竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

かなかなのかなかなとなく夕かな 清崎敏郎

2020-09-11 | 今日の季語

かなかなのかなかなとなく夕かな 清崎敏郎

十七音のなかで十音が「かな」で表記の句
ほとんど韻律の面白みでの作品に思えるが
あのものかなしげな鳴き声
それも夕のかなかな
充分に詩情をつつんだ一句である
(小林たけし)

【蜩】 ひぐらし
◇「かなかな」
晩夏から秋にかけて、暁方や夕暮れに鳴く蝉。カナカナ、カナカナと涼しく美しい一種哀調のある声で鳴く。《蝉:夏》

例句 作者
あだし野の蜩やまぬまま 灯刻 薄田久依
かなかなかなどこかに落とし穴がある 星水彦
かなかなかなカトリーナなるテロリスト 尾田明子
かなかなが沈む記憶の壺の中 塚田佳都子
かなかなと呼びかなかなと応えたり 髙野公一
かなかなにかなけり足してけふを足る 清塚和風
かなかなにかりそめの閨こわれつつ 佃悦夫
かなかなにちょろまかされているような 林正行
かなかなのいつも見えざるところから 神田ひろみ
かなかなのときにうれしきこゑをだす 渡辺マチ子
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アフリカの縞馬迷う野分かな 田井淑江

2020-09-10 | 今日の季語


アフリカの縞馬迷う野分かな 田井淑江

そうかアフリカには台風はないのか
ここを作者はシマウマの落ち着かない様子から理解した
こんな発見も一句となる
(小林たけし)


【野分】 のわき
◇「野わけ」 ◇「野分晴」 ◇「野分後」(のわきあと)
雨を伴わない秋の強風。草木を吹き分けるほどの風というのでこの名がおこった。野分のあとはからりと晴れるが、秋草や垣根の倒れた哀れな情景が見られる。「秋の風」より

例句 作者

あなうらのひややけき日の夜の野分 桂信子
あをあをと瀧うらがへる野分かな 角川春樹
いろいろの枕の下を野分かな 加藤郁乎
なんと云ふさだめぞ山も木も野分 細谷源二
オリーブは眠れる木なり野分だつ 浦川聡子
ハルモニの後ろ手に立っていて野分 橋本直
モンゴルの野分の音か馬頭琴 今泉三重子
ヴィバルディの音を捉へてゐて野分 加藤瑠璃子
五十鈴川に手を浸しゐる野分かな 江口千樹
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しらぎくの夕影ふくみそめしかな 久保田万太郎

2020-09-09 | 今日の季語



しらぎくの夕影ふくみそめしかな 久保田万太郎

万太郎俳句ここにあり
万太郎らしく叙景でありながら叙情たっぷりの味わい
最近はこうした句にはなかなか遭遇しないのが残念だ
(小林たけし)


【菊】 きく
◇「菊の花」 ◇「白菊」 ◇「黄菊」 ◇「大菊」 ◇「小菊」 ◇「厚物咲」(あつものざき) ◇「懸崖菊」(けんがいぎく) ◇「菊の宿」 ◇「乱菊」
キク科の多年草。江戸時代中期以降、園芸用の華麗な品種が作られるようになった。現在も広く栽培され大輪から野趣豊かな小輪まで、種類が非常に多い。

例句 作品

かけがえのなき人といて菊日和 岡地好恵
くらがりに供養の菊を売りにけり 高野素十
この菊の白さは人をあやめるほど 後藤昌治
ていねいに菊をいたわる老夫婦 堀保子
とりどりの小菊むかし駄菓子屋で 川西ハルエ
どさと菊活けて湯殿や二人暮し 柳澤和子
ひとり寄れば一人来る膝菊日和 大島時子
わがいのち菊にむかひてしづかなる 水原秋櫻子
わたしの顔が覗かれており白菊黄菊 篠原信久
一叢の黄菊に山気ひそみをり 鈴木詮子
一旦は土に下ろして菊の束 杉浦圭祐
一本の白菊といふ訣れかな 熊野レ
ニ子
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何かさかさまの色なる雁来紅 中井洋子

2020-09-08 | 今日の季語


何かさかさまの色なる雁来紅 中井洋子

葉鶏頭のどくどくしい色を
さかさかな色と言い切る潔さに惹かれた
葉鶏頭といわず雁来紅というところに
作者の本気を感じる
(小林たけし)




【葉鶏頭】 はげいとう
◇「雁来紅」(がんらいこう) ◇「かまつか」
葉の形が鶏頭に似ている。茎は太く直立して2メートルにもなり、多数の葉をつける。秋、枝先の葉が黄、紅、赤などに色づき重なり合うのが華麗。雁が飛来するころ葉が美しく色づくので「雁来紅」ともいう。

例句 作者

剣道着干すや燃え立つ葉鶏頭 宇都宮靖
川風に心から覚めて雁来紅 廣川公
肩越しの沖の哀しみ葉鶏頭 中西誠
色彩を遣ひ果して葉鶏頭 神田ひろみ
葉鶏頭まずかたぶくを空という 平田薫
解脱など思いもよらぬ雁來紅 本田幸信
赤すぎはせぬか参道の葉鶏頭 綾野道江
雁来紅や中年以後に激せし人 香西照雄
雁来紅思ひすごしのやうな雲 花房八重子

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白露に薄薔薇色の土龍(もぐら)の掌 川端茅舎

2020-09-06 | 今日の季語


白露に薄薔薇色の土龍(もぐら)の掌 川端茅舎

土の中から土竜が
季節の変わり目をたしかめるかに出てきた
作者はじっと観察する
どうみても汚い醜い気色悪い土竜なのだが
その掌のきれいな薄桃色を発見した
それを薄薔薇色と表する鮮やかさに驚くばかりだ
(小林たけし)


【白露】 はくろ
二十四節気の一つ。秋の陰の気が積もって露を結ぶの意。陽暦の9月7日、8日頃に当たる。同じ「白露」でも「しらつゆ」は草などに結ばれた露の白さを表現するものである(秋・天文)。

例句 作者

かの地主白露に白き鶏放ち 久保田慶子
ゆつくりと湯呑砕ける白露かな 小豆澤裕子
二階から声のしてゐる白露の日 桂信子
白露に阿吽(アウン)の旭さしにけり 川端茅舎
白露の日神父の裳裾宙に泛き 桂信子
白露の月窓にしみじみ帯を解く 河野多希女
白露や一匹の虫のわれが佇つ 新谷ひろし
白露過ぐ鯉に長途のあるごとし 戸田和子
閾をすべる雨戸いくつも白露の日 桂信子
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真直なる老師の座礼百日紅 たけし

2020-09-04 | 入選句
真直なる老師の座礼百日紅 たけし



朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選を頂きました



掲句は法話を説く

老師の座礼の美麗さに感動した際のもの

いくつか季語を須高したり

措辞を工夫したりしてトライしたものの成功しなかったのだが

ここで落着した
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喪主といふ妻の終の座秋袷 岡本眸

2020-09-03 | 今日の季語


喪主といふ妻の終の座秋袷 岡本眸

秋袷は季節のうつろいの儚さを本意とする季語
掲句は女主人の立ち位置の変わりように哀れを詠んでいる
妻の終の座
見事な措辞に身をつまされる
(小林たけし)


【秋袷】 あきあわせ(・・アハセ)
◇「秋の袷」 ◇「後の袷」
秋になって着る袷のこと。昔は陰暦10月1日、袷から綿入に衣替えをした。和服離れがすすんで実感が薄れたが、季節の変化に合わせた趣向が込められた語である。

例句 作者

つゝましや秋の袷の膝頭 前田普羅
雨の日の客と出でたつ秋袷 原 石鼎
秋袷火の見櫓の鐘しづか 飯田龍太
ちかぢかと富士の暮れゆく秋袷 綾部仁喜
秋袷着て端然と痩せゐたり 日下部宵三
秋袷酔ふとしもなく酔ひにけり 久保田万太郎
啄木のむかしの人の秋袷 富安風生
すれちがい移り香残し秋袷 瀧瀬はる子
木洩れ日の素顔にあたり秋袷 桂信子
秋袷遊びごころはまだ少し 長谷川せつ子
立山に雪ふれば秋袷 本田一杉


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生きながら蜻蛉乾く石の上 宇多喜代子

2020-09-02 | 今日の季語


生きながら蜻蛉乾く石の上 宇多喜代子

この蜻蛉は己自身を投影しているのかも知れぬ
周囲の知己が衰えるのを感じそれを乾くと表現する
乾くとはみずみずしさの衰えの事
干からびた蜻蛉をみての1句であろう
(小林たけし)


【蜻蛉】 とんぼ
◇「とんぼう」 ◇「あきつ」 ◇「蜻蛉」(やんま) ◇「鬼やんま」 ◇「塩辛蜻蛉」 ◇「精霊蜻蛉」(しょうりょうとんぼ)
晩春から秋遅くまでいろいろな種類が見られる。飛ぶ姿が涼しげで、秋の季語とされる。蜻蛉は成虫・幼虫とも肉食で他の昆虫を捕食する。大きな複眼が印象的。

例句 作者

生れたての蜻蛉総身水こだま 野中久美子
立山の晴れて群れ飛ぶ蜻蛉かな 秋元汀石
笠にとんぼをとまらせてあるく 種田山頭火
紐付けて蜻蛉放つM理論 播磨穹鷹
群蜻蛉そらの浅瀬をわたりくる 澁谷道
草の水舐めて蜻蛉しなやかに 近藤栄治
草枕旅にし見舞う鮒・とんぼ 折笠美秋
蜻蛉の渓深ければ高く飛ぶ 広田輝子
蜻蛉の翅の透けたる喫茶店 宮本佳世乃
蜻蛉らはいつも平衡あかね雲 土肥屯蕪里
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先頭はすでにまぼろし風の盆 中里麦外

2020-09-01 | 今日の季語


先頭はすでにまぼろし風の盆 中里麦外

3日3晩、町中が踊り続けるという風の盆
先頭はせでにまぼろし
このフレーズに作者の本音が伺える
目前の踊りの列の先頭のことと解釈もできるが
己の来し方が見えているのかもしれない
この踊りの列は黄泉の国へとつながっている
(小林たけし)



【風の盆】 かぜのぼん
富山県八尾町で9月1日から3日間行われる民俗行事が有名。胡弓の調べに乗せ「越中おわら節」を歌って踊り明かす。暴風を吹かせて稲に害する悪霊を、踊りに乗せて送り出す目的で行うことからこの名がついた。

例句 作者

この世には胡弓の吐息風の盆 森岡保子
ちらほらと話題になりし風の盆 桑垣信子
対岸は燈の帶となる風の盆 長尾信子
幾山河恋いし胡弓を風の盆 田口晶子
深爪の指先愁う風の盆 進藤紫
父はやく死にしあと母風の盆 古沢太穂
立ち方の美男にありぬ風の盆 田口晶子
風の盆朝から鶏の目が濡れて 加藤三陽
山墓は山に囲まれ風の盆 松山足羽
風の盆八尾は哭きに来るところ 白根順子
闇に指返しそらせり風の盆 加藤耕子
街裏に瀬波の白さ風の盆 沢木欣一
踊る身の風となるまで風の盆 国保泰子
踊るとは生きることかも風の盆 中村苑子
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