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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

小平328号線問題

2023-07-27 21:59:46 | その他

 東京都林務課から小平328号線が通過する中央公園の南側で土壌調査をするという連絡がありました。そして私(高槻)が関わる野草などの調査には影響しないという説明があったので、特に問題視していませんでしたが、水口さんは、これはいよいよ工事の動きがあるのではないかという考えでした。水口さんは10年前にこの道路問題を取り上げて住民投票の活動をし、残念ながら小平市がそれを「投票率が低い」という理由で開票しないという事態になり、工事が決定されるということがありました。そうしたことがあり、このことを取り上げる必要があると感じました。
 大きくいうと5つの重要なポイントがあります。また、東京の樹木伐採という意味では明治神宮外苑の街路樹伐採などとも共通の課題であり、私たちが考えなければならない問題だと思います。こちら

1)この計画は1963年に立てれられたもので(こちら)、当時は日本中で「開発」が行われた時代でした。その後、半世紀以上経過して社会は大きく変化しました。自然保護のシーンで言えば生物多様性の考え方が浸透しましたし、SDGsは社会の大きな目標となりました。同時に保全生態学も大きく発展し、森林の保護についての基本的考え方も変化しました。にもかかわらず、当時の計画がほぼそのまま進められてよいのか。これは、我々の世代がよく考えなければならないことです。

2)中央公園南側を含む小平の玉川上水の緑地は、他の場所に比べて幅が広く、上流のように両岸の植生が強く管理されることがないため、自然状態がよく、動植物が豊富です。この場所に幅が36メートルもある水平(地上)道路がつけば、連続的であることに価値がある玉川上水の緑地が分断され、測り知れない影響が予測されます。こちら

3)コゲラというキツツキの仲間は状態の良い林があることが必要ですが、この鳥は「小平市の鳥」に選ばれています(こちら)。我々の調査によればコゲラは玉川上水の中でも小平で最も個体数が多く記録され(こちら)、まさに「小平の鳥」にふさわしいことが裏付けられました。その意味でこの場所の樹林が伐採されることは、小平市にとっても大きな問題です(こちら(準備中))。私たちは、この林を「小平コゲラの森」と呼ぶことを提唱します。


Bは「どんぐり林」と呼ばれている。Aを「小平コゲラの森」と呼びたい。

4)「小平コゲラの森」には実に85種もの鳥類がいることが確認されています(大出水データ)。東京の都心には皇居、明治神宮、赤坂御所などの大きな林があり、鳥類調査がおこなわれています。種数は皇居が86種(西海ほか 2014, 黒田ほか 2017)、明治神宮には最近の調査では94種(柳澤・川内 2013)、赤坂御所は46種です(濱尾ほか 2005)。このことは、小平コゲラの森には、東京にあって例外的に広く、厳格に保護されている皇居や明治神宮に匹敵する種数の鳥類がいるということであり、驚くべきことです。
 内訳を見ると、明治神宮だけにいる鳥類は11種おり、その主体は水辺にいる鳥類です。皇居だけにいる6種も主にカモ類です。小平コゲラの森だけで記録されたものは10種います。小平コゲラの森と明治神宮の2ヶ所だけで記録されたものは7種いて、これと小平だけの10種を合わせた17種のうち8種は樹林性の鳥です。それを挙げると、アオバズク、アオバト、クロツグミ、コジュケイ、トラツグミ、ホトトギス、マミチャジナイ、ゴジュウカラです。
 明治神宮の森は鬱蒼とした常緑広葉樹林であり、その明治神宮の森と小平コゲラの森に共通な種の半数が樹林性の鳥であるということから、「小平コゲラの森」がこのような鳥類の生育地として適したものであることが分かります。


「小平コゲラの森」、皇居、明治神宮、赤坂御所の鳥類種数の比較

5)「小平コゲラの森」にはコゲラのほか、キツツキとしてアオゲラとアカゲラがいます。個体数ではコゲラが15位、アオゲラは26位、アカゲラは58位です。キツツキは木の幹をつついて中の昆虫などを食べます。そのために全身にそれに都合のよい構造を持っています(こちら)。その形態にも驚きますが、生態学的、つまり環境やどの他の生物との関係という視点で見たキツツキの重要さは、穴を開けることが、他の鳥類の棲家や巣として利用されるということにあります。つまりキツツキがいるおかげで、穴を開けることができない多くの動物が暮らせるようになるということです。1990年代以降の研究により、キツツキはその林の生物多様性に大きな貢献をしているということがわかってきました(準備中)。この意味で、「小平コゲラの森」に地上道路がつくことははかり知れない影響があることがわかります。

これらの問題を多くの人に知ってもらうために集会を開くなどの活動を始めることにしましたこちら)。

文献

黒田清子・小林さやか・齋藤武馬・見恭子・浅井芝樹. 2017. 2013 年 7 月から 2017 年 5 月までの皇居の鳥類相. 山階鳥学誌, 49: 8-30.
西海 功・黒田清子・小林さやか・森さやか・岩見恭子・柿澤亮三・森岡弘之. 2014. 皇居の鳥類相(2009年6月-2013年6月). 国立科博専報, 50: 541–557.
濱尾章二・紀宮清子・鹿野谷幸栄・安藤達彦. 2005. 赤坂御用地の鳥類相(2002年4月-2004年3月). 国立科博専報, 39: 13-20.
柳澤紀夫・川内 博 2013. 明治神宮の鳥類 第2報.「鎮座百年記念 第二次明治神宮境内総合 調査報告書」鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査委員会編 pp.166-221.
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