竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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泣初や日差しのいろの椅子と卓 津川絵理子

2018-08-22 | 今日の季語


泣初や日差しのいろの椅子と卓 津川絵理子


 作者は泣いている。なぜ悲しんでいるのかは分からない。
とにかく感情が破裂しそうで、溢れ出す涙を止めるいかなる手段もない。
南向きの大きな窓ガラスからは、
冬の日差しが目一杯に注ぎ込んで、
作者のいる部屋の奥まで明るく照らしている。
テーブルの上も、そして対面の椅子の背凭れも、
まるで狐の毛色のような、暖かな優しい色に包まれている。
その中で、作者は一人泣いている。感情に任せて、
気の済むまで、我慢するのも忘れて。
お姉さんだから、もう泣かないのね。
遠い遠い昔、まだ作者が子供だった頃、
作者の母はよくそう言ってぐずる作者をなだめたものだ。
そんな母の声が、今でも耳元に聞こえてくるようだ。
しかし、大人になっても泣いたっていいのだ。
皆どこかで泣いている。
大人は、それを隠しているだけだ。
そして今は何より、作者の体は嘘のように暖かい日差しの中に包まれている。
何かに似ている。ああ、そうだ。泣きじゃくる私を抱きしめてくれた、
あの母の体の温もりと同じだ。作者は、今も泣いている。
冬日は、それを受け入れている。
気の済むまで泣いていいのだと、遠くから、
優しく作者を包み込んでいる。


参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272

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