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不況が人生観を変える

2009年05月16日 | 日々是雑感
面白い新聞記事を読んだ。フジサンケイビジネスアイの「技ありマーケティング」だ。3回の連載で、それぞれのタイトルは「(上)節約意識 逆手にチャンス」(5/5付)「(中)大不況は人生観も変える」(5/6付)「(下)こだわり消費には物語性」(5/8付)だ。筆者は電通総研・消費の未来研究部長の四元正弘(よつもと・まさひろ)氏である。

《リーマンショックを契機に、一気に冷え込んだ日本の消費。一部に下げ止まりの兆しもみられるものの、消費者心理は「厳冬」のままだ。しかし、こうした最悪期にもかかわらず、消費者の心をつかんで離さない商品・サービスも存在する。現在の消費実態を分析し、売れる商品づくりのヒントなどを探る》という。

私自身も、最近はデパートへ立ち寄っても、目的のものだけ買うとさっさと立ち去っている。財布のヒモを締めていることもあるが、それ以上に「家には必要なものが揃っているし、これ以上買っては邪魔だ(家が狭くなる)。それほど画期的な新製品が生まれているわけでもないし…」という心理が働くのだ。必ず立ち寄っていたデパ地下も「食べ物は、家で用意しているもので十分」と素通りしている。こういう「厳冬」の消費者心理に対し、売り手はどう対処すればよいのか、記事の要点を列挙してみる。

【(上)節約意識 逆手にチャンス】
《電通総研では、まず同じように絶望のふちに立たされた第1次石油危機後の数年間に注目して消費動向を分析。不況期に特徴的に強まる8つの消費志向性を抽出した。その結果、予想通りと言うべきか、目立って強いのが節約意識である》。
http://www.business-i.jp/news/venture-page/news/200905050002a.nwc

《節約を心掛ける消費者に対する最もストレートな対応は、値下げに尽きる。しかし、愚直に値下げをするだけでは、企業の収益力は著しく低下する。それとともに、消費者の心に生まれる「この商品は安くて当たり前」という思い込みがブランド価値をも傷つけ、その回復には多大な費用と期間を要することにもなりかねない。従って、節約意識に応えるにしても、結果的に消費者とのきずなの強化にも貢献する「技ありマーケティング」という発想が重要になる》。

四元氏は、ユニクロ成功の背景を次のように分析する。《例えば同じ値下げでも、薄利を前提とした単純な値下げにとどまらず、値下げを可能にする仕組み(新技術、新ビジネスモデルなど)にも納得・感心してもらい、企業そのもののファンに昇華させる戦略がそうだ。独り勝ちとも言われるカジュアル衣料品店「ユニクロ」の成功の背景には、そのような消費者心理のメカニズムがあるというのが私の見解である》。

【(中)大不況は人生観も変える】
《大不況は人生観の見直しを迫る効能をもっているのかもしれない。第1次石油危機直後の数年間をみると「家族回帰」と「シンプルライフ」志向が同時に強まった》。
http://www.business-i.jp/news/venture-page/news/200905060003a.nwc

《家族回帰志向の背景には、不況で残業が減り、帰宅が早まると同時に、休日は遠出を避けるようになるので、いやが応でも家族関係が濃くなる事情があるようだ。特に子供が低年齢なほど、理想の家族像を意識する傾向がみられる》《のり巻きが簡単にできる「のりまきまっきー」(バンダイ)や、手打ちパスタを自作できる「パスタパスタ」(タカラトミー)がファミリーに人気だと聞く。日常生活の範囲であっても家族全員で盛り上がれるというプチ・ハレ性が人気の秘訣(ひけつ)であり、「Wii」(任天堂)の大ヒットも同根だろう》。

《シンプルライフ志向は、家族回帰志向と連動しつつも、自宅の中をスッキリとさせて快適に暮らしたいという心理の発露だと解釈できる》《成熟した消費者に対して、我慢や質素のシンプルは不評を買うだけだ。今の消費者は「素(もと)の自分・等身大の自分」を素直に肯定する気質が強いことを踏まえると、今の気持ちにピッタリの軽快かつ健康的なシンプルさを訴求することが重要。しかもシンプルは節約とも同調しやすく、エコにも通じる。上手に使えば、不況の今だからこそ、シンプル化は無敵のコンセプトになり得るのだ》。

「我慢せよ」といわれれば反発したくなるが「健康に良い」「エコだ」となれば「それは大切だ」ということになる。このあたりが消費者心理の妙である。

【(下)こだわり消費には物語性】
《節約意識が高いほど無駄な買い物を極力避けようとするため、結果的に「本物」「定番」「一生モノ」「ナンバーワン」などのうたい文句が一層きくようになる。大不況だからこその「買うなら良品」志向にもなるわけだ。そして、良品志向に付随して、商品の短所やリスクを販売員から聞き出そうとする「生ヤリトリ」志向も石油危機直後に一層強まった》。
http://www.business-i.jp/news/venture-page/news/200905080008a.nwc

《私はこだわりの強い消費者は商品を単に買っているのではなく、商品がもたらす「未来の自分」を買っているのだと言い続けている。別の表現をすると、商品が誘う「消費者自身が主人公」の物語性がなければ、こだわりの消費は生まれてこないのだ》。

《「ターゲット消費者→主人公」「不満→敵」「商品・企業→味方」に置き換えて感動的物語を創作し、そこからマーケティングを発想するやり方が、こだわり消費を誘発する有効策なのではないだろうか。このとき最も重要なのが「ご褒美」。これこそが商品の真の価値であり、ここまで物語を描き切らないと、購入への強い動機は形成できない》。

四元氏は、黒烏龍茶成功の要因をこのように掘り下げる。《例えばサントリー「黒烏龍茶」は脂肪吸収抑制機能を訴求するだけでなく、物語のご褒美として「脂っぽい好物を心置きなく味わえる」というメッセージを発信しているために物語性が格段と高まり、消費者は商品の世界観にスーッと入っていけるというのが私の見方だ》。

《不況下の消費者は普段以上に消費に真剣になる。だからこそ、企業も真剣に消費者に対峙(たいじ)すべきだし、不況脱出後にそのような企業が躍進することは歴史が証明済みだ。要は消費者に振り回されるか、それとも消費者の先を行くか。物語マーケティングの発想ができるかどうかが岐路だと思う》。

四元氏がお書きのように、ユニクロやサントリー「黒烏龍茶」成功の要因は、「安さ」と「健康志向」だけでなく、「値下げを可能にしたビジネスモデル」への信頼感や「少しくらい油っぽいものを食べても大丈夫」というおトク感・納得感だろう。節約志向が徹底すれば、「一生モノを買って大事に使おう」という気にもなる。

買う側としては、上記のような売り手の目論見を見抜き、ムードに流されるのではなく、「未来の自分」のイメージをきちんと持ち、冷静な頭で消費しなければならない。売り手と買い手の知恵比べの時代だ。

※トップ写真は、奈良市中町の霊山寺(りょうせんじ)バラ庭園。08.5.25撮影。
コメント (2)
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