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「説明力」を鍛える55の方法(by 齋藤孝)詩想社新書

2020年06月01日 | ブック・レビュー
NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」は、原則として毎年1回、「講師養成講座」を開催している。会員の中から講演のできる人を養成し、いろんなセミナーなどに講師として出向いてもらうためだ。養成講座の講師役は、私が務めている。

当会が行う講演は、「PowerPoint」を使って行うのが特徴だ。なので私はいつも「話すテーマに関する知識、PowerPointを使いこなす技術、話す技術」の3つが肝心、と申し上げている。しかし最初の2つは経験を積めば磨き上げられるが、なかなか「話す技術」、つまり「説明力」が上達しない人がいる。

日頃から「この人には、どうアドバイスすれば説明力が上達するのだろう」と悩んでいたが、良い本を見つけた。それが齋藤孝著『頭の良さとは「説明力」だ~知性を感じる伝え方の技術~』(詩想社新書)。まず目次を紹介すると、

まえがき 九割の人は「説明力」を身につけていない
第1章 知的な「説明力」とは何か

実はほとんどの人が、説明下手である/説明力に、その人の知性が垣間見える/説明に必要なのは「時間感覚」、「要約力」、「例示力」/「時間感覚」は鍛えればすぐ効果が出る/「ヘリコプター方式」が上手な説明/究極の説明は一語で完結/「相手が覚えられるレベル」に要約する/ポイントは三つに絞る/身体感覚で「わかった感」を生む説明/まったくわからないものを、おおよそわかるもので説明する/一例を挙げるだけで説明し尽くす技術/説明では現物が最強の武器になる/だめな説明とはどのようなものか

第2章 「組み立て方」で説明は一気にうまくなる
上手な説明の基本フォーマット/本を使った要約力の実践的トレーニング/キーワードを選び、それをつなげるように要約する/聞き手の気持ちから説明の出だしを考える/ポイントを三つにするクセをつける/全体のなかで、どこを話しているか常に明確にする/説明の下準備に目次を活用する/心を動かす説明とはファストとスローの相乗効果/一気にわかりやすくなる比較を使った説明/比較説明の練習法/説明をわかりやすくする比喩、具体例の選び方/「A4一枚の構成力」で説明力は向上する/問いかけを説明の推進力にする/わかりづらい箇所は後回しする/察知・予測力で説明をグレードアップする

第3章 日常生活で「説明力」をアップさせる方法
日常会話で説明力に必要な瞬発力を鍛える/説明力を鍛える近況報告トレーニング/自分の経験と結びつけて説明する練習/説明話術が身につく「一五秒練習」/一五秒間の究極の説明であるCMをヒントにする/子どもにわからせるように説明するトレーニング/ストップウォッチを持ち歩いてみる/人の説明を採点しながら聞いてみる/簡単にできる本を要約するときのコツ/説明力アップのための事前の仕込み

第4章 心を動かす「説明力」の応用
出だしから相手を引きつける「通説but」の説明法/インターネットを超える説明力とは/理解させたければ、全部を説明しようとしてはいけない/参加型の説明が心を動かす/説明に必要な「お得感」を演出する/わかりやすい図解をつくる方法/相手の心に残る資料を使った説明の仕方/上手な説明は時系列にこだわらない/相手を納得させるタブレットの活用/最後の言葉を決めてから話し始める/説明が上手な人が持つ「雰囲気」/緊張感を見せてはいけない/ツツコミ力で説明のテンポを上げる/説明のときの話し方で注意すること/パーソナルな部分を見せるようにする
あとがき 上手な説明を褒め称える習慣をつける


上記見出しを数えると、55にのぼった。以下「講演会で講師として話す場合に、心がけておきたいこと」という観点から、参考になる箇所を紹介する。長くなるが「説明力」を鍛えたいという方は、どうか最後までお付き合いいただきたい。まず《実はほとんどの人が、説明下手である》(第1章)から。

説明力は小学校1年生のときから身につけていなければならないスキルなのに、意識して鍛えてこなかった。なので1分間に「ええと…」を5回も6回も連発する人がいる。《これは、説明と時間を結びつけて考えていないから起こることです。説明力の基本とは、常に時間感覚とセットで意識するということなのです》《上手な説明はまわりの人たちの時間を節約し、その幸せに貢献しているのです》。

《説明力に、その人の知性が垣間見える》(第1章)には、《限られた時間で過不足なく意味をやり取りするためには、高いレベルの要約力が求められる》《実は、説明力とはアウトプットする技術であり、その手法を意識して考えたことのない人は、もたもたと要領を得ない説明になってしまうことがあります》《説明とは、ある種のスキルですから、意識して取り組めば必ずうまくなります》。

《説明に必要なのは「時間感覚」、「要約力」、「例示力」》(第1章)には、《具体例を挙げる能力が乏しいと、説明がうまくいかないだけでなく、その発言者がぼんやりとした人思考力の乏しい人といったイメージも相手に与えてしまいます》《エピソード力、例示力というものは、相手の理解を一気に進めるパワーがあります》。

《「ヘリコプター方式」が上手な説明》(第1章)には、《わかりやすい説明とは、ヘリコプターで目的地に直接降りるようなものです。まず、ことの本質、ポイントから明示して、てきぱきとした話し方、簡潔な構成で、最低限の時間で完結するのが上手な説明です》。

《究極の説明は一語で完結》(第1章)のところでは、小泉元首相の「ワンフレーズ」を思い出した。鈴木大拙は禅マインドを英単語1つで表すと「let」(~ままにしておく)と言ったそうだ。《つまり禅というのは、自分が何々をするんだ、こうしてやるのだ、というものではなく、自分を無くして無くして、それを「let」の状態に置くのだということを一言で表したのです》《ただ、つけ加えておくと、一語で説明するといっても「愛」や「人生」といった一語では説明になりません》。

《ポイントは三つに絞る》(第1章)では、《みなさんも何かを説明する、プレゼンする際は、まずポイントを三つに絞ってみてください。そしてその三つの優先順位まで示せれば、かなりわかりやすい説明が可能になるはずです》。

《説明では現物が最強の武器になる》(第1章)の方法は、私もよく実践している。纒向遺跡の大型建物跡、柱穴は直径30㎝と15㎝の2種類だ。これを百均で売っている直径30㎝と15㎝の鉢受け皿(植木皿)を買ってきて、見せる。するとサイズ感をたちどころに理解してもらえるのだ。《現物の威力は、五感が刺激されるところにあります。目の前にしただけで、相手は瞬時にそれを理解できます。一発でわかるという意味では、究極の説明力と言っていいのでしょう》。

《だめな説明とはどのようなものか》(第1章)では、《だめな説明の代表例は、「分厚いマニュアル」です》《だめな説明とは情報が過多で、その優先順位も不明確で、情報の羅列でしかないものといえます》。

《上手な説明の基本フォーマット》(第2章)には「上手な説明の基本構造」として、こんな図解が載っている。
①まず、一言で言うと〇〇です(本質を要約し、一言で表現。キャッチコピー的)。
②詳しく言えば〇〇です(要約したポイントを最大で三つ。重要度や、聞き手の求める優先順位を加味して示す)。
③具体的に言うと〇〇です(例示。エピソード、自分の体験などで補足)。
④まとめると〇〇です(これまでの説明の最終的なまとめ)。


つまり、ワンフレーズ、スリーポインツ、例示、まとめ、という流れである。《本を使った要約力の実践的トレーニング》(第2章)では、齋藤氏が大学の授業で実践している「本の要約トレーニング」を紹介されている。A4用紙1枚に、以下のことを書きつけていき、1分間で発表するのだ。
①題名・著者名
②説明(一行で)
③趣旨(120字程度=3~4行 冒頭にはこの本の言いたいことをキャッチコピー的に入れる)
④引用(本から3つほど、各2~4行を引用)


本という《「意味」の山からひときわ輝いているものを取り出して集めるのが本の要約です。これを繰り返すことで、たくさんの要素から本質を素早く抽出し、要約する能力が自然と鍛えられます。説明力を鍛えたいと考えている過多は、まず、この本の要約トレーニングを一週間に一冊でも自分に課して取り組むと、半年もしないうちに自分の要約力と説明力がアップしたことを実感できるはずです》。

このとき力を発揮するのが「三色ポールペン」だ。《本を読んでいきながら、三色ボールペンで重要な箇所にアンダーラインを引いていきます。とても重要だと思う箇所は赤色で、その次に重要と思われる箇所は青色で、さほど重要ではないが面白いと思う箇所は緑色で印をつけていきます》。

早速私も百均へ三色ボールペンを買いに行った。三色ではなく四色のボールペン(赤、青、緑、黒)にシャープペンシルが付いていて驚いた。試してみると、これはいい。今までは黄色の蛍光マーカーだったが、これからはずっとこれを使おう。

《聞き手の気持ちから説明の出だしを考える》(第2章)は、さきほどの「趣旨(120字程度=3~4行 冒頭にはこの本の言いたいことをキャッチコピー的に入れる)」のキャッチコピーのことだ。《冒頭のキャッチコピーは、内容の要約とは少々違います。内容を要約して言い表そう、説明しようとそればかり考えていると、いいキャッチコピーにはなりません》《要約力は確かな論理力が基盤となっていますが、キャッチコピーはセンスによるもの。この二つの力がうまく作用することで、いい説明になっていきます》。

《心を動かす説明とはファストとスローの相乗効果》(第2章)では、映像・画像で直感に訴え、あとで文字情報で補足することの相乗効果をいう。《写真やイメージ画像も直感的に理解させるファストなものといえます。プレゼンの最初に、映像をまず見てもらって、「細かいことはこのパンフレットや資料に書いてあります」という手法も同様です。まずはイメージを伝え、細かな情報は文字情報として渡す。映像というファストな情報で相手の情動を動かして、直感的に理解してもらうことができれば、スローな文字情報も相手は進んで読みこなして理解してくれます》。

《比較説明の練習法》(第2章)では、《比較しながら説明すると、わかりやすい説明になります。この比較説明がうまくなるためには、以下のフォーマットに沿って、日ごろから比較して物事を理解する練習をすると効果的です。AとBの二つを挙げ、「比較のポイントはどこであるか」、「共通点はどこか」、「違う点はどこか」をA4版の一枚の紙にまとめるのです》。

《問いかけを説明の推進力にする》(第2章)では、《「問いかけ」をうまく使って、説明の質を上げるという方法があります》《このときの注意点としては、答えを聞きたいと思っている相手をあまりじらさないということです。問いをふったら、スパッと答えを述べて先に説明を展開してください》《「問いかけ、答え」、「問いかけ、答え」を適当に挟みながら、たたみかけていくと、聞き手はどんどん説明に引き込まれていきます》。

《人の説明を採点しながら聞いてみる》(第3章)では、《説明力を向上させるためには、人の説明を第三者として客観的に聞くことがとても勉強になります。誰かの説明を、この説明のいいところはどこなのか、よくないところはどこなのかを意識しながら聞くのです》《テレビの情報番組などの出演者の説明を聞くことがいちばん役に立つでしょう》。

《出だしから相手を引きつける「通説but」の説明法》(第4章)では、《上手な説明の応用型に、「通説but」の形があります。「いままでいわれていたことは〇〇ですが(通説)、しかし(but)実は、△△なのです」という説明の仕方です》。こんなフローが出ていた。
「いままでこう理解されていましたが、実は〇〇なのです」(通説but)
→「それはこういうことです」(詳しい説明、ポイントは最大で三つに)
→「たとえば、〇〇です」(具体例、エピソード、データなど)
→「つまり、こうなのです」(全体のまとめ)


《インターネットを超える説明力とは》(第4章)では、《人からの説明には、インターネットから受ける情報とは違う強みがあります。それはその説明をする人の感情や情熱、生き生きとした部分が伝えられるというところです。そういう部分が付加されると、聞き手も心を動かされるのです》《そのためには、自分の感情が生き生きと動いていないとだめなのです》《情熱に溢れた話し方は、自分の体験、エピソードをつけ加えることでやりやすくなります。説明している当人の血や肉になっているなと感じられる説明は、聞いている相手の心も必ず動かします》。

《理解させたければ、全部を説明しようとしてはいけない》(第4章)では、《私は「これだけ方式」と呼んでいるのですが、とにかくわかってもらえる部分だけに説明をとどめて、「これだけはわかってください」と説明するのです》《まじめな方のなかには、一生懸命、すべてを説明しようとする人がいますが、そこにこだわる必要はないのです》。

《説明に必要な「お得感」を演出する》(第4章)では《人は、他では聞けない「ここだけの話」にとても弱いものです》《「これは一般の方には見せないデータですが、それを特別にお伝えします」と言えば、相手は真剣に話を聞くはずです》。

《最後の言葉を決めてから話し始める》(第4章)では、《私は仕事や人生に対するヒントとして、「ミッション、パッション、ハイテンション」というフレーズをよく使います。この三つの要素によって、仕事も人生も壁を乗り越えていけるというのが私の持論です。しかしこの三つの要素を「使命、情熱、上機嫌」と日本語でそれぞれ表しても、聞いている人の頭にはなかなか残らないと思います》《このように自分のいちばん伝えたい部分を、うまく記憶に残るようなワンフレーズに落とし込むことが大切なのです》。

《パーソナルな部分を見せるようにする》(第4章)では、《いくら理路整然と簡潔に上手に説明したとしても、それはただ説明のうまい人というだけです。聞いている相手の心を動かし、何かを動かしだすような説明力というのは、ただ、わかりやすいというだけではありません。そのわかりやすさのベースに、その説明者の人間性、顔がはっきりと見えていて、それが聞き手に受け入れられ、好感を持たれているから、その説明力が人を動かす力を持つのです》《説明の技術と、さわやかで誠実な雰囲気という人柄がセットになったとき、人の心まで動かしてしまう上手な説明になるのだと思います》。

長々とした紹介になったが、いかがだろう。私は第4章の「人からの説明には、インターネットから受ける情報とは違う強みがあります。それはその説明をする人の感情や情熱、生き生きとした部分が伝えられるというところです」「説明の技術と、さわやかで誠実な雰囲気という人柄がセットになったとき、人の心まで動かしてしまう上手な説明になるのだと思います」というくだりに、膝を打った。

これまでの講演で反応が良かったのは、内容に私の「熱い思い」がこもっていて、それをうまく言葉や身ぶりやPowerPoint画像で表現できた時だった。「人間力」というか、それがうまく表現できたとき、聞き手は好感を持って迎えてくれるのだ。「ミッション、パッション、ハイテンション」もいろんなところで応用できそうだ。

齋藤孝氏の著作はこれまで何冊も読んできたが、これからはこのようなハウツー本にも注目したい。

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2 コメント

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Unknown (木方)
2021-06-07 09:51:19
ランキンで覗いて見たんですけど一年前気付いていたら今頃ってちょっと思いました。ただ当時はそれどころじゃなく学校がどうなるか?など本を読む余裕も日々に無かったと思うと今注目されてランキングで上がるのも理解出来ますね。著者さんは素敵で魅力ありますよね。本が大嫌いだけど鉄田さんのオススメなら探してみます。
コロナで明日居なくなるかもしれない中、時間が無さそうで。性格的に時間の無駄が嫌いでスケジュールもビッチリと効率重視で生きて来ましたし、日本ではそれが普通に出来た。けど外国に行って常識や基準や伝えてもどうしようもない経験をしてその中でも穏やかに過ごしている方々を見習いスケジュール通り出来た達成感よりも偶然や出会いで方向転換する楽しみも味わい予定の既定路線で動くよりも生きている実感を日々感じる事を重視して生活するようにすっかり変わってしまいました。そんな事もあり、子供にも他人にも別に今理解してもらえなくても自己ベストをしておけば良いと思うので説明もわかる方がピンとくれば良いって思っていたんですよね。子供にも自分が死んだ時に気付いて理解出来たらそれでいいって。けど、その時分かっても遅い時の後悔はきっと後に残された方ってきっと大きくなるんだろうなあと。また伝える目的としてきちんと伝えないでだから言ったじゃんていうのも失礼なのかも?とも思い始め同じ行動の質を上げる事で早く何かが変わるなら苦しむ時間の節約にもなるのでスキルと勉強をしてみようかと思い出しました。文字が無い時代言葉が無い時代ならばジェスチャーでしょうか?けどコロナじゃあ会えないし、どこかで芸術作品みたいに伝えるよりはその人ごと伝わる方がいいなんてちょっと思ってました。絵も作者の意図あっても千差万別理解は違うのでする必要ないとも。でも命には限りがあり出来る時間により芸術ではなく用途としての文字の利用をより短時間で効率よく出来る方法があるならチャレンジしようと思いました。遺言で伝えるよりも今伝えて変化を待てたら素敵な時間の使い方だと思いますよね。なのでドラマでも実生活でもコロナ下での自殺などでも考えて悩む前に人を選んで伝える事をスキルの専門家の知恵も頂いて出来る方がいっぱい増えるといいですよね。愛情あり過ぎたりするとそれが今時な言葉でウザイってなりますけどお互いに距離をとれる今だからこそ親もスキル身につけたいですね。時間があり、距離があるからこその一つになるでしょうね。
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時間感覚 (tetsuda)
2021-06-10 08:23:41
木方さん、コメントありがとうございました。

> 著者さんは素敵で魅力ありますよね。本が大嫌い
> だけど鉄田さんのオススメなら探してみます。

齋藤孝さんの本は、とても読みやすく分かりやすいです。本書でも「説明の下手な人は、時間感覚が欠けている」というくだりで、思わず膝を打ちました。

説明するということは、それだけ相手の時間を奪っているということです。それなのに「えーと」とか「あー」とかを連発したり、ダラダラと長い説明をしたり。これに気づくだけでも、説明力は向上すると思います。
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