平城遷都1300年祭の会場の1つである平城宮跡会場のオープンを4/24(土)に控え、次々に内覧会が催されている。私も縁あって、4/16(金)に行われた報道・旅行関係者向け内覧会に参加することができた。この日の様子は、同日の朝日新聞夕刊・1面トップで報じられた。タイトルは《遷都祭 来客ごまんと? 収容力は難題 ピーク時4.5万人試算》だった。
ジャーナリストが物事を批判的に見るのは大切なことではあるが、地元民である私の感覚とはズレがあるので、少しこの記事に茶々を入れてみたい。
※当ブログ記事の末尾に、最新情報を「追記」したので、ご参考に
《従来の神社仏閣頼みの観光客が伸び悩む奈良県。公式マスコット「せんとくん」などによって知名度がアップした平城遷都1300年祭の集客にかける期待は大きいが、パビリオンの受け入れ能力など課題は残されたままだ》。奈良の観光は確かに伸び悩んでいるが、それは「神社仏閣頼み」が理由なのではない。
それどころか、09年に世界各地の美術館で開かれた特別展の1日当たりの来場者数調査で、まさに「奈良の神社仏閣」に関する展示会が、ワールドランキング1位から3位を独占したのだ。それは、
1位 国宝 阿修羅展 東京国立博物館(阿修羅像は、興福寺の仏さまだ)
2位 正倉院展 奈良国立博物館(正倉院は、東大寺の正倉=宝物庫)
3位 皇室の名宝―日本美の華 東京国立博物館[正倉院宝物&春日権現絵巻など](春日権現絵巻は、春日大社に奉納するために描かれた絵巻である)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/366821162e2ca9e2ab8aabaa486eefee
《県や奈良市などでつくる平城遷都1300年記念事業協会は、平城宮跡会場の入場者数をピーク時の黄金週間や秋の紅葉シーズンで1日約4万5千人とみている。だが、平城京歴史館の収容能力は1日最大約3500人、平城京なりきり体験館の「天平衣装の着用体験」は同約400人、「発掘疑似体験」は同約370人にすぎない》。
今回の祭典は、パビリオンでお客を受け入れることを想定した祭典ではない。来場者すべてをパビリオンで受け入れるとしたら、いったいどれほどの数の箱ものが必要になるのか。奈良公園に来るお客を、すべて国立博物館や東大寺や興福寺の伽藍で収容するためには…、というのと同様の乱暴な話である。
朱雀門から、このたび復原された大極殿(=トップ写真)までは約1kmある。平城宮(今でいう宮城・皇居)だけでも、約130haあるのだ。これは東京デイズニーランドとディズニーシーを合わせた面積(約100ha)より広いのである。130haという広大なスペースの「収容能力」に思い馳せてほしい。
そのため、4/24~11/7まで、平城宮跡探訪ツアーが行われる。ガイド付きツアーは1.5時間コースと2.5時間コースがあり、当日申し込みもできる。専用端末によるセルフガイドシステムもある。平城宮跡では、ぜひ歩いて巡り、そのスケール感を味わっていただきたいと思う。75歳以上のお年寄りや障害者、3歳以下の子どもさん向けには、電動トラムやカートも用意されている。「古代行事の再現」や「まほろばステージ」など、気軽に楽しめる催しも多い。
http://www.1300.jp/event/detail/kyuuseki/keve100326.html
1300年祭の運営の不備などは、来場者の反応などを見ながら、今後改善されていくことだろう。
《パビリオンがこの二つしかないのは、企業の寄付集めが難航し、総事業費を350億円から100億円に圧縮したためだ。当初は9棟の建設が計画された。荒井正吾知事は「奈良県には1300年祭以外にも見どころがたくさんあるので、施設はあまりない方がいい」と意に介さない。平城宮跡会場を、奈良の歴史・文化に触れる「玄関口」と位置づける》。
パビリオンは2つではない。平城宮跡資料館も遺構展示館もある。「新設」されたのが2つというだけだ。しかも、その理由は《企業の寄付集めが難航し、総事業費を350億円から100億円に圧縮したため》ではなく、文化庁の反対が主たる理由である。朝日新聞奈良版(07.3.2付)に《当初計画では、大極殿から約800m南の朱雀門までメーンストリートを設け、両側に奈良時代の建物をイメージした外観を持つパビリオンを建設。しかし、文化庁は「当時そのような大きな建物はなく、来場者の誤解を招く」などと反対》とある。
※同時進行!平城遷都1300年(8)(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/1051e96909c74e7f374e36456c6814b7
そもそも、箱ものに頼って失敗したイベントは、枚挙にいとまがない。奈良県は、箱もの中心だったイベント「なら・シルクロード博」(1988年)の失敗を覚えているのだろう。9棟ものパビリオンを作っても、祭典が終わればゴミとがれきの9つの山を築くだけである。「平城遷都1300年祭の会場≠平城宮跡会場」だ。宮跡は祭典の象徴であり、数ある会場の一つである。近鉄電車からも眺められるのだ。当初から、祭典の会場は奈良県全域とされてきた。
《マイカーでの来場による交通渋滞、ホテル・旅館不足も悩みの種だ。奈良市では観光シーズンに市中心部へ1日7万台近い車が流入する。協会は、ピーク時の来場者4万5千人(1日あたり)のうち、マイカー客が1万人を超すと予想。その対策として、行事が集中する春、夏、秋には、平城宮跡会場から約5キロ離れた郊外に3カ所の駐車場(計2千台)を設営し、会場とシャトルバスで結ぶ予定だ》。
パーク&バスライドの実現は、今後の奈良観光に必須の要件である。1300年祭では、「リアルタイム駐車場情報」で、郊外駐車場などの空き状況を知ることができる。1300年祭をテストケースとして、パーク&バスライドはぜひ実現させてほしいものである。新聞は声を大にして、「マイカー自粛」を呼びかけてほしい。
http://www.1300.jp/traffic/parking.php
《県によると、大手旅行会社3社を通じた県内宿泊施設の4~6月の予約は約4万2千人で、前年同期比5割増。市中心部の大手施設は5月末までほぼ満室状態だという。ホテル日航奈良(奈良市)の担当者は「平城宮跡会場がオープンする4月24日前後は半年以上前から予約で満室なのに、まだ問い合わせがやまない」と悲鳴を上げる》。昨年は新型インフルエンザで修学旅行生が激減したから、5割増という数字になったのである。ホテルが「嬉しい悲鳴」を上げるのは、当然だろう。
《奈良観光は、大阪や京都のホテルなどに宿泊し、日帰りで訪れるのが定番になっている。このためか、奈良県内の2008年度のホテル・旅館の客室数(計9436室)は全国最下位。県や市は1300年祭を見据え、市中心部へのホテル誘致を進めたが、不況の影響で実現しなかった》。奈良では観光ピーク時の春秋とボトム時の夏冬の差がありすぎるので、リスクを恐れて宿泊施設の新規開業が進まないのである。企業数が少ないのでホテルの宴会需要が見込めない、という背景もある。
《関西社会経済研究所(大阪市)が試算した1300年祭の経済波及効果は08~11年で、奈良県988億円、大阪府324億円、兵庫県95億円、京都府74億円。武者(むしゃ)加苗研究員は「奈良にもっと宿泊施設があれば経済効果はアップした」と語る》。犬が西向きゃ尾は東、「宿泊施設があれば経済効果はアップした」は、理の当然。ここ10年で、主に修学旅行生向けの旅館の廃業が相次いだ。奈良は「市中心部の大手施設」に頼るのではなく、民宿やB&B、宿坊のように、観光ピーク時の受け皿となるような小回りの利く宿泊施設をもっと増やすべきである。
たまたま朝日新聞を俎上に載せたが、同紙に限らず《メーン会場 住民公開 開場から400人が列》(4/19付 読売新聞 4/19付)、《奈良の平城遷都1300年祭 メーン会場、収容力に不安も 地元住民向け内覧会》(同 産経新聞)、《大極殿1時間待ち 踏切渡り地元2万8000人》(同 奈良日日新聞)と、よく似た見出しがずらりと並んでいて、げんなりする。その点、奈良新聞のコラム「國原譜(くにはらふ)」だけが《1300年祭は平城宮跡会場だけではない。今年の元日からスタートしているのであり、県内各地での関連イベントも含め、全国・海外から(奈良県に)訪れるすべてが来場者だ》(筆者は「北」氏)としているのには、全く同感である。
すべては「平城遷都1300年祭の会場は、平城宮跡会場である」という誤解から始まっている。だから「すべての来場者を2つの新設パビリオンで受け入れるためには…」という風に誤った論理が展開していく。
1300年祭は、同時多発・県下広域分散型の1年間の長きにわたる祭典である。「祈りの回廊~奈良大和路 秘宝・秘仏特別開帳」などは、県下の約50か所で秘仏などを拝観でき、人気を集めている。
「1300年祭の奈良に訪れよう」という向きは、(通常の観光と同じく)ゴールデンウィークなどの混雑ピークを避け、ゆったりとしたスケジュールで県下各地のお好みの見どころを訪ねていただきたい。奈良はのんびり歩くに限る。ガラスケースに入っていない阿修羅像などが間近で拝める興福寺国宝館(このたび新装された・600円)などは、穴場である。待ち時間も短いし、「大遣唐使展」の奈良国立博物館も近い。国宝館は近鉄奈良駅から徒歩5分なので、ぜひ電車で訪れていただきますように。
※追記(4/22)
4/21、平城遷都記念事業協会は、4/24~5/9までの「平城京歴史館」の開館延長などの措置を発表した。
http://www.1300.jp/about/news/topics/2010/topi100423.html
奈良新聞(4/22付)によると《協会は平城京歴史館に関し、同館北側で午前の部(午前9時~午後2時)と午後(午後2時~同4時20分)に分けて入場時間指定の整理券を配布。配布時間と枚数は、午前8時50分に2250枚、午後1時に1350枚を配る》。
http://www.1300.jp/event/kyuuseki/topics/2010-1/kyuu100326.html
《さらに、開館時間を午後5時半から同7時半に延長。同時間帯については午後4時に「夕暮れ特別拝観」ととして900人分の整理券を配布する計画》。シャトルバスの増便や、徒歩で近鉄西大寺駅に帰る人のための臨時照明も設置するという。
http://www.1300.jp/about/news/press/2010/100421-2.html
《「なりきり体験館」でも、疑似発掘体験、天平衣装体験など、いずれも午前9時と午後1時に時間指定チケットを販売。団体予約を除いて、当日の個人申し込みに応じる》。
ジャーナリストが物事を批判的に見るのは大切なことではあるが、地元民である私の感覚とはズレがあるので、少しこの記事に茶々を入れてみたい。
※当ブログ記事の末尾に、最新情報を「追記」したので、ご参考に
《従来の神社仏閣頼みの観光客が伸び悩む奈良県。公式マスコット「せんとくん」などによって知名度がアップした平城遷都1300年祭の集客にかける期待は大きいが、パビリオンの受け入れ能力など課題は残されたままだ》。奈良の観光は確かに伸び悩んでいるが、それは「神社仏閣頼み」が理由なのではない。
それどころか、09年に世界各地の美術館で開かれた特別展の1日当たりの来場者数調査で、まさに「奈良の神社仏閣」に関する展示会が、ワールドランキング1位から3位を独占したのだ。それは、
1位 国宝 阿修羅展 東京国立博物館(阿修羅像は、興福寺の仏さまだ)
2位 正倉院展 奈良国立博物館(正倉院は、東大寺の正倉=宝物庫)
3位 皇室の名宝―日本美の華 東京国立博物館[正倉院宝物&春日権現絵巻など](春日権現絵巻は、春日大社に奉納するために描かれた絵巻である)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/366821162e2ca9e2ab8aabaa486eefee
《県や奈良市などでつくる平城遷都1300年記念事業協会は、平城宮跡会場の入場者数をピーク時の黄金週間や秋の紅葉シーズンで1日約4万5千人とみている。だが、平城京歴史館の収容能力は1日最大約3500人、平城京なりきり体験館の「天平衣装の着用体験」は同約400人、「発掘疑似体験」は同約370人にすぎない》。
今回の祭典は、パビリオンでお客を受け入れることを想定した祭典ではない。来場者すべてをパビリオンで受け入れるとしたら、いったいどれほどの数の箱ものが必要になるのか。奈良公園に来るお客を、すべて国立博物館や東大寺や興福寺の伽藍で収容するためには…、というのと同様の乱暴な話である。
朱雀門から、このたび復原された大極殿(=トップ写真)までは約1kmある。平城宮(今でいう宮城・皇居)だけでも、約130haあるのだ。これは東京デイズニーランドとディズニーシーを合わせた面積(約100ha)より広いのである。130haという広大なスペースの「収容能力」に思い馳せてほしい。
そのため、4/24~11/7まで、平城宮跡探訪ツアーが行われる。ガイド付きツアーは1.5時間コースと2.5時間コースがあり、当日申し込みもできる。専用端末によるセルフガイドシステムもある。平城宮跡では、ぜひ歩いて巡り、そのスケール感を味わっていただきたいと思う。75歳以上のお年寄りや障害者、3歳以下の子どもさん向けには、電動トラムやカートも用意されている。「古代行事の再現」や「まほろばステージ」など、気軽に楽しめる催しも多い。
http://www.1300.jp/event/detail/kyuuseki/keve100326.html
1300年祭の運営の不備などは、来場者の反応などを見ながら、今後改善されていくことだろう。
《パビリオンがこの二つしかないのは、企業の寄付集めが難航し、総事業費を350億円から100億円に圧縮したためだ。当初は9棟の建設が計画された。荒井正吾知事は「奈良県には1300年祭以外にも見どころがたくさんあるので、施設はあまりない方がいい」と意に介さない。平城宮跡会場を、奈良の歴史・文化に触れる「玄関口」と位置づける》。
パビリオンは2つではない。平城宮跡資料館も遺構展示館もある。「新設」されたのが2つというだけだ。しかも、その理由は《企業の寄付集めが難航し、総事業費を350億円から100億円に圧縮したため》ではなく、文化庁の反対が主たる理由である。朝日新聞奈良版(07.3.2付)に《当初計画では、大極殿から約800m南の朱雀門までメーンストリートを設け、両側に奈良時代の建物をイメージした外観を持つパビリオンを建設。しかし、文化庁は「当時そのような大きな建物はなく、来場者の誤解を招く」などと反対》とある。
※同時進行!平城遷都1300年(8)(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/1051e96909c74e7f374e36456c6814b7
そもそも、箱ものに頼って失敗したイベントは、枚挙にいとまがない。奈良県は、箱もの中心だったイベント「なら・シルクロード博」(1988年)の失敗を覚えているのだろう。9棟ものパビリオンを作っても、祭典が終わればゴミとがれきの9つの山を築くだけである。「平城遷都1300年祭の会場≠平城宮跡会場」だ。宮跡は祭典の象徴であり、数ある会場の一つである。近鉄電車からも眺められるのだ。当初から、祭典の会場は奈良県全域とされてきた。
《マイカーでの来場による交通渋滞、ホテル・旅館不足も悩みの種だ。奈良市では観光シーズンに市中心部へ1日7万台近い車が流入する。協会は、ピーク時の来場者4万5千人(1日あたり)のうち、マイカー客が1万人を超すと予想。その対策として、行事が集中する春、夏、秋には、平城宮跡会場から約5キロ離れた郊外に3カ所の駐車場(計2千台)を設営し、会場とシャトルバスで結ぶ予定だ》。
パーク&バスライドの実現は、今後の奈良観光に必須の要件である。1300年祭では、「リアルタイム駐車場情報」で、郊外駐車場などの空き状況を知ることができる。1300年祭をテストケースとして、パーク&バスライドはぜひ実現させてほしいものである。新聞は声を大にして、「マイカー自粛」を呼びかけてほしい。
http://www.1300.jp/traffic/parking.php
《県によると、大手旅行会社3社を通じた県内宿泊施設の4~6月の予約は約4万2千人で、前年同期比5割増。市中心部の大手施設は5月末までほぼ満室状態だという。ホテル日航奈良(奈良市)の担当者は「平城宮跡会場がオープンする4月24日前後は半年以上前から予約で満室なのに、まだ問い合わせがやまない」と悲鳴を上げる》。昨年は新型インフルエンザで修学旅行生が激減したから、5割増という数字になったのである。ホテルが「嬉しい悲鳴」を上げるのは、当然だろう。
《奈良観光は、大阪や京都のホテルなどに宿泊し、日帰りで訪れるのが定番になっている。このためか、奈良県内の2008年度のホテル・旅館の客室数(計9436室)は全国最下位。県や市は1300年祭を見据え、市中心部へのホテル誘致を進めたが、不況の影響で実現しなかった》。奈良では観光ピーク時の春秋とボトム時の夏冬の差がありすぎるので、リスクを恐れて宿泊施設の新規開業が進まないのである。企業数が少ないのでホテルの宴会需要が見込めない、という背景もある。
《関西社会経済研究所(大阪市)が試算した1300年祭の経済波及効果は08~11年で、奈良県988億円、大阪府324億円、兵庫県95億円、京都府74億円。武者(むしゃ)加苗研究員は「奈良にもっと宿泊施設があれば経済効果はアップした」と語る》。犬が西向きゃ尾は東、「宿泊施設があれば経済効果はアップした」は、理の当然。ここ10年で、主に修学旅行生向けの旅館の廃業が相次いだ。奈良は「市中心部の大手施設」に頼るのではなく、民宿やB&B、宿坊のように、観光ピーク時の受け皿となるような小回りの利く宿泊施設をもっと増やすべきである。
たまたま朝日新聞を俎上に載せたが、同紙に限らず《メーン会場 住民公開 開場から400人が列》(4/19付 読売新聞 4/19付)、《奈良の平城遷都1300年祭 メーン会場、収容力に不安も 地元住民向け内覧会》(同 産経新聞)、《大極殿1時間待ち 踏切渡り地元2万8000人》(同 奈良日日新聞)と、よく似た見出しがずらりと並んでいて、げんなりする。その点、奈良新聞のコラム「國原譜(くにはらふ)」だけが《1300年祭は平城宮跡会場だけではない。今年の元日からスタートしているのであり、県内各地での関連イベントも含め、全国・海外から(奈良県に)訪れるすべてが来場者だ》(筆者は「北」氏)としているのには、全く同感である。
すべては「平城遷都1300年祭の会場は、平城宮跡会場である」という誤解から始まっている。だから「すべての来場者を2つの新設パビリオンで受け入れるためには…」という風に誤った論理が展開していく。
1300年祭は、同時多発・県下広域分散型の1年間の長きにわたる祭典である。「祈りの回廊~奈良大和路 秘宝・秘仏特別開帳」などは、県下の約50か所で秘仏などを拝観でき、人気を集めている。
「1300年祭の奈良に訪れよう」という向きは、(通常の観光と同じく)ゴールデンウィークなどの混雑ピークを避け、ゆったりとしたスケジュールで県下各地のお好みの見どころを訪ねていただきたい。奈良はのんびり歩くに限る。ガラスケースに入っていない阿修羅像などが間近で拝める興福寺国宝館(このたび新装された・600円)などは、穴場である。待ち時間も短いし、「大遣唐使展」の奈良国立博物館も近い。国宝館は近鉄奈良駅から徒歩5分なので、ぜひ電車で訪れていただきますように。
※追記(4/22)
4/21、平城遷都記念事業協会は、4/24~5/9までの「平城京歴史館」の開館延長などの措置を発表した。
http://www.1300.jp/about/news/topics/2010/topi100423.html
奈良新聞(4/22付)によると《協会は平城京歴史館に関し、同館北側で午前の部(午前9時~午後2時)と午後(午後2時~同4時20分)に分けて入場時間指定の整理券を配布。配布時間と枚数は、午前8時50分に2250枚、午後1時に1350枚を配る》。
http://www.1300.jp/event/kyuuseki/topics/2010-1/kyuu100326.html
《さらに、開館時間を午後5時半から同7時半に延長。同時間帯については午後4時に「夕暮れ特別拝観」ととして900人分の整理券を配布する計画》。シャトルバスの増便や、徒歩で近鉄西大寺駅に帰る人のための臨時照明も設置するという。
http://www.1300.jp/about/news/press/2010/100421-2.html
《「なりきり体験館」でも、疑似発掘体験、天平衣装体験など、いずれも午前9時と午後1時に時間指定チケットを販売。団体予約を除いて、当日の個人申し込みに応じる》。
これは、発信力不足のためであり、またそもそものコンセプトの不在が露呈してきたためだと思います。
現実問題として「メイン会場」というネーミングは、あらゆる意味で最悪です。そう謳っていれば、誰だってそこが「メイン」だと思うでしょう。「1300年祭というのをやってるらしいから、一日だけでも奈良に行こう!」と思った“奈良慣れ”してない人が、奈良のどこをめざして集まってくるか。
「エントランス」という文学的表現も避けるべき。実際には玄関口じゃないのに、平城宮跡へ行けば、新宿西口や東京八重洲口のようなバスターミナルがあって、県内あちこちへのシャトルバスがどんどん出ているようなイメージを与えかねません。
県全域が会場なのだから、大阪・京都・名古屋からは八木駅に直行してもらって、平城宮跡は時間の余裕のある人に見てもらう程度でよしとすべきではないでしょうか。
>9棟ものパビリオンを作っても、祭典が終わればゴミとがれきの9つの山を築くだけ
という観点を徹底して、5月の連休の「平城遷都祭」みたいな屋台と休憩所を仮設するぐらいにして、いっそ何も作らない方がよかったのではないかとさえ思います。
クルマの流入も、「マイカー自粛」の呼びかけで渋滞を回避できるわけがありません。「奈良はマイカーお断り!」ぐらいの呼びかけをしないと、効果がないのではないでしょうか。来てしまったクルマは追い返せません。出発前にクルマを置いてもらうことが必要です。
公式サイトも、意味がわからないほどお粗末です。「平城遷都1300年祭について」というトップ項目をクリックすると、コンテンツ一覧が出てくるだけ。見る人に、一からの「お勉強」を要求しています。メッセージを伝えたい!という意欲が感じられません。漠然と1300年祭に興味を持った人は、途方に暮れるでしょう。
それにしても、平城遷都1300年記念事業協会は、一昨年の仕切り直しの際に、鉄田さんをヘッドハンティングしておくべきだったのではないでしょうか。
1300年事業協会には「チーフプロデューサー」はじめ複数のプロデューサーという肩書きの人がいますが、彼らは何をしているのでしょうか。マスコミ取材に対しては、去年の人事異動で事務局副局長に就任したばかり(!)の田中敏彦氏(それまで図書情報館副館長だった)が一所懸命に1300年祭の説明をしています。実務をやりながらPRもです。たいへん気の毒です。ちょっと体制がおかしいのではないかと思います。
平城京歴史館は11時ごろに着いた時点で結構人が並んでいたので、帰りに見ようと思って2時過ぎに行ったら、整理券配布終了とのこと、整理券配布なんか知らないし、収容能力がこんなにも少ないとは思ってもいませんでした。
12時過ぎに平城京なりきり体験館に行きましたが、こちらも整理券配布終了。
天平衣装貸し出しも、1時間以上待ち。
大極殿は30分程度並んで見ることはできましたが・・・
電動トラム(60人くらい乗れるのが2台)やカート(15人くらい乗れるのが1台)は台数が全く足りておらず、乗降場ですべての人が降りるわけではないので、私の母親は結局乗れず、「歩いた方が早いですよ」と言われたそうです。
スピードは歩く速度と同じくらいのため、大極殿と東院庭園を往復しているカートは、一旦出て行くと40分ぐらい待たないと帰ってこないようです。途中のなりきり体験館前で、お年寄りの人が立って待っておられましたが、カートが向かって来ているのは見えるのに、遅すぎて待っているのも大変そうでした。
これから暑くなるので、移動するだけでクジケル人が多くなると思います。
たぶん「せんとくん」にあおられて、遠方から来た人の多くは、がっかりして帰ることになるような気がします。
> 「メイン会場」というネーミングは、あらゆる意味で最悪です。
確かに、この表現は誤解を生みます。報道機関も、よく考えていただきたいと思います。
> 「エントランス」という文学的表現も避けるべき。実際には玄関口じゃない
> 県全域が会場なのだから、大阪・京都・名古屋からは
> 八木駅に直行してもらって、平城宮跡は時間の余裕のある
> 人に見てもらう程度でよしとすべきではないでしょうか。
なるほど。文章を修正しておきました。
> 「奈良はマイカーお断り!」ぐらいの呼びかけを
> しないと、効果がないのではないでしょうか。
車が最大の問題です。「文化財保護のためにも、車は厳禁」くらい書かないと、分かってもらえないでしょうね。
> 公式サイトも、意味がわからないほどお粗末です。
相当気合いを入れて作られましたが、ページ数を切り詰めたのか、確かに分かりにくいです。
> ちょっと体制がおかしいのではないかと思います。
現体制で何とかやっておられるように見えますが、進捗次第では、増員なども必要になるかも知れません。
> まずは地元から。特に若い人たちがこのイベントを
> きっかけに地元の財産に広く触れてくれたらと願う。
この調査ですね、私もよく読んでみます。
http://jrc.jalan.net/jrc/cal09.html
> 「せんとくん」にあおられて、遠方から来た人の多くは、
> がっかりして帰ることになるような気がします。
運営上の問題点は、日々修正が必要になると思います。改めるべきは改め、それをきちんとPRすることが大切ですね。
『> 「メイン会場」というネーミングは、あらゆる意味で最悪です。
確かに、この表現は誤解を生みます。報道機関も、よく考えていただきたいと思います。』
「平城宮跡メイン会場」という言葉は、公式サイトで普通に使われているので、報道機関に問題はないと思います。
公式サイトも判りにくいですが、会場内で配られている公式MAPも判りにくいです。
会場をブロックごとに分けているのが、公式サイト(1~9の数字)、公式MAP(A~Jのアルファベット)、なぜ統一しないのかも疑問です。
公式MAPは家に帰ってからじっくり読むと、だんだん判ってきましたが、会場で歩きながら読んでも理解できませんでした。
私は、平城遷都1300年記念祭の主会場は平城宮跡であると思います。和銅3年に行われたのは、藤原京から平城京への遷都です。県下50カ所の祈りの回廊に分散遷都したのではないのです。そこを直視する必要があると思います。今年1300年記念祭に来る人の関心も、平城宮跡とそこに復原された大極殿、さらには歴史館や遣唐使船にあるのではないでしょうか。
「会場は奈良県全体であって平城宮跡はその一部にすぎないから、平城宮跡にはあまり来ないでほしい」などという逃げ口上はやめた方がいいというのが私の思いです。
今までのPRが良かったか悪かったかはともかくとして、平城宮跡に関心を持つ人たちが押し寄せてくるのなら(そんなに来ないかも知れませんが)、奈良県民としてはそれにベストを尽くして対応すべきでしょう。場合によっては大阪府民や京都府民の力を借りてもいいと思います。
この期に及んで「あいつが悪い、こいつが悪い」とか「奈良県民の力だけでなんとかしなければならない」というようなせせこましい考えはやめて、正面からど~んと問題に立ち向かおうと腹をくくることが必要なのではないでしょうか。
まあ、1300年記念祭が成功裡に終わるか、とんでもない大失敗になるかわかりませんが、いずれにせよその後の奈良のあり方を考えるための貴重な経験になるのではないでしょうか。
4/21に1300年協会が発表した情報を、ブログ記事の最後に追記しておきましたので、ぜひご覧下さい。
> 「平城宮跡メイン会場」という言葉は、公式サイトで普通に
> 使われているので、報道機関に問題はないと思います。
1300年協会がその表現を使っていることは確かですが、私はそもそも、そのような打ち出し方をすべきではなかったし、報道もそれを強調して人々を煽(あお)るようなことをしてはいけない、と申し上げているわけです。
> 腹をくくることが必要なのではないでしょうか。
> 1300年記念祭が成功裡に終わるか、とんでもない大失敗に
> なるかわかりませんが、いずれにせよその後の奈良のあり方
> を考えるための貴重な経験になるのではないでしょうか。
私はA型ですので、なかなか典Bさんのように腹をくくることはできません。なにしろ1988年のシルク博で、1度大失敗しているのですから。ゴールデンウィーク中の奈良公園は、満員電車状態でした。
あの明石の花火大会のように、大人数が1点集中で来られたときのリスクは、計り知れないものがあります。だから私は「1300年祭の会場は、奈良県全域である」という原点に立ち返ろう、と申し上げているわけです。
> 興福寺の阿修羅様拝観、それは、本当にお勧めです。
最大4時間待ちの「お堂で見る阿修羅」より、はるかによく阿修羅さんが拝めますね。沢山の方にPRしたいです。
>130haという広大なスペースの「収容能力」に思い馳せてほしい。
……とありますが、たとえば平城宮跡の草っ原(地下の遺跡を保護している)は、一旦雨が降るとその後数日間は水浸しです。普通の靴では歩けません。広大なスペースとはいっても、野球場や、整備されたテーマパークとは異質の、ワイルドな空間です。
そして、人の集まるところ、必要なのは日陰と水とトイレです。それらが足りるでしょうか。通路も、現在どうなっているのか知りませんが、広いところばかりではなかったと思います。歩行者は意外にかさばります。また、自転車と歩行者が共存する仕組みがどうなっているのかも気になります。