が売れているそうである。40万部近いらしい。
私がこの本に興味を持ったのは、帯のキャッチコピー、
「やればできる」というのは、とんでもない思い上がり。
「いくら努力したところでダメなものはダメ」という、学校の先生やPTA、スポーツや実業界、科学などでいわゆる"勝ち組"になれた方々が聞いたらひっくり返りそうな明快な“言い切り”であった。他の40万人もおそらくこのコピーに惹かれてこの本を手に取ったのだろう。
私は曽野綾子氏を嫌いである。しかし、私は心が広いので、嫌いなやつの書いた本でも興味を惹かれればちゃんと読む。
共感できる部分も少しはあった。その第1番目が帯の言葉である。私は、氏の過去の言動から彼女は「"負け組"はただ努力が足りなかった結果である」という考え方のお方だと思っていた。なのでこの本の帯コピーに"?"となって、ついつい手を出してしまったのである。
しかし、その綾子はやっぱりその綾子だった。
「ただ、どんなに運命は不平等でも、人間はその運命に挑戦してできるだけの改変を試みて平等に近づこうとする。それが人間の楽しさである。」(P56-57)はまあ、いいとして、
「...社会主義の思想の強かった国では、自分で仕事を選ぶことも出来なかった。...日本では、何とか頑張れば自分の好きな職業に就ける場合が多い」
んん?今の世の中、「自分の好きな職業に就けている」人がどれほどいるだろうか?「頑張れば自分の好きな職業に就ける、などというほうがとんでもない思い上がり」なのが実態ではないだろうか。
読み進めてみるとことほど左様に、言っている中身が矛盾している場合があまりにも多いのだ。
実は、全体を通読して分かる氏の基本的間な考え方は、実に単純で「自分より恵まれない人々、下を見て自分は幸せだと思え」ということなのである。格差社会の「勝ち組」には都合の良いカビの生えた、ある種宗教特有のイデオロギーでしかない。(ちなみに氏は"ケイケンな"クリスチャン)
氏は、靖国神社に毎年参拝するという。
「あなた方のおかげで日本は戦後××年、平和にやってこられました」と戦没者に報告にいくのだそうである。「安倍首相もおそらくそういう気持ちで参拝しているだろうのに、靖国参拝に反対する奴は何をゴチャゴチャと文句を言うのか、思い上がりもはなはだしい。(P36-37要約、初出は産経新聞のコラム(だよね))」と毒づく。
頭が良いはずなのに「靖国」の成り立ちとなぜ反発があるのかを理解していない(ふりをしている?)、思い上がりもはなはだしいのは、あなたでしょう。
靖国神社は「国体護持」を掲げるれっきとした“宗教法人”(神道)。
国体とは何か?「建国神話にもとづく皇国」のことである。「皇国の拡大で「アジア共栄圏」を構築する」というのが、当時国民を戦争に動員するためのイデオロギーであった。そんな理念を掲げる神社に時の権力者が参拝することに、酷い目にあわされた周辺諸国が反発するのは当然だろう。
ちなみに、「日本は戦後××年、平和にやってこられました」と純粋な気持ちで戦没者慰霊をしたいのなら、「千鳥ケ淵戦没者墓苑」が宗教ともイデオロギーとも無縁(今のところ)の施設としてあるのはご存知のとおり。
氏の慇懃傲慢な思想を再確認できたという意味では"面白かった"が、買って損したと後悔もさせられた本であった。