竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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水洟や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介

2019-11-21 | 今日の季語



水洟や鼻の先だけ暮れ残る 芥川龍之介

水洟や仏観るたび銭奪られ 草間時彦

季語は「水洟(みずばな)」で冬。「奈良玄冬」連作のうち。せっかく奈良まで来たのだからと、寒さをおしての仏閣巡り。あまりの寒さに鼻水は出るわ、先々で銭は奪(と)られるわで、散々である。作者の心持ちは、さしずめメールなどでよく使われる「(泣)」といったところか(笑)。「銭奪られ」で思い出したが、十年ほど前の京都は某有名寺院でのこと。拝観受付窓口のおっさんに「いくらですか」と尋ねたら、ムッとした顔でこう言った。「ここは映画館やないんやから、そういうシツレーな質問には答えられまへんな」。「は?」と、おっさんに聞き直した。すると、ますます不機嫌な声で「『いくら』も何もありまへん。ここは、訪ねてくださる方々のお気持ちを受け取るところですから」と言う。さすがに私もムッとしかけたが、なるほど、おっさんの言うことにはスジが通っている。「ああ、そうでしたね。失礼しました。では、どうやって気持ちを表せばよいのでしょうか」と聞くと、おっさんはプイと横を向いてしまった。とりつくしまもない態度。で、ふっと窓口の上のほうを見たら「拝観料○○○円」と墨書してあった。「ナニ体裁の良いこと言ってやがるんだ、このヤロー。これじゃあ映画館と同じじゃねえか」。そう怒鳴りつけたかったが、そこはそれ、ぐっとこらえて○○○円を差し出すと、おっさんはソッポを向きながらもしっかりと「銭」を受け取り、なにやらぺなぺなのパンフレットを放り投げるように寄越したことでした。ありがたいことです(泣)。『中年』(1965)所収。(清水哲男)

【水洟】 みずばな(ミヅ・・)
◇「洟水」(はなみず) ◇「みづっぱな」
寒気または急激な温度変化に刺激されて鼻から出る水のこと。風邪の症状のひとつでもある。

例句 作者

水洟も郷里艶めく橋の上 飯田龍太
水洟をすすり一茶の墓に来し 青柳志解樹
水洟に暮るるも北の金木駅 藤田あけ烏
水洟にかくれて何を企めるや 稲葉直
水洟や喜劇の灯影頬をそむ 飯田蛇笏
水洟や仏具をみがくたなごころ 室生犀星
水洟や我孫子の駅のたそがれて 石田波郷
澄江堂以後水洟は鼻忘じをり 長谷川鉄夫

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