当日は東京都に向けて「紙芝居」のような紙資料で説明しましたが、記者会見ではスライドを使ったので、抜粋して紹介します。

建設局に「紙芝居」で説明
玉川上水は空中写真で見るとほとんど見えないほど細い緑の帯です。かつて里山的な景観が広がっていた時代、玉川上水の他にも雑木林は豊富にあり、武蔵野を代表する景観でした。しかし1960年代くらいから開発が進み、今では雑木林の動植物は玉川上水にレヒュージ(避難所)のように生き延びています。
その1つの小平地区で、調査仲間の大出水幹男さんが長さ1.4キロの範囲を毎日のように10年間も歩いて鳥類調査をしました。そして84種もの鳥類を記録しましたが、これは市街地の大学キャンパスなどが30-40種程度であるのに比べて遥かに多く、明治神宮や皇居に匹敵します(大出水幹男・高槻成紀. 2024. 玉川上水の鳥類 − 小平地区での10年間の記録 – . 山階鳥類学雑誌 , 56: 180-193.)。

その理由の1つは緑の連続性にあります。下の図は保全生態学の専門書などに載っているもので、都市では緑地が断続されるが、これが緑地帯(コリドー=廊下の意味)があれば生物多様性が保持されるが、飛石になればやや失われ、孤立すれば致命的になるとされます。

孤立緑地をつなぐコリドーの考えかた
実はこれが東京都の生物多様性地域戦略(2023)に紹介されています。その中にはネイチャーポジティブという考え方が示され、東京都は2030年までに回復状態にし、2050年には豊かな自然を回復するとしています。

東京都によるネイチャーポジティブの考え(下向き矢印は高槻による加筆)
私はこれは現実味がなく楽観的にすぎると思います。私たちは現実に起きたことを知っています。
玉川上水の杉並地区で人見街道が交差する場所で2019年に放射5号線ができました。

玉川上水杉並地区の1989年と2019年の比較
次の図は、ここで大塚惠子さんたちが調べた鳥類群集の変化です(大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. Strix, 39: 25-48. こちら)。その結果、道路が開通したら(赤い矢印)鳥類が半減しました。

杉並地区での鳥類群集の変化
私は東京都に対しては、理想論であるネイチャーポジティブを掲げるのではなく、これ以上生物多様性が失われないよう(上のネイチャーポジティブの図の矢印にならないよう)に努力してほしいと強く願います。
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