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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

328号線影響評価書

2023-07-27 22:50:35 | その他
小平328号戦工事を認可した影響評価書があります。正確な名称は以下の通りで、私が読んだのは簡略版で、本冊があるようですが、それは目にしていません。それでも、問題の本質は十分にわかります。

「環境影響評価書案の概要−国分寺都市計画道路3・2・8号府中所沢線及び小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線(国分寺市東戸倉二丁目〜小平市小川町一丁目間)建設事業」(平成23年)といいます。代表者は当時の石原慎太郎知事です。

 大気や水質の影響についてはここでは省略し、生物関係を見てみます。工事中の影響は樹林地を可能な限り残し、やむをえず伐採する場合は草本類を移植や表土を活用するので、「影響は小さいと予測します」とあります。可能な限り残し、移植などするという部分まででも多くの深刻な問題がありますが、だから影響は小さいと予測するという結論の粗雑さは呆れるばかりです。「できるだけ残す」の「できるだけ」が客観的にどのくらいの面積なのかの記述はありませんから、事業者が「できるだけ残した」と言えばよい訳で、「ザル法」と言えると思います。
 さらに読み続けます。希少種はあるが、生育ちの改変面積は可能な限り低減し、樹林地は可能な限り残し、やむをえず改変する場合は移植する努力をするから、「影響は小さいと予測する」としています。ここでも「できるだけ」が頻用されています。どのくらい破壊すればどういう影響が起きるかという記述はありませんから、要するにどうにでもなるということです。
 これに続けて工事完了後の影響も予測されます。工事をしなければ何が起きるかはわからないので、工事中の予測も完了後の予測も、上記のごとく「できるだけ」という逃げ道があり、無意味ですが、一応何が書いてあるかを確認しておきます。ここでも「できるだけ」が繰り返されますが、工事中の予測に書いてなかったことで注目すべきことが書いてあります。それは「環境樹林帯への植樹帯の設置により、連続した新たな緑被を創出します」という記述です。わかりやすく言えば「伐採はするが、木を植えるので大丈夫」ということです。それに続けて「植栽面積を足せば、伐採前よりも緑地は少し広くなる」とあり、だから問題ないと言わんばかりです。これは林をパッチワークのように捉え、「こちらが減るが、同じ面積あちらにつぎはぎを縫い合わせるから減ったことにはならない」ということです。そして「これにより影響は小さいと予測します」と結んでいます。

 これらを踏まえて、さらに驚くべき結論が書かれています。正確に引用すると「評価の指標とした<生物・生態系の多様性に著しい影響を及ぼさないこと>を満足すると考えます」となります。この文章には主語がありません。最初私は石原知事か、これを書いた人が満足するのかと思いましたが、文章から察すると人ではなく、「道路計画が影響を及ぼさないものである条件を満たしている」という意味のようです。それなら「充足する」あたりの言葉が普通だと思います。なぜこの粗雑な理屈の組み立てで、これが生態系に影響しないということになるか、いくら想像を膨らませ、善意に解釈してもさっぱり理解できません。できることならこれを書いた人に質問して、普通の言葉で説明してほしいと強く思います。この文章を書いた人のことを想像すると、「仕事とは言え、なんで自分がこんな文章を書かないといけないのだ」と思ったはずで、同情を禁じえませんが、ここではそんなことではなく、このような文章により、道路計画に妥当性を与えられたということの意味の深刻さを考えなければなりません。
 


小平328号線問題

2023-07-27 21:59:46 | その他

 東京都林務課から小平328号線が通過する中央公園の南側で土壌調査をするという連絡がありました。そして私(高槻)が関わる野草などの調査には影響しないという説明があったので、特に問題視していませんでしたが、水口さんは、これはいよいよ工事の動きがあるのではないかという考えでした。水口さんは10年前にこの道路問題を取り上げて住民投票の活動をし、残念ながら小平市がそれを「投票率が低い」という理由で開票しないという事態になり、工事が決定されるということがありました。そうしたことがあり、このことを取り上げる必要があると感じました。
 大きくいうと5つの重要なポイントがあります。また、東京の樹木伐採という意味では明治神宮外苑の街路樹伐採などとも共通の課題であり、私たちが考えなければならない問題だと思います。こちら

1)この計画は1963年に立てれられたもので(こちら)、当時は日本中で「開発」が行われた時代でした。その後、半世紀以上経過して社会は大きく変化しました。自然保護のシーンで言えば生物多様性の考え方が浸透しましたし、SDGsは社会の大きな目標となりました。同時に保全生態学も大きく発展し、森林の保護についての基本的考え方も変化しました。にもかかわらず、当時の計画がほぼそのまま進められてよいのか。これは、我々の世代がよく考えなければならないことです。

2)中央公園南側を含む小平の玉川上水の緑地は、他の場所に比べて幅が広く、上流のように両岸の植生が強く管理されることがないため、自然状態がよく、動植物が豊富です。この場所に幅が36メートルもある水平(地上)道路がつけば、連続的であることに価値がある玉川上水の緑地が分断され、測り知れない影響が予測されます。こちら

3)コゲラというキツツキの仲間は状態の良い林があることが必要ですが、この鳥は「小平市の鳥」に選ばれています(こちら)。我々の調査によればコゲラは玉川上水の中でも小平で最も個体数が多く記録され(こちら)、まさに「小平の鳥」にふさわしいことが裏付けられました。その意味でこの場所の樹林が伐採されることは、小平市にとっても大きな問題です(こちら(準備中))。私たちは、この林を「小平コゲラの森」と呼ぶことを提唱します。


Bは「どんぐり林」と呼ばれている。Aを「小平コゲラの森」と呼びたい。

4)「小平コゲラの森」には実に85種もの鳥類がいることが確認されています(大出水データ)。東京の都心には皇居、明治神宮、赤坂御所などの大きな林があり、鳥類調査がおこなわれています。種数は皇居が86種(西海ほか 2014, 黒田ほか 2017)、明治神宮には最近の調査では94種(柳澤・川内 2013)、赤坂御所は46種です(濱尾ほか 2005)。このことは、小平コゲラの森には、東京にあって例外的に広く、厳格に保護されている皇居や明治神宮に匹敵する種数の鳥類がいるということであり、驚くべきことです。
 内訳を見ると、明治神宮だけにいる鳥類は11種おり、その主体は水辺にいる鳥類です。皇居だけにいる6種も主にカモ類です。小平コゲラの森だけで記録されたものは10種います。小平コゲラの森と明治神宮の2ヶ所だけで記録されたものは7種いて、これと小平だけの10種を合わせた17種のうち8種は樹林性の鳥です。それを挙げると、アオバズク、アオバト、クロツグミ、コジュケイ、トラツグミ、ホトトギス、マミチャジナイ、ゴジュウカラです。
 明治神宮の森は鬱蒼とした常緑広葉樹林であり、その明治神宮の森と小平コゲラの森に共通な種の半数が樹林性の鳥であるということから、「小平コゲラの森」がこのような鳥類の生育地として適したものであることが分かります。


「小平コゲラの森」、皇居、明治神宮、赤坂御所の鳥類種数の比較

5)「小平コゲラの森」にはコゲラのほか、キツツキとしてアオゲラとアカゲラがいます。個体数ではコゲラが15位、アオゲラは26位、アカゲラは58位です。キツツキは木の幹をつついて中の昆虫などを食べます。そのために全身にそれに都合のよい構造を持っています(こちら)。その形態にも驚きますが、生態学的、つまり環境やどの他の生物との関係という視点で見たキツツキの重要さは、穴を開けることが、他の鳥類の棲家や巣として利用されるということにあります。つまりキツツキがいるおかげで、穴を開けることができない多くの動物が暮らせるようになるということです。1990年代以降の研究により、キツツキはその林の生物多様性に大きな貢献をしているということがわかってきました(準備中)。この意味で、「小平コゲラの森」に地上道路がつくことははかり知れない影響があることがわかります。

これらの問題を多くの人に知ってもらうために集会を開くなどの活動を始めることにしましたこちら)。

文献

黒田清子・小林さやか・齋藤武馬・見恭子・浅井芝樹. 2017. 2013 年 7 月から 2017 年 5 月までの皇居の鳥類相. 山階鳥学誌, 49: 8-30.
西海 功・黒田清子・小林さやか・森さやか・岩見恭子・柿澤亮三・森岡弘之. 2014. 皇居の鳥類相(2009年6月-2013年6月). 国立科博専報, 50: 541–557.
濱尾章二・紀宮清子・鹿野谷幸栄・安藤達彦. 2005. 赤坂御用地の鳥類相(2002年4月-2004年3月). 国立科博専報, 39: 13-20.
柳澤紀夫・川内 博 2013. 明治神宮の鳥類 第2報.「鎮座百年記念 第二次明治神宮境内総合 調査報告書」鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査委員会編 pp.166-221.

杉並の鳥類群集と放射5号線の影響

2023-07-27 14:43:29 | その他
玉川上水はもともと43kmの水路でしたが、高度成長期に杉並の浅間橋より下流は暗渠化されました。したがってここが開渠部分の最下流となります。都心に近いため、人口も多く、都市化が進んでいます。そして2019年に放射5号線が開通しました。地元で玉川上水の動植物を調べてこられた大塚惠子さんはこのことに危機感を覚えて、2017年から鳥類調査を続けてこられました。そのデータを見せてもらい、明らかに開通後に鳥類が減少したことがわかったので、三鷹で調査をしてこられた鈴木さんにも声をかけて杉並での調査結果を合わせて、放射5号線の影響について論文にしました。

大塚惠子・鈴木浩克・高槻成紀. 2023. 玉川上水の杉並区に敷設された大型道路が鳥類群集に与えた影響. Strix, 39: 25-48. こちら

植生状態と鳥類群集

2023-07-27 14:08:36 | 研究
玉川上水は東京を30kmの長さで連なる水路ですが、その植生管理は一様ではありません。羽村から小平までは水が豊富で生活用水に使うため両岸の管理がよく行われ、サクラを主体として樹林が続きますが、その幅は広くない場所が多いです。小平管理所で取水し、それ以下は再生水が流れますが、水量は少なく、玉川上水の水路は深くなります。小平では樹林はばが30メートルほどもあり、武蔵野の雑木林の片鱗が見られます。小金井では桜並木のために強度の伐採が行われ、サクラが間隔を置いて植えられています。それより下流(東側)では樹林幅は狭くなり、杉並では両側を放射5号線という大きい道路が開通しました。西から小平、小金井、三鷹、杉並で7回の鳥類調査をし、比較したところ、玉川上水と三鷹が鳥類が豊富で、杉並では大きく減りましたが、小金井はそれよりもさらに少ないことがわかりました。しかもその内容は小平と三鷹では樹林に住む鳥が多く、杉並と小金井では都市のオープンな場所に住むスズメ、カラス、ハトなどが多いことがわかりました。このように鳥類群集は生息地の樹林の状態に強く影響されること、したがってその管理には生物多様性の考え方が重要であることを指摘しました。

高槻成紀・鈴木浩克・大塚惠子・大出水幹男・大石征夫. 2023. 玉川上水の植生状態と鳥類群集. 山階鳥類学雑誌 (J. Yamashina Inst. Ornithol.),55: 1-24. こちら

小金井の桜並木と台風の影響について

2023-07-27 14:01:39 | 研究
小金井では桜並木の保存に力を入れ、その目的でその他の樹木を皆伐しました。その影響はさまざまなところに現れていますが、その一つとして2021年に東京を襲った台風18号の影響があります。これにより多数の樹木が被害を受けましたが、その被害率は小金井地区が他の場所の7倍も多く、また内訳はほとんどがサクラでした。私たちはその実態を調べて論文として公表しました。こちら

高槻成紀. 2020. 2018 年台風 24 号による玉川上水の樹木への被害状況と今後の管理につい .  植生学会誌, 37: 49-55.