硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 52

2021-05-21 21:05:15 | 小説
「そやな、ここはきちんと説明せなあかんな・・・。うちが好きやった人は大学からの付き合いやって、就職先の職場で出会ったんがお父さんや。お父さんは、職場の先輩やったから仕事の事とか教えてもらってたんやけど、仕事上がりに奢るからって、ごはんやら、飲みにやら行くようになって、しまいには、告白されたんやけど、彼いてるって言うても、それなら、友達からでええからって言われて、なんとなく始まったんや。」

「彼氏がいるのにぃ? 」

私の指摘に、口を押さえて明るく笑う母。ワインを口に含むと、分かってたと言わんばかリに応える。

「突っ込まれると思たわ。けど、仕事場の先輩やし、仕事教えてもらってるし、そんなで断ったら、仕事しづらくなるやん。それに、会社の上司やのに友達からって理由がなんか新鮮やったし、仕事から離れたら一切上司づらせーへんくて、本当に誠実な人なんやなって思たから、この人の事もうちょっと知りたいなって思ったんや。」

「う~ん。それでも、好きでもない人と、とりあえずって事がわからない。」

「ううっ。確かに。きららはええ子やな。純粋。純白。」

「茶化さないでください。それで。」

「ああ、ごめんごめん。」

「余り悪いって思ってないでしょ。」

「バレてしもたか。」

そう言って、また舌を出す。さんまさんか。

「きららの言い分もわかるんよ。けどな、恋愛って一途なものであると同時に多情なものでもあると思うんよ。十人十色って言うやろ。だから、物語が生まれるし、うちたちは、それを享受してる。仮に、皆が一途な恋しかせーへんかったら、小説なんか生れへんのと違う? そんなんやったら、紫式部もシェークスピアも一瞬で筆折ってるわ。」

筆折ってるって例えが面白い。でも、その思索には深く同意だ。


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