2020年のマーカー調べ
高槻成紀
私が2016年くらいに津田塾大学でタヌキの調査を始めた頃、棚橋早苗さんが興味を持って「タヌキってどのくらい動くんですか」と聞いてきました。行動圏を調べるのは今では電波発信機というのが定石になっていますが、捕獲して機械を取り付けるのはかわいそうなので、ひと工夫しました。それは餌の中にプラスチックマーカーを潜ませて、タヌキのためふん場で回収するという方法です。タヌキは「ためふん」といってトイレを持っていますから、そこにいけば確実に糞が拾えます。餌の中に入れるマーカーの色や番号を決めておいて場所を特定すれば、そこからの距離がわかります。豊口さんの協力も得て、津田塾大学のタヌキはキャンパス内をかなり広く動き回っていることがわかりました。
その後、タヌキが都市で生き延びるのはたいへんなことだなと思うようになり、私自身は町田市と相模原市で野生動物の交通事故を調べた経験があり、たくさんのタヌキが交通事故の犠牲になることを知りました。小平でも同じことは起きているかもしれないと思い、市役所に聞いてみましたが、そういう記録は取っていないということでした。ただ、交通事故が起きているのは確かなようです。
そこでその証拠を取るためにマーカーを使えないかと思いました。津田塾大学の前には府中街道が走っていて、かなりの交通量があります。タヌキはここを横切っている可能性があります。府中街道をはさんだ雑木林にもタヌキはいそうな雰囲気で、探したらためふん場が見つかりました。そこで津田塾大学の外の玉川上水などにも餌を置いてみることにしました。
しかしその餌はあまり食べられず、食べられてもマーカーが回収されることはほとんどありませんでした。それでもごく少数ですが回収され、府中街道を横切っている証拠を取ることができました。
今回はその再挑戦として2020年2月17日に棚橋さんと豊口さんがマーカー入りの餌を置きました。今回は玉川上水の生き物を映像記録している水本さんも参加してくれました。
マーカーをソーセージに入れる棚橋さん(右)と撮影する水本さん
餌を木の根元に置く
地図は以下の通りで、玉川上水の脇に新堀用水があり、府中街道が南北に走っています。津田塾大学はその東にあり、餌は7カ所に置きました。
2月19日に豊口さんがチェックしたら2カ所ではすべて食べられていたそうです。ただすべてがタヌキに食べられるとは限らず、この辺りにはネコもいてカメラを置くと写ります。それにタヌキはいくつかのためふん場を持っているので、必ずしも津田塾大に「裏口入学」してくれるわけではありません。
2月24日に日程調整をし、大学にも入構許可をいただいて、棚橋さん、豊口さん、関野先生、水本さん、高槻の5人でチェックすることにしました。
津田塾大学の一番南にセンサーカメラをおいているのではじめにそれをチェックしに行きました。人が歩くショットが多かったのですが、タヌキが塀をくぐって入るところもちゃんと写っていました。
センサーカメラをチェックする
キャンパス内にはためふん場は3カ所を確認していますが、ためふん2にはなく、ためふん1にはまずまずの量があったので、確保しました。
私が糞を拾っている時に、豊口さんの目が変わりました。何かを見つけたようです。豊口さんの手の先にはなんと1年前のマーカーがありました。
「よく見つけたね」
「よかったよかった」
「青の165番だ」
で、これは去年の4月にこの場所のすぐ南の玉川上水脇に置いたものでした。
ためふん1で見つかった青の165
それからためふん3に行きました。ここは最近、よく使われているところです。行くと十分な量がありました。
ためふん3を見る
私は常備している「タヌキの糞回収キット」つまり割り箸を取り出してポリ袋に入れました。
タヌキの糞を回収する
ふと見るとセンダンの種子がありました。新発見というわけではありませんが、珍しいといってよいと思います。タヌキが食べる種子としては大きめの方です。他にもカキノキとギンナンがありました。
センダンの種子
「<栴檀は双葉より芳し>って知ってる?」
「いや」
「そうか、知らないんだ。<トウが立つ>は?」
「それはなんとなく」
「うら若い女子学生に聞いて知らなかったので、説明するのがビミョーだったことがある」
(笑)
「センダンはね、大きくきれいな薄紫の花を咲かせ、葉っぱは良い香りがするので、名木とされているのね」
「へえ」
「その双葉、種子から生えた芽生えでも - 当たり前だけど - いい香りがするわけだ。だから立派な人になる人は子供の時からちょっと違うというわけだ」
「なあるほど」
などと雑談をしていると、棚橋さんがオレンジ色マーカーを見つけました。
見つかったオレンジの131番
そうしていたら豊口さんもまた見つけ、しかも3枚でした。マーカーはオレンジの131、青の137, 138, 147でした。
ためふん3で見つかった4枚のマーカー
作業は終わったので、今後のことを少し相談したいと思いました。祝日なので食堂は空いていませんでしたが、テラスにテーブルがあったので、そこで話すことにしました。
津田塾大学の食堂のテラスで
そこで解散としました。私は玉川上水で花の観察をすることにしましたが、棚橋さんと豊口さんは拾った糞を水洗してマーカーチェックをしたそうです。結構の量があったので、大変だったと思います。前の時は全く見つからず、ずっと時間が経ってから偶然見つかるような頻度でしかなかったので、あまり期待はしていなかったのですが、なんと1枚見つかったとのことで、棚橋さんから嬉しそうな連絡がありました。
タヌキの糞を水洗する
マーカー発見!
回収されたマーカー
まとめると
タメフン1
青165(2019.4津田塾大南の玉川上水。果実に入れた)
タメフン3
オレンジ131(2018.12/30津田塾大構内。ソーセージに入れた)
青147、青137、青138 (2018.12/30津田塾大南の玉川上水。ソーセージに入れた)
179緑(2020.2/17津田塾大南の新堀用水2つめの橋。ソーセージに入れた)
だから、残念ながらこれらは府中街道を横切った証拠にはなりませんでした。
1週間ほど経ったらまた回収することにしました。
++++++++++
高槻成紀(生態学者、麻布大学いのちの博物館)
関野吉晴(探検家、医師、文化人類学者)
水本博之(映画監督)
豊口信行(NPO自然環境アカデミー職員)
棚橋早苗(武蔵野美術大学非常勤講師、デザイナー)
高槻成紀
私が2016年くらいに津田塾大学でタヌキの調査を始めた頃、棚橋早苗さんが興味を持って「タヌキってどのくらい動くんですか」と聞いてきました。行動圏を調べるのは今では電波発信機というのが定石になっていますが、捕獲して機械を取り付けるのはかわいそうなので、ひと工夫しました。それは餌の中にプラスチックマーカーを潜ませて、タヌキのためふん場で回収するという方法です。タヌキは「ためふん」といってトイレを持っていますから、そこにいけば確実に糞が拾えます。餌の中に入れるマーカーの色や番号を決めておいて場所を特定すれば、そこからの距離がわかります。豊口さんの協力も得て、津田塾大学のタヌキはキャンパス内をかなり広く動き回っていることがわかりました。
その後、タヌキが都市で生き延びるのはたいへんなことだなと思うようになり、私自身は町田市と相模原市で野生動物の交通事故を調べた経験があり、たくさんのタヌキが交通事故の犠牲になることを知りました。小平でも同じことは起きているかもしれないと思い、市役所に聞いてみましたが、そういう記録は取っていないということでした。ただ、交通事故が起きているのは確かなようです。
そこでその証拠を取るためにマーカーを使えないかと思いました。津田塾大学の前には府中街道が走っていて、かなりの交通量があります。タヌキはここを横切っている可能性があります。府中街道をはさんだ雑木林にもタヌキはいそうな雰囲気で、探したらためふん場が見つかりました。そこで津田塾大学の外の玉川上水などにも餌を置いてみることにしました。
しかしその餌はあまり食べられず、食べられてもマーカーが回収されることはほとんどありませんでした。それでもごく少数ですが回収され、府中街道を横切っている証拠を取ることができました。
今回はその再挑戦として2020年2月17日に棚橋さんと豊口さんがマーカー入りの餌を置きました。今回は玉川上水の生き物を映像記録している水本さんも参加してくれました。
マーカーをソーセージに入れる棚橋さん(右)と撮影する水本さん
餌を木の根元に置く
地図は以下の通りで、玉川上水の脇に新堀用水があり、府中街道が南北に走っています。津田塾大学はその東にあり、餌は7カ所に置きました。
2月19日に豊口さんがチェックしたら2カ所ではすべて食べられていたそうです。ただすべてがタヌキに食べられるとは限らず、この辺りにはネコもいてカメラを置くと写ります。それにタヌキはいくつかのためふん場を持っているので、必ずしも津田塾大に「裏口入学」してくれるわけではありません。
2月24日に日程調整をし、大学にも入構許可をいただいて、棚橋さん、豊口さん、関野先生、水本さん、高槻の5人でチェックすることにしました。
津田塾大学の一番南にセンサーカメラをおいているのではじめにそれをチェックしに行きました。人が歩くショットが多かったのですが、タヌキが塀をくぐって入るところもちゃんと写っていました。
センサーカメラをチェックする
キャンパス内にはためふん場は3カ所を確認していますが、ためふん2にはなく、ためふん1にはまずまずの量があったので、確保しました。
私が糞を拾っている時に、豊口さんの目が変わりました。何かを見つけたようです。豊口さんの手の先にはなんと1年前のマーカーがありました。
「よく見つけたね」
「よかったよかった」
「青の165番だ」
で、これは去年の4月にこの場所のすぐ南の玉川上水脇に置いたものでした。
ためふん1で見つかった青の165
それからためふん3に行きました。ここは最近、よく使われているところです。行くと十分な量がありました。
ためふん3を見る
私は常備している「タヌキの糞回収キット」つまり割り箸を取り出してポリ袋に入れました。
タヌキの糞を回収する
ふと見るとセンダンの種子がありました。新発見というわけではありませんが、珍しいといってよいと思います。タヌキが食べる種子としては大きめの方です。他にもカキノキとギンナンがありました。
センダンの種子
「<栴檀は双葉より芳し>って知ってる?」
「いや」
「そうか、知らないんだ。<トウが立つ>は?」
「それはなんとなく」
「うら若い女子学生に聞いて知らなかったので、説明するのがビミョーだったことがある」
(笑)
「センダンはね、大きくきれいな薄紫の花を咲かせ、葉っぱは良い香りがするので、名木とされているのね」
「へえ」
「その双葉、種子から生えた芽生えでも - 当たり前だけど - いい香りがするわけだ。だから立派な人になる人は子供の時からちょっと違うというわけだ」
「なあるほど」
などと雑談をしていると、棚橋さんがオレンジ色マーカーを見つけました。
見つかったオレンジの131番
そうしていたら豊口さんもまた見つけ、しかも3枚でした。マーカーはオレンジの131、青の137, 138, 147でした。
ためふん3で見つかった4枚のマーカー
作業は終わったので、今後のことを少し相談したいと思いました。祝日なので食堂は空いていませんでしたが、テラスにテーブルがあったので、そこで話すことにしました。
津田塾大学の食堂のテラスで
そこで解散としました。私は玉川上水で花の観察をすることにしましたが、棚橋さんと豊口さんは拾った糞を水洗してマーカーチェックをしたそうです。結構の量があったので、大変だったと思います。前の時は全く見つからず、ずっと時間が経ってから偶然見つかるような頻度でしかなかったので、あまり期待はしていなかったのですが、なんと1枚見つかったとのことで、棚橋さんから嬉しそうな連絡がありました。
タヌキの糞を水洗する
マーカー発見!
回収されたマーカー
まとめると
タメフン1
青165(2019.4津田塾大南の玉川上水。果実に入れた)
タメフン3
オレンジ131(2018.12/30津田塾大構内。ソーセージに入れた)
青147、青137、青138 (2018.12/30津田塾大南の玉川上水。ソーセージに入れた)
179緑(2020.2/17津田塾大南の新堀用水2つめの橋。ソーセージに入れた)
だから、残念ながらこれらは府中街道を横切った証拠にはなりませんでした。
1週間ほど経ったらまた回収することにしました。
++++++++++
高槻成紀(生態学者、麻布大学いのちの博物館)
関野吉晴(探検家、医師、文化人類学者)
水本博之(映画監督)
豊口信行(NPO自然環境アカデミー職員)
棚橋早苗(武蔵野美術大学非常勤講師、デザイナー)
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