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精神科医師のブログ。
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医療におけるシステム論的アプローチ

2006年06月21日 | Weblog
「救急とはシステムである」とは大学時代の救急の先生の強調するところであったが、リハビリテーションに関しても、「障害者対応のチーム医療システム」という定義する人もいる。これらに限らず医療自体もまたひとつのシステムであるといえよう。このように医療を技術としての側面でとらえるのではなく社会装置としてとらえる考え方も盛んになってきている。大学にも医療システム学講座(九州大学など)といった講座も生まれ、医療マネジメント学会や病院学会などでは医療システム論の研究やそれを実践に活かす試みが盛んであるし、いまさらそんなことをいうまでもなくPublic HealthやHealth Policyなどでは医療をシステムとしてとらえてきた。
 システムという概念の捉え方には様々あり、適切な訳語はなく、その概念の捉え方次第で大きく意味が異なってくる。しかし構造的な問題を解決するにはさまざまな部分がからみあった全体をシステムとしてとらえるシステム論的アプローチが欠かせないことは確かである。部分最適化を積み上げるQC(Quality Control)的な帰納的手法を重ねていっても全体最適化が果たせるとは限らない。(医療の現場の例でいえば医療機関が黒字経営となっても病人が多く健康保険がパンクしては意味がない。さまざまな検査を行い診断を付け治療をおこなうアプローチが患者の幸福につながらないこともある。医療ミスを個人の努力の責任にして注意を促すだけで、その背後要因、構造には目を向けず根本的な解決を先送りすることで何度も同じ過ちを繰り返してしまうなど。)
 システム論的アプローチでは、たとえば何か問題があったときに、個人の責任に帰するのではなく、問題があるのはシステムでたとえ人が変わっても、構造が同じなら同じ問題が起こる」と考える。つまり「人を責めるのではなく、システムの欠落や欠陥を見出し、もっとも有効に介入が効くツボを探して、そこに働きかける。」方法論である。
 この考え方は臨床場面でも有効である。人間をシステムとしてとらえる、いわゆる総合診療や東洋医学やホリスティックなどもシステム論的アプローチであるとといえる。また、どんな疾病も遺伝的要因に環境要因が加わって起こるものであるから、ある遺伝的素因を持った人を、ある環境におけば、ある確率で必ずある疾患が発症するものだと考えると、喫煙や生活習慣の例をあげるまでもなく行動科学や公衆衛生、健康政策の介入はシステム論的アプローチそのものである。医療政策を考える際に、限られた医療資源や社会資源をいかに有効に活用するかというような問題を考える際にもシステム論的アプローチは欠かせない。
 このように、日常の臨床にもシステム論的アプローチが有効であるし、組織の再構築や構造改革にも欠かせない考え方であるといえよう。でも学校でも現場でもあまり体系だって教わることはなかったなぁ。