木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

オレンジと太陽(Oranges and Sunshine)

2012年05月02日 | 映画レビュー
先進国と言われているイギリスでは、19世紀から1970年代に至るまで、13万人もの幼い子供がオーストラリアに送られていた。福祉施設に送られる孤児という名目で、何等かの理由で親から手放された子供であるケースが多かったが、中には通常の子育てが不可能と判断され、行政的に無理やり引き離された親もいた。
もう一度、子供の顔を見たいと思っても「子供は裕福な里親に渡され、幸せに過ごしている」と虚偽の報告されると、確かめる術もなく、泣く泣く諦めざるを得ない親がほとんどだった。
オーストラリアに子供を送っていたのは英国政府で、受け入れたのはオーストラリア政府であり、政府間の了承の上に行われた。
アジアからの侵略の脅威を感じていたオーストラリアが白人の増加を国策としていた点、低賃金労働力を求めていた点などが理由として挙げられる。送られた子供は、決して「裕福な里親」などには渡されず、孤児院とは名ばかりの劣悪な環境下でこき使われた。
移民が13万人もいて何十年もこの事実が知られていなかったのは、非常に不思議だが、オーストラリアに送られた子供たちは教育も受けられず、単に肉体労働を提供するだけだったので、成人しても社会的に成功する人間があまりいなかった点も大きい。
親側も子供を引き離される何らかの理由があった訳で、富裕層の人間が少なかったと思われる。
実在の人物であるソーシャルワーカー、マーガレット・ハンフリーズは偶然この件について知ったのであるが、そこから彼女は真相解明に本腰を入れる。
オーストラリアとイギリスを何回も往復し、オーストラリアでもオフィスを設けてもらい、精力的に調査を進める。
その結果、数多くの親子が対面を果たす。
2009年11月にオーストラリア首相、2011年2月にイギリス首相が公式謝罪を行った。

日本というのはつくづく平等社会である、とこの映画を観て思った。
日本でも貧富の差はあれ、10万人を越える子供がどこかへ移民に出されていたら、必ずその情報は流出するのではないか。
この「事件」が永らく漏えいしなかったのは、英国社会が抱える格差社会が根底にあるように思う。

また、子供たちに虐待と呼んでも過言ではない作業を行わせた教会施設があったのにも驚く。
反抗心を殺ぐためなのか、徹底した過酷な作業。
成人後に課せられたこれまでの「生活費」と呼ばれる借金。
陰で行われた牧師による男色活動。
果たしてこれが真実なのか、と疑ってしまうような「聖職者」による数々の神を冒涜する背信行為。

マーガレットの活躍の裏には、夫マーヴィンの理解と手助けもあった。
単身、長期に亘ってオーストラリアに滞在した妻のサポートは並々ならぬものだったはずだ。

この手の実話を元にした映画は、感情を抑えて淡々と進められることが多く、この映画も例外ではない。
淡々と進められる中にも、どこか一か所はほろりと来る場面があって、この映画では反抗的だったレンが、ついに心開く場面であったり、シャーロットと母親が二人で感謝を述べに現れる場面であったりするのだが、大きなヤマはなかった。
タイトルは、「ある日、男の人が来てこう言った。君のママは死んだんだ。だから海の向こうの美しい国へ行くんだよ。そこでは毎日、太陽が輝き、そして毎朝、オレンジをもいで食べるんだ」というセリフからとっているが、この場面もあまり感動はなかったような・・・・。

それにしても、「ロード・オブ・ザ・リング」のデイビット・ウェナムとヒューゴ・ウィーヴィングがこのような社会的映画で共演するのは何だか感慨深いものがある。
ヒューゴは今年公開の「ホビット」にも出演するのだが、ふたりでどんな話をしたのだろう。

お勧め度 ★★★(60%)

「オレンジと太陽」公式HP

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