硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-10 18:31:39 | 日記
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 駅までの道で、父親の転勤先のイギリスへ、ユキミもついてゆき、向こうで大学を受験する事を聞いた。 それも、明日出発なのだという。
 突然の事に動揺しながらも、俺には考えの及ばない選択に衝撃を受けて、「ユキミは凄いな。俺なんか、浪人して大学を目指そうって言うのにな」と、言うと、「親の仕事の都合だから、仕方がなくだよ。それよりも、こんな僕と友達になってくれて本当にありがとう。おかげですごく楽しい学生生活を送れたよ」と軽く頭を下げて微笑んだ。俺も「勉強を教えてもらって、すごく助かった。塾にも通わず学力が上がったのはユキミのおかげさ。ありがとうな」と、礼を言った。

すると、ユキミは急に涙ぐんで、うつむくと、

「ううん・・・・・・。耀司君と、離れてしまうのが辛い。こんな・・・。事、聞いてびっくりするかもしれないけど、もう、逢えなくなるから、・・・・・・敢えて言うね・・・・・・。僕は、耀司君のことが好き。けど、僕は男だから、ずっと苦しんでた・・・・・・。気持ち悪い・・・・・・、って思うよね。でもね、これが僕なんだ。最後に、こんな事を言ってほんとにごめんね」

そう言い終わると、声を押し殺して、ぽろぽろと涙をこぼした。

 その時、正直どうしていいか分からなかったけど、ユキミがどうであろうと、ユキミには変わりないし、人として尊敬している事も変わらない。だから、俺は、

「気持ち悪いなんて思わない。ただ、俺は女子の方が好きという違いだけさ。それから、キリスト教圏は同性愛には厳しいらしいから、上手く立ち振る舞えよ」
と、冗談交じりに応えた。すると、ユキミは泣くのを止めて、

「ずるいなぁ、そういう所。でも、耀司君らしい」

といって、微笑んだ。その時、ユキミは心は女子なんだなと初めて思った。

「じゃあ、これから、最後の晩餐だ。ラーメン食いに行こうぜ」

「うん、ありがとう」

俺たちは、いつものようにラーメンを食い、いつものように、手を振って、互いのホームに降りて別れた。

そんな事を想い出していたら、浩二は、右側の市営球場を観て、野球少年時代の話を始めた。
小学生の頃、誰もが、一度は野球選手を夢見てたくらいだから、思い出深いのは確かだ。


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