いちおし!楽しいもの調査隊
2016年01月17日
今日の一冊は、高槻成紀著「となりの野生動物」
です。
東京23区にも生息するタヌキ、
すみかを追われたウサギやカヤネズミ、
人が持ち込んだアライグマ、
人里に出没したり、田畑に被害を与えたりするクマやサル、シカ。
野生動物は、私たち人間にとって身近な「隣人」です。
私たちはその隣人のことをどこまで知っているでしょうか。
野生動物の生態から人間との関係性まで、
「動物目線」で野生動物を見続けてきた著者が伝える、
野生動物について考えるキッカケになる一冊です。
高槻さんは、元東京大学教授で動物生態学、保全生態学を研究していました。
でも、小難しいところはちっともなくて、
軽妙洒脱な筆致で、気軽に読める本になっています。
1章ごとに各動物が取り上げられていて、
昔話に出て来るイメージから人間がその動物をどうしてそう捉えてきたのか、
など、面白い語り口に引き付けられます。
理系の学者先生の書く本は、
論文を書くクセが抜けないせいか、
だいたい一般人には読み辛いものですが、
この本は、エッセイのようで非常に読みやすいです。
それでいて長年、フィールドワークをしてきた高槻さんの経験が
随所にちらっと、しかし控えめに出て来て、
なかなか深い読み物でもあります。
各章が独立しているので、
好きな章から読むことが出来るのもいいですね。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
カヤネズミのかわいさは異常。露出が少ないだけで有名になれば、かわいい動物特権で本気で保護してもらえるはず。著者はネズミがもってきた負のイメージを背負っていると考えているようだけど、新しい世代ならネズミ自体との接触機会が少ないので、あまり抵抗がないはず。
そしてハムスターのたぐいは愛玩されているのである。
茅場がカヤネズミのために保全されれば、ノウサギも保護されて、ノウサギが増えればオオワシの個体数にもいい影響があるかもしれない。もしかしたら、トキよりもカヤネズミの保護は連鎖効果が大きい?
となりの野生動物はタヌキのしっぽに縞はない。縞があるのはアライグマである。など人が抱きがちな身近なはずの動物への勘違いに触れた本。なぜそんな勘違いが起きたのか、歴史的な経緯から考えている。
最初に勉強になることは少ないと書いていたが、100kgを超える大型動物で冬眠するのはクマだけであり、大型で冬眠するのは恒温動物として矛盾しているという指摘がとても面白かった。
さいきんは暖冬によって冬眠しないクマがちらほら観察されるようになっているが、彼らの生理にとってはどうなのかなぁ。
野生動物に対する著者の考え方には頷けるところも首を傾げるところもある。都会の人を「動物を良く知らないため、感情的に保護を求める」集団とみているが、もっとも厄介なのは「ともかく攻撃的になっていれば、一段レベルの高い自分だと思いこめる」人々なのではないか。
彼らは彼らで対象への理解を深めることをせずに場当たり的な殺戮で問題解決から遠ざかっていく恐れが強い。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
2015.2.14
暮らし・環境・人との関わり、というタイトルから、人為も含めた生き物の生態、の話だと思っていたら、冒頭のタヌキがいきなりカチカチ山とかタヌキおやじとか、そういうイメージの話からでびっくりする。どうもタヌキは間抜けというイメージが付いている。
この導入部は、ムズカシクないよ、というアピールだろうか。タヌキは狸と書くように里の生き物で、今も東京23区すべてにすんでいるという。高速道路での死亡動物も一番はタヌキだ。
著者は、自動車は公共の整備による道路で発展してきたのに自動車会社はロードキルを減らすためにその利潤を還元したりしない、と責める。
それでもなおタヌキは人里ちかくに暮らしている。タヌキなんていなくても困らない、という人が多いだろうけど、みんなだいすき「環境」問題は、そういうのも含まれるんじゃないだろうか。
続いてウサギ。これもイメージから。学校でウサギを飼うのは情操教育の一環、のようだけど、もともとは日清・日露戦争での兵員の防寒のため、ノウサギが穫られて激減したので、軍部が学校でウサギを飼え、と文部省を動かしたのだそうだ。
イノシシ。シシとは肉をさし、イノシシとは本来「猪の肉」らしい。十二支では亥(い)、の一文字だが、やはり獣としては「イ」だけでよいようだ。見た目やイメージとは違い、人里に斥候を送ったり、1メートルの障害物も飛び越え、60kgの重いものも持ち上げるというスーパーな動物。
アライグマ。外来種だが野生化している。アライグマはタヌキ以上に環境適応力がありそうだ。著者はここでもペットの放逐と、そしてその後に起こる生態系の混乱への無理解に怒る。
こういう感じで9種の動物が紹介される。それぞれイメージからはいる導入部は、社会が動物にイメージを持つ、ということ自体がおもしろそうだと思ったからだ、というおよそ自然科学者らしくはない理由からだった。
最後に、逆に動物からみた人間のイメージが語られている。
「人口が3倍にもなって、世界中から食べ物を買って、エネルギーを輸入して、都市に集中し、地方で人口が減って、僕たちが増えたらけしからんという。わからないことだらけだ。」これはシカの言い分の抜粋。ベタだがそのとおりだ。けれど、この問題も林業家にとっては大きい問題でも、都市生活者にとってはあまり関心が持てない。
無関心はすなわち無知であり、無知は誤解を生んで決断を誤る。シカ以外の里山動物もみな田畑を荒らしたりするから生産者は困る。だが都市生活者は生産そのものに対しても無関心から決断を誤るループにあるかもしれない。
この動物はこう思われているけど、本当はこうなんです、なんていうだけの話ではない。やっぱり「暮らし・環境・人との関わり」だった。
2016年01月17日
今日の一冊は、高槻成紀著「となりの野生動物」
です。
東京23区にも生息するタヌキ、
すみかを追われたウサギやカヤネズミ、
人が持ち込んだアライグマ、
人里に出没したり、田畑に被害を与えたりするクマやサル、シカ。
野生動物は、私たち人間にとって身近な「隣人」です。
私たちはその隣人のことをどこまで知っているでしょうか。
野生動物の生態から人間との関係性まで、
「動物目線」で野生動物を見続けてきた著者が伝える、
野生動物について考えるキッカケになる一冊です。
高槻さんは、元東京大学教授で動物生態学、保全生態学を研究していました。
でも、小難しいところはちっともなくて、
軽妙洒脱な筆致で、気軽に読める本になっています。
1章ごとに各動物が取り上げられていて、
昔話に出て来るイメージから人間がその動物をどうしてそう捉えてきたのか、
など、面白い語り口に引き付けられます。
理系の学者先生の書く本は、
論文を書くクセが抜けないせいか、
だいたい一般人には読み辛いものですが、
この本は、エッセイのようで非常に読みやすいです。
それでいて長年、フィールドワークをしてきた高槻さんの経験が
随所にちらっと、しかし控えめに出て来て、
なかなか深い読み物でもあります。
各章が独立しているので、
好きな章から読むことが出来るのもいいですね。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
カヤネズミのかわいさは異常。露出が少ないだけで有名になれば、かわいい動物特権で本気で保護してもらえるはず。著者はネズミがもってきた負のイメージを背負っていると考えているようだけど、新しい世代ならネズミ自体との接触機会が少ないので、あまり抵抗がないはず。
そしてハムスターのたぐいは愛玩されているのである。
茅場がカヤネズミのために保全されれば、ノウサギも保護されて、ノウサギが増えればオオワシの個体数にもいい影響があるかもしれない。もしかしたら、トキよりもカヤネズミの保護は連鎖効果が大きい?
となりの野生動物はタヌキのしっぽに縞はない。縞があるのはアライグマである。など人が抱きがちな身近なはずの動物への勘違いに触れた本。なぜそんな勘違いが起きたのか、歴史的な経緯から考えている。
最初に勉強になることは少ないと書いていたが、100kgを超える大型動物で冬眠するのはクマだけであり、大型で冬眠するのは恒温動物として矛盾しているという指摘がとても面白かった。
さいきんは暖冬によって冬眠しないクマがちらほら観察されるようになっているが、彼らの生理にとってはどうなのかなぁ。
野生動物に対する著者の考え方には頷けるところも首を傾げるところもある。都会の人を「動物を良く知らないため、感情的に保護を求める」集団とみているが、もっとも厄介なのは「ともかく攻撃的になっていれば、一段レベルの高い自分だと思いこめる」人々なのではないか。
彼らは彼らで対象への理解を深めることをせずに場当たり的な殺戮で問題解決から遠ざかっていく恐れが強い。
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2015.2.14
暮らし・環境・人との関わり、というタイトルから、人為も含めた生き物の生態、の話だと思っていたら、冒頭のタヌキがいきなりカチカチ山とかタヌキおやじとか、そういうイメージの話からでびっくりする。どうもタヌキは間抜けというイメージが付いている。
この導入部は、ムズカシクないよ、というアピールだろうか。タヌキは狸と書くように里の生き物で、今も東京23区すべてにすんでいるという。高速道路での死亡動物も一番はタヌキだ。
著者は、自動車は公共の整備による道路で発展してきたのに自動車会社はロードキルを減らすためにその利潤を還元したりしない、と責める。
それでもなおタヌキは人里ちかくに暮らしている。タヌキなんていなくても困らない、という人が多いだろうけど、みんなだいすき「環境」問題は、そういうのも含まれるんじゃないだろうか。
続いてウサギ。これもイメージから。学校でウサギを飼うのは情操教育の一環、のようだけど、もともとは日清・日露戦争での兵員の防寒のため、ノウサギが穫られて激減したので、軍部が学校でウサギを飼え、と文部省を動かしたのだそうだ。
イノシシ。シシとは肉をさし、イノシシとは本来「猪の肉」らしい。十二支では亥(い)、の一文字だが、やはり獣としては「イ」だけでよいようだ。見た目やイメージとは違い、人里に斥候を送ったり、1メートルの障害物も飛び越え、60kgの重いものも持ち上げるというスーパーな動物。
アライグマ。外来種だが野生化している。アライグマはタヌキ以上に環境適応力がありそうだ。著者はここでもペットの放逐と、そしてその後に起こる生態系の混乱への無理解に怒る。
こういう感じで9種の動物が紹介される。それぞれイメージからはいる導入部は、社会が動物にイメージを持つ、ということ自体がおもしろそうだと思ったからだ、というおよそ自然科学者らしくはない理由からだった。
最後に、逆に動物からみた人間のイメージが語られている。
「人口が3倍にもなって、世界中から食べ物を買って、エネルギーを輸入して、都市に集中し、地方で人口が減って、僕たちが増えたらけしからんという。わからないことだらけだ。」これはシカの言い分の抜粋。ベタだがそのとおりだ。けれど、この問題も林業家にとっては大きい問題でも、都市生活者にとってはあまり関心が持てない。
無関心はすなわち無知であり、無知は誤解を生んで決断を誤る。シカ以外の里山動物もみな田畑を荒らしたりするから生産者は困る。だが都市生活者は生産そのものに対しても無関心から決断を誤るループにあるかもしれない。
この動物はこう思われているけど、本当はこうなんです、なんていうだけの話ではない。やっぱり「暮らし・環境・人との関わり」だった。
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