リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

医療現場からのSOS

2006年08月14日 | Weblog
 Mind the Gap!はロンドンのtubeとよばれる地下鉄の駅での放送である。

「プラットホームと列車の間の隙間に注意してください」という程度の意味だが、「医療現場と地域社会とのギャップに注目!」という意味でこのブログにつけた。もともと、ロンドンに留学していた大学の先輩がイギリスでの生活についてレポートしていたホームページのタイトルだったものを拝借した。(いまはタンザニアに行ってしまったようだが元気にしているのだろうか。)

 当初は病院から地域での生活の場を橋渡しするリハビリテーションのことを中心の話題にするつもりでサブタイトルは「地域が変わるリハ」だったのだが、医療費抑制と安全への要求の増大に伴う医療崩壊の危機、現場と市民との感覚のギャップをヒシヒシと感じるにあたりキャンペーンとして「医療福祉現場からのSOS」としばらく変更することにした。産経新聞の特集記事みたいだな。


実際、冗談ではなくまわりの医師はみんな疲れているように見える。
特に生死を扱う科の医師は。
産科や小児科はご他聞にもれず、当院でもギリギリの状態。
「いちど崩壊したほうがいい。死人がたくさんでないと国は動かない。」というのは当地域で、ぎりぎりまで頑張りながら専門医療を担う医師の意見。

病院内のグループウェアの掲示板で、当直の体勢のあり方やカルテやオーだリングシステムの使いづらさなどについてしばしば議論が起きる。
だれか何とかしてくれという悲鳴にも聞こえる。しかし患者を人質に取られ奴隷労働に服している医師には身動きがとれない。
病院の方針を決定をする人たちの顔は見えず、現場は悲鳴、不満を言うだけで他力本願。困窮の声がトップに伝わらず、現場もそのうちあきらめてしまう。

そして中堅で活躍していた医師が1人、また1人と病院を次々と去る現実。
これが例の立ち去り型サボタージュか。
他院での内科医集団辞職の噂も、さもありなんと思えてくる。

初期研修まで終えた医師が臨床で医師を続けないのも珍しい選択肢ではなくなっている。もったいないが賢い選択かもしれないと思う。
生死にかかわるしんどい科を選ばない傾向は加速している。
多くの研修医は産婦人科などを選ぶのは自殺行為だと考えている。

患者の安全要求が高まり、病院も訴訟を多く抱えている。
システムの不備が目に付く。
いつミスをおこしても不思議ではない。

訴訟は勝っても負けても医師を疲弊させ病院で医師を続けるのをやめようと思うのに十分なインパクトを持っている。

まさに「医療崩壊」そのままのことが当院でも起こっている。

医師は団結たり声は上げるような下品なまねはしない。
ただひとり静かに立ち去るのみ。
そして、また1人の医師が辞めていく。

魅力のなくなった病院、医療現場に戻ってくることはないだろう。

そんな状況が続いているにもかかわらず、何か問題があっても新たな委員会が一つ増え、通達があり、アリバイ書類がひとつ増えるだけの現状。
あるいは何の決定権も持たない会議で一度話されて終わり。
研修医の見逃しや、当直で入院させた患者の対応、過労へ対応などといった本質的なところは解決を先送りしたままで病院の構造的欠陥やシステムにメスが入れられることはなかった。
医療の未来、病院のビジョンやリーダーシップがみえず、現場の士気が下がり始めている。ルールづくりのルールが定まっておらず、混乱をきわめた無法地帯。
院内の情報伝達やコミュニケーションの不備。責任の押し付け合いなど病院はいまや組織病理の典型例だ。

こういったことをグループウェアの掲示板上で指摘した。
だが、反響はあまりなく冷ややかなものであった。

ある人から「あまり書きすぎるとひかれるよ、逆効果だよ」と指摘された。

また別の人からは「いいことをいっていても、病院内だけで訴えていてもダメだよ、地域に出て行って訴え、みんなでやらなくては。」とも指摘された。

システム論的に俯瞰してみると、医療崩壊そして地域崩壊はどうやら病院内だけの問題ではないようだ。あらゆるチャンスをつかって、いろんなところに訴え、考えを深めていかなくてはならないことだと思った。
それが、こっそりとこのブログをはじめた理由のひとつでもある。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
医療崩壊、加速中のようです (/ーヽ)
2006-08-20 06:30:59
507 :卵の名無し :2006/08/17(木) 21:41:43 ID:HH1SUG7C0

2ちゃんねるに書くようなことでは無いかもしれないが、匿名なので

昨日、死産に当たった。(福○県内ではないが)

警察に届けるか迷ったが、一応、届けた。

結果は、「業務上過失致死の疑い」となった。正当な医療行為の上でのこと

と思ったので、「医療上の適応、根拠」を自分なりに説明した。

しかし、警察は「自分たちは、医学のことはわかりませんが。被害者と加害者があることだけは確か

なので・・・」とのことだった。

20年以上、産婦人科医をやっていたが、これでやめる決断がついた。明日、辞表出します。

しばらくゆっり考えます。もしも逮捕されなかったとしても産婦人科はやめることになるでしょう。

日本の産科医療は、いや医療は、もうダメだと痛感した。
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なぜ犯罪者? (Unknown)
2006-10-30 01:40:27
医学のことがわからない検察がなぜ入り込み、医者を犯罪者にするのか?

医療行為とは人の体を傷つける。それがすべて傷害罪なのでしょうか?

医学に絶対はないはずなのに、絶対を求め、それが成り立たない場合は犯罪者になってしまう。

生命を左右するかに所属する医者がどんどんいなくなってしまうことに国も国民も気づいていない。
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Unknown (といぴ)
2006-11-02 12:47:20
犯罪的なことがなされないわけではありません。
(古くは富士見病院事件など。)
医療犯罪と医療過誤、不可避なもの、システムの問題によるものを分ける必要があります。
これらがごっちゃにされているところが問題なのでしょうね。
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