天穹の果ての残照が薄れ、鈍色の紗がかかり始めると、窓の外の見慣れた景色は刻々と色を失い、地際から立ち昇る夕闇があたりを押し包み始める。
灯点し頃ともなれば、外は闇に沈み込み、直前まで餌台で騒いでいた小鳥たちも、いつの間にか姿を消した。
この季節ならではの、静かに暮れ泥(なず)むひと刻の情景の微妙な変化には魂を奪われる。中緯度帯に固有の情調だろうか?高緯度帯では、薄暮の時間が長過ぎる。
酒杯を傾けながら、過ぎし日々を顧みる。その酒の酔い心地は、まさに値千金!
高校生の昔教科書にあった、蘇軾の七言絶句『春夜』の一節を思い出した。
官吏で詩人の蘇軾は北宋の人、この詩は杭州で詠まれたという。
杭州と当地は緯度で約4度の違いがあるが、ともに同じ中緯度帯、春の夕刻の太陽光線の具合は、さほど大差ないだろう。
【春夜】
春宵一刻値千金
花有清香月有陰
歌菅樓臺聲細細
鞦韆院落夜沈沈
※
歌菅:歌声と管絃
鞦韆:ブランコ
院落:中庭
沈沈:夜の更ける様
漢文の授業で初めて耳にした「夜沈沈」のフレーズは、高校生たちの不謹慎な笑いを誘った。憶えのある方も多いだろう。
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