高槻成紀のホームページ

「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

研究4.1 その他の動物(霊長目、齧歯目、翼手目、長鼻目)

2016-01-01 03:20:05 | 研究5 その他の動物

霊長目
Tsuji, Y. and S. Takatsuki. 2012.
Interannual variation in nut abundance is related to agonistic interactions of foraging female Japanese macaques (Macaca fuscata).
International Journal of Primatology, 31,DOI 10.1007/s10764-012-9589-0
辻大和さんは大学の3年生のときから金華山のサルの食性を軸にした研究を継続しています。たいへんな努力家で、よいデータをたくさんとってくれました。中でもこの研究は力作で、サルの食性を長年継続調査するとともに、結実状態、その栄養分析、個体識別したサルの順位を総合的に調べて、豊作の年には群れ全員が良質な栄養を十分にとれることを示しました。それも重要ですが、今日昨年に起きたことの発見が重要でした。ブナが凶作でカヤが豊作の年の冬にはサルがカヤの木に集中するのですが、そのとき社会的に優位なサルがカヤの木を独占したのです。カヤの木はあまり大きくないため独り占めが可能なのです。劣位なサルは栄養が悪くなって妊娠しませんでした。つまり凶作年には全体に繁殖率が悪くなるのではなく、劣位なサルだけがつらい状況になるということです。これを示すにはたくさんのデータを何年も継続しなければならず、文字通りの力作となりました。

サルの食性などとシカの存在
 金華山のサルはシカがいることによって意外な影響を受けている。たとえばサルは基本的に森林を利用するのだが、金華山では草原があり、そこにメギが多い。メギはトゲがあるためにシカが食べられず、草原で多くなっている。メギは甘い蜜を出す花を咲かせ、ベリーをつけるが、サルはその両方を好むため、普段は出ない草原に出る。これはシカが生息地や資源植物を変えていることの「間接効果」とみることができる。
(辻との共同研究)論文92

 サルは木の枝から食べ残しの小枝を放り投げる。早春の、シカにとって食物が最も乏しい時期にサルが放り投げるブナの花や若葉のついた小枝は「棚からぼたもち」である。実際地上のシカの餌と小枝の栄養価は大きく違うことがわかった。サルにとってはプラスでもマイナスでもないが、シカにとっては大きな意味があり、場合によっては生死を分つ可能性もある。この論文のタイトルは「困ったときの友こそ真の友」とした。
(辻らとの共同研究)論文128

金華山のサル食性の年変動
 金華山のサルの食性は春の葉と花、夏の葉と果実、秋のナッツとベリー、冬の草本と季節変化し、サルにとっては秋から冬の食料事情が重要であるが、それは樹木の結実状態に大きく影響される。調査したあいださまざまな豊凶の組み合わせがあり、年次変動が大きいことが示された。
(辻らとの共同研究)論文105, 121

 特殊なケースとして、台風がある。2004年9月21日にメアリー台風が通過して金華山でも大木が倒れるなどした。それまでミズキの果実を樹上で食べたり、カヤの実を地上で食べたりしていたサルは、台風後はレモンエゴマの種子と地上のコナラのドングリを食べるようになった。台風によって枯葉や泥が多くなって地上のナッツを食べにくくなり、移動もたいへんなので、狭い範囲でレモンエゴマの種子を集中的に食べた。
(辻との協同研究)論文131

サルの食物と社会

 金華山のサルは春に新芽、秋から冬にはナラ類のドングリはないのでブナやケヤキ、イヌシデなどのナッツを食べる。実は夏は葉が硬くなってしまうため、食物が乏しく、アリなども食べるが、一部のサルは海岸に出て海草まで食べる。秋は長い冬に備えて脂肪を蓄積しないといけないので重要な季節であるが、木の実の実りは年により大きく違う。金華山ではブナやイヌシデなどは林に広くあるが、カヤという大きな実をつける木はポツンポツンとしかない。ブナなどが凶作でカヤが豊作の年はサルのあいだで競争が起き、地位の高いサルだけがカヤを食べることができ、彼女らは妊娠するが、下位が低いメスは妊娠できない。凶作年は群れ全体の妊娠率が低くなるのではなく、劣位のメスが妊娠しないことがわかった。
(辻大和との共同研究。彼の研究については辻大和のホームページ参照)。

齧歯目
カヤネズミの営巣
Kuroe, M., S. Ohori, S. Takatsuki and T. Miyashita. 2007.
Nest-site selection by the harvest mouse Micromys minutus in seasonally changing environments.
Acta Theriologica, 52: 355-360.
カヤネズミはイネ科群落の高い部分に巣を作ってくらす。利用するのはオギが最も多かったが、秋にはオオカサスゲも利用した。これには葉が緑色であることが重要で、オギが枯れたあとスゲにシフトした。
     

カヤネズミの食性
Okutsu,K., S. Takatsuki, and R. Ishiwaka. 2012
Food composition of the harvest mouse (Micromys minutus) in a western suburb of Tokyo, Japan, with reference to frugivory and insectivory
Mammal Study 37: 155–158. 
この論文は奥津憲人君の卒業論文の一部で、カヤネズミの食性を量的に評価したはじめての論文となりました。東京西部に日ノ出町という町があり、そこに廃棄物処分場跡地があります。要するにゴミ捨て場です。そこに土をかぶせてスポーツグランドにしたほか、一部に動植物の回復値を作りました。ススキ群落が回復し、ノウサギやカヤネズミが戻って来ました。カヤネズミは体重が10gもないほど小さなネズミで、独特の球状の巣を作ります。そこに残された糞を顕微鏡で分析したのですが、分析する前に次のようなことを予測していました。体が小さいということは体重あたりの体表面積が広いということですから、代謝量が多く、良質な食物を食べなければならないはずです。でもススキ群落はほとんどがススキでできていて硬い繊維でてきています。カヤネズミが食べられるようなものではありません。そうするとカヤネズミとしてはススキ群落にいる昆虫とか、生育する虫媒花の花や蜜のような栄養価の高いものを選んで食べている可能性が大きいはずです。実際に調べてみると確かに昆虫の体の一部や、なんと花粉が見つかったのです。ただし、カヤネズミの生活を撹乱してはいけないので、糞は繁殖の終わった12月に採集しました。したがって夏から秋までの蓄積をみたことになります。実際には季節変化があったはずで、これは今後の課題となりました。

カヤネズミの食性の季節変化と地上小動物を食べることの検証
 Seasonal variation in the food habits of the Eurasia harvest mouse (Micromys minutus) from western Tokyo, Japan(東京西部のカヤネズミの食性の季節変化)
Yamao, Kanako, Reiko Ishiwaka, Masaru Murakami and Seiki Takatsuki
Zoological Science in press
カヤネズミの食性の定量的評価は不思議なことに世界的にもなかったのですが、それを解明したのがOkutsu and Takatsuki (2012)です。この論文で、小型のカヤネズミはエネルギー代謝的に高栄養な食物を食べているはずだという仮説を検証しました。ただ、このときは繁殖用の地上巣を撹乱しないよう、営巣が終わった初冬に糞を回収したので、カヤネズミの食物が昆虫と種子が主体であることはわかり、仮説は支持されましたが、季節変化はわかりませんでした。今回の研究はその次の段階のもので、ペットボトルを改良して、カヤネズミの専門家である石若さんのアドバイスでカヤネズミしか入れないトラップを作り、その中に排泄された糞を分析することで季節変化を出すことに成功しました。もうひとつは、私にとって画期的なのですが、その糞を遺伝学の村上賢先生にDNA分析してもらったところ、シデムシとダンゴムシが検出されました。これまで「カヤネズミは空中巣を作るくらいだから、草のあいだを移動するのが得意で、地上には降りないはずだ」という思い込みがあったのですが、石若さんは、これは疑ったほうがよいと主張してきました。シデムシもダンゴムシも地上徘徊性で、草の上には登りませんから、カヤネズミがこういうムシを食べていたということは、地上にも頻繁に降りるということで、それがDNA解析で実証されたことになります。DNA解析の面目躍如というところで、たいへんありがたかったです。この論文は生態学と遺伝学がうまくコラボできた好例だと思います。

改良型トラップ

高槻成紀. 2014.
「カヤネズミの本―カヤネズミ博士のフィールドワーク報告―」畠佐代子, 世界思想社, 2014
哺乳類科学, 54:
畠佐代子さんがすばらしい本を出しました。カヤネズミは黒江さんや奥津君と論文を書いたことがあり、H25年卒業の山尾さんと食性を調べたこともあったので、とても興味をもって読みました。カヤネズミのことが、畠さんの組織する「カヤネット」によって多数の仲間によってあきらかにされたこと、その研究活動のスタイルそのものについても言及しました。

翼手目
オガサワラオオコウモリの食性
 果実食であるオガサワラオオコウモリの食性を糞から分析した。オオコウモリは自然林の果実も食べていたが、街路樹として植栽されているアコウなどの栽培植物をよく食べていた。そして飛翔できることから道路の敷設などの影響を受けずにこれらの果実を利用していた。同じ属のオオコウモリは、島のオオコウモリは嵐の影響を受けやすく、臨機応変に食性の可塑性があるといわれるが、オガサワラオオコウモリもそのような食性をもっていると考えられる。(藤井との共同研究)論文94

小笠原、媒島の埋土種子集団
 媒島にはヤギが放置され、無人島となった。ヤギの採食圧は強く、草本群落も失われて島内の広い範囲が拉致かして、沿岸にまで土砂が流失していた(1990年当時)。島内の異なる群落から土壌を持ち帰り発芽試験をしたところ、森林だけから木本の種子が発芽した。したがってヤギの影響は土壌中の種子集団にまでおよんでいたことになる。(Weerasingheとの共同研究)

長鼻目
ゾウの食べ物は臨機応変
マレーシア半島北部の熱帯雨林のアジアゾウの食性(Food habits of Asian elephants Elephas maximus in a rainforest of northernPeninsular Malaysia, Shiori Yamamoto-Ebina, Salman Saaban, Ahimsa Campos-Arcez, and Seiki Takatsuki )
Mammal Study, 41(3): 155-161.
これは麻布大学の山本詩織さんが修士研究としておこなったもので、一人でマレーシアにいってがんばりました。滞在中に私も現地を訪問してアドバイスしました。


ゾウの糞を拾った詩織さん

アイムサさんはスペインから私が東大時代に留学し、スリランカでゾウの研究をして、現在はマレーシアのノッチンガム大学の先生になりました。アジアゾウの研究では第一人者になりました。この論文では自然林のゾウと伐採された場所やハイウェイ沿などで食性がどう違うかを狙って分析したもので、見事に違うことが示されました。ゾウはそれだけ柔軟な食性を持っているということが初めてわかったのです。


このグラフは上から自然林、伐採林、道路沿いでの結果で、左から右に食べ物の中身が示されています。grass leavesはイネ科の葉で道路沿いでは一番多いです。monocot leavesは単子葉植物の葉で逆に森林で多いです。banana stemはバナナの茎でこれは道路沿いが多いです。あとはwoody materialとfiberで木本の材と繊維ですが、これが森林で多く道路沿いで少ないという結果が得られました。つまり森林伐採をしてもさほど違わないが、道路をつけると伐採をするだけでなく、草原的な環境がそのまま維持されるので、ゾウは森林の木はあまり食べなくなって道路沿いに増えるイネ科をよく食べるようになるということです。このことはゾウの行動圏にも影響を与えるので、アイムサさんはたくさんのゾウに電波発信機をつけて精力的に調べています。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 研究1.4 シカの生態・保全 | トップ | 研究4.2 その他の動物(海外... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

研究5 その他の動物」カテゴリの最新記事