道々の枝折

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期成同盟

2022年07月12日 | 随想
過日新聞を見ていたら、期成同盟という黴の生えた古い言葉が目についた。この旧態の言葉を目にしたのは久しぶりである。

「列島改造論」を著した田中角栄元首相の国土改造時代には、全国に建設プロジェクトがばら撒かれた。僻地・過疎地でのダムや道路・トンネル、原発、空港、港湾など建設計画が目白押しだった。中には進捗の捗々しくない工事計画も多くあり、全国至る所の山中や、々の海岸・河川に〇〇建設促進既成同盟の立て看板が並んでいたことを憶えている。

リニア中央新幹線建設促進期成同盟会(会長大村愛知県知事)】。これに川勝静岡県知事が静岡県の参加を表明し、会長の大村愛知県知事が承諾したらから、おかしなことになった。
静岡県は県内リニアトンネル工事区間の大井川の伏流水減少問題で、JR東海に科学的な根拠ある説明を求めている。納得がいかなければ、工事区間着工の着手要件である知事の許可をしない方針だ。静岡区間の工事着工が遅滞している原因は、科学的・合理的根拠を示さない(示せないのが本当だろう)JR東海と国土交通省にあるのは明らかである。

国策プロジェクトだからと、大井川伏流水の水量減少の可能性について十分な予備調査を等閑にし、説明を省いて当該区間の工事を見切り発車しようとしたJR東海トップは、ボタンの掛け違いをしたということである。

南アルプス直下を穿つトンネル工事に伴う大井川伏流水の減少の懸念を、払拭できる科学的根拠を提示するのは、率直に言って専門家といえども難しいだろう。掘ってみなければ分からないのが本当だろう。減水量の予測は不可能に近く、万一減水した時は全量戻すと言っても、大井川下流牧之原台地で茶を栽培する多くの茶農家は安心できない。着工が止まっている原因は其処にある。

進捗しない建設に業を煮やして結成された【建設促進期成同盟会】は、建設の促進を求める沿線自治体の集合決起であって、そこに工事遅滞の主因になっている疑問を突きつける静岡県が参加するのは、既成同盟会にとっては、妙な仕儀であろう。

期成をスローガンにして、反対者を排除する為に同盟したのである。成ることを期して同盟したのは、協議を尽くして合意するのとは全く違う手続きである。数を恃んで反対を押し切る為の同盟である。期成同盟会は、JR東海・国土交通省に早くやれとハッパをかける団体である。

辞書によれば、同盟とは、何らかの利害・目的・思想の一致により個人同士・勢力同士が協力を約束すること。 或いは実際に協力している関係及びその組織の謂である。
凡ゆる既成同盟は、事の成就に意見が一致していない場合に、数で反対派を押し切る目的で結成されて来た。

かつて「三遠南信自動車道】の工事がなかなか進捗しなかった時、沿道市町村の道路には、至る所で【三遠南信自動車道建設促進期成同盟】の立て看板が見られた。
今再び【リニア鉄道建設推進規制同盟会】の看板を見るのだろうか?
進捗を妨げているのは、昨年再選された川勝知事の静岡県ただ一つである。既成同盟会側はJR応援団としてどう動くつもりだろう。

地質や環境への影響調査をおざなりに、反対勢力の意見や論拠に聴く耳をもたないで始まった着工第一主義は、静岡県と大井川中・下流域の伏流水利用者の疑問に、真正面から答えようとはしないだろう。期限を定めた大プロジェクトの遅滞は、国家の威信に関わる。政権は、官民挙げて工事を推し進める方策を探るだろう。

愛知県の大村知事をはじめとする沿線自治体の首長たちは、大井川の伏流水問題に配慮する立場になく、期成同盟会での協議はあり得ない。
川勝静岡県知事は、大井川水問題を既成同盟会に説明し正しい認識を求めようとしているのだろうが、大井川中・下流域の水利用者たちの危惧や懸念は、期成同盟会の自治体首長には理解する必要も意思もないだろう。

海底から隆起して、この100万年では毎年4ミリという、世界でも驚異的な速度で隆起しつつある南アルプスに横穴を通し、弾丸のような速さで瞬く間に終着駅に着く夢の高速移動体。鉄道技術者たちに限らず、工学技術者には魅力的な技術が集積しているのだろう。経済効果も多大と見込まれている。オリンピックなどの単発興行イベントとは根本的に性質が違う。

この国家プロジェクトの効果は、私ごとき素人には予測できない。登山で知った南アルプスの類い稀な自然を高く評価する立場から、本音は南アルプス国立公園内の尾根や沢の石ひとつ動かしてもらいたくはない。北米の国立公園の厳しい環境保護を見習うべきである。トンネル掘削の残土を山中に残置するなどもっての外、自然破壊も甚だしい。せめて遺存種ヤマトイワナの聖域だけは、何とか後世の為に遺してもらいたい。




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