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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

認知症治療に精神科医は関わるべきではない?

2013年02月09日 | Weblog
高齢者医療に熱心に取り組まれている老健の医師の書いたブログがありました。
EBMを日本に広めたことで名高い名郷直樹先生が最近書かれた認知症治療薬の効果に疑問を呈した総説にたいする意見のようです。

寮隆吉のBLOG よき高齢者医療のために 補遺 認知症治療薬の効果―名郷直樹先生の総説論文

曰く、
『「認知症診断にも、認知症介護にもほとんど関わらない精神科医が、認知症をみると、向精神薬ばかりを投与して、時に廃人のような人間を作り出す。認知症治療に精神科医は関わるべきではない。』
とのご意見のようです。

こういう意見は多いです。
いつの時代も精神医療は悪者です。
たしかにそういう精神科医もいるでしょうがこれまた過度の一般化ですね。

うちの近くの特養化した老健では医療費が包括払いのためもあるのでしょうが、高価な認知症治療薬は収益が下がると嫌われておりバッサリ来られてしまいます。薬も多すぎる、高すぎる、意味がわからないと文句を言われたりします。
もちろん、おちついているのなら、薬を減らしていくのはいいと思いますが、うつの方に出していた抗うつ薬もバサバサ、切られてうつ転して戻ってきたりします。
そして、もとの性格から対応が難しかったりして集団生活に少し適応できない方がいるとなると精神科に丸投げしてきたりするのでなんだかなぁと感じてしまうわけです。

結局、科にかかわらず目の前の人にどこまで覚悟をもって丁寧に関わり続けられるかという事だと思います。

認知症はいろいろなことが出来なくなっていく老化に加えて、アンバランスな解体(老化)が苦しいわけです。
そしてその苦しさを表現する方法をBPSD以外に持っていません。
そのバランスをとるために賦活系の薬も鎮静系の薬お薬も使い、タイミングよく必要な支援をめいいっぱいするわけです。杖や補聴器、老眼鏡と同じ。症状に寄り添う形でいろいろ調整すること自体が治療的です。
緩和ケアのようなイメージ、またBPSDと薬を言葉に会話しているようなイメージもありますね。

さまざまな薬剤や社会資源を活用しながら、付き合いつづけていくことは知的発達障害や、統合失調症や、躁うつ病などの精神病、依存症、パーソナリティ障害の方に鍛えられた精神科は得意だと思います。

認知症が進行すると時間の感覚や昼夜のリズムも失われてきますからディなどの日中の活動の場とともに夜に寄せる形て鎮静がかかる薬も併用してリズムをつけます。

最近の認知症治療薬には自然経過を多少就職するだけの明確な手応えはあります。
認知症治療薬の治験も安曇総合病院でもいくつもやって来ましたが、治験への参加へ基準や結果の判定、交絡因子の除外があまりに大雑把で(診断でくくる限り、このような形しかないのでしょうが)、数百というエントリー数で優位な結果は難しそうに思えます。
降圧薬で血圧を下げたらどうなるか、臓器障害がどうなるかなどのアウトカムとことなり効果はすぐに目に見えますが、精神に対する薬の効果というのは長いスパンでQOLがどうであったかとうことですから一言で語るのは難しい。
複雑系に対する介入で個別性が非常に強く、効きそうな人にだしたら効いたという、漢方薬に近いですね。治験のやり方も工夫の余地たりと思います。
そして最適な量は人によります。量を間違えば逆効果になります。あわないメガネを掛けるようなものですから・・。

だからアリセプトもメマリーも用量用法に適宜増減の言葉が欲しくさじ加減を堂々と許してほしい。
アリセプトも5mgつかうとパーキンソン症状がでて身体が傾いたり(レビー小体型認知症でした。)、メマリーも添付文書の通り5mgずつ1週間毎に20mgまで増やしていくと、10mgを超えたあたりでめまいやフラつき、鎮静がでることをしばしば経験します。
人によって体格も腎機能も、肝機能も、代謝も脳の過敏性もことなるのに診断名だけで用量がひとつに決まるわけがありません。
安くて効果のある抑肝散にも使いやすい錠剤や液剤の剤型が欲しい。多額のコストがかかる治験をやり直さなくても効果の明らかな抑肝散に使いやすい剤型がでればどれだけの人が助かることか・・。
抗精神病薬も生命予後のリスクは下げるという危険性はありますが、で緊急避難として堂々と使えるようにしてほしい。
ある程度進行し混乱期に入った認知症の方に投与していた中核症状の進行を遅らせる薬を中止しても避難しないような雰囲気になってほしい。
医師の勤めは生命予後とQOLの積分値の最大化であり、どんな薬もリスクはあって悩みながら使っているのですから。

もっとも当事者や介護者を一人にせず一緒に悩み考えてくれている人、特に専門職がいるということが一番大切です。
介護者が心穏やかに過ごせると、本人も穏やかに過ごせるようになります。

ただ今使える認知症治療薬を1日最大量使うとアリセプト10mg(636円)、メマリー20mg(427円)、合わせて1000円超えますから、不十分な効果を考えるとこれはちょっと高すぎると思います。QALYや介護負担を計算した研究もあるようではありますが・・。
お互いに穏やかに暮らせるのなら月に約3万円を介護者や介護職が自由に使えるというオプションもあってもいいと思う。(難しそうですが)

認知症に関わること全てに関してどこにお金と時間を使うかというバランスが課題です。
商業化、産業化された医療産業に対し、製薬会社の言いなりにならず、有限な医療福祉資源をトリアージすべき医師が目の前の当事者や介護者の幸福を最大化すべく、どう対峙すべきかとうことが問われているのだとおもいます。

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1 コメント

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Unknown (ののの)
2013-02-19 21:31:16
はじめまして.
認知症者の在宅支援を勉強しているOTです
“当事者や介護者を一人にせずが一緒に悩み考えてくれている人、特に専門職がいるということが一番大切です”
この一言に尽きますね
当事者とその介護者の問題を,適切に抽出して,それらを対処していくことが,地道ではありますが,安心して暮らせることにつながっていくのだと思いました
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