よむよま

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柚木麻子「マジカルグランマ」

2019-07-05 19:15:05 | 読む
柚木麻子「マジカルグランマ」朝日新聞出版を読んだ。
愉快痛快であった!
主人公のおばあさんの性格がたまらない!


元女優の老女が、次々と直面する問題を乗り越えていくお話。
主人公の正子は74歳、若いころは脇役の女優だったが、
撮影所で出会った映画監督と結婚して引退、普通の主婦として生きてきた。
いまや夫とは「敷地内別居」状態、一人息子は独立、
自活できるようになって離婚したいと、シニア俳優の事務所に登録している。

カバー表紙絵のかわいらしさから、孫のために助力してくれる、
優しい魔法使いのようなおばあちゃんかと思いきや、
まったくそういうお話ではありませんでした。
正子さんは性格悪い。
嫉妬心も強いし、自分が特別でありたいし、打算的でもある。
シニア女優として仕事を得ようとしたものの、なかなかうまくいかないのは、
年はとっているが、若く見えるから。
憧れの大女優で姉のように慕っている紀子の、
「中途半端なのよ。白髪染めをやめなさい」というすすめに従って、
白髪を隠すのではなく、逆に見せるようにしたら、CMの仕事が来た!
売り出しのイケメン男優が主役で、その優しいおばあちゃん役。
これが大当たりですっかり有名人の人気者になったところで、
離れに住んでいた夫が亡くなった。
近所の人が気づいてくれるまで5日間、
正子さんは、LINEの返事が来ないなぁと思っていただけ。
葬儀の日にワイドショーのマイクを向けられ、正直に、
「うーん、最近は同じ家でもまったく口をきいていませんでしたから」
などと答えてしまい、大顰蹙。
それまで「優しい理想のおばあちゃん」として人気だったから、
あっという間に大悪女のレッテルを貼られてしまう。

CMの仕事も打ち切られ、事務所からはクビになり、お金もない、どん底の状態から、
正子さんは、飛び込んできた映画監督志望の女のコや、
ご近所のママさんや、廃品を集めてゴミ屋敷になってるお隣さんや、
疎遠だった息子や、
これまでは距離のあった人々と、思いもしなかったことに挑戦していくことになる。

マジカルグランマというタイトルは、
「風とともに去りぬ」の黒人の乳母がマジカルニグロと呼ばれているところから。
マジカルニグロとは、白人のために献身的に尽くす黒人のキャラクター。
正子さんは、「私ってマジカルグランマだったのね」
自分が人気が出たのは、世間的に理想とされるおばあちゃん役に自分をはめこんでいたからだと気づく。
そこからはみ出たら非難される。

正子さんは決して「いい人」じゃない。
ここでこの人に優しくしておけば、自分の役に立つかもと計算したりする。
自分がやりたいことのために、いまできることを(人も利用して)力いっぱいやる。
人と力を合わせてうまくいったからといって、
急に悟りを開いて「いい人」になったりしない。
とっても共感できて、おもしろおかしいの。
読んでいくうちに、だんだん笑いが大きくなる。
居場所のわからなかった親友を老人ホームで見つける感動的な展開も、
最後は大笑いした。
SNSやLGBTQも#MeTooもメルカリも自然に出てくる物語で、
新しい空気が流れていて元気がいい。

映画化したらおもしろそうなんだけど、誰がやれるかなぁ?
樹木希林さんはもういないしなぁ。
草笛光子さんは、
正子さんが美容師に、真っ白な白髪のきれいな人は
むしろカラーリングしてますよと聞いて、
「じゃ、あの人やあの人も?」と言う場面があって、そこで浮かんじゃったからねえ。
コメント
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