「あれっ。これって・・・。」
地方版の右端に目をやると、幹の真ん中から折れている大楠の写真が掲載されていた。記事の終わりには「市の教育委員会はこれまで保存のために様々な手を講じてきたが、このほど伐採を決定した。」とあった。
写真の中の大クスは、私が幼かった頃、数年間過ごした松之郷の家のとなりにあった塚森の大クスに間違いなかった。
「大クス・・・。まだあったんだなぁ」
写真を見つめノスタルジーに耽っていると、姉や、寛太兄ちゃん、学校の友達と一緒に駆け回った松之郷の野山や川の風景が少しずつ蘇ってきて、衝動が沸き上がった。
「そうだ、松之郷に行ってみよう!」
せっかちな私の心は、もう松之郷にある。紅茶を飲み干しそそくさとカップを洗う。
「今どうなってるのかなぁ」
母さんの退院と、姉の進学を機に引越してから早40数年。それ以来一度も訪れなかった松之郷。元気なうちにこの目で確かめて置きたい。そして、よく遊んだ大クスの最期も見届けておきたい。でも、あかりちゃんが3時半には帰ってくるからそれまでに戻らなければいけない。
私は急いで身支度を整え、水色の軽乗用車に乗り込んだその時、ふと姉の顔が浮かんだ。
「そうだ、姉さんもさそってみようかな。」
私は姉の都合も考えずカバンから携帯電話を取り出し連絡すると、2回コールで繋がった。いつも後で反省するのだけれど、衝動的に動いてしまう癖は60を過ぎても未だに治らない。
「もしもし、お姉さん。」
「あら、久しぶりねぇ。元気にしてた。」
はつらつとした声で答える姉は相変わらず元気そうだ。
「うん。元気よ。お姉さんは? 」
「なんとか元気でやってるわよ。でも、あなたから電話なんて珍しいわね。なんかあったの? 」
「別に大したことはないんだけれど・・・。」
私は朝刊に掲載されていた大クスの事をざっと伝えると、以外にもあっさりとした返事で「あらぁ。そうなのね。なんだか残念ねぇ。」と言った。
「それで、これから見に行くんだけれど、お姉さんも一緒に見に行かないかなと思って」
「えっ。今から? 」
「うん。やっぱり無理? 」
「そりゃあ駄目にきまってるでしょう。仕事だもの。相変わらずいきなりだわね。」
「いやぁ~。休みだったらいいかなと思ってたんだけれど・・・。」
「せっかく誘ってくれたのに、なんだかごめんね。」
「ううん。こっちこそ、ごめんね。仕事中に電話しちゃって。」
「かまわないわよ。・・・そうだ、明日は休みだからこっちに来ない? 一緒に父さんと母さんのお墓参りに行きましょうよ。」
「・・・うん。そうする。ずいぶん行ってないしね。」
「そうよ。貴方、ちっともこないんだから。」
「ごめん。行こう、行こうとは思ってはいるんだけれど、なかなかねぇ。」
そう言うと姉はため息をついてから、
「・・・貴方らしいわね。でも、明日は必ず来るのよ。」
「うん。」
「出る時は必ず連絡頂戴ね。 待ってるわよ。」
「うん。わかった。」
「じゃあもう仕事に戻るから電話切るわね。」
「うん。仕事中にごめんね。」
根っからの活動派である姉は、子育てを終えた後、大学時代の友人と育児に関するNPOを立ち上げ、子育てに奮闘するお母さんたちを支援している。その話を聞いた時、私は姉らしい選択だなって思った。
地方版の右端に目をやると、幹の真ん中から折れている大楠の写真が掲載されていた。記事の終わりには「市の教育委員会はこれまで保存のために様々な手を講じてきたが、このほど伐採を決定した。」とあった。
写真の中の大クスは、私が幼かった頃、数年間過ごした松之郷の家のとなりにあった塚森の大クスに間違いなかった。
「大クス・・・。まだあったんだなぁ」
写真を見つめノスタルジーに耽っていると、姉や、寛太兄ちゃん、学校の友達と一緒に駆け回った松之郷の野山や川の風景が少しずつ蘇ってきて、衝動が沸き上がった。
「そうだ、松之郷に行ってみよう!」
せっかちな私の心は、もう松之郷にある。紅茶を飲み干しそそくさとカップを洗う。
「今どうなってるのかなぁ」
母さんの退院と、姉の進学を機に引越してから早40数年。それ以来一度も訪れなかった松之郷。元気なうちにこの目で確かめて置きたい。そして、よく遊んだ大クスの最期も見届けておきたい。でも、あかりちゃんが3時半には帰ってくるからそれまでに戻らなければいけない。
私は急いで身支度を整え、水色の軽乗用車に乗り込んだその時、ふと姉の顔が浮かんだ。
「そうだ、姉さんもさそってみようかな。」
私は姉の都合も考えずカバンから携帯電話を取り出し連絡すると、2回コールで繋がった。いつも後で反省するのだけれど、衝動的に動いてしまう癖は60を過ぎても未だに治らない。
「もしもし、お姉さん。」
「あら、久しぶりねぇ。元気にしてた。」
はつらつとした声で答える姉は相変わらず元気そうだ。
「うん。元気よ。お姉さんは? 」
「なんとか元気でやってるわよ。でも、あなたから電話なんて珍しいわね。なんかあったの? 」
「別に大したことはないんだけれど・・・。」
私は朝刊に掲載されていた大クスの事をざっと伝えると、以外にもあっさりとした返事で「あらぁ。そうなのね。なんだか残念ねぇ。」と言った。
「それで、これから見に行くんだけれど、お姉さんも一緒に見に行かないかなと思って」
「えっ。今から? 」
「うん。やっぱり無理? 」
「そりゃあ駄目にきまってるでしょう。仕事だもの。相変わらずいきなりだわね。」
「いやぁ~。休みだったらいいかなと思ってたんだけれど・・・。」
「せっかく誘ってくれたのに、なんだかごめんね。」
「ううん。こっちこそ、ごめんね。仕事中に電話しちゃって。」
「かまわないわよ。・・・そうだ、明日は休みだからこっちに来ない? 一緒に父さんと母さんのお墓参りに行きましょうよ。」
「・・・うん。そうする。ずいぶん行ってないしね。」
「そうよ。貴方、ちっともこないんだから。」
「ごめん。行こう、行こうとは思ってはいるんだけれど、なかなかねぇ。」
そう言うと姉はため息をついてから、
「・・・貴方らしいわね。でも、明日は必ず来るのよ。」
「うん。」
「出る時は必ず連絡頂戴ね。 待ってるわよ。」
「うん。わかった。」
「じゃあもう仕事に戻るから電話切るわね。」
「うん。仕事中にごめんね。」
根っからの活動派である姉は、子育てを終えた後、大学時代の友人と育児に関するNPOを立ち上げ、子育てに奮闘するお母さんたちを支援している。その話を聞いた時、私は姉らしい選択だなって思った。
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