tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良の地酒「輸出」への取り組み/ナント経済月報(2022年7月号)

2022年07月17日 | 奈良にこだわる
興味深いレポートを読んだ。一般財団法人「南都経済研究所」が発行する『ナント経済月報』(2022年7月号)に載った「奈良県における日本酒輸出の取り組みについての一考察」だ。

執筆者は上席研究員で中小企業診断士の刀祢善光さん。南都銀行のもと同僚で、大学も同窓だ。全12ページの力の入った大論文で、全貌は同法人のHPに掲載されている。

なおタイミング良く今日と明日(2022.7.17~18)は、遣唐使船前(平城宮跡歴史公園)で、「奈良酒まつり」が開催され、刀祢レポートで紹介された今西清兵衛商店(奈良市)も梅乃宿酒造(葛城市)も出展される。チラシは、こちら(PDF)だ。平城宮跡歴史公園のHPには、

奈良酒の「文化」「歴史」について学びながら、おいしい奈良酒や「奈良しゅわボール」、古都華サイダーなどを飲んでみませんか。新発売のご当地サイダー「富有柿サイダー」も登場! もちろん無料試飲もしていただけます。奈良の街が育んだ飲み物に囲まれて、素敵な午後を県営平城宮跡歴史公園でお過ごしください。参加蔵元 〇今西清兵衛商店〇奈良豊澤酒造〇八木酒造〇北村酒造〇梅乃宿酒造

では以下に、刀祢レポートの要点を抜粋して紹介する。

(P8)高度経済成長期にピークをつけた日本酒の国内消費量は、以後減少傾向となっているが、近年は日本産の農林水産品や食品について海外での支持が広まり、日本酒においても輸出量が拡大を続けている。

まずは日本酒を含む様々なアルコール飲料を合計した「日本産酒類」の動向を見る。2021年度の輸出金額は約1,147億円(対前年比161.4%)となり、初めて1,000億円を突破し、10年連続で過去最高を記録した。2022年4月の輸出金額においても118.9億円(対前年同月比110.3%)となり、好調に推移している。

品目別ではウイスキーと日本酒は前年比の増加率が60%を超え、特に伸びが著しい。近年、海外での日本産酒類はウイスキー、日本酒を中心に支持を広げているといえる。また、国・地域別では中国、アメリカ、香港が牽引している。

(しかし)国内における日本酒の課税移出数量(以下「出荷量」と表記)は昭和48年度をピークに減少を続け、令和2年度には約41万㎘とピーク時の約30%以下の水準まで落ち込んでいる。

(P9)日本酒の出荷量が減少していく一方で、単価は上昇傾向である。要因は、原料と製法で日本酒を区分した「純米」や「吟醸」などの特定名称酒が高付加価値品として出荷量を維持しているためである。

(P10)奈良県で出荷される酒類は、日本酒とリキュールとで95.5%とその大勢を占める。概ね日本酒が全体の2/3、梅酒などのリキュールが1/3という内訳である。

(P11)酒類製造業及び酒類卸売業の概況(国税庁・令和3年調査分)によると奈良県内では15事業者が輸出している。過去も含めると8割程度の酒蔵に輸出実績があると見られる。同報告によると、日本酒の輸出量は近年急速に増加している中、奈良県においても2021年度は729㎘(対前年比151.4%)となり大きく増加している。

2020年で国内出荷量と輸出量の割合を全国と比較すると全国の5.6%と比べ奈良県は22.5%と輸出の割合が高い。



今西清兵衛商店の本社。同社の公式HPから拝借した

(P13)県内企業の取組事例
1.株式会社今西清兵衛商店(奈良県奈良市)
「日本名門酒会(※注)」に加盟し、奈良県の酒蔵の中でもいち早く1970年代から首都圏へ進出を果たした。海外取引も日本名門酒会の国際流通部門のサポートにより、1984年からアメリカ、ドイツ、中国などへの進出を実現した。

(※注)日本名門酒会は「良い酒を 佳い人に」をスローガンに、全国約120社の蔵元が丹精こめて造った良質の日本酒を、全国1,500店あまりの酒販店を通して流通させてきたボランタリー組織(独立した小売業者や卸売業者が、スケールメリットを活かし共同で商品仕入れ活動が行えるように立ち上げる組織)。

(P14)コロナ禍が収束に向かいはじめ、海外への渡航が再開されようとしている中、さらに新しい国・地域への市場展開を進めることを望んでいるが、それには各国市場の詳細情報など海外進出を加速できる支援策がまだまだ必要と感じている。

「当社の商品は世界中で気軽に楽しんでもらえるアルコール飲料の1つになりたい。実直に品質を磨き上げていくことが酒蔵の役割だ」と今西社長は力を込める。



新蔵オープンの告知画像。梅乃宿酒造の公式HPから拝借した

2.梅乃宿酒造株式会社(奈良県葛城市)
海外への進出は2002年にアメリカから始まり、現在は25の国・地域へ広がりを見せている。(中略)その割合は全体の4割と他社よりもかなり高くなっている。

同社では比較的早い時期から海外取引に取り組んだことから、いろいろな経験をノウハウとして蓄積できており、2018年には奈良県海外展開リーディングカンパニー(輸出)表彰を受賞している。

(P15)同社の場合海外における代理店は基本的に1国1社としており、選定にあたっては、その国にはどういう市場があって、市場規模や酒類消費の構成割合がどうか、その代理店がどの市場を得意としているか等、同社の販売戦略に沿った観点で代理店を見極めている。

コロナ収束後は、主要な国・地域に続き更なる拡大を見据える。ただ、新しい国への進出は種まきから収穫までに長い時間が必要なことから、できる限り対象を広げて種をまいていく方針だ。

(P17)今後の展開に向けた方策
(1)地域としてのブランドの確立
 ①奈良酒(ブランド価値の向上) 「古都のお酒で乾杯しよう実行委員会」が進めた「奈良しゅわボール」プロジェクトは、近畿経済産業局「地域ブランド」活用の第1号事例となった。奈良の地酒を炭酸で割る日本酒ハイボールという飲み方を提案し2022年1~3月に奈良市でフェアを開催した。今後、同実行委員会は歴史×奈良酒でも物語を作りブランド価値を高めることにも挑戦していくとしている。

 ②「GI(地理的表示)制度」の認証(の促進) 地域のブランド化には大変有効な制度で、メリットとして以下が挙げられる。製造されたお酒とその産地とのつながりが明確になり、「地域ブランド」としての付加価値向上が期待できる。/他の製品との差別化も図れ、行政の取り締まりが可能となるため、模造品の流通を防ぐこともできる。似たような表示も禁止されるため、 努力して築き上げた地域のブランドへの「タダ乗り」も防止できる。

 ③奈良と日本酒の所縁(ゆかり)(のアピール) 酒の神を祀る奈良県桜井市三輪の「大神神社」のご神体である三輪山の杉の葉で作られた杉球(杉玉)を「酒林(さかばやし)」と呼び、新酒ができる時期に酒蔵や酒販店の軒先に飾られることも多い。/現在の奈良県奈良市にある菩提山正暦寺で作られた「菩提泉」(ぼだいせん)を最初の日本酒(清酒)とする説もあり、同寺には「日本清酒発祥の地」の碑が立っている。「菩提泉」は、現代の日本酒造り技術にも通ずる様々な卓越した技術によって醸されたとされる。

(P18)(2)国、地域ごとに濃淡のある情報提供力の向上
 ① 輸出実績の上位(国への対応) アメリカ、中国などは市場が大きく、伸ばせる余地が大きいものの、市場としてはまだまだ未知の部分もある。マーケットインの調査として、例えば、「日本産酒類輸出に向けた調査結果 最終報告書(令和3年)」の発展施策として、既存進出の国・地域の深堀りを進めることは有効と考える。

 ②フロンティア国(への対応) 次のグループとなる国・地域への拡大については「フロンティア国における酒類輸出拡大支援」で経済交流が活発化することにより輸出の増加が期待できる国(タイやオーストラリアなど9か国)を対象とする。令和4年度事業で商談会を実施予定で、情報の質・量の面で充実が期待できる。

 ③海外の輸入業者の情報(の提供と収集) 「日本産酒類輸出促進コンソーシアム」では輸入業者、現地の大手小売店や飲食関係のバイヤーとの商談会を企画している。また、「酒類輸出コーディネーター」を設置し北米、アジア、欧州に10名を配置し現地バイヤーの発掘、情報収集、商談サポートを行い、より実効性の高い支援策に踏み込んでいる。

(3)アフターコロナに向けた早急な対応
新規コンテナの確保や手配・輸送など運営の効率化について国をあげて対処すべき問題である。

(P19)(4)マーケットインの経営戦略
近年、各蔵でコンセプトを明確にした高品質の商品が販売されている。蔵元自身もさらに商品力を磨き、有望な市場へ思い切った経営資源投入を図ることが重要である。

(5)県内でのインバウンド向け発信
酒蔵の見学ツアーや試飲など日本酒をテーマにしたイベント、スタンプラリーなどの仕組みづくり、外国人向けツアーのプロデュースなどインバウンド旅行客の記憶に残る体験をしてもらい、自国へ戻ってからも奈良の日本酒のファンとなってもらうことが重要である。また、他の観光資源との連携を目指すことで、地域一体の取り組みへの広がり、単発のイベントで終わることのない通年型の観光持続性の確保など地域活性化と日本酒の普及の双方に相乗効果が期待できる。

おわりに
対策の主体として、①輸出支援策、コロナ対策は国・自治体などの支援機関が行う。②ブランド化や商品力や販売力強化は酒蔵が行う。③広報や地元の盛り上がりの創出は我々シンクタンクなどの協力者が行う。そして、それぞれが一体となって盛り上げていくことで奈良の日本酒がより一層光るものになっていく。こうしてブランド力を持ちステータスを向上させた奈良の酒をできるだけ広い地域で、多くの方に楽しんでもらいたい。

国内で日本酒の出荷額が伸び悩んでいることは聞いていたが、逆に輸出がこんなに伸びていたとは!しかも全国の酒蔵の輸出割合は5.6%なのに、奈良県は22.5%、実に4分の1近くが輸出に回っていたとは!

「最近は●●酒造の酒が手に入らない」というぼやきを聞いていたが、これは本当だったのだ。この状況が続くようならいつかは酒樽が底をつく。今から設備投資をして、奈良酒を増産してほしいものだ。梅乃宿酒造は、今年(2022年)7月1日に新蔵を竣工されたが…。

以前、ある酒販店と組んで、「奈良の地酒と地場産品を楽しんでもらおう」というイベントをやったことがある。私は日本酒の歴史を、酒販店の社長が奈良酒の特徴などをお話しした。イベントの最後に、ある老紳士から手が挙がった。「私は今日まで、こんなに奈良の地酒が美味しいとは知らず、ひたすら大手メーカーの酒ばかり飲んできて今、大いに後悔しています。明日からは奈良酒に切り替えます!」とおっしゃって、会場内から拍手が巻き起こった。

これからも奈良の酒造業界は、「おわりに」にあったように、国・自治体による輸出支援、酒蔵によるブランド力・販売力の強化、シンクタンクやコンサルによる演出や認知度の向上に取り組んでいただきたい。この美味しい奈良酒を全世界に広めましょう!



コメント
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