人には誰でも、忘れることができない人たちが、男女長幼を問わず数多くいる。私の齢になると、すでにこの世に居ない人も多い。出会って半世紀以上忘れないのは、その人たちとの関わりの中で、何らかの強い感作を受けたからに違いない。
交際期間の長短などは関係しない。たった一回しか会っていない人で忘れない人がいる。何かを強く感じ、無意識の裡にその人の記憶を脳の記憶領域にピン留めしたのだろう。高齢になっても忘れず思い出す人とは、そのような人である。
かけがえのない人は忘れなくて当然だが、たった一回しか会っていなくても、表情まで克明に思い出す人がいるのは不思議である。私たちは、無意識の裡に記憶のピン留めをした人たちのことを、随時反復繰り返し思い出し、懐かしんでいるのだろう。だからその人たちの記憶は薄れない。
中には、夢でそれらの人に会う話をよく聞く。甘美な夢もあることだろう。実に羨ましい。
私は残念ながら、夢を見ることが少ないのかすぐ忘れるのか、夢で人に会う幸福を体験していない。
酒呑みたちは、独りで酒を飲む時にはきっと、脳裡にその人たちを想い泛べているのかもしれない。
追憶の人がありがたいのは、変わらないことである。上書きされることも消去されることもない。往時の個人の記憶というものは貴重である。精神衛生を保つ上で、これほど大切なものもないと思う。
この世での束の間の出会いというものは、誰と会ったか?ではなく、会った人から何を感受したか?に尽きるのだろう・・・
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