特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第260話 逮捕志願!

2006年10月26日 22時23分43秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

捜査中に立ち寄った墓地で、叶は墓の前でハーモニカを吹く老人と出会った。数日後、雨の中で再会した叶が刑事だと知った老人は、「自分は殺人犯だ。逮捕してくれ」と訴えかける。所轄署に老人を連れて行く叶だが、所轄の刑事たちは、迷惑そうに老人を追い返す。
詳しく事情を聞くと、老人が犯人だと主張するのは15年前の事件で、殺されたのは老人の一人息子だった。だが、すでに連続通り魔の犯行として捜査は終了しており、犯行を自供した通り魔は刑務所で病死していた。所轄も老人の自供をもとに一応の捜査はしたものの、何の物証も無く、一人暮らしの老人が寂しさの余りに狂言したもの、と判断したのだった。
「私は、墓の前で、息子と妻に自首すると誓ったんです」そう訴える老人の言葉に真実を感じ取った叶は、神代の許可を得て捜査を始める。老人の息子は覚せい剤中毒者であり、薬が切れると嫁や孫娘にまで暴力を振るったため、見かねた老人が、当時起こっていた連続通り魔の犯行に見せかけて息子を殺害したのだと言う。罪の意識に苛まれ、何度も自首を思い立ったが、息子の死を嘆き悲しむ妻が不憫で自首できなかった。しかし、最近になって妻が亡くなり、やっと自首できたのだ。
時効があと数日に迫るなか、叶は物証を求め、老人に15年前の犯行の様子を繰り返し再現させる。しかし、凶器の包丁を埋めた土手は埋め立てられ、包丁を買った店は15年も前のことは覚えてない。ようやく「犯行現場から半月が見えた」という証言を引き出すが、調べたところ、犯行当夜は満月で、しかも老人が主張する方向には、当時二階建ての家が建っていて、月は見えないはずだった。現実とかけ離れた証言に、一時は叶すら老人の狂言ではないかと疑う。しかし、深夜に老人宅を訪れた叶は、息子に殺される悪夢にうなされる老人の姿を見る。15年もの間、罪の意識に苦しめられ続けた老人の心情を想い、叶は再び捜査を続ける。
問題の「半月」は、当時建っていた2二階建ての家の窓に満月の右半分だけが映ったもので、それは犯人でなければあり得ない偶然だと立証する叶。しかし、それだけでは物証にならない。時効前日になって、犯行現場からの逃走に使った自転車の存在に気づいた叶は、必死にその行方を追う。15年前の遺失物届けから、自転車が取得者の手に渡ったことを割り出すと、取得者が寄贈したという幼稚園へ。タイムリミットが迫るなか、ついに自転車を見つけ出した叶は、そのサドルの裏側に残された指紋を検出する。
半ば逮捕を諦め、妻と息子の眠る墓の前で、ハーモニカを吹く老人。その音色は、まだ幼かった息子を膝に乗せ、聞かせてやった曲だった。曲を吹き終え、墓に向かって深々と頭を下げる老人に近づく叶。救われたような表情で両手を差し出す老人に、叶は無言で手錠をかけた。

実に捜査の9割方は“徒労”。ドラマの大半が叶の無駄な行為を描いているという、信じがたいストーリー構成ですが、それもまた長坂脚本の真骨頂です。特に、「半月」を証明するために二階建ての家を再現するという「そこまでせんでも」感や、転々とする自転車の行方を追う際の畳み掛けるようなスピード感。そして老人が息子と過ごした日々を回想するセピア色の情景など、さすがは長坂と唸らされる一本です。なお、老人を演じたのは、多くの刑事ドラマで印象深いゲストを演じた織本順吉。今回も息子への愛情と良心の呵責に押しつぶされそうになる実直な老人を好演しています。



第259話 二人の街の天使!

2006年10月25日 22時22分54秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄

捜査中に立ち寄った本屋で、紅林は母親を待つ十歳くらいの少女を見かけた。お腹をすかせた少女のために食事を買いにいく紅林。しかし、戻ったときには、少女は母親らしき女性に手を引かれ、人込みの中に消えていった。
ちょうど同じ頃、近くのホテルで身元不明の男が殺害されていた。警察では連れの女性が犯人と見て捜査を開始する。翌日、中年の女が特命課に自首してきた。昨日の殺人を報じる新聞を見せ、「これは自分がやった」と主張する女。あっけらかんとした態度に、半信半疑で取調べを始める特命課だが、「後頭部を花瓶で殴った」と、犯人でなければ知りえないことを証言したため、本格的な捜査に取り掛かる。女は売春婦で、「客の男が金を払おうとしないので、カッとなって殺した」と言う。しかし、花瓶に残った指紋は彼女のものではなく、自宅近辺の聞き込みからアリバイも証明された。女が誰かをかばっていると睨んだ神代は、彼女を釈放し、紅林らに尾行させる。
喫茶店で誰かと待ち合わせる女を張見張る紅林たちだが、相手は現れず、女に電話がかかってくる。電話を切った女のただならぬ様子を見て、何があったか問い詰める紅林たち。真犯人は女の売春婦仲間で、幼い娘と二人暮しだという。死んだ娘の姿をその子に重ね合わせていた女は、母親が逮捕されて一人取り残されるのを見るに忍びず、身代わりを申し出たのだ。「あの子、子供を連れて死ぬつもりなんだ」と助けを乞う女。駅に急行した紅林が目にしたのは、書店で出合った少女が母親とともに電車を待つ姿だった。
「お願い、見逃してあげて!」と言う女に、船村は言う。「見逃すわけにはいかない。ただ、あの子にできるだけ辛い思いをさせないことならできる。あんたしだいだ。」船村に促され、女は一人、親子に歩み寄ると、少女にホームで待っているように言い聞かせ、船村のもとに母親を連れて行く。紅林は一人残された少女に歩み寄り、優しく抱き上げるのだった。
事件は解決したかに思えたが、なお不明なのは犯行の動機だった。少女の父親が行方不意だと知った神代は、「死体の写真を少女に見せてみろ」と指示するが、紅林はその命令を拒否する。「事実を知ってどうなるんです。仮に被害者が父親だとしたら、あの子の気持ちはどうなります。あの子に事実を知らせまいとした母親の気持ちはどうなります!」そんな紅林に「くだらん感傷はよせ!」と叱咤する桜井。「くだらんとは何だ!」と珍しく激昂して言い返す紅林。そこに割って入った船村は、被害者の似顔絵を紅林に差し出す。「俺たちの仕事は、どうしたって哀しい結果しか生まない。その哀しみを和らげてあげることしかできん。」
苦渋の表情で、女とともに食事を取っていた少女に似顔絵を見せる紅林。「お父さんだ!お父さんを見つけてくれたんですか?」と顔を輝かせる少女。女は血相を変えて、紅林を物陰に引きずりこむと「鬼!あんたは鬼だ!」と罵る。紅林は返す言葉がなかった。
こうして、事件の全貌は解明された。母親は、蒸発した亭主の借金を返すために、身を売るほかなったのだが、戻ってきた亭主に売春現場を見られ、あろうことか、「売春していることを娘に知られたくなかったら金を出せ」と脅されていたのだ。事件が解決したとはいえ、誰の心にも喜びは無かった。
数日後、母親は仕事の都合で海外に行ったと言い含め、女は少女を連れて東京を去っていく。神代も含め、全員総出で引越しを手伝う特命課。紅林は、出会ったときに彼女が欲しがっていた本を買い与える。手を振りながら去っていく少女の笑顔に、誰もが幸せな将来を祈らずにはいられなかった。

地獄のような境遇の中で育まれた中年女同士の友情を描いた切ない一本です。希望を失った二人の女にとって、望むものは少女の幸せだけであり、身代わりを拒む母親を抱きしめ「あの子は私たち二人の子供だよ。あの子の未来を二人で守っていこうよ」と言い聞かせる女の言葉が、胸に響きます。
その一方で、“哀しみしか生み出さない”刑事という仕事に向き合う、紅林、桜井、船村ら、それぞれの信念がぶつかり合うシーンは、他の刑事ドラマには出せない哀愁に満ちています。ラストシーン、去っていく少女を見つめる紅林の肩を、桜井が軽く叩く。そんなさり気ないシーンに、考え方は異なっても互いを認め合っている関係が垣間見え、せめてもの救いを感じるのでした。



第258話 ヨコハマストーリー!

2006年10月23日 22時17分27秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 天野利彦

都内のホテルで身元不明の女性が殺害された翌日、桜井はある少女に呼び出され、横浜に向かった。少女は、自分の姉が殺された女性と一緒にいるのを見たと告げ、姉を捜して欲しいと桜井に頼む。
その姉妹は、7年前に桜井が逮捕した麻薬密売グループのボスの娘だった。その頃、潜入捜査のためボスの屋敷に運転手として住み込んでいた桜井は、当時17歳だった姉から想いを寄せられ、捜査のために姉の気持ちを利用する形となった。父親が逮捕されたとき、すべてを知った姉は、桜井をナイフで刺した。苦い思いで過去を振り返る桜井に、妹は言う。「姉さんは、桜井さんのことが本当に好きだったから刺したんです。ずっと覚えていてもらうために。」
それ以降、姉はホステスとして辛い思いをしながら、妹を育ててきたのだという。最近になって、今は貿易会社を営んでいる当時の秘書に再会し、援助を受けるようになったが、姉は妹にも居所を明かさず、月に一度だけ生活費を届けに来るのだという。「姉は、桜井さんに『幸せを呼ぶ御守り』と言ってもらったウサギの足の御守りを、ずっと大切にしていました。でも、あれ以来、姉が幸せだったことなんて一度もなかった」妹の言葉が、桜井の胸に突き刺さる。
捜査が進むなか、殺された女は売春婦で、売春組織のボスの正体を知ったために殺されたことが判明。その正体が、かつての秘書ではないかと睨んだ桜井は、秘書の居所を追う。だが、秘書は売春組織のアジトである花屋で死体となって発見された。
一方、殺された女の爪の間に残された毛を調べていた船村は、それがウサギの毛だと突き止める。真相を悟った桜井は、姉の居所を突き止めるべく、妹に全てを明かした。姉が売春組織のボスで、しかも殺人を犯したことにショックを受け、呆然とする妹。
「姉は、人手に渡ってしまった家を買い戻すのが夢だと言っていました。」妹の呟きをヒントに、かつてのボスの屋敷に踏み込む桜井。果たして、そこには姉がいた。自分の正体を知った女を殺したのも、一緒に国外に逃げようという秘書を殺したのも自分だと告げる姉。「何故、秘書まで殺した」と聞く桜井に、姉は答える。「あなたとの思い出の残ったこの家を離れたくなかったから。」すがりつく姉を引き剥がすように、駆けつけた橘らに押し付ける桜井。連行される姉の姿を見て、泣き崩れる妹を抱きしめる桜井の表情は、やりきれない悲しみに満ちていた。

捜査のために他人の好意まで利用しなければならない、刑事という仕事の哀しい宿命を描いた一本です。かつて17歳だった姉の想いと、現在17歳の妹の想い。両者をうまく対比できればもっと深みが増したかとも思いますが、やや淡白に終わってしまったというのが正直な印象。それにしても、妹に向けた桜井の「君には姉さんのようになって欲しくない」という台詞は、残酷に思えてなりません。

第257話 母・・・・

2006年10月17日 01時00分23秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 辻理

紅林のもとに、かつて恐喝で逮捕した男から電話が入る。男は、紅林が5歳の頃に生き別れて以来、30年も探し続けてきた母親の居所を知っているという。半信半疑ながら呼び出された場所に向かった紅林だが、男は現れない。住所を調べ、男のもとに向かった紅林が見たものは、男の死体と、現場から逃げるように立ち去る老婦人の姿だった。
恐喝相手に殺害されたものとにらんだ特捜課は、男の残した手帳に記された名前のリストをもとに、捜査を開始した。紅林が向かったのは、ある田舎町で診療所を開く老医師だった。老医師は、紅林に自分が偽医師だと打ち明け、男に脅迫されていたこと、そして数日前から妻が行方をくらましていることを明かす。紅林は、老医師の妻が男を殺した犯人であり、そして自分の母親ではないのか、と考える。
一方、リストに残った他の名前は、いずれも高名な医学関係者だったが、恐喝された理由が分からない。やがて、彼らはいずれも戦時中に関東軍731部隊(森村誠一の「悪魔の飽食」で有名)で細菌兵器の実験に関係したいたことが判明。その中の一人、医家大学教授の助手が捜査線上に浮かび上がる。彼は教授の指示で恐喝犯と交渉していたのだが、教授が指示した以上の大金を自らかき集めていたことや、血の付いた衣服を焼き捨てていたことなどが判明。特命課は重要参考人として拘留するが、助手は犯行を否認する。
そんな矢先、紅林のもとに老医師の妻が現れ、自分が男を殺した犯人であり、紅林の母親であると告げる。「自分の母親が殺人を犯すはずがない」と思う気持ちと、「たとえ犯人でも、探し求めていた母親であって欲しい」と願う気持ち。相反する思いを抱えながら、紅林は彼女の過去を追った。30年という月日は、捜査を困難なものにしたが、紅林はついに彼女が働いていた病院を探し当てる。ようやくつかんだ真相。それは、彼女は母親ではなく、母親の同僚だというものだった。紅林と同じ年頃の息子を人手に譲り渡したため、幼い紅林を我が子のように可愛がっていたのだという。
すべてを悟った紅林は、かたくなに犯行を否認する助手に、老医師の妻を引き合わせる。「彼女は私に嘘をついていた。だが、人間には、嘘をついても許される時がある。親が子供を守るためにつく嘘だ。」助手こそが、彼女が手放した実の息子だったのだ。我が子が恐喝犯を殺すところを目撃した彼女は、身代わりになるために、紅林の母と偽って名乗り出たのだった。母の想いを知り、泣き崩れる助手。母親に抱きつく助手を遮って、紅林は言う。「甘ったれるな。お前にお母さんの気持ちが分かるのか。貴様の汚れた手で、この人に触るな。」実は、教授が731部隊に所属していたことを恐喝した男に漏らしたのは、助手の仕業だった。恐喝をうまく処理することで教授に認められ、助教授への道を開こうとしたところが、かえって自身が恐喝される破目になり、やむなく恐喝者を殺害したのだ。
事件解決後、紅林は釈放された老医師の妻を見送る。彼女は住民の嘆願によって執行猶予となり釈放された夫の元へと帰っていく。いつか、積みを償った息子とともに、田舎の診療所で働ける日を夢見ながら。

珍しくタイトルに「!」がつかない本編は、紅林の出生の秘密、生き別れの母親、731部隊など、語りどころが多いのですが、正直言って今ひとつな印象。紅林と助手、実の母親と生き別れた者同士の内面を対比するなり、老医師と妻の関係を掘り下げるなり、もう一ひねりできなかったものか、と少し残念に思います。それでも、紅林が涙をこらえて助手を諭すシーンや、ラストの紅林のモノローグなどは、思わず目をうるませずにはいられないのですが。


第256話 虫になった刑事!

2006年10月10日 22時45分41秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 藤井邦夫

金貸しの老婦人が刺殺され、その孫娘の友人である浪人生が容疑者として逮捕された。浪人生は「酔っていて覚えていねぇよ!」と言いつつも、容疑を頑なに否認する。しかし、第一発見者である孫娘は、犯行の数時間前に浪人生が老婦人を「ぶっ殺してやる!」と罵っていたことを証言し、彼が犯人だと断言する。さらに、凶器のナイフを飲み屋で見せびらかせていたこと、犯行現場のマンションから慌てて出てきたことなど、多くの証言が彼を“クロ”だと示していた。反抗的な態度を取る浪人生に特捜の面々の心証も最悪で、両親すら彼の犯行と信じきっているなかで、一人、橘だけが彼のあやふやな証言のもとに、アリバイを確かめようと捜査を続ける。
周囲の反対を押し切って、橘は浪人生に当日の記憶を取り戻させようと、現場検証に連れ出す。そんな橘にも悪態をつき、隙あらば逃走を図ろうとまでする浪人生。橘は浪人生を押さえつける吉野らを制して、「信じて欲しかったら、もうこんな真似はするな」と穏やかに諭しつつ、タバコを差し出す。一口吸うと、火のついたまま吐き捨てる浪人生。橘はそこで初めて怒る。「火をつけたまま捨てる奴があるか!拾え!」だが、浪人生は反抗的な態度をくずさない。
「アベックをナイフで脅した記憶がある。そのとき、男のボタンが外れて落ちた。」という浪人生の記憶をもとに、橘はアベックの存在を確かめるべく、その場に落ちたボタンを探す。アベックが出没する近所の公園を、夜の闇の中、一人“虫のように”地面を這い回り、ボタンを探す橘。そんな姿を見かねた吉野たちが、橘を止める。「どうせ苦し紛れにウソを言っているだけです。なんだって、あんな奴の言うことを信じるんです?」「俺だって、あんな甘ったれたガキは大っ嫌いだよ。」「だったらなぜ?」「吉野、お前、自分の好きな人間の言うことなら、信用するのか?」たとえ嫌いな相手だろうと、その証言が真実かどうかを確かめるのが刑事の仕事・・・橘の刑事としての信念に、言葉を失う吉野たち。やがて橘とともに、夜の公園をボタンを探し求めて這い回る。
結局、朝まで探してもボタンは見つからない。しかし、橘はなおも諦めず、今度は浪人生が飲み歩いていたという飲み屋街を探し回る。「もしかしたら・・・」とドブに手を突っ込んで探し回る橘。吉野たちも後に続き、背広姿のまま飲み屋街じゅうのドブをさらって回る。異様な光景に通りすがりの人々が訝しげな視線を送るなか、ついにボタンが見つかった。
ボタンをもとに、アベックを探し出した橘だが、それだけでは浪人生のアリバイを証明したことにはならなかった。しかし、橘はある可能性に気づく。浪人生は、確かに犯行現場近くでナイフを持っていた。もし彼が犯人でないとすれば、凶器に使われたナイフと、彼が持っていたナイフは別物では?アベックの証言をもとに、浪人生の足取りを追った橘は、付近に舗装したばかりの道路を発見。「掘り返すんだ!」半信半疑ながらも、橘の指示通りアスファルトを掘り起こした吉野たちは、そこにナイフを発見した。
その間、別方面から捜査を進めていた桜井たちの手で、浪人生の目撃者の一人が真犯人であることが突き止められた。釈放される浪人生だが、感謝の言葉はなく、かえって橘に毒づく。車で立ち去る橘たちは、吐き捨てたタバコの火を消し、吸殻を拾う浪人生をバックミラーごしに見ながら、わずかに笑みを浮かべるのだった。

非常に込み入ったストーリーのため、思い切って切り詰めた粗筋だけでこの長さになってしまいましたが、これも本作のメインライターである天才脚本家・長坂秀佳ならではと言えるでしょう。ストーリーの複雑さだけでなく、夜の公園を這い回るシーン、さらに背広姿でのドブさらいシーンと、“何もそこまで・・・”というシーンが印象的な、いかにも特捜、いかにも長坂といった一本です。
特にラストシーン。浪人生に心を開かせて、安易なお涙頂戴なラストにはしない。しかし、それでもわずかにつながった気持ちを、吸殻を拾うというさりげない芝居で見せる。夜の公園での橘の台詞とともに、忘れられない余韻を残す一本でした。



袋小路の特捜最前線日記

2006年10月09日 22時43分40秒 | Weblog
「愛と死と憎悪が渦巻くメカニカルタウン。非情の犯罪捜査に挑む、心優しき戦士たち。彼ら、特捜最前線」ある世代の方々にとって、生涯忘れることのできないであろうこのナレーションで始まる刑事ドラマの傑作、それが特捜最前線です。
私が愛してやまないこのドラマがこの11月、待望のDVD-BOX化されます。これを機に、特捜最前線について語ってみたいとの思いにかられ、知人の勧めもあって、こうした場を設けさせていただきました。特捜最前線を愛する方はもちろん、聞いたことはあるが見たことはないという方も、お付き合いただければ幸いです。

では、まずは、このドラマの主役である“心優しき戦士たち”を紹介しましょう。
沈着冷静なナイスミドル、二谷英明演じる神代(かみしろ)課長。
人情派の叩き上げ、大滝秀治演じる“おやっさん”こと船村刑事。
ハードボイルドな野生派、仮面ライダー1号こと藤岡弘(今は藤岡弘、)演じる桜井刑事。
泥臭く粘り強い捜査が売り物の重鎮、本郷巧次郎演じる橘刑事。
体育会系の熱血派、アカレンジャーこと誠直也演じる吉野刑事。
真面目で不器用な温厚派、現在は衆議院議員の横光克彦演じる紅林刑事。
孤児院出身で陰のあるクールガイ、スカイゼルこと夏夕介演じる叶刑事。
この中核メンバー7人以外にも、初期には庶民派のコメディレリーフ兼泣かせ役の西田敏行演じる高杉刑事(のちに転属)、仮面ライダーストロンガーこと荒木しげる演じる津上刑事(のちに殉職)が、そして中期には、刑事くんこと桜木健一演じる滝刑事(のちに退職)が、さらに末期には、光速エスパーこと三ツ木清隆演じる犬養刑事、必殺渡し人の大吉こと渡辺篤演じる時田刑事、若手の阿部祐二演じる杉刑事と、6名の刑事がレギュラーメンバーとして参加しています。

「特捜最前線」というドラマの魅力を理解するには、他の著名な刑事ドラマとの比較が有効だと思います。「特捜」を含めて“刑事ドラマ四天王”といわれる「太陽にほえろ!」「Gメン75」「西部警察」(世代によっては、「あぶない刑事」「はぐれ刑事純情派」を加える場合もありますが)を例にとって考えてみましょう。

たとえば「太陽にほえろ!」では、若手刑事が犯罪捜査を通じて成長していく姿がドラマの軸となっており、刑事ドラマであると同時に青春ドラマだと言えると思います。
「Gメン75」では、刑事たちの心理よりも、むしろ事件の推移や背景となった社会情勢(政界汚職やベトナム戦争、基地問題など)そのものがドラマの主軸であり、刑事ドラマであると同時に犯罪ドラマだと言えるでしょう。(なお、有名な香港編がスタートした後期以降はだいぶ印象が変わっています)
「西部警察」は、カーアクションや銃撃戦、大掛かりな爆破などが見所であり、刑事ドラマであると同時にアクションドラマだと言えます。
そして我らが「特捜最前線」は、犯罪者たちの歩んできた人生、そして捜査を通じてそこに重ね合わせられる刑事の人生を描いており、刑事ドラマであると同時に人間ドラマであると言いたいのです。
先に、このドラマの主役、と言いましたが、実際の主役は彼ら刑事たちではなく、毎回登場する犯罪者たちと言えるかもしれません。犯罪者たちが心ならずも手を汚すに至った経緯、それこそがドラマの核であり、そこを緻密に描き出した脚本と演出こそが、特捜最前線を傑作たらしめている最大の理由ではないでしょうか。

もう一つ、分かりやすい例として、昔ホイチョイプロの本で読んだと記憶している、各ドラマの特徴を示す典型的なシーンがあります。
やむにやまれぬ事情から犯罪者となった者が、刑事たちの捜査によって追い詰められる。刑事ドラマにはありがちなシーンですが、上記のドラマでは、それぞれどのような展開を見せるでしょうか?
「太陽にほえろ!」であれば、若手刑事が絶叫とともに犯人を殴り倒し、手錠を掛けるでしょう。「Gメン75」であれば、犯人同士の仲間割れよって射殺され、刑事たちはやりきれない顔で犯人の死体を見下ろすでしょう。「西部警察」であれば、団長が躊躇なくショットガンで射殺するでしょう。そして「特捜最前線」では、各話の主役刑事が暑苦しくも悲痛な顔で説得し、犯人を自首へと導くはずです。
好き嫌いは別として、こうした固有のカラーが各ドラマの売りであり、それぞれの番組が強烈な個性をもっているからこそ、今なお多くの者の心を捉えて離さないのだと思います。

十代の私は、「太陽」の熱心な視聴者でした。二十代の私は、「Gメン」のクールさに惹かれました。その頃の私にとって、「特捜」は地味な番組でしたかなったというのが正直な感想でした。(ちなみに、西部警察はあまり評価してません。)しかし、三十代になって、「ファミリー劇場」で第1話から「特捜」を見る機会を得たとき、私はこのドラマ世界にのめり込むようになり、以来、ほとんど欠かさずに視聴を続けてきました。それは、三十を越えて、初めて「特捜」の描いた人生の機微が、少しは理解できるようになったからでしょうか。

今回のDVD化に伴って、CS「ファミリー劇場」での放送が、毎週二話ずつに拡大されることになり、刑事ドラマや時代劇、特撮、アニメ等を週に三十時間近く録画視聴する私にとっては、正直言って癒し痒しです。とはいえ、この機会を逃すわけにもいきませんので、何とか追いかけていきたいと思います。また、見たそばから忘れてしまうことの無いように、これから毎週視聴するたびに、ストーリーと、ちょっとした感想を記録にとどめたいと思います。他人に見てもらうというよりも、自分の記憶にとどめるための覚え書きのようなものですが、どなたかの視聴の参考にでもなれば嬉しいな、と思います。