リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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市民と医療者のギャップを埋める。

2006年06月20日 | Weblog
 うちの病院は診療所をそのまま大きくしていくとこんな病院になるんじゃないかというような病院だ。田舎に唯一の大病院だから病院として患者のより好みはできず、とりあえずどんな患者でも診なくてはいけない点も診療所的だ。救急患者は断ることは無いし、超一流ではないにしろ一通りの専門家は取り揃えている。標準以上のレベルのことはやろうと努力はしているのだと思う。

 また、病院の出口から先では、障害や病をかかえて生きる人(高齢者なんかはみんなそうだ)が最後まで地域で生き抜くことができるように在宅部門をつくったり福祉に手をだしたりしてなんとかしようとしてきた。病院という場所はまさに「よろず相談所」であり地域の弱者のニーズがこれでもかというくらい見えてくる場所でもある。それを住民に還元し、よりよい地域づくり運動につなげることも病院の役割だと考え、病院の職員はみんな交代で地域に出て行った。そして病院祭など、さまざまな機会をとらえ医療の、地域社会の抱える問題点を住民と共有し一緒に考えようとしてきた。(日々の診療の態度でもそうだ。しかし直接は政治にかかわろうとしなかったのが当院のえらいところだと思う。)

 しかし「農民とともに」といいつつ、あまりにも保健から医療、福祉にいたるまで全部病院が取り仕切ってやってきてしまったため、逆に住民や行政は、なんでも病院にお任せの状態になってしまい逆にスポイルされてきてはいないだろうか? 医療者側は「知らしむべからず依らしむべし」という態度になり、市民は健康や生死に関しては病院にお任せという態度になってきている。医療者と市民のギャップがどんどん広がってきているように思われるのだ。

 病院においては巨大化、専門化し機能分化がすすむにつれ、地域に出る部門(地域ケア科や健康管理部)と、出ない部門に分かれてしまい、地域にでない部門の人は地域のニーズや自分たちの仕事のアウトカムを感じる貴重な機会を失ってしまった。地域に出ている部門が、これらを院内にフィードバックするのが不十分なこともあるのだろう。企業でいえば一番重要なマーケッティング部門とアフターサービス部門をアウトソーシングしてしまったようなものだ。そのため、やっていることが本当に住民や患者のニーズなのか、デザイア(わがまま)なのか、それともただ自分たちがやりたいだけなのかということが見えなくなっているのだと思う。特に忙しすぎて地域社会との接点の乏しい専門科の医師はそうだろう。

 ではどうすればよいのか?これは病院の側、患者、住民の両方が考えるべき問題である。患者や住民は医療への要求を高くして(わがままではなくて)思いを伝えるべきだし、医療者側は医療の現状や限界、あるいは有効な活用法を住民にわかってもらうおうとしなければならない。そして、どんな医療を地域でそだてていくのかをみんなで考え、ギャップを埋めていかなくてはいけない。

 いまこの病院に足りないのは、まさにそのような場であろう。病院患者図書館、あるいは情報センターのような場を育て、市民と医療者が歩み寄り医療を、地域をよくしていく運動につなげていく必要がある。できれば行政も一緒に。