硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 41

2021-05-03 21:02:24 | 日記
これほどに私を女性としても好きでいてくれる男性はこの先現れないかもしれない。
しがらみに囚われている以上、これ以上考えても何も変わりはしない。
何を恐れているのだろう。これまでの生活が失われる事が怖いのか。傷つくことが怖いのか。
長い時間を掛けて獲得した鎧と盾は、こんなにも脆くて弱いものだったのか。
いや、違う。鎧と盾は幻想でしかなかったのだ。
もし、幻想ならば、彼は私の凝り固まった価値観を変えてくれるかもしれない。
その可能性に賭けてみるのも人生ではないか。
そうだ、もう一度、きちんと話し合えばいい。真意を確かめればいい。
踏み出せば引き返せなくなるかもしれない。大きく道を踏み外すかも知れない。
それでも、覚悟さえあれば、失敗したって、また立ち上がれるはずだ。

便箋を折りたたみ封筒に入れなおす。胸に当て祈る。どうか、この想いが真実でありますようにと。

それからしばらくの間、私は沈黙を保った。覚悟は決めていたが、立場的に、私からのアクションは避けた方が無難だと思ったからだ。
その間、彼も、何も言ってはこなかったが、会う度に何か言いたそうなそぶりを見せていた。
その度に高鳴る鼓動は隠しきれれず、足早に彼から離れた。そんな稚拙な行為を幾度となく繰り返した。
秋が深まった頃、彼は体調不良を訴え、助けを求めにやってきた。
私は、いつものように体調を観察し、「異常は見つからないけれど、空いているベッドで休んでいきなさい。」と助言すると、私をじっと見つめ、ゆっくりと切り出した。

「お返事・・・。聞かせてくれませんか。」

待ち望んでいた言葉に、ときめいている自分がいた。それでも、感情を表に出さないように冷静を装った。

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