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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

その他の動物(食肉目)

2016-01-01 03:30:39 | 研究5 その他の動物

食肉目
ツキノワグマの秋冬の食性は大きく変動
Hashimoto, Y., M. Kaji, H. Sawada and S. Takatsuki. 2003.
Five-year study on the autumn food habits of the Asiatic black bear in relation to nut production.
Ecological Research, 18: 485-492.
 これまでのツキノワグマの食性を調べてみると食べ物の主体は植物であることがわかった。とくに冬眠前のクマはドングリを大量に食べるが、ドングリ類は結実に豊凶があるため、クマの秋の食性は大きな年次変動を示すことがわかった。ナラ類の凶作年でもブナが豊作のときはブナを食べるが、ナラ類もブナも凶作の年にはサルナシなどのベリー類も食べるようになる。果実の実りはクマの動きにも影響することは明らかで、クマの保全はこうした果実の豊凶を考慮に入れる必要がある。

夕張のヒグマはメロンを食べる
Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144. 北海道の浦幌というところで、ヒグマの生態を調べた。ここを含めた駆除されたヒグマの胃内容物を調べたら、春には一部シカが検出され、夏にはアリなど、秋はドングリ類やベリー類がよく食べられていた。夕張では夏にメロンが食べられていた。

Sato, Y., T. Mano and S. Takatsuki. 2005.
Stomach contents of brown bears Ursus arctos in Hokkaido, Japan.
Wildlife Biology, 11: 133-144.
ヒグマは農作物に被害を出しているが、ヘアートラップによって個体識別をすると、実は同じクマが何度も出てくることがわかり、農民が考えるほど多数のクマが加害者ではないことがわかった。

ヒグマの生息地の変化
Sato, Y., T. Aoi, K. Kaji and S. Takatsuki. 2004.
Temporal changes in the population density and diet of brown bears in eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 29: 47-53. 北海道の浦幌では1970年代にヒグマの探検的な調査がおこなわれ、食性が調べられている。それと1990年代ののもを比較したところ、キイチゴなどパイオニア的な植物の比率が増加した。また糞密度もより「人里的」な場所に偏るようになっていた。このことはヒグマの生息地が変化し、ヒグマの生活内容も変化している。

浦幌のヒグマの行動圏は広い
Sato, Y., Y. Kobayashi, T. Urata, and S. Takatsuki. 2008.
Home range and habitat use of female brown bear (Ursus arctos) in Urahoro, eastern Hokkaido, Japan.
Mammal Study, 33: 99-109. 浦幌のヒグマの行動圏は43km2で、渡島半島や知床よりも広かった。とくに夏は広いがこれは食料が乏しいからと考えた。調査した2頭のうち、1頭は森林にいたが、もう1頭は農地に依存的だった。

東京郊外のタヌキの食性
Hirasawa, M., E. Kanda and S. Takatsuki. 2006.
Seasonal food habits of the raccoon dog at a western suburb of Tokyo.
Mammal Study, 31: 9-14 東京西部にある日の出町の雑木林でタヌキの糞を拾って分析したところ、春は葉、初夏はキイチゴやサクラなどの種子、秋にはさまざまな果実が出現し、冬には鳥や哺乳類も出現した。基本的には雑木林の植物を軸に季節に応じて「旬」のものを食べていたが、秋の果実としてはギンナンとカキ(柿)が多く、植栽木の果実も重要であった。しかし予測していた人工物は意外に少なかった。同じ日の出町にある廃棄物処分場跡地ではソーセージにプラスチックのマーカーを潜ませて放置したところ、林から草地への「持ち出し」が多かった。いどう距離は200m程度であった。


アライグマは水生動物を食べていなかった
高槻成紀、久保薗昌彦、南正人 (2014)
横浜市で捕獲されたアライグマの食性分析例
保全生態学研究, 19: 87-93 この論文は横浜市で有害鳥獣駆除で捕獲されたアライグマの腸内容物を分析したものです。アライグマはその名前のイメージから水辺で食物を食べると考えられ、水生動物に影響があると言われて来ました。そのような場所もあるかもしれませんが、実際、分析した例はほとんどないことがわかりました。私たちが調べてみましたが、114ものサンプルを分析しても、水生動物は頻度でも5%以下、占有率では1%以下にすぎませんでした。多かったのは果実や哺乳類などでした。なにごとも実際に分析してみなければいけません。そうすれば、予想を裏付けることもありますが、意外なことがわかることもあります。初めから思い込みで決めるけることは差し控えなければいけません。


乙女高原のテンの食性
足立高行・植原 彰・桑原佳子・高槻成紀.2016.
山梨県乙女高原のテンの食性の季節変化.
哺乳類科学 56: 17-25.
乙女高原で自然観察指導をしている植原先生がテンの糞を7年間にわたり756個も集め、足立・桑原さんが分析し、私が解析をした。全体には果実が重要で、夏には昆虫、冬と春には哺乳類が重要になるなどこれまでの知見を確認した。種子は種までわかったので調べてみると林縁に生える植物、とくにサルナシが重要であることがわかった。実は密かにシカが増加したのではないかと予測していたが、それは否定され、シカはすでに2000年時点でかなりいたと考えるほうが妥当であるらしかった。



東京西部のテンの食性、年次変化
Tsuji, Y., Y. Yasumoto and S. Takatsuki. 2014.
Multi-annual variation in the diet composition and frugivory of the Japanese marten (Martes melampus) in western Tokyo, central Japan.
Acta Theriologica, 59: 479-483.この論文は東京西部の盆堀というところのテンの食べ物を糞分析で調べたもので、ミソは異なる年代を比較したことです。テンの食性そのものを調べた論文はけっこうあり、日本でもいくつかありますが、ほとんどは1年間を調べて季節変化を出したものです。しかし、果実依存型の動物の場合、結実の年次変動があり、1年だけで決めつけるのは危険です。辻さんはニホンザルでこのことを指摘し、粘り強く経年変化を調べています。H25年度の4年生安本が分析をし、辻さんが10年ほど前に分析したものと比較しました。思ったほどの違いはありませんでしたが、それでも果実の違いはたしかにあり、90年代にはサルナシが少なかったのですが、2000年代には多くなり、おそらくそれに連動して哺乳類や鳥類への依存度が小さくなりました。


「福岡県朝倉市北部のテンの食性−シカの増加に着目した長期分析−」 
足立高行・桑原佳子・高槻成紀
保全生態学研究21: 203-217.
福岡県で11年もの長期にわたってテンの糞を採取し、分析した論文が「保全生態学雑誌」に受理されました。この論文の最大のポイントはこの調査期間にシカが増加して群落が変化し、テンの食性が変化したことを指摘した点にあります。シカ死体が供給されてシカの毛の出現頻度は高くなりましたが、キイチゴ類などはシカに食べられて減り、植物に依存的な昆虫や、ウサギも減りました。シカが増えることがさまざまな生き物に影響をおよぼしていることが示されました。このほか種子散布者としてのテンの特性や、テンに利用される果実の特性も議論しました。サンプル数は7000を超えた力作で、その解析と執筆は非常にたいへんでしたが、機会を与えられたのは幸いでした。


テンの糞から検出された食物出現頻度の経年変化。シカだけが増えている。このところ、論文のグラフに手描きのイラストを入れて楽しんでいます。

これまでの事例を通覧してみた
草食獣と食肉目の糞組成の多様性 – 集団多様性と個別多様性の比較
高槻成紀・高橋和弘・髙田隼人・遠藤嘉甫・安本 唯・菅谷圭太・箕輪篤志・宮岡利佐子
哺乳類科学 印刷中

 私は麻布大学にいるあいだに学生を指導していろいろな動物の食性を調べました。個々の卒論のいくつかはすでに論文になっていますし、これから論文にするものもあります。今回、それらを含め、個別の食性ではなく、多様度に注目してデータを整理しなおしました。多様度を、サンプルごとの多様度と、同じ季節の集団の多様度にわけて計算してみました。予測されたことですが、反芻獣の場合、食べ物が反芻胃で撹拌されているので、糞ごとの多様度と集団の多様度であまり違いがなく、単胃でさまざまなものを食べる食肉目の場合、糞ごとに違いがあり、ひとつの糞の多様度は小さくても、集団としては多様になるはずです。実際にどうなっているかを調べたら、びっくりするほど予想があてはまりました。その論文が「哺乳類科学」に受理されました。多くの学生との連名の論文になったのでうれしく思っています。下のグラフの1本の棒を引くために、山に行って糞を探し、持ち帰って水洗し、顕微鏡を覗いて分析し、データをまとめたと思うと、一枚のグラフにどれだけの時間とエネルギーが注がれたかという感慨があります。


サンプルごとの多様度(黒棒)と集団の多様度(灰色)の比較。草食獣は違いが小さいが、食肉目では違いが大きく、とくにテンではその傾向が著しい。


「山梨県東部のテンの食性の季節変化と占有率−順位曲線による表現の試み」
箕輪篤志,下岡ゆき子,高槻成紀
「哺乳類科学」57: 1-8.

2015年に退職しましたが、ちょうどその年に帝京科学大学の下岡さんが産休なので講義をしてほしいといわれ、引き受けました。それだけでなく、卒論指導も頼みたいということで4人の学生さんを指導しました。そのうちの一人、箕輪君は大学の近くでテンの糞を拾って分析しました。その内容を論文にしたのがこの論文です。その要旨の一部は次のようにまとめています。
 春には哺乳類33.0%,昆虫類29.1%で,動物質が全体の60%以上を占めた.夏には昆虫類が占める割合に大きな変化はなかったが,哺乳類は4.7%に減少した.一方,植物質は増加し,ヤマグワ,コウゾ,サクラ類などの果実・種子が全体の58.8%を占めた.秋にはこの傾向がさらに強まり,ミズキ,クマノミズキ,ムクノキ,エノキ,アケビ属などの果実(46.4%),種子(34.1%)が全体の80.5%を占めた.冬も果実・種子は重要であった(合計67.6%).これらのことから,上野原市のテンの食性は,果実を中心とし,春には哺乳類,夏には昆虫類も食べるという一般的なテンの食性の季節変化を示すことが確認された.
 タイトルの副題にある「占有率−順位曲線」というのは下の図のように、食べ物の占有率を高いものから低いものへ並べたもので、平均値が同じでも、なだらに減少するもの、急に減少してL字型になるものなどさまざまです。この表現法によって同じ食べ物でもその意味の解釈が深まることを指摘しました。


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