、紅林は見過ごすことができなかった。それは、かつて紅林が通っていた定食屋の店員で、殺害された筈の女だったからだ。
女は2年前の夏、奥多摩渓谷で大量の血痕を残して行方不明になった。現場に残された母子手帳に父親として記載されていた男を探したところ、行方をくらましていることが判明。潜伏先を突き止め逮捕したところ、男は犯行を自供した。渓谷で女から妊娠を告げられた男は、会社の重役の娘と結婚話が持ち上がっていることを打ち明け、「子供を堕してくれ」と頼んだのだという。しかし、女が拒否して結婚を迫ったため、思わず刺してしまったのだ。結局、遺体が発見されないまま殺人事件と認定され、裁判では死刑が宣告された。
もし女が生きていたなら、男の罪状は大きく変わる。当時の模様を詳しく聞こうと、紅林は収監されている男を訪ねる。男は罪を悔い、「早く女の元に行って謝りたい」と刑の執行を待っていた。男の様子を女に伝え、「奴も2年間苦しみ続けてきた、もう許してやれないか」と説得する紅林だが、女は頑なに人違いだと言い張る。
女の身元を探ろうと市役所を訪ねた紅林は、女に住民登録がなく、そのため母子手帳の発行を受けられなかったことを知る。女の指紋を採取しようと機を窺うが、それに気づいた女は手袋を外さず、執拗に指紋を取らせまいとする。そこで、女の後を追って高杉婦警が銭湯に入り、女のわき腹に残っていた刺し傷を確認。それを証拠として同行を迫ったところ、女はガスコンロに火をつけて手を突っ込み、指紋を消そうとするのだった。「そこまでして男を死刑に追いやりたいのか」と、女の執念に愕然とする紅林だが、船村は「女は自分の過去だけではなく、亭主の過去を守ろうしているのでは」と指摘する。夫の過去を調べたところ、かつて九州で外科医をしており、手術ミスで患者を死なせて行方をくらまし、業務上過失致死の罪で追われる身だと判明。夫を逮捕し、女も連行する紅林。女に日陰の生活を強いていることを悔いていた男は、すべてを自白する。
患者を死なせたことを悩み、自殺しようと奥多摩渓谷を訪れた男は、上流から流されてきた女を発見し、手当したのだという。「お腹の赤ちゃんもあなたが?」と問う紅林だが、夫は「そのときは妊娠などしていなかった」と証言する。2年前の事件のきっかけとなった妊娠は、女の嘘だったのだ。愕然とする紅林に、女は全てを語る。貧しい学生だった男と恋に落ちたこと。会社に入ってから、男が変わっていったこと。自分から別れ話を持ちかけたこともあったが、そのたびに男が「愛している」といってくれたこと。男の本心を知るために、妊娠したと偽ったこと。刺されて渓流に落ちた瞬間も、男が飛び込んで助けてくれると信じていたこと。流されていく自分を見下ろす男の着ているシャツが、なぜだか重役のお嬢さんからプレゼントされたものだと分かって、そのとき、たまらなく惨めな気持ちになったこと・・・泣き崩れる女に、紅林は語る。「今の君は、戸籍かが消えているというだけでなく、心が死んでいる。昔の天真爛漫なあの子に戻ってくれ」自分が生きていたと認め、男の再審に証言することは、戸籍や名前を取り戻すと同時に、男への恨み一色に染められた人生をやり直すことにもなるのだと、真摯に説得するの紅林だった。
その後、戸籍を取り戻して取得した母子手帳を手に、九州に移送される夫を見送る女の顔には、昔のような明るい笑顔が戻っていた。今日も一人、トラックで野菜を売る女を、紅林は遠くから優しく見守るのだった。

「女の言うことを真に受けてはいけない」という教訓が心に痛い一本です。男に裏切られ、殺された被害者に見えた女が、実は妊娠したと偽って男を追い詰めていた。その一方で、女を殺したこと悔い、死刑を覚悟しているかに見えた男が、助かる可能性があると知るや、「刑事さん!助けてください!お願いします!」と無様なまでに泣き叫ぶ。どちらも一方的に善悪の判定を下せないのが、若い男女の愛憎というものなのでしょうが、それに比べて胸を打つのが、彼らを見守る老人たちの姿です。事情も聞かずに野菜の仕入れを請け負う八百屋さんも良い味を出していますが、特に印象的だったのは、女を娘同然に可愛がっていた定食屋の老夫婦です。
ドラマ中盤、紅林は女の身元を確かめるべく、この老夫婦を伴ってアパートを訪ねます。女将さんは女を見た瞬間、抱きついて涙するのですが、女は叫ぶように「人違いです」と言って眼を逸らします。そんな女の様子を見て、親父さんは「あの子じゃない。人違いだ」と断言し、強引に立ち去ります。女の新しい生活を思いやり、怒ったような顔で涙をこらえる親父さんの姿が胸に迫ります。
また、一つ考えさせられるのが、同じ行為であっても結果によって量刑が変わってしまうという現在の裁判のあり方です。量刑とは、犯罪者の行為を裁くものではなく、結果に対する責任として課されるものだとすれば、犯行へと至らしめた悪意(あるいは善意)は何によって裁かれるのでしょうか?門外漢の戯言ではありますが、近い将来、栽培員制度が現実のものになることと考え合わせて、妙に気になってしまいました。


第288話 永吉と呼ばれた19歳!

2007年02月18日 22時21分17秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 辻理

ある事件を内偵中、新宿のスナックに立ち寄った叶は、ボーイを勤める少年が、客から理不尽な扱いを受けるのを目撃する。その姿に自分の過去を重ね合わせ、「よく我慢したな」と声をかける叶に、少年は「慣れてます。それに俺、憎い相手は心の中で殺すんです」と言って笑う。過酷な現実を生き抜く少年のしたたかさに、叶は好感を抱いた。
数日後、新宿でルポライターが刺殺された。血まみれのナイフを持って歩いていた不審者が逮捕され、「すれ違い際に肩が触れたため、カッとなって刺した」と犯行を自供したものの、自分の身元については黙秘する。不審者があの時の少年だと知った叶は、本当に刺殺したのかどうか、疑問を抱く。一方、ルポライターが代議士の資金源を取材していたことを知った特命課は、事件が代議士の差し金では無いかと見て、捜査に乗り出す。「憎い相手は心の中で殺すんじゃなかったのか?」と少年を問い質す叶だが、少年は自分の犯行だと言い張り、代議士との関係も否定する。
少年の身元を洗おうとスナックを当たったものの、「永吉」という通称以外は何も分からない。新宿の飲み屋街を歩き回った末に、叶はかつて少年が勤めていたバーを突き止める。そこで少年と同棲していた少女から、叶は少年の本名とともに、彼が幼い頃に親に捨てられたことを聞かされる。両親の離婚が原因で、新宿の街で転落しつつあった少女に、少年は「俺も母親を忘れる、だからお前も両親のことは忘れろ」と言って、母親を探す手がかりとして持っていた写真を捨てたのだという。少女が拾って保管していた写真を借り受け、少年に突きつける叶。「女をだますための作り話だ」と吐き捨てる少年に、叶は自分の過去を語る。「俺は親に捨てられ、施設で育った。叶旬一という名も、施設で付けられた。それを知ったとき、俺はこの名前を捨てたかった。本当の親がつけてくれた名前があるはずだと思ったからだ。しかし、俺はそれからずっと、叶旬一のままだ」叶の言葉に心を開きかける少年だが、依然として自分の犯行だと主張する。
一方、桜井が発見したルポライターの資料から、代議士の資金源としてバーやトルコを経営する女の存在が浮かぶ。その女の苗字が少年の本名と一致したことから、「女は少年の実の母親で、ルポライター殺しの犯人なのでは?それを知った少年が、母親の罪をかぶろうとしているのでは?」と推理する叶。女に詰め寄る叶だが、女は「私に子供などいない」と頑なに否定する。「あんたはそれでも親か!」と激昂する叶を制止し、橘は女を重要参考人として連行。叶が少年を尋問するのを、マジックミラー越しに女に見せつける。
「あの女は、君のことなど知らんと言っている。もうかばうことはないだろう」そう説得する叶に、少年は言う。「叶さん、母親の姿を覚えていますか」「いや、俺は、母親の姿を見たことはない」「俺は、一つだけ覚えています。寂しそうに去っていく後姿を」「・・・」「俺も叶さんのように、何も覚えていなければよかった。そうすれば、ただ恋しくて、憎くて、そして忘れられたのに・・・」少年の言葉に、女は泣き崩れ、すべてを告白する。事件の夜、女は代議士の秘書とともにルポライターを買収しようとしたが、断られたために、秘書がその場で刺殺したのだ。秘書が素早く立ち去った後、呆然とする女を目撃した少年が、母親の犯行と思い込み、その罪をかばうべくナイフを持ち去ったのだ。少年の背にすがりつき、「ごめんね。母さんを許して」と泣き叫ぶ女に、少年は背を向けたまま、「俺は英吉です。母親はいません」と答える。慟哭する女と、背を向けたまま震える少年を、叶はじっと見詰めるのだった。

親に捨てられ、孤児院で育った叶と、同じ境遇をもつ少年との心の交流を描いた一本。言わずもがなですが、「永吉」という名は矢沢永吉から取られたもので、劇中でも矢沢永吉のものらしき音楽(すいません、この方面には疎いので曖昧です)が使用されています。
本名を捨て、「永吉」という通称で通すのは、自分を捨てた母親への憎しみの表れです。しかし、その一方で、唯一の記憶である母親の寂しい後ろ姿に対し、少年は自分の人生を投げ打ってでも守ろうとするほどの愛情を抱き続けていたのです。「俺の母さんは、あの寂しい後姿だけなんだ」ラストで語られる少年の言葉は、憎しみの対象である母親との再会を拒み、愛情の対象である後姿だけを唯一の「母親との絆」として守り続けようとする、哀しい心の叫びだったのでしょう。
粗筋だけを追えば泣ける話なのですが、名作、傑作と言われるエピソードには今一歩何かが及ばない。それが演出や少年の演技の問題なのか、それとも脚本に何かが足らないのか、明確には分かりませんが、いい題材なだけに、何かもったいない印象が残ります。なお、劇中では、母親が少年を捨てた理由や、母親と代議士の関係は語られませんが、どことなく、少年の父親が代議士であることを暗示しているように思われるのは深読みしすぎでしょうか。


第287話 リミット1.5秒!

2007年02月15日 22時09分02秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦

ある雨の夜、若い女が足の悪い男に連れ去られた。同じ頃、特命課に一人残っていた桜井の元に、女から助けを求める電話が入る。指示された場所に向かった桜井は、何者かに背後から殴られ、昏倒する。翌日、行方不明の桜井を気遣う特命課では、桜井が電話の内容を走り書きしたメモに気づく。そこには呼び出した女の名と呼び出し先が記されており、その場所を捜索したところ、桜井の血痕が残されていた。
女と桜井とのつながりを調べる特命課に、新たな事件の情報がもたらされる。足の悪い男に連れ去られそうになった老人が道路に転倒し、車に引かれて死亡したというのだ。やがて、老人が元警察の人事担当者であったことが判明。女も警察関係者ではないかと調べたところ、8年前に桜井の上司であった刑事の娘の名が、メモに残された女の名と一致した。
その頃、意識を取り戻した桜井は、手錠で拘束されたまま、足の悪い男が女を暴行するのを見せつけられていた。足の悪い男に見覚えがなく、目的がつかめない桜井だが、続いて現れた主犯格の男は、8年前に同僚だった元刑事だった。8年前、桜井と出世レースを争っていた元刑事は、ある誘拐事件を内偵中に犯人グループに拉致され、数日にわたり激しい責め苦を受けた後、救出のために現場に踏み込んできた警官を、犯人と見間違えて射殺してしまった。懲罰委員会から証言を求められた桜井は「数日間も肉体的、精神的に痛めつけられた者の心理は、当人にしか分からない」と言って証言を拒む。しかし、委員会は停職処分を決定。元刑事は「桜井が自分を陥れる証言をした」と信じ込み、警察を去った。
当時の資料から事件の全容をつかんだ神代は、「桜井の最大の弱点は、他人に対する優しさだ。犯人はその弱点をつくつもりだ」と危惧する。神代の危惧したとおり、元刑事は女の悲鳴を桜井に聞かせ続けることで、精神的に追い詰めていく。「これは裁判だ」とうそぶく元刑事に「彼女は関係ない、開放しろ」と迫る桜井。しかし、元刑事は「彼女は死んだ上司の代理だ。俺の妹も、あの事件のせいで苦労したんだ」と自分勝手に言い放つ。
ようやく元刑事の居所をつかんだ神代は、当時の懲罰委員会の資料を見せつけ、桜井を恨むのは誤解だと訴える。頭から信用しない元刑事に、神代は「8年前も今も、貴様は間違っている。拳銃を持つ者は、たとえどんな場合でも冷静さを失ってはならない」と説得する。しかし、元刑事は同行を拒んで行方をくらますと、捜査中の吉野の足を撃ち、入院した吉野のもとに桜井の居所を示したメモを届ける。吉野が姿を消したことを知った神代らは、元刑事の狙いに気づく。足を負傷した吉野を足の悪い部下と見間違わせることで、桜井に吉野を射殺させ、8年前の自分の行為が間違いではなかったと証明しようというのだ。
心身ともにボロボロの桜井に、女が拳銃を渡し「奴らから奪ってきたの、これで一緒に逃げて」と哀願する。実は女は元上司の娘ではなく、元刑事の妹だった。そうとは知らない桜井は、拳銃を手に監禁現場に踏み込んできた吉野に銃口を向ける。しかし桜井は冷静さを失っていなかった。引き金を引かない桜井に、元刑事はついに敗北を認めるのだった。

277話、279話に続いて、プロット公募をもとに長坂氏がシナリオ化した一本。粗筋からは割愛しましたが、各事件の現場に残された数字が、元刑事の警察時代のIDナンバーだったなど、あまり本筋に関係なく、かつ意図が不明な要素もあって、やや詰め込み過ぎな感のある仕上がりです。ちなみにタイトルの「1.5秒」とはドラマ中盤、神代が元刑事を説得しようとしたシーンの「貴様ほどの銃の腕があれば、あと1秒待てば、撃つ必要が無いとわかったはず。冷静さを失い、その1秒を待てなかった貴様のミスだ」という台詞と、ラストでその1秒+アルファを待つことができた桜井を意味しているのでしょうが、正直ちょっと伝わりにくいです。また、人質の女が実は共犯だったことにしたのは、視聴者に対する優しさでしょうが、あっさり敗北を認めるラストも含め、犯人に対する怒りが興ざめしてしまうのが残念なところです。


第286話 川崎から来た女!

2007年02月14日 22時08分08秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 野田幸男

幼い少女一人を残して、燃料店の家族4人が殺害される強盗事件が発生。現場に残された帽子は、近所のパチンコ店員のものだった。また、住み込みで働いていた男が姿を消しており、店員とも懇意にしていたことから、特命課は二人の犯行とみて行方を追う。
川崎にある男の実家を訪ねた紅林は、近所の子供たちとともに映った少年時代の写真を入手する。その写真で、一人だけ横を向いている少年と、それを気遣うような少女が気になった紅林は、写真の少女の行方を追う。写真を撮ったのは、当時、公害調査のために川崎を訪れていた学生であり、今は医師になっていた。医師を訪ねたところ、少年が横を向いていたのは咳き込んでいたためらしい。当時の少女の住所を聞いた紅林だが、家はすでに無かった。ドヤ街に暮らす父親のもとで少女の住所を知った紅林は、成長した女のもとを訪れる。しかし、女は写真を見ても「遠い昔のことで覚えていない」と答えるのみだった。
一方、桜井らは逃走したパチンコ店員の潜伏先を突き止め、逮捕する。尋問の結果、主犯は住み込みの男で、「知り合いの女が金に困っているから」と誘われたのだと証言するが、男の行方は知らなかった。
男が少女だけを殺さなかったことが、写真の少女と関係があるのではないかと考え、女を張り込む紅林。早朝は総菜屋、その後は夕方まで工場、さらに夕方からはスナックと、一日中働き詰めの女に、いつしか紅林は同情を寄せる。男と接触する様子もなく、見込み違いかとも思うが、他に男の立ち寄り先は無い。再び女を訪ねた紅林は、強引に部屋に上がりこむ。仏壇には幼い息子の遺影が立てられていり、亭主は行方をくらませて現在一人暮らしだという。部屋に電話はなく、外から連絡を取る手段も見当たらなかった。
一方、スナックに客として入り込んだ吉野は、女がかつてトルコで働いていたことを掴む。女の働いていたトルコを発見した紅林は、そこに男が通いつめていたことを知る。女がトルコをやめた理由を探ると、女が客を取っていた間に、喘息の発作を起して息子が死んでいたためだった。再び女の父親を訪ねた紅林に、ボケの兆候が見える父親は「近頃、娘が孫を連れて遊びに来てくれん」と愚痴をこぼす。辛い思い出の残る川崎を離れたいと思いながらも、父親を残して遠くにはいけない女の身の上を知り、これ以上追い詰めるたくないと弱気になる紅林。しかし、生き残った少女が暮らす施設を訪ね、少女が咳き込む姿を見たとき、すべてが一本の糸でつながる。
幼い頃から喘息で苦しんでいた男は、同じく咳で苦しむ少女だけを殺すことができなかった。同様に、最愛の息子を喘息で亡くした女は、同じ喘息持ちの男を見捨てることができないはず。そう考えた紅林は、「もしや、初めて女を訪れた夜から、すでに室内に男が匿われていたのでは」と気づき、女の部屋に踏み込む。そこでは、押入れの中で苦しむ男を看病する女の姿があった。必死で男を逃がそうとする女だったが、無情にも男は逮捕される。犯人を匿った罪で女を連行するに当たり、紅林はそっと息子の遺影を差し出すのだった。

川崎イコール公害というイメージや、トルコ(映像では音声カット)や燃料店など、時代を感じさせる一本です(放送は今から今から25年前の82年)。喘息持ちゆえに、どの職場でも「不健康そうな怠け者」との印象を持たれ、ほとんど友人のいなかった男。どんな事情があれど、4人を殺害した男の罪は大きいですが、公害の犠牲者にとっては、公害の発生源である企業はもとより、この国すべてが自分を追い詰めたと考えるのも無理はありません。男にとっては、同じ境遇に苦しむ女や少女を除いては、すべてが敵でしかなかったのでしょう。「私たちは同じ街で育ち、同じ工場の、同じ煙を吸って大きくなったんです」ラストシーンの女の台詞からは、公害の犠牲者同士にしか分からない絆が感じられます。そんな哀しい絆にすがる他はなく、それゆえに凶悪な罪を犯した男には、やはり同情を禁じえず、その原因となった公害に対し、改めて深い怒りを覚えるのです。



第285話 自供・檻の中の天使!

2007年02月05日 22時40分12秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 藤井邦夫

ヤクザの情婦を救わんとして、自宅に同居させていた桜井。「女を返せ」とつきまとうヤクザを黙殺する桜井だったが、ある日突然、情婦は桜井の前から姿を消した。
同じ頃、養護施設から幼い少女が誘拐され、身代金が奪われた。目撃者の証言によると、人見知りの激しいはずの少女が、笑顔で女と連れ立って歩いていたため、特命課は少女が唯一なついていた施設の女職員を取り調べる。
女は事件との関わりを否認する、その過去を調べたところ、未成年時から売春の前科があり、しかも自分の産んだ子をコインロッカーに捨て、死なせていたことが発覚。孤児院育ちの叶は激昂し「犯人はあんたの男だろう!」と詰め寄る。しかし、女は「男ってどの男ですか?たくさんいますから、調べるのは大変ですよ」と吐き捨て、否認を続ける。
女の男関係を洗い出したところ、かつて女のヒモだった元暴力団員が出所していたことがわかる。テープに残った脅迫電話の声は、その男のものだったが、女はなおも否認する。
そんななか、犯人が逃走に使ったと見られる車が焼け焦げた状態で発見され、車内から奪われた紙幣の燃えカスが発見された。「犯人の目的は金ではなく、養護施設への復讐だったのでは」と考えた桜井は、施設の園長を問い質す。しかし、身代金を提供したのは、近くの教会の神父だった。神父は捜査への協力を拒むが、桜井が神父の過去を調べたところ、女との接点が明らかになる。神父はかつて高校の教師をしており、女は当時の教え子だった。女が捨てた子供の父親は神父だったのだ。
すべてを悟り、再び神父を説得する桜井。「あんたの名誉のために子供を殺した彼女を救ってやって欲しい」「私も苦しんだが、信仰の道を選ぶことで救われた。彼女にも信仰を勧めたのだが・・・」そう語る神父に、桜井は訴える。「あの女が欲しかったのは、道を教えてくれる人じゃない、一緒に道を歩いてくれる人だったんだ。あの女を救えるのはあなたしかいない、会ってやってくれないか」
女の取り調べに臨んだ桜井は、女との面会を拒む神父を殴ってきたことを明かす。「何だかみじめだったよ、自分を殴っているみたいだった」と、自分の前から姿を消したヤクザの情婦のことを語り始める桜井。「俺は、女を助けると格好良いことを言って、離れたところから声をかけるだけだった。女は、一緒に泥まみれになって欲しかったんだ。それが分かったとき、俺は怖くなった。女は、それが分かったから、黙って姿を消した。女が家を出て行ったとき、俺はホッとしていた。汚いね・・・」そんな自分と照らし合わせるように、神父の、男のズルさを語る桜井に、女はすべてを明かす。女は身代金を焼いた後、少女を始末しようとする共犯の男を殺し、山荘の裏に埋めていた。女の供述どおり、山荘からは少女の身柄と共犯者の死体が発見され、事件は解決した。
全てが終わり、桜井が部屋を出て行った後、特命課に電話が入る。それは、桜井の元から姿を消した情婦が、ヤクザを刺殺して自殺したことを告げるものだった。

男女が互いを想う。その想いが強ければ強いほど、遂げられなかったときの苦しみも大きくなる。男はその苦しみから逃げようとし、女は黙って耐えるもの。そんな男女の機微を濃密に描いた一本です。ちなみに桜井は2話ぶりにヒゲを剃り落としています。

かつて愛する男のために子供を始末し、同じ男を苦しめるために(あるいは振り向いて欲しいがゆえに)罪も無い少女を誘拐した女。桜井のために、ヤクザを殺し、自らも死を選んだ情婦。いずれも愚かな行為ではありますが、女には、愛する男のために、それだけのことをやってのける強さがあり、男には無意識のうちに、そうした愚行を女に強いるズルさがある。そして、自分を含めた男のズルさを知り尽くしていながら、それすらも捜査に利用する桜井。自嘲気味な笑顔を浮かべる桜井を「ご苦労だった」とねぎらう神代もまた、男のズルさと、そこから逃れられない哀しさを知り尽くしているのでしょう。男女の仲とは哀しいものであり、そこから生まれる悲劇を追わねばならない刑事もまた哀しい存在である。それが本編のテーマだと考えるのは、深読みのし過ぎでしょうか?

一つ付け加えると、何気に捜査のポイントを押さえている高杉婦警にも注目です。ドラマ序盤、女が自分の子を死なせたことが判明したとき、叶をはじめ刑事たちが怒りを顕にするなかで、彼女だけは「子供に名前はあったんですか」と女に問いかけます。「どうして?」と聞き返す女に「名前もないまま死んだなんて悲し過ぎるから」と答える高杉婦警。そのときは無言だった女ですが、中盤になって我が子の名前をポツリと漏らします。終盤、神父のフルネームを聞いた高杉婦警が、子供の名前と酷似していることを指摘し、これが神父と女の過去を結びつけるきっかけとなります。どうしても男視点で語られることが多いなか、唯一の女性である高杉婦警に存在感を発揮させることで、男女の対比を際立たせる構成が見事です。

なお、余談ながら、今回と同じく塙五郎氏脚本の名作である第211話「自供・檻の中の野獣」(ゲストに小池朝雄を迎えたおやっさん主役編)とは、同じ誘拐事件を扱っているという以外には特に接点は見当たりません。とはいえ、いずれも塙氏ならではの名編ですので、特捜最前線DVDシリーズが継続された場合は、是非「塙五郎脚本名作選」として、第152話「手配107・凧を上げる女」(桜井主役編)をはじめ、第58話「緊急手配・悪女からのリクエスト!」、第84話「記憶の無い毒殺魔!」(いずれも高杉主役編)などとともに収録いただきたいものです。