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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

食べられて生きる草の話

2015-10-03 12:28:02 | 私の著作
2015年10月 2日

たくさんのふしぎ2015年10月号「食べられて生きる草の話」は金華山のシカのお話!

タイトルだけではよくわからなかったのですが、中を開いてみますと、牡鹿半島の先端にある金華山(石巻市)に住むニホンジカとノシバ(野芝→日本に昔からある芝)のお話でした!
近年は、あちこちの森林でシカによる食害が広がっている話を聞きます。もちろん金華山でもそうなのですが、ノシバにとってはそのシカが大きな味方になっているのです。

40年ほど前は、ススキ原だった金華山が、徐々に増えてきたシカによって食べられていくうちに、今はノシバの芝生になっていきました。シバはシカにモリモリ食べられることに強いのです。芝は芝刈りをすることによって他の雑草などが生えにくくなるのですが、シカが芝刈り機のような役割を果たしているのですね。

しかも…です。ノシバの種は、一度シカに食べてもらって糞となって出てきたほうが、発芽率が高いとか。どうしてなのかは読んでいただくとして、まさにシカと共生しているような植物ですねぇ。金華山の芝は日本のノシバであることは知っていまして、観光地なので芝生を貼っているものだとばかり思っていました。あれは言わばシカが作り出した風景だったのですね。

著者の高槻先生は、植物にとって迷惑なシカも、芝は食べられても平気…逆に助かっているという、動物と植物の関係が見えてきて「自然の話」が見えてきたとありました。私も目を開かれたような気がして、子供向けの本ながら最後はちょっと感動しました。

シカの脅威と森の未来―シカ柵による植生保全の有効性と限界
前迫 ゆり 文一総合出版 2015-08-03

植生学的な観点からみたシカの害とシカ柵の調査研究をまとめたもの。金華山にもシカ柵があり、「たくさんのふしぎ」の中にも出てきます。思っていた以上にシカの食害が全国に広がっているということがわかります。そしてシカ柵にはもちろん限界もあるということも。
シカが若い木や森の下草を食べ尽くしてしまうことは「驚異」ではあるのですが、かつてシカが日本各地で激減したのは、人間が狩猟によって捕りすぎ(おそらく食べた)たからですし、森林面積がどんどん減っているのも、ほとんど人間の仕業。そうでなくても、江戸時代後期には、人間が増えすぎて、燃料にするために木を伐っていたので、日本各地の里山は丸裸だったそうです。シカを食べるオオカミを絶滅させたのも人間ですし。

日本の森に昔から住んでいるシカを、森林から排除してしまうのも「自然」ではありません。芝のようにシカからの恩恵を受けている植物もあります。何が「自然」かということなのでしょうね。

本当は人間が増えすぎることが一番不自然なのかもしれないですね。「絶滅危惧種」という言葉を聞くたびに、人間の身勝手さも少し感じます。

読んで、人間ももう少し謙虚になって、自分たちも「動物」であることを思い出したほうが良いのではないかと思いました。

『食べられて生きる草の話』(「たくさんのふしぎ」2015年10月)
高槻成紀/文 福音館書店

 著者が長年,宮城県にある金華山で観察したシカとシバ草の関係をまとめた記録がもとになっている。まずは,金華山の地形紹介から入る。金華山は,10km2ほどの島に500頭ものシカが棲んでいるというかなり高密度のシカの
生息域となっている。次に,著者が調査に入った1975年頃の様子が描かれている。シカの頭数もうんと少なく,地面をほとんど覆っていたのは…シバではなくススキだった。背丈も大きいススキが島の地面を覆っていた。ところが1985年ではススキはどんどん背が低くなり,1990年にはススキは影を潜め,シバ草が面積を広げるようになった。ここで,著者は疑問を持つ。ススキと同時にシバ草もシカに食べられているのに,どうしてシバ草は増えているのか。このことをつきとめるために,著者は大学構内でシバを植え,10cm四方の中だけをハサミで刈り取りシバの生育を見たり,ススキも刈り取ってススキの生育も見る。3年後には見事な結果が出る。ススキはほとんど生育せず,刈り取ったシバ草は青々と茂っていた。植物界では知られていることなのだが,シバは地下茎を持っていて刈られたらまた芽を出す習性なのだ。金華山では,シカが日光を遮るススキを食べ,シバ刈りの役目も果たしていたというわけである。ここで,さらに著者は「シバ草の種はそんなに飛散する構造ではないのに,どうしてこんなに広がるのか」と疑問を持つ。著者は,さらにシカの役割を考えて実証していく。さて,シカはシバ草を食べる(刈る)と同時に,どんな役目をしていたのでしょうか。「40年前には聞こえなかった自然の話が今ははっきり聞こえます。」と著者は結びに書いている。別書でこの著者の『唱歌「ふるさと」の生態学』(山と渓谷社)もなかなか楽しい本である。                  

遠い日
2015年9月17日:おーちゃんママ
「食べられて生きる草の話」高槻成紀・文/菊谷詩子・絵 宮城県金華山のシカとそのシカが食べる芝との関係の研究を40年にわたって続けてきた高槻さん。シカに食べられることで、消滅するのではなく逆に増えていく芝の謎をわかりやすい実験を含めて解説する。シカと芝の絶妙なバランスがおもしろい。環境というものの応用能力、自然の意思ともいうべき変化が興味深かった。

40年たって聞こえてきた自然の話
投稿者 りあーな 投稿日 2015/12/29
シカとその餌となる植物の関係を、日本各地で40年以上にわたって研究してきた高槻成紀さんの想いがつまった絵本です。著者の研究の出発点となった宮城県の金華山島での40年にわたるシカと植物の研究をとおして、ようやく聞こえてきた自然の話。
「いま、この鹿山の景色をみると、40年前には聞こえなかった自然の話がはっきりと聞こえます。」
この挿話は、ソロモンの王が指輪をはめると動物の話が聞こえたことを引いて、自然をよく観察し、必要なら実験をすると「自然の話が聞こえてくる」という、著者がもっとも伝えたかったこと。とてもいい絵本です。

絵はとても気に入りました
投稿者 Cosyo 投稿日 2015/12/8
絵本のような内容だとは思わずに購入。うちの高学年には向かなかったようです。新聞コーナーをもっと充実させて読みやすい形になればよいかも。
毎月購入はしません。
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