始発を迎える駅舎には駅員以外の姿は見えなかった。次郎は新宿ゆきの切符を買い、しんとした駅舎の中の椅子に座り列車が来るのを待った。定刻が迫って来ると遠くの方から汽笛の音が聞こえ、蒸気機関車が煙を吐きながらプラットホームに入ってくるのが見えた。次郎は立ち上がり改札で切符を切ってもらうと、駅員に「ありがとう。」と言って軽く会釈をし、ホームにでた。
汽車が定刻通りに到着し、停止位置にピタリと止まると、次郎は日本の鉄道の素晴らしさに感心しつつ客車に乗り込んだ。車内の人影はまばらであったので、中ほどの窓際の席に腰掛けると、田園の向こうに何度も通った飛行場が見えた。
警笛が鳴り、蒸気を吐き出す大きな音と共に汽車はゆっくりと走りだし、田園の中を黒い煙を吐きながら加速してゆくと、車窓から見える飛行場がどんどん小さくなってゆき、やがて視界から消えていった。自然豊かな景色をぼんやり観ていた次郎は、不意に、もうこの地を訪れる事はないだろう思った。
塩尻駅から新宿へ向かう中央線の汽車に乗り換えると幾分か多くの人が乗っていた。それでも昨夜寝付けなかったせいもあってか、揺れを感じながらいつの間にか深い眠りについてしまったが、高地とは違ったじっとりした空気に目が覚めると、車窓から見えた風景に次郎は愕然とした。
列車は八王子駅を出た所であったが、窓から見える景色は辺り一面焼け野原と化していた。「こんなに酷いとは・・・。」と、驚いていると、隣に座っていた陸軍将校の制服を着た青年が次郎に向けて「驚いているようですが・・・。 」と、尋ねてきた。次郎は戸惑いながら、
「ええ。空襲があったと聞いてはいたのですが、ここまで酷いとは・・・。」
と、答えると、青年将校はためらいながら切々と話しだした。
汽車が定刻通りに到着し、停止位置にピタリと止まると、次郎は日本の鉄道の素晴らしさに感心しつつ客車に乗り込んだ。車内の人影はまばらであったので、中ほどの窓際の席に腰掛けると、田園の向こうに何度も通った飛行場が見えた。
警笛が鳴り、蒸気を吐き出す大きな音と共に汽車はゆっくりと走りだし、田園の中を黒い煙を吐きながら加速してゆくと、車窓から見える飛行場がどんどん小さくなってゆき、やがて視界から消えていった。自然豊かな景色をぼんやり観ていた次郎は、不意に、もうこの地を訪れる事はないだろう思った。
塩尻駅から新宿へ向かう中央線の汽車に乗り換えると幾分か多くの人が乗っていた。それでも昨夜寝付けなかったせいもあってか、揺れを感じながらいつの間にか深い眠りについてしまったが、高地とは違ったじっとりした空気に目が覚めると、車窓から見えた風景に次郎は愕然とした。
列車は八王子駅を出た所であったが、窓から見える景色は辺り一面焼け野原と化していた。「こんなに酷いとは・・・。」と、驚いていると、隣に座っていた陸軍将校の制服を着た青年が次郎に向けて「驚いているようですが・・・。 」と、尋ねてきた。次郎は戸惑いながら、
「ええ。空襲があったと聞いてはいたのですが、ここまで酷いとは・・・。」
と、答えると、青年将校はためらいながら切々と話しだした。
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