UMEDA-city_A.D.2975年

2010年05月09日 | 小説:人生はコーヒールンバだな
UMEDA-city,Mars、地球暦2,975年。

火星はすっかり人類の住む星として開発されている。

今、火星は地球同様酸素と窒素をベースにした大気の中、人類が多く生息している。人類といっても、2,000年初頭に地球に生きていたものとは生物的特性は変わっているので、今時、地球に降り立つには生命維持装置の着用が必要となる。しかし、最近は懐古趣味として、地球旅行が流行しているという。

火星開発にとって重要な資源をもたらしたのは、土星の衛星タイタンであった。タイタンに豊富に存在する窒素を火星に運び、太陽電池で得られる巨大な電力で地球から運んだ二酸化炭素を電気分解して酸素を作る。次の段階で、地球に近い大気成分が出来た段階で植物(といっても1,000年ほど前に地球で生息していた植物からバイオ技術で"進化"させたものだが)を繁殖させることによって、電力を使わずに二酸化炭素と酸素の循環環境を作り出した。いまでも、人類が活動する際の動力源が太陽発電による電力であることは言うまでもない。

こうして、火星を人類が生活できる場とした結果、土星の惑星タイタンが次なる人類の進出する地球外星となった。

いまやタイタンは液体メタンの雨が降り、メタンやエタンの川や湖があるという昔の景色はない。そこはほとんど大気のない荒涼とした砂漠地帯が広がっているだけだ。

幾度かの有人探査と受け入れ施設の構築の後、初めて移住者を乗せた宇宙船がタイタンに向けて出発しようとしている。



3連のイオンエンジンを装着した宇宙船が、出発の準備を整えて移住者たちの搭乗を待っている。

この宇宙船に乗り込む移住者たちは、歴史時代に地球のヨーロッパ大陸からアメリカに渡った人類のように居場所が無くなったからしかたなく移住するといった、後ろめたい気持ちはまったく、無い。そういったメンタリティは地球から火星に移り住んで400年の間に彼らのDNAからはすっかりと消え去った。

常に変わり続けることが自らの存在そのものであると考える新・新人類(ホモ-リボルジオネ:Homo-rivoluzione:)たちを乗せて、自己実現の旅が始まるのである。

目指すははるか 8.5AN先の土星惑星タイタンである。


2010年5月8日梅田スカイビル空中庭園展望台にて行われた「星空観望会 in 空中庭園」体験に刺激されて書きました。